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第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還
118 辺境伯邸へ(1)
しおりを挟むダラパイス国側の砦に着くと、入国手続きはすぐに終わり無事にダラパイス国に入国することが出来た。
どうやら、ここからはダラパイス国の兵も護衛に加わってくれるようだ。
ラウルの話では、ダラパイス国の騎士団の幹部の方があいさつをしたいと言ってくれたそうだ。
だが、レオンが私を気遣って、あいさつなどは明日にして今日は休ませてほしいと言ってくれたようなので、あいさつをする必要もなく、私たちは今日の宿泊先のダラパイス国の辺境伯のお屋敷に行くことになった。
あいさつが大切だとわかってはいるが……。
正直に言うと数日の移動に、先程の作戦もあり、休みたいと思っていたので、レオンの気遣いには心から感謝した。レオンは夜会を欠席させてくれたり、あいさつを明日にしてくれたりと、色々と助けられている。
レオンの配慮で、私は砦で馬車を降りることもなく、辺境伯の屋敷まで移動していた。
そして、今は馬車の中でジーニアスに、この辺りに生えている植物についての説明を受けていた。
すると突然、馬の鳴き声が聞こえて、馬車が止まった。
いつもゆっくりと止まってくれるのに、突然止まったので、体勢を崩しそうになっていると、その瞬間、またしても私はブラッドに抱き寄せられて、膝に乗せられた。
また、何かあったのだろうか?
馬車の内部に緊張が走った。
私たちが警戒していると、ラウルが馬に乗ったまま困った顔で近付いて来た。
「どうした?」
ブラッドが尋ねると、ラウルが状況を報告してくれた。
「クローディア様。その……身なりのいい幼い子供が、道の真ん中で両手を広げて『魔法使いの弟子にしてほしい』と言って叫んでおります」
身なりのいい幼い子供が両手を広げて、道を塞いでいる?
さらには『魔法使いの弟子にしてほしい』と言っている?
全く想像していなかった斜め上なことを報告されて、私は唖然としてラウルを見つめた。
ブラッドは、私を抱きしめた腕を緩めると、私を見ながら呆れたように言った。
「魔法使い……」
リリアや、ジーニアス、ラウルの困ったような楽しんでいるような、なんともいえない複雑な感情の混じった視線が私に注がれている。
「……え? 私?!」
私は思わず大きな声を上げた。
いやいや、私、魔法使えないよ?!
どうして、そんなことに……?!
私が頭を抱えていると、ブラッドがどこか楽しそうに口角を上げながら、ラウルに言った。
「……ラウル。そのクローディア殿の弟子志願の者に、なぜ我々が『魔法使い』だと思ったのかと、名前と家を聞いて、そろそろ陽も沈むのでこの辺りに詳しいダラパイス国の兵に送らせるように伝えてくれ」
ラウルも微笑みながら答えた。
「はっ!!」
ラウルが馬車から離れてしばらくすると無事に馬車が動き出した。先ほどの子は兵が無事に送ってくれるだろう。
ブラッドは私を前の座席に座らせると、目を細めながら言った。
「幼い子が、なぜ我々があの仕掛けに絡んでいると思ったのかは疑問だが……どうやらクローディア殿の仕掛けは、この辺りまで見えたようだな」
するとジーニアスが頷きながら言った。
「そのようですね。しかし、クローディア様に弟子入り……それが出来るのなら、私もぜひ弟子入りしたいです」
ジーニアスの言葉にリリアも笑顔で言った。
「本当ですね。私も弟子入りしたいです」
二人の言葉を聞いて、私は真剣に考えてしまった。
普通、幼い子が驚いたとしても『あれ、どうやったの? 見せて~』と軽い感じで言われるくらいではないだろうか?
弟子入りを志願するほど、魔法が使いたい理由があるのではないだろうか?
「弟子入りって結構勇気がいる決断よね?! そこまであの仕掛けを魔法だと思ってくれるなんて……次、その子に会った時、私はどうしたらいいのかしら? 私が魔法使いじゃないって知ったら、がっかりさせてしまうわよね……。でも、嘘をつくのも嫌だし……ん~~~」
こんなに怖い集団の前に出て、大きな声で望みを伝えることが出来たという勇気は尊重したいが、私は実際には魔法は使えないので、嘘をつくわけにはいかない。
こんな時、良識あるカッコイイ大人はどんな対応をするのだろうか?
誰か、こういう場合の幼い子への対応をどうすればいいのかを教えてほしい!!
私が真剣に幼い子への対応を考えていると、普段表情無し。愛想なし。無表情なブラッドが、片目を閉じて、声を上げて笑った。
「ふっ。っはは。先ほど、生死をかけていた時と同じ表情だ。いや、むしろ今の方が考え込んでいるように見える。あなたにとっては、今回のことも先ほどと同じように真剣に考えるべきことなのだな……」
ダレ、コレ?
ブラッドの笑顔の破壊力は、想像を越えていた。
何度もいうが、ブラッドは超絶美形なのだ。そんなブラッドの笑顔は、心臓が……痛い……身体が動かない!!
私だけではなく、リリアやジーニアスまでも顔を真っ赤にしてブラッドに魅入っていた。
ぼんやりとして動けない私に、さらにブラッドは私の髪を少しだけ手に取ると、髪に口付けた。
え?
何が起こった?!
放心状態の私に再び恐ろしいことが起こった。
ブラッドが私の髪に口付けたまま、上目遣いで言った。
「本当に……あなたは美しい人だな」
ひぇ~~~~!!
誰か~~~!!
誰か~~~!!
レナン公爵家子息様が……ぶっ壊れました~~~!!
私はというと、視線がブラッドに捕えらたように動かせず、呼吸を忘れてしまうほどの衝撃を受けていた。
ブラッドが、私の髪から手を離すと、さらりと髪が戻っていった。
そして、次の瞬間にはいつもの無表情、不愛想なブラッドに戻っていた。
私はこれほど動揺しているのに、ブラッドはいつも通りだ。
私は相当疲れているのだろうか?
さきほどのは白昼夢だったのだろうか?
私は顔が赤いのを自覚しながら、ブラッドに呟くように言った。
「ブラッド……たまには今みたいに笑ってよ……」
――突然、そんなことされたら……どうしたらいいのかわからなくて……困るよ……。
ブラッドに、私の言葉が聞こえていたのか、聞こえていなかったのかわからないが、ブラッドは相変わらず私を見ながら目を細めていたのだった。
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