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第二章 お飾りの王太子妃、国内にて

105 絡み合う糸(1)

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 レオンはクローディアと別れて、迎賓館に戻った。すると自分の部屋のソファーで我が物顔にくつろぐ、赤毛を逆立てた男が気だるそうに声をかけてきた。

「レオン陛下~~遅かったですねぇ~~。花を見るのに何時間かかってるんですか、そんなに面白い花だったんですか~~?」

 レオンは、背中の大剣をソファーの近くに立てかけると、音をたててソファーに勢いよく座りながら男の問いかけに答えた。

「面白い……か。確かに面白い花だったな」

 レオンが目を細めて笑うと、赤髪の男が読んでいた本を閉じると楽しそうに言った。

「おお? レオン陛下、なんだか凄く機嫌いいですね~~~珍しいな~~明日は雨でも降るんでしょうかねぇ~~」

 レオンは片眉を上げて、窓に映った自分の顔を見た。そこには確かに口角が上がり機嫌の良さそうな自分の姿が映っていた。レオンはそんな自分の姿から目を逸らすように、レイヴィンを見ながら言った。

「機嫌がいいね……ところでレイヴィン。騎士団の練度はどうだった?」

 レオンにレイヴィンと呼ばれた男は、首を振り両肩を上げながら答えた。

「来る時期が悪かったですね~~。王太子さんの研究施設に雷が落ちたせいで、多くの幹部騎士が機密情報が流出しないように、警備に当たっているようで、騎士団には目ぼしい人物はいませんでした。目当ての副団長はすでに騎士団を辞めて、別の人間が就任しているようです。そして、その新しく副団長に就任した人物も不在。今、騎士団はもぬけの殻ですよ~~~」

 レイヴィンの言葉にレオンは眉を寄せながら言った。

「ハイマの死神が騎士団にいないだと?! そうか……別の人間を副団長だと紹介された時、役職が変ったのかと思ったが……辞めていたのか……それでこの国の軍は使えそうなのか?」

 レイヴィンは、肩を落としながら言った。

「騎士団長のカイル殿は、かなり戦略書などを読み込んでいる様子です。死神の抜けた穴を必死に塞いでいる最中かもしれませんね~~~あ~~死神がいないというなら、実際に演習見たかったな~~全然わからない」

 レオンはますます眉を寄せながら言った。

「普通の人間に死神の抜け穴を塞げるのか? 随分と大きな穴だろうからな……だが、それならば死神はどこへ行った?」

 レオンの問いかけに、レイヴィンは心底つまらないと言うように答えた。

「この国の貴族の護衛をしているようですねぇ~~」

 レオンは目を大きく開けると、前のめりになりながら尋ねた。

「あれほどの男が、たかが貴族の護衛?! 随分といい女をお飾りの王太子妃扱いしたり、死神をたかが貴族の護衛にしたり……この国の人間の考えることは私には理解できないな……レイヴィン、なんとか死神を引き抜けないのか?」

 レイヴィンは、大きく息を吐きながら言った。

「死神が報酬で動くのなら、すでにこの国にはいませんよ……それに、噂では死神は何かを隠すように表舞台から身を引いたようですので、難しいでしょうね~~」
  
 レオンは、レイヴィンが自分のために入れたであろう、すでに冷め切った様子のお茶を飲み干しながら言った。

「まぁ、いい。この国には、技術を提供してもらうことにしよう。もちろんそちらは交渉したのだろう?」
「ええ。ご安心を、その辺りは期待できそうです」

 レイヴィンの言葉に、レオンは安堵しながら窓の外を見つめた。
 そして、昼間に会ったクローディアを思い出していた。

 レオンは今回のハイマ訪問の目的を『クローディアの送迎』をしていたが、実際には軍事的な協定や騎士団の練度を確認するための訪れたのだ。
 元より、口実に利用した悲劇の王太子妃クローディアに同情はするものの興味はなかった。

 だが……。
 クローディアの人を射貫くような意思の強い眼差しに思わず見とれ、心底この女性を守りたいと思った。真っすぐに自分を見つめながら発した『お飾りの王太子妃? それがどうしたというのです?』という言葉。その堂々した振る舞いも震えるほどに美しいと思えた。
 この感情は、尊敬なのか、好奇心なのかよくわからないが、少なくとも彼女に対して同情するという感情は消え去っていた。別の何か、もっと違う感情がレオンの中に湧いてくるのを感じて呟いた。

「期待か……そうかもな……。久しぶりに風景に色がついて見えたかもしれない」

 レオンが窓のの外を見つめると、空は茜色に染まり、一番星も輝き夜の気配がした。レオンは、じっとその景色を見ていたのだった。





 


 暗闇が辺りを支配する頃。
 ブラッドは騎士団長との話し合いを終えて、ラウルとガルドと共に、執務室に戻ろうと薄暗い廊下を歩いていた。
 空には月が出て、辺りはすっかり暗くなり、廊下に月明かりで照らされた長い影が出来ていた。
 ブラッドたちが執務室まで来ると、部屋の前に長い影が見えた。見ると、ジーニアスとヒューゴが立っていた。

 二人はブラッドを見ると頭を下げた。
 ブラッドは二人の表情を見て眉を寄せた。何かあったのは明白だった。しかも、良くないことだろう。
 廊下で話すべきことではないので、すぐに執務室のカギを開けると中に入った。ブラッドに続いて全員が中に入ったの確認すると、ブラッドが口を開いた。

「話を聞こう。座ってくれ」

 ブラッドの言葉に、ガルドが部屋に灯りを入れると、皆、執務室奥の大きなテーブルに座った。
 皆が座った途端にノックの音が聞こえた。ガルドが席を立って対応すると、アドラーが部屋に入って来た。
 約束していたわけではなかったが、偶然にも執務室に、ブラッド、ガルド、ラウル、ジーニアス、アドラー、ヒューゴが揃ったのだった。












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