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第二章 お飾りの王太子妃、国内にて

76 チームお飾りの正妃の功績(2)

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 ドアの近くにはクリスフォードが、窓の近くにはリリアとヒューゴが待機して、控室は物々しい空気に包まれていた。
 フィルガルド殿下も私の手を握ったまま深刻そうな顔をして黙っていた。
 どうしてみんな深刻な顔をしているのか、理由がわからなくて――不安になった。

 正直に言って、状況がわからないままなのは気持ちが悪い!!
 一体、何がどうしたというのだ?!
 火の矢を防いだことがそんなに問題になるようなことなのだろうか?!

 私はフィルガルド殿下と繋いでいる手にもう片方の手を添えた。手を添えると、フィルガルド殿下が、はっとしたように顔を上げた。

 さぁ、フィルガルド殿下。何を隠しているのです? 教えて下さい!!

 私がじっとフィルガルド殿下を見つめると、殿下は困ったように言った。

「不安にさせてしまったようですね……先ほど、連環の計と言っていましたが、クローディアは兵法も学んでいるのですか?」

 私はそう言われてチラリとリリアを見ると、リリアがなぜか嬉しそうにしていた。慈悲の監禁生活の時に退屈だったので、リリアに図書館で本を借りてくるように頼んだら、たまたま兵法が書かれた本が混じっていただけで、学んだというのは大袈裟すぎる気がする。

「本を読んだだけですので、学んだと言うほどのことでは……」

 私の答えを聞いたフィルガルド殿下が、少し涙目になって言った。

「クローディアは、関係各所の視察だけではなく、図書館の本などでも国のために学んでいたのですね……そんな努力をしていたなんて……知りませんでした」

 あれ?
 なんか、話がまたしてもおかしな方向に流れてない?
 
 ふと周りを見ると、ジーニアスやヒューゴ、なぜかクリスフォードまで感激したような顔をしている。

 あ、これまずい。これ、絶対に誤解されてる流れだ。

 私はみんなの誤解を解くために慌てて声を上げた。

「あの、これは先日、監禁……いえ、長期のお休みを頂いた時に、時間があったので偶然読んだだけなので、深く学んだわけではなくて……」

 フィルガルド殿下はますます感激したという声を上げた。

「お休みの時にまで、兵法を?! クローディアは……そこまで……」

 あ~~うん。確かに休みの日に『武器を極める』とか『体術読本』とか『新説戦略書釈義』とか『剣術上達の極意』を読むのは私もどうかな~って思ったよ。私もね、叶うのなら恋愛小説とか、冒険小説とかが読みたかったわけです。しかしですね、リリアが大輪の花のような輝く笑顔で『これ、絶対におすすめです!! わかりやすいですし、面白いです』って借りて来てくれたら、読まないって選択肢はないよね? しかもすっごくヒマだったからね?!

 言い訳をすればするほど、深みにはまっていく感覚に眩暈を覚えた。
 これでは私が、国のために勉強を頑張っている健気な正妃のように聞こえる。
 誤解が解けずに自分の話術のなさを嘆いていると、フィルガルド殿下が私の両手を取って真剣な顔をしながら言った。

「私のために、努力をしてくれて、ありがとうござます」

 これは――いけない!! これは、絶対に否定するべき言葉だ。

 私は、じっとフィルガルド殿下を見つめてハッキリと告げた。

「フィルガルド殿下のためではありません。全ては自分のためです。自己満足ですので、殿下はお気になさらないで下さい!!」

 言った!!
 ハッキリ、キッパリ否定した!!
 いやいや、私がこれまでやったことなんて、鬼のブラッドにこき使われて視察に行っただけだし、本だって、リリアのおすすめの本を読んだだけだからね?
 フィルガルド殿下が動機になったことはない、とハッキリとしないと!!

 私が、きっぱりと告げてほっとしていると、フィルガルド殿下に抱きしめられた。

「クローディア!! あなたという人は!!」

 え? なんで? 今、殿下のためじゃないって否定したよね?
 
 私が困惑していると、なぜか扉の近くにいて会話を全て聞いていたクリスフォードが、涙を流しながら呟いていた。

「クローディア様は……そこまで……殿下のことを……」

 ん? 今の会話のどこにそんなに感動する場面があった?

 フィルガルド殿下が私から身体を離すと、こちらを見ながら言った。

「私に気を遣わせないように配慮してくれて……ありがとうございました」

 あ……。なるほど……。
 今の会話って、恋人同士がお互いのために色々してあげて『私はこんなにあなたのために尽くしているのに!!』と言わずに、『私は自分で好きでしてるから、気にしなくていいよ』と言って相手を気遣うというアレと勘違いされたのかぁ~~。全然違うのになぁ~~。

 私は思わず遠くを見つめて思った。

 会話って……難しい――と。

 フィルガルド殿下と若干嚙み合わない会話をしていると、扉をノックする音が聞こえた。
 ドアの近くにいたクリスフォードが相手を確認して扉を開けると、ガルドとラウルとアドラーとレガードが戻って来たようで部屋に入って来た。

「ガルド、ラウル、アドラー、レガード!! ケガはない?! 不審船を止めてくれてありがとう」

 私は、立ち上がって4人の元に向かった。するとラウルが笑顔で答えてくれた。

「おかげ様で無傷です。擦り傷さえもありません」

 私は思わず笑顔になっていた。

「よかったぁ~~。みんなならきっと大丈夫だとは思ったのだけど、やっぱり顔を見るまでは心配だったから……」

 ガルドが微笑みながら言った。

「私もクローディア様たちを心配しておりました。ですが、船の前に白い壁が現れた時にそのような心配は杞憂だったと悟りました。クローディア様、ご無事でなによりです」

 私はガルドを見ながら言った。

「ガルドも無事でよかったわ」

 ガルドは微笑んだ後に言った。

「それではクローディア様、私はブラッド様の元に戻ります」
「ええ。お願いね」
「はい」

 そう言って、ガルドはこの部屋を出て行ったのだった。すると、レガードが私の前に来た。

「クローディア様、あなたを守れるように今後はより一層精進致します。それでは私は持ち場に戻ります」
「ありがとう、レガード。無事でよかったわ」

 レガードも柔らかく微笑むと部屋を出て言った。
 ラウルとアドラーが戻ったことで、先ほどまでドアや窓に張り付いてどこか緊張した様子だったクリスフォードと、リリアとヒューゴが力を抜いたように私の近くまでやってきた。
 やはり、彼らにとってもラウルと、アドラーは頼りになる存在のようだった。

 最後にアドラーにお礼を言おうとすると、アドラーが私に近付きながら言った。

「ところでクローディア様。あの白い壁はなんですか?」
「え?」

 そしてラウルも「ああ」と言いながら笑顔で近付いてきた。

「説明……してくれますよね?」

 なぜか圧を感じる二人に私は素直に「はい」と返事をしたのだった。




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