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第二章 お飾りの王太子妃、国内にて

99 王太子の庭で(2)

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 私は恐怖もあって、レオンの腕の中で、静かにラウルとアドラーが戻るのを待っていた。すると、しばらくしてラウルたちが行った方向に、数名の騎士が拘束具を持って向かったのが見えた。どうやら、ラウルたちが侵入者を捕まえてくれたようだった。

『アドラーと騎士殿は、無事に侵入者を捕まえたようだな』

 レオンが呟くと、今度はバラ園を封鎖するようにと伝えに行ってくれた騎士が戻って来て報告してくれた。

「クローディア様、バラ園の封鎖を伝令いたしました。ですが、バラ園の騎士の多くが意識を失っておりましたので、今は別の騎士が対応しております!!」
「そう、連絡と報告ありがとう」

 先ほどバラ園に行った時、警備の騎士は男性だった。どうやらこの媚薬は女性だけではなく男性にも効くようだった。
 媚薬の報告を聞いて考えていると、レオンが私に尋ねた。

『クローディア、どうした?』

 私は、レオンにバラ園の封鎖を伝令したことと、バラ園を警備していた騎士の意識がなかったことを報告した。そして私は不思議に思ってレオンに尋ねた。

『ねぇ、レオン。さっきの甘い匂いの媚薬を嗅いで、何ともなかったの?』

 私や、私の護衛騎士、アドラーやラウルにリリアは、媚薬対策としてアメを食べている。だから媚薬の影響を受けなかった可能性があるが、レオンにはなぜ効かなかったのだろうか? しっかりと匂いを嗅いだはずだ。私が以前、ゲイル伯爵家の夜会でぼんやりとした時は、一瞬匂いを嗅いだだけだったのに思考停止に陥るほど効いていた。
 レオンは、私を見ながら答えてくれた。

『ダラパイス国に行った時に、シーザー殿に媚薬耐性薬を貰ったのだ。毒ではなさそうだったので半信半疑に飲んでいたが……バラ園の護衛騎士が媚薬の匂いで倒れていたのなら、効いているということか……シーザー殿に感謝しなければならないな』

 私もダラパイス国のヒューゴから媚薬に対抗するためのアメを貰った。そういえば、レオンは私を迎えにくれば、ダラパイス国にも歓迎されると言っていた。レオンの住むスカーピリナ国から、私の住むハイマ国に来るには、旧ベルン国を通る方が近い。だが、今ではベルン国は、イドレ国になっているので、ダラパイス国を通って来たのだろう。
 私はレオンを見上げながら尋ねた。

『レオン陛下は、ダラパイス国に行かれたのですね。ダラパイス国王……おじい様はお元気でしたか?』

 私が尋ねると、レオンが片眉を上げながら言った。

『見た目はな? だが、シーザー殿が真にお元気だったら、クローディアがお飾りの王太子妃となるのを全力で止めただろうさ。とにかくどうせすぐにダラパイス国に行くんだ。自分の目で確認するのだな。ダラパイス国がどういう状況かを……』
『え……?』

 私は思わずレオンを見つめた。
 レオンは私を抱きしめたままそれ以上何も言わなかった。

 ダラパイス国に、おじい様に何が起こっているのだろう。
 
 そんなことを考えていると、アドラーとラウルが戻って来くるのが見えた。アドラーが私を見た瞬間、高速で走り出した。

「クローディア様?! レオン陛下!! 何を?!」

 ラウルも私を見るとそう叫んで全力で走って来た。
 アドラーはすぐに目の前まで来ると、息を整えることもなく、レオンに向かって言った。

『レオン陛下、無事に刺客を捕縛致しましたので、クローディア様を解放して下さって結構です』

 するとラウルも追いついて、私に手を差し伸べながら言った。

「クローディア様。さぁ、もう安心ですよ、どうぞこちらへ」

 レオンはどこか必死な様子のアドラーとラウルを見ると、ニヤリと笑って片手で抱きしめていた私を両手で抱きしめた。

『レオン陛下!!』
「陛下?!」

 アドラーとラウルが同時に怒りの声を上げた。レオンは二人をからかっているように感じるのは私だけだろうか?
 レオンは私の耳元で囁くように言った。

『もう大丈夫なようだな。クローディア、またな』

 そう言って、レオンは私から離れると、私たちに背を向けて歩いて行ったのだった。
 私が、レオンの背中を見ていると、アドラーとラウルがすぐに近付いて私の右手をアドラーが、私の左手をラウルが握った。

「クローディア様、大丈夫ですか? 部屋までお送りいたします」

 アドラーが心配そうに私の顔を覗き込んで来た。

「クローディア様、レオン陛下に何もされませんでしたか?」

 ラウルもまた心配そうに顔を覗き込んで来た。
 目の前にアドラーとラウルの顔……近い!!
 私は二人を安心させるように笑顔で答えた。

「大丈夫よ。それよりも二人ともありがとう、大変なことをお願いしてしまったわ」

 二人には、いきなり刺客を捕える役をお願いしてしまったのだ。
 私の言葉に、ラウルが少しだけほっとしたように小さく笑いながら言った。

「どうかお気になさらないで下さい。むしろ私はこのような状況のあなたのお側に居られたことを幸運に思います。クローディア様、今日はもうお部屋に戻りましょう。バラ園も安心だとはいえませんので」
「そうね」

 私は自分の部屋の戻ることにしたのだった。
 部屋に戻る途中も相変わらず、私の両手はアドラーとラウルに握られていたのだが、背の高い二人に両手を握られていると、歩きにくいとかそういう不便はないのだが、これでは見た目がなんだか私が囚われているようで、私は二人を見上げながら言った。

「ねぇ、アドラー、ラウル。無理に手を繋がなくても、私は一人で大丈夫よ?」

 アドラーが私を見て微笑みながら言った。

「部屋に着くまではどうかこのままで」

 やはり刺客が気になるのだろうか。これはもう大人しくしていた方がいいかもしれない。
 そう思っていると、ラウルが口を開いた。

「そうです。レオン陛下ばかりズルいですから、お部屋まではお許し下さい。クローディア様」

 ズルい……え? 

「レオン陛下が、あのような守り方をするなら、任せるべきではありませんでした……迂闊でした」

 アドラーも眉を寄せながら言った。
 なぜだろう。刺客は無事に捕えたのに、落ち込んでいるように見える二人に、私はこれ以上何も言えなかったのだった。




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