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第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還

【番外編】ファンタジーランキング初1位感謝SS 

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ファンタジーランキングで初めて1位(9/8)になった感謝を込めて。

※ファンタジーランキング1位感謝SS※ 


【枕投げ死闘(デスマッチ)2】


本日は【枕投げ死闘(デスマッチ)1】の続きです。

続きを……どうぞ!!
 
――――――――






 枕投げ……それは禁断の遊び。
 だが枕投げの経験のない私は知らなかったのだ……これほど、枕投げが白熱した戦いになるとは……。

 レイヴィンはガルドが投げた枕を両手で受けながら、眉を寄せて思わず声を上げた。

「くっ……」

 中に入っているのは、綿のようにふわふわな素材だったはずだが、ガルドが投げた枕は、綿のような素材が入っているとは思えない速度で、レイヴィン目がけて放たれ、レイヴィンはその枕を腹部辺りでキャッチした。
 レイヴィンは、ガルドの投げた枕を持ちながら、数歩よろけながら言った。

「……このくらいでなければ、面白くない!!」

 待って!!
 今、ガルドの投げたの枕だよね?!
 鉛玉とかじゃないよね?!
 今の音、何?!
 投げてる途中で物質変化したとか?!

 私が枕投げとは思えない音に慌てていると、レガードの声が聞こえた。

「ガルドさん、次は私の行きます!!」

 レイヴィンに枕を投げた後、ガルドに向かってレガードが全力で枕を投げた。
 ガルドがその枕を避けると、レガードの投げた枕は遠く離れた岩にドフッと大きな音を立てながらぶつかった。

 ええ……そんな物騒な音する……?
 これって、何度も言いますが、枕ですよね?!
 どうして枕がそんなスピートであんな遠くまで飛んじゃうのかな~~?!

 私が物理法則を覆しそうな現実に首を傾けている間に、ラウルがレガードの枕を避けたガルドに向かって枕を放った。

「ガルド殿、逃げるなんて……卑怯ですよ!! 私のは受けて下さい……ね!!」

 ガルドは、ラウルの投げた高速の枕を両手でキャッチすると、ガルドは困ったように言いながら、すぐさまその枕をラウルに投げ返した。

「逃げてはいけないというルールは、なかったと思いますけど……ね」

 ドスッ!!
 とまたしても枕とは思えない音が周囲に響き渡った。

「くっ!! 重い!!」

 ラウルがよろけながらガルドの剛速球の枕を受け止めながら呟いた。

 ……枕投げですよね?
 うん、私も一緒に中身を詰めた。間違いない。
 金属は一切入ってない。正真正銘のふわふわ素材だった。
 危険なものじゃないはずだよね~~?!
 
 私がオロオロしていると、レオンが大きく枕を振りかざしながら言った。

『副団長、こっちも行くぞ!!』

 ラウルはガルドの投げた枕で両手が塞がっていた。

「ラウルさん、危ない!!」

 次の瞬間、レオンの手に握られていた枕がヒューゴの投げた枕よって払い落されていた。
 さすが、弓の名手のヒューゴだ。狙いは完璧。命中率が高い!!

 レオンが、ジロリとヒューゴを見ながら声を上げた。

『薬師、今、発射点を狙ったのか?』

 ジーニアスが、レオンの隣で楽しそうに言った。

『さすが、ヒューゴさん。素晴らしいコントロールですね~~凄いな~~確かに投げる直前を狙えば、どんなに早い枕でも払い落せますよね~~』

 レオンが、今度は同じチームのジーニアスを見て睨んだ。

『おい、書記官。お前、どっちの味方だ?! だが……確かにそのコントロールは使えるな……おい、記録書記官。今度はお前も俺の合図で同時に投げろ。薬師、今度は同時に二人で投げるから、両手に枕を持って二人同時に狙え!! お前の腕を試させてもらおう』

 レオンの言葉に、ヒューゴが『二人同時に……できるかな?』と困惑しながら両手に枕を持っていた。

 枕投げが試験に?!
 レオン陛下……無茶ぶりは止めてあげて下さ~~い。
 ジーニアスも『二人同時に狙えたら凄いです』ってノリノリで投げようとしな~~い!

 私が三人を心配しながら見ている横で、リリアが高速で動いて、無茶ぶりレオン陛下たち三人の足元にポンポンと枕を投げて行った。

「あと少しで、そちらの陣地に枕が全て集まりますわ」

 リリアはひたすら地道に枕を隣の陣地に投げ入れている。

「させません!」

 だが、アドラーだって負けていない。
 アドラーが、リリアの投げ入れた枕を高速でリリアの陣地に投げ返していた。ルラック兄妹による、見るも鮮やかな高速枕投げも繰り広げられていて、私は息を飲んだ。

 だから、これ、枕投げだよね?!

「負けませんわ!!」

 額に汗が光るリリアの言葉にアドラーもまた真剣な顔で答えた。

「私も負けられません」

 リリアとアドラーによる高速の枕移動が始まる一方、ロニはますます白熱するガルド対、レイヴィン、ラウル、レガードの弾丸のような投げ合いで、ガルドに枕を集めて渡すという補佐のようなことをしていた。

「ロニ!! 少しは、自分で投げたらいいだろう?!」

 レガードの声に、ロニは真剣に答えた。

「俺はお前に勝てればどんな手段もいとわない!! この場合、どう考えても、俺が投げるよりガルドさんに枕を集めた方が勝率が高いだろうが!! 勝馬に乗りたいと思うのは騎乗兵の常識だ~~~!!」

 ロニ……ガルドを勝ち馬扱い……。
 ロニのレガードに勝ちたいという執念を思い知った気がした。

 何度も言うが、これは枕投げだった……はずだ。
 
 私が、これは枕投げだよね……と不安になっていると、突然ブラッドに抱きかかえられた。

「わっ!! ブラッドどうしたの?」

 ブラッドは、視線を私が立っていた足元に向けながら言った。

「高速で枕が飛んで来たからな。あなたに当たれば、ケガをする」

 枕だよ?!
 過保護過ぎないかね?!
 ブラッド君?!
 ケガなんてしないよ!!

