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第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還

128 それぞれの諜報活動(3)

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 アンドリュー王子の意思のある瞳は、とても力があり……眩しいと思った。
 そんな彼を見ていると、フィルガルド殿下と重なって、思わず目を逸らした。

「クローディア様。私のことはただのアンドリューとお呼びいただけませんか?」

 私は再び視線をアンドリュー王子に戻し、返事をした。

「わかりました。アンドリュー様」

 私はそう言って、ヒューゴを見ると、ヒューゴが「クローディア様。お食事にされてはいかかですか?」と言って大きな鞄に入ったお弁当をガルドに手渡してくれた。実は今日、私たちは、辺境伯のお屋敷で少し多めにお弁当を用意してもらったのだ。ガルドは鞄の中からヒューゴとアンドリュー王子とウィルファンとネイの分を取り出すと、机に置いた。ネイに食事をする場所として、一階の客間を教えてもらった。

「それでは、アンドリュー様。失礼いたします」

 私が、部屋を出ようとするとアンドリュー王子に微笑まれた。

「ありがとうございます、クローディア様」

 私は、淑女の礼をするとアンドリュー王子の寝室を出た。
 部屋を出た私は大きく息を吐いた。そして、ブラッドたちが話をしている応接室を見た。

「ブラッドたちも休憩を取った方がいいかもしれないけど……」

 私が呟くと、ガルドが少し考えた後に言った。

「そうですね~~休憩……。私が様子を見てきますね。クローディア様たちはここでお待ちください」

 ガルドはそう言うと、大きな鞄から私たちの分のお弁当を取り出して、ラウルに渡すと、あの恐怖の応接室に普段通りに入って行ったかと思えば、すぐに出て来て、爽やかな様子で言った。

「お弁当は置いて参りました。さぁ、クローディア様行きましょう」
「え? ええ」

 どうやら、ブラッドたちはあの場所で昼食を摂るようだ。それなら私たちも食事をしよう。
 私たちが二階を歩いていると、一階の階段下のソファーでエルファンとローザが座って楽しそうに話をしていた。すぐにエルファンと目が合い、エルファンがソファーから立ち上がって手を振りながら話かけてきた。

「クローディア様~~~。お話終わりましたか? お食事にしませんか?」

 私は「今行くわ」と返事をすると、ラウルとガルドを見て頷き合い、急いで階段を降りた。

「私たちは終わったのだけれど、みんなはまだなの。エルファンとローザは昼食は済ませたの?」

 私の問いかけにエルファンが答えてくれた。

「まだです。待っていた方がいいかと思って……」

 私は時計を見て慌てた。
 ローザたち二人のお弁当は、エルファンが持っていると聞いていたし、お昼はとっくに過ぎている。てっきり二人で食べていると思っていたが、待っていてくれたようだ。二人ともお腹が空いたはずだ。

「待ってくれていたのね。ありがとう。私たちと一緒にお昼を食べてくれる?」

 二人は頷いてくれて、私とラウルとガルドとエルファンとローザは五人で、少し遅めの昼食にすることにした。

 どうやら、エルファンは時々ローザに昼食を持って来て、ローザたちと一緒に食べているようだった。屋敷内もまるで自分の屋敷内のように詳しい。

「今日は人数も多いので、こちらで一緒に召し上がりませんか?」

 そう言ってローザに案内された場所は、少し広めのダンスも出来るような部屋で、中央には大きなテーブルと椅子が置かれて、部屋の隅にはピアノが置いてあった。
 ピアノの側の少し大きめの執務机の上に楽譜が大量に置いてあった。

「アンドリュー様は、ピアノを弾いていらっしゃるのですか?」

 気になってローザに尋ねると、ローザが切なそうに言った。

「ここに来たばかりの頃は、お兄様はまだピアノを弾くことが出来ていました。あのように御身体を悪くして寝込んでしまってからは……弾いておりませんが」

 そう言った後にローザはすぐに顔を上げて嬉しそうに笑った。

「我が国にピアノを持ち込んだのはお兄様なのです。我が国ではこのダラパイス国に留学してピアノを学んだお兄様くらいしかピアノは弾けないのですけど、お兄様は皆にピアノを広めるために、定期的に皆にピアノを聞かせる演奏会を開いたり、子供たちを集めてピアノを教えたりしていたのですわ」
 
