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第二章 お飾りの王太子妃、国内にて

【番外編】お気に入り1000感謝SS

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※お気に入り1000感謝SS※
【白壁の戦い未公開シーン・74話戦闘シーンノーカット版】
 こちらは、本編74話の内容になります。
 戦闘シーンが長すぎたため、進行を考えてカットした未公開シーンとなります。
 擬音と流血シーンなど過激(?)と思われる箇所はほとんどカットしたので、完全なノーカット版ではないのですが、戦闘シーンの流れは残してあるので、楽しんで頂けるとは思います(汗)


 どうぞ!!
 

――――――――――
 





 クローディアたちを『クイーンイザベラ号』に残して、ガルド、ラウル、アドラー、レガードは高速船に乗り込んで不審な船に向かっていた。風向きを利用した方が早いということで、風上から近づくことになったので、この船は相手の船からは死角になるはずだ。
 ガルドたちが不審船に向かっている途中に、赤く燃える火が付けられた矢が何本もクローディアがたちが乗る船に向かって通り過ぎて行った。

「火が!!」

 ラウルが声を上げると、ガルドが顔を歪めながら言った。

「くっ!! 間に合わないのか?!」

 船内が焦りに包まれた瞬間、まるで天使が大きな布を天からかざすように白い壁が現れた。いくつもの噴水の水しぶきが重なり合う様子は月明かりの下では、まるで純白の壁のように立ち塞がり、赤い光を飲み込み消して行く。
 ラウルが呆然としながら口を開いた。

「純白の壁? ……なんだ……あれは?」

 レガードも唖然としながら呟いた。

「火が……消えて行く……」

 放たれる火の矢が純白の壁に消される様子は、この世の物とは思えないほど幻想的だった。
 皆、言葉には出さなかったが『火の矢は私が防ぐ』と言ったクローディアが、本当にあの白い壁を出して皆を守ったのだということはわかっていた。得体の知れない興奮が沸き上がってくる感覚を覚えた。
 自分の仕える主が起こした奇跡に、言葉にならない感情が渦巻く。
 その間にも高速船は、不審船に近付いて行く。

 皆が白い壁に見とれていると、アドラーが声を上げた。

「ラウル!! 我々はクローディア様に不審船を止めるように命を受けているのです。例え奇跡を目の当たりにしたとしても、余所見している時間はありませんよ。私とラウルが右の船、ガルド殿とレガード殿が左の船でよろしいですか?」

 アドラーが二艘の不審船を見つめながら言った。
 船の規模をそれほど多くはないが、ざっと見たところ10人以上は乗っていそうだった。

 騎士団を引退したとはいえ、やはりガルドはこれまで越えてきた場数が違う。
 腕は立つが経験のないレガードと組んだ方がいいだろう。
 それにラウルとアドラーは、貴族学園時代から共に剣を学んでいるので、お互いのクセはわかっている。
 アドラーは、訓練もなく咄嗟に連携を取るならこの組み合わせが最適だと考えた。
 
「それで行きましょう」

 ガルドがすぐに頷きながら返事をした。そして、ラウルやレガードも頷いたのだった。








 高速船は、初めに右の船に接近して、アドラーとラウルを下ろし、その後に左の船に近づき、ガルドとレガードを下ろすことになった。二つの船の距離はまではおよそ数秒といったところだった。
 まずアドラーと、ラウルが死角から、右の船に飛び移った瞬間、船が大きく揺れた。
 普段、剣を振っている大地とは違い、船上は動く度に揺れる。アドラーは、愛刀のシャルフを抜いて、辺りを見回した。十人程だと予想していたが、予想よりも数人多かった。船内には二十には満たないにしても、多くの傭兵が乗っていた。

『船の死角から飛び移ってきたのか!!』
『白い壁は囮か?!』
「たった二人で何か出来る!」

 船内のいたるところから聞こえて来る声は、隣国のダラパイス国の言葉だったり、スカーピリナ国の言葉だったり、ハイマ国の言葉だったり、非常に多国籍だ。
 どうやら、今回のクイーンイザベラ号襲撃は、皆が仲間といわけではなく、数人の傭兵グループが、複数集まって組織されているようだった。