 私の考えを読んだのか、ブラッドは呆れたように言った。

「そんな顔をするな。今飛び交っているどの枕に当たっても……かなり危険だぞ?」

 ドスッ!!
 ドカッ!!
 ドカン!!

 うん。そうかも。
 なんか……枕の音が、おかしい。

「ありがとう……ブラッド」

 私が素直にお礼を言うと、ブラッドは少しだけ口角を上げると静かに私を下ろしてくれた。
 そして、さらに私にくっつきながら状況を見ていた。

 私の想像を超えて、かなり危険な勝負になってしまった枕投げは、すでに勝負がつきそうにないほど、乱戦状態だった。
 私がどうやって終わらせようと考えていると、ラウルの投げた高速の枕を、ガルドが両手でガードして、弾かれた枕がかなり離れた場所にいる私たちの足元に飛んで来た。
 それをブラッドが拾い上げながら言った。

「なるほど……」

 私は、ブラッドを見ながら尋ねた。

「どうしたの?」

 ブラッドはニヤリと笑って、近くに落ちていたアドラーとリリアが高速で投げ合いをしている枕を拾い上げながら私に二つの枕を見せながら言った。

「こちらが、ガルドやラウルたちが力一杯投げ合った枕だ。触ってみてくれ」

 私はブラッドの渡してくれた枕を見ながら言った。

「う、うん。あ……少しだけ低反発になってるけど、まだまだね」

 ブラッドは頷くと、次にリリアとアドラーの高速で何度も投げ合った方の枕を差し出しながら言った。

「こちらを触ってくれ」

 私は、ブラッドに言われるまま枕を手にした。

「あ……低反発素材になっている。あ、もしかして、強い力を加えるよりも、衝撃を何度も与えた方が早く低反発素材になるのかな?」

 一見すると、ガルドやラウル、レイヴィンやレガードたちのような力のある投げ合いの方が良さそうなのに、そうではないようだ。
 ブラッドは、じっと私を見ながら言った。

「ああ。そうだろうな。つまり、この素材は力任せに潰すよりも、何度も衝撃を与える方が効率がいいということだ」

 私とブラッドが素材が早くできる方法に辿り付いた時、隣で見ていたエルファンが口を開いた。

「あの~クローディア様。そろそろ、素材が出来たようですけど……」

 勝負はまだついていなかったが、素材はできたようだった。

 そうだった!!
 私たちの大きな目的は、勝つことではなく素材を作ってお手伝いをすることだった。

 本来の目的を思い出した私は、大きな声を上げた。

「終了~~~~!! みんな~~ありがとう~~もういいよ~~素材出来たみたいだよ」

 私の声に、みんなは動きを止めて、少し残念そうに枕に視線を移したのだった。
 その時私は、そういえば枕投げには勝負がつかなくても「先生が来たぞ~~」という絶対終了の合図があったことを思い出したのだった。


 ◆


 その後。

「クローディア様、これはかなり楽に素材ができます!! ありがとうございます」

 ウィルファンが私を見ながら嬉しそうにお礼を言ってくれた。

 私たちは枕投げで、強い衝撃よりは軽くても衝撃を何度も与えた方が効率がいいことを突き止めた。
 だから、木箱のような物の中にを詰めて、その中に木の板を何枚も入れて、ブランコのように振り子の原理を使って木箱の中に板が移動して中の素材に衝撃を与えるようにすることを考えついたのだ。

「枕を投げると聞いた時は戸惑いましたが、クローディア様の御慧眼、恐れ入ります」

 ヒューゴがゆらゆらと揺れるの入った木箱を見ながら声を上げた。

「本当に、クローディア様は素晴らしいですね。今回のこともしっかりと記録致します」

 ジーニアスもとても嬉しそうに言った。するとレオンが目を細めながら言った。

「まぁ、枕投げっていうのは、純粋に楽しかったし、色々考えさせられたな。レイヴィン、わが軍の訓練に枕投げを追加するか? 瞬発力に、体力、判断力、戦略そして……冷静さを鍛えるのに、なかなか効率がいいのではないか? 我がスカーピリナ国軍の参謀殿?」

 レイヴィンが頭をかきながらバツの悪そうな顔で頷きながら答えた。

「くっ……冷静さ……そうですね。私も死神……ガルド殿を目の前にして、つい戦略などを忘れ、ひたすら全身全霊で枕を投げてしまいました。冷静さを欠いてしまったと言わざるを得ません。もっと枕投げについて攻略法を考える必要がある反省していましたので、確かに訓練にはいいかもしれません」

 ええ……訓練って……枕投げのポテンシャルって高かったんだ……。

 もしかしたら、枕投げがスカーピリナ国の訓練に加わる可能性があると聞き、私は改めて枕投げの可能性を再確認したのだった。


 ◆


 今回の枕投げによる発見は、辺境伯領の歴史に残る世紀の大発明となり、多くの富をこの土地にもたらし、スカーピリナ国の軍の練度をさらに上げ、同盟国側の戦力強化に繋がるのだが、クローディアがそのことを知るのはまだまだ遠い先のことだった。


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