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第二章 お飾りの正妃、国内にて
97 それぞれの休日(3)
しおりを挟むレオンが何かとてつもなく恐ろしい誤解しているようなので、誤解を解こうとしていると、レオンが私を見ながら声を上げた。
『クローディア!! よく見ておけよ』
『え……はい』
レオンは、スタスタと歩いて、私たちから十分に距離を取った。すると私の周りにラウルとアドラー、リリアが近付いて来てかと思うと、護衛騎士の三人もすぐ近くに来た。
「クローディア様。危ないですのでここから動かないで下さいね」
ラウルが片目を閉じながら言うと、剣の柄に手を置きながらレオンを見つめた。
レオンは随分と離れた場所から私たちを見ると、背中の鞘から大きな剣を抜いた。
「大きい……そして、やっぱり重そう」
レオンの剣は私の身長くらいの長さがあり、あの剣を両手で水平に持っているだけでもかなり重そうだった。
私がレオンの剣を見て思わず呟くと、リリアも大きく頷いた。
「あれだけの大剣、かなりの重量のはずです。それに剣を振った時の抵抗だってあるはず……」
リリアの言葉に、ラウルが呟くように言った。
「だが……あれだけの剣を振り回せば、威力はかなりのものだ。油断すれば吹き飛んでしまうかもしれない」
吹き飛ぶ?! そんなに?!
私がハラハラしながらレオンを見ていると、レオンが大きく剣を振り被った。
レオンは剣の重さなど物ともせずに、大きな剣を自由自在に扱っていた。両手で持ったと思ったら片手でも扱っていて私は息を飲んだ。
レオンとはかなり離れているにも関わらず、ここまでレオンの剣の風を切る音とレオンの剣に吹き飛ばされた木の葉が飛んでくる。
「凄い……」
リリアがレオンの剣を見ながら呟いた。しばらくレオンの剣を見ていると、レオンが剣を止めて、こちらに向かって声を上げた。
『側近殿、俺の相手をしてくれないか? それとも……止めておくか?』
アドラーは、私を見て微笑みながら言った。
「クローディア様、少々陛下のお相手を致します」
「え? アドラー大丈夫?!」
そう言うと、アドラーは美しく有無を言わせない圧を含んだ笑みを浮かべて微笑んだ後に、レオンの方に歩いて行った。
「クローディア様、アドラーの殺気が凄いのですが、レオン陛下は何とおっしゃったのですか?」
ラウルに尋ねられて、私は困りながらも「レオンがアドラーに相手をしてくれないか、って言ったの」と答えた。
そして、その後に慌てて私もラウルに尋ねた。
「アドラー、大丈夫かな?」
するとラウルが片目を閉じながら言った。
「ご安心を。アドラーなら問題ありませんよ。でも、クローディア様に心配して貰えるなど、妬けますね」
ラウルの言葉にリリアも頷きながら言った。
「クローディア様、兄なら大丈夫ですよ。確かに陛下の剣は凄いですけど……きっと兄は、陛下のとって最も苦手なタイプの剣士だと思います」
「苦手……そうなんだ」
私はアドラーとレオンを見つめた。そう言えば、私はラウルとリリアの戦う姿は見たことがあるのだが、アドラーは噂に聞くだけで、実際に戦う姿を見るのは初めてだった。
アドラーは、レオンの前に立つと、何か二人で話をしている様子だった。ここからでは二人の会話は聞こえない。
『おお、側近殿。逃げずに来たのか?』
アドラーは澄ました様子で答えた。
『ええ。陛下が私を指名した理由、私なりに心得ているつもりですので、いつでもどうぞ』
レオンはピクリと眉を動かすと、低い声で言った。
『たかが側近が調子に乗るなよ?』
レオンがアドラーを見据えて、剣を大きく振りかぶった。
「アドラー!! 危ない!!」
私が思わず声を上げたその時には、アドラーの姿が消えていた。
「……え?」
私がアドラーを探すと、レオンの動きがピタリと止まっていた。よく見るとアドラーはいつの間にか、レオンの肩ギリギリに剣を近付けていた。
「何……全然、見えなかった」
何が起きたのか全く理解出来ずに呟くと、ラウルが答えてくれた。
「アドラーは、レオン陛下が剣を振り上げた瞬間に、陛下の肩口に近付き動きを制したのです」
「つまり、アドラーはすごく早く動いたってこと?」
私が尋ねると、今度はリリアが答えたくれた。
「その通りです。兄は動きの早さに定評があります。相手の剣より先に動くことで相手を制するのです。レオン陛下の持つあのように大きな剣は、威力は高いのですが、スピードが落ちます。つまりレオン陛下にとって兄の剣はまさに天敵のようなものなのです」
アドラーの剣は、レオンの天敵。なるほど、剣にも苦手な相手や武器など色々な特性があるようだった。まるでじゃんけんのようだと思っていたら、リリアが私を見ながら言った。
「ですがレオン陛下は、あのような大剣を持っているにしてはかなり早い。これは並大抵の剣士では防げないと思います」
どうやら、レオンもかなり凄いらしい。
私がぼんやりと、レオンとアドラーを見ていると、レオンが剣を下ろして大声を上げた。
『はははは!! お飾りの王太子妃の側近というから、口だけかと思えば……面白い!! 本当に面白い!! やはりクローディア。お前は本当に面白い!! これだけの腕を持つ男が騎士ではなく、側近?! ……なるほど、やはり彼女の本命はお前のようだな』
遠くにいる私は、レオンの笑い声と私が面白いというセリフしか聞き取れなかったが、どうやら、私はレオンの中で可哀想な女性から、面白い女性に変化したようだ。
私は一切何もしていないが、レオンの中で何か心境の変化があったようだ。
レオンとアドラーは二人で話をしているようだったが、二人の会話は私には全く聞こえない。
『レオン陛下、手加減されたようですが……もうよろしいですか?』
アドラーは、剣を下ろしながらレオンに尋ねた。
『ああ、気付かれてしまったのか、許せ。こんな場所で本気になって、怪我をさせても国際問題になるからな。だが、お前の実力はわかった。もう十分だ』
レオンが大剣を鞘に納めながらアドラーに向かって言った。
『そうですか、お手合わせありがとうございました』
アドラーがレオンに一礼をすると、レオンは笑ってアドラーの肩を叩いた。その衝撃でアドラーの眼鏡がズレた。
『お前、生意気だな。名前は?』
アドラーは、肩を叩かれてズレてしまった眼鏡を元に位置に戻しながら答えた。
『クローディア様の側近のアドラーと申します』
レオンが目を細めて小さく笑いながら言った。
『アドラーか。覚えた』
二人の間で何があったのか私にはよくわからないが、なぜか二人が私たちの元に戻って来た時には、先ほどまでの緊張感はなくなっていた。
「ねぇ、リリア。あの二人何があったのかな?」
私がリリアに尋ねると、リリアが呆れたように言った。
「クローディア様。全ての男性がそうだというわけではないのですが……男性同士が剣を交わした後に、打ち解けるという光景は、そう珍しい光景ではありません。不思議ですが」
「そうなのね、不思議ね」
私は、アドラーとレオンが険悪な雰囲気にならずに済んでほっとしたのだった。
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