「ラウル……この集団。一枚岩ではありません」

 アドラーは、隣で愛刀シュランクを構えているラウルに話かけた。

「ああ。傭兵集団は武器が厄介だな……だが、弓兵がいないのは救いだな。俺は双剣の男たちの方に行く。きっと、手数が多いだろうかな、少々強引にでも力で、なぎ倒す。アドラーは、大鎌の奴らを頼む。普段、距離を取って戦っているだろうから、隙ができやすいはずだ。頼むぞ!!」

 ラウルは、そう言うと双剣を持つ男がリーダーだと思われる集団に向かって行った。
 アドラーは、ラウルの咄嗟の判断に息を飲んだ。

 アドラーの特技は、速さを活かした高速剣術だ。双剣はリーチが短く、手数が多いのでアドラーの速さを活かしづらい。一方大鎌なら、大鎌の攻撃範囲に仲間も入れずに、振り上げるまでに時間がかかるので、アドラーの強味を十分に活かせる。
 
 ハイマ王国騎士団の副団長は、いわば実質的には騎士団の指令系統の頂点だ。騎士団長は、現場を仕切るというより、貴族や文官たちとの政治的な交渉などを主に請け負っているので、戦場では副団長のラウルが騎士団を仕切っている。
 アドラーは瞬時に船に何人乗っているか、どこの国の人間なのか、ということを把握するだけで精一杯だった。
 しかしラウルは瞬時に、相手チーム構成と武器と、戦い方まで予測し、適材適所で攻撃の指示を出した。
 これが、騎士団のトップの男なのだと思うと口の端が上がった。

 アドラーは負けられないと、奥歯を噛み締めると、大鎌を持つ男に向かって行ったのだった。







 右の船にアドラーと、ラウルが飛び移った時は、敵はまだ高速船の存在に気付いていなかったが、ガルドと、レガードが飛び移る時、すでに敵は高速船の存在に気付いていた。
 ガルドは、船の先端に立つと普段通りに言った。

「さて、来ますね。レガードと船頭さん、危ないですから、船の端ギリギリまで下がって貰えますか。あと、船頭さん。怖いかもしれませんが、問題ないので怖がらずに船に接近して下さいね」
「へ? は、はいわかりました」

 船の操縦士は頷いて、ガルドのいう通り二人は船の後方部の端に寄った。
 ガルドの言う通りそのまま不審船に近付くと、様々な国の言葉が聞こえて来た。

『来たぞ!! 狙え、狙え!! 船に近付けるな!!』
「弓早くしろ!!」

 言葉と共に、船から何本もの矢が飛んで来た。

「ガルドさん!! 危ない!!」

 船の先端に立つガルドに向かってレガードが声を上げた瞬間、ガルドが剣を抜き、風圧と見たこともないほど素早く剣を振りかざし飛んで来る矢を次々に、海に叩き落としていった。

「え?」

 レガードが何が起こったのかわからず声を上げた時、いつの間にか、船は左の不審船に接触していた。ガルドは、前を見たままレガードに声をかけた。

「私が飛び移った後に、十秒数えたらあなたも船に乗り移って下さい。少々厄介な弓兵を先に――封じます」

 ガルドはそう言うと、あたかも背中に羽を持つ鳥のような優雅な動きで船に飛び移った。
 「なめるな~~!!」「やれ~~、たった一人だ~」と不審船から敵が声を上げる中、まるで障害など何もないといように、ガルドに向かって迫りくる攻撃を払いのけ、弓兵の前に立ったかと思った瞬間、一振りで、三人もいた弓兵が船に倒れていた。

 レガードは、数を数えろと言われたが、数えるの忘れるほど、ガルドの動きに釘付けになってしまっていた。

「なんだ……今の動きは……」

 そして、ガルドが他の剣士と戦い始めてようやく意識を戻し、慌てて自分も船に飛び移ったのだった。




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