 ハイマ国は比較的早くにピアノが入って来て演奏家もそれなりにいるが、どうやら旧ベルン国にはアンドリュー王子が持ち込むまでピアノはなかったようだった。
 私は嬉しそうなローザに向かって言った。

「いつかアンドリュー様の演奏をお聞きしたわ」

 私が笑うと、ローザがこれまで見せたことのないほど嬉しそうに言った。

「ぜひ!! お兄様が作曲して、ベルン国でも評判のよかった曲があるので、その曲がいいですわ!!」

 どうやら、アンドリュー王子はピアノを弾くだけではなく作曲まで手がけていたようだ。ローザのこんなに嬉しそうな顔は初めて見たので、きっと素晴らしい曲なのだろうと思ったのだった。

「楽しみだわ」

 ローザと顔を見合わせて笑い合っていると、近くからお腹のなる音が聞こえた。

「ごめんなさい……お腹空いちゃって」

 エルファンを見ると恥ずかしそうに、お腹を押さえながら言った。
 何度も言うがお昼はかなり前に過ぎている。お腹が空くのも当然だ。

「エルファン、待たせてごめんなさい。食べましょう!!」

 私たちは急いで席についたのだった。





「ローザたくさん食べてね。前に好きだって言ってたから、たくさん作って貰ったんだ」
「いつもありがとうございます。エルファン様」

 エルファンはローザの前に食事を用意したり、お茶を入れたりとローザのために懸命に食事の用意をしていた。先ほどからの会話で、エルファンはローザたちに時々食事を運んでいるようだし、家事も手伝っているようだった。
 エルファンはもしかしたら、尽くすタイプの溺愛彼氏になるかもしれない。すでに現在そんな感じだ。ローザもエルファンの好意を素直に受け取っている様子で、とても幸せそうだった。

 私は、二人の様子を微笑ましく思いながら、席についてお弁当を開けた。
 今日のお昼ご飯は、クレープのようなガレットのような生地で、スパイスの聞いたお肉と野菜を包んである物だった。お肉はケバブのような物を想像してもらったらわかりやすいかもしれない。
 もちろんこのような手で掴んでがぶりっと食べたい物でも、ナイフとフォークなどを使う必要がある。カレーパンのようなパンだってカトラリーを使うくらいだ。本当に……貴族は大変だ。ちなみに、エルファンやローザ、ラウルもガルドも今は、ナイフとフォークを使っているので、私だけというわけではないのだが。

「ローザ、今日のお昼はどうだった? この前食べた物とは中身が違ったみたいだ」

 食事を終えて、エルファンが少し不安そうにローザに尋ねた。どうやらエルファンとしては、ローザが好きだと言った以前の物を食べさせたかったようだが、料理長が気を使って中身を変えたのかもしれない。

「ふふふ、外側は同じですのに、中に包んであるものが違うだけでまるで違う食べ物のようですね。エルファン様、私は本日もとても美味しく頂きましたわ。ありがとうございました」

 ローザの答えを聞いて、エルファンは嬉しそうに笑いながら「よかった」と言った。私は、少しだけ気になってローザに尋ねた。

「ねぇ、ローザ。ちなみに前回の中身は何が入っていたの?」

 ローザは、少し考えた後に「チーズと、塩漬けされたお肉と、ジャガイモが入っていました」と教えてくれた。ちなみに塩漬けの肉というのはハムやベーコンだと考えてくれればいい。

「それも美味しそうね」

 私が笑いながら言うと、ローザも微笑みながら「とても美味しかったです」と言ってくれたのだった。こうして私たちは五人で話をしながら、ブラッドたちやヒューゴたちを待っていたのだった。






 クローディアたちが、隠された洋館でお昼を食べ終わった頃。
 クローディアたちが滞在している辺境伯の屋敷に、王都からの伝令が到着していたのだった。



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