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第二章 お飾りの王太子妃、国内にて

68 一時間目薬草のお勉強

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「……ですから、この薬草は本来であれば、他の追随を許さないほどの優秀な通経剤として知られています」

 ヒューゴが先ほどから、私たちに薬草を見せながら親切丁寧に早口で説明してくれている。知らないことばかりなので有難いが……。この状態は例えるなら、小学校高学年の子に二次関数の説明をしているような物だ。
 物も見せてもらえるし、聞いたことがあるような、ないような言葉が出てくるので、わからなくはないように思えるが、実は全くわからない!! でも、理解できる人には出来るだろう……っていうアレだ。

「……?」

 私にはよくわからないので首を傾げていると、隣で優秀なブラッド君はヒューゴの話を即座に理解して、私にも理解できるように解説を加えてくれる。

「つまり本来は媚薬としてだけではなく、薬としても用いられているということだ」
「なるほど……」

 ヒューゴは植物に対して大変造詣の深い人物だった。わかりやすく一言で説明すると……彼は植物オタクだ。ヒューゴの説明は専門的なので、ブラッド君が時々解説を入れてくれるので大変助かっている。

 媚薬とは何かを私が理解した範囲で、説明すると……どうやらこの世界で媚薬と呼ばれる物は、催眠導入剤のような物だと……私は理解した。人は眠くなると頭がぼんやりとしてくる。そこに脳が興奮状態になる薬草を混ぜることで、理性が一時的に麻痺するという原理のようだった。

 私が媚薬とは何かを大体知れたと思っていると、優秀なブラッド君が私を見て呆れたような顔をした後に、ヒューゴに向かって言った。

「ヒューゴ、説明はもう十分だろう。危険のない範囲で実際にどんな物が媚薬として使われているのか見せることは出来ないか? 実際に媚薬を知っていれば対処も出来るかもしれない」

 ブラッド君、ナイスアシスト!! 今の言葉はサッカーなら確実に得点が入るようなパスだった!

 私は思わず有難くて、ブラッドを見て思わず涙が出そうになった。
 ドヤ顔で『媚薬について教えてくれ!!』なんて言っておいて、すでに頭は許容範囲を越えており、ブラッドが居なければ、私は結局媚薬とは何かがわからなかったはずだ。
 それに理論も大事だが、実践も大事だ!! 
 それに私は薬師になって媚薬を作りたいというわけでないので、実際に媚薬を見せて貰って、媚薬を回避するという実践の方が有難い。
 
「ええ。私としては問題ありませんが、クローディア様はもう説明はよろしいでしょうか?」
「もう十分よ!! ありがとう、ヒューゴ!!」

 私は即座に頷きながら返事をした。すると、ヒューゴは少しだけ残念な顔をして「そうですか……」と言って、数種類の薬を取り出した。
 テーブルの上には5種類の媚薬が並べられた。

 媚薬って結構種類があるのね……。

 私は媚薬の種類が多いことに驚きながらヒューゴを見ていた。

「これが実際の媚薬と呼ばれるものです。どれも飲用しなければ効果はほとんどありません。ただ……この一番右側の物は濃度を高めれば、嗅がせるだけで頭がぼんやりとしてきます」
「へぇ~」

 私は左から順番に、匂いを嗅いだ。やはりこの世界の薬は基本的に薬草をブレンドしてあるので、どれも個性的な匂いがあった。そして最後の媚薬を嗅いだ時、私は既視感を覚えた。
 甘くとろけるような花の匂い。私はこの匂いを知っていた。
 
 どこかで嗅いだことがある……どこだったか……。

 私はこの匂いを知っているのに、どうしてもどこで嗅いだのか思い出せなかった。

「ちなみに、リリア嬢が媚薬だと見分けれたのは、こちらの媚薬です」

 ヒューゴは、真ん中の媚薬を指でさしながら言った。私たちは一斉にその媚薬を見た。

「こちらの媚薬は、ぼんやりとした後に身体が熱くなるという効果があり、ほとんど興奮する作用はありません。ですが、体温が上がればぼんやりとして身体も緩み、さらに程よく理性を失いやすくなるなりますので、初めての時にご夫婦で使われるには最適です。使用された皆様から副作用もなく、ご夫婦で甘い夜を過ごせると大変評判のいい媚薬です」

 病気の時に熱が出ると、ぼんやりするがあんな感じだろうか?
 評判のいい媚薬って……なぜか違和感を持ってしまうのは気のせいだろうか?
 
 私は、一番右にあった媚薬の効果を尋ねた。

「ねぇ、ヒューゴ。この媚薬はどんな媚薬なの?」
「はい。こちらはなんといってもこの甘い匂いが特徴的で、すぐに眠くなったように思考が奪われます。興奮作用や発熱作用はなく、一番早く頭がぼんやりとしてくる媚薬です。媚薬というより、睡眠薬に近いのであまり媚薬としては人気がありません」

 睡眠薬に近い媚薬……。
 なぜだろう。
 私にはどうしても、その一番媚薬として人気がないという媚薬が頭の中で引っかかっていた。

「ヒューゴ。もし媚薬を飲んでしまった場合はどうすればいいのだ?」

 ブラッド君がこれまた最高の質問をしてくれた。これは、元商品開発部に務めていた私の意見だが、本当に出来る人はいい質問を絶妙のタイミングで出来る人だと思っている。まさにブラッドは出来る人だ。

 ヒューゴは、ブラッドの質問に丁寧に答えてくれた。

「媚薬の効果を中和する中和剤があれば、それを使えば問題ありません。ない場合、興奮作用が強ければ、一人でお部屋に篭られ、薬の効き目が切れるのを待つのが一番いいと思います」
「基本的に効果が切れるのを待つしかないのね」

 私はヒューゴを見ながら尋ねた。

「そうですね……どのような媚薬を飲まされたのかわかれば、私が中和薬を作りますのでご安心下さい。ただ……一番右の媚薬は量が多いと、ぼんやりとするだけではなく意識を失ってこともありますので、ご注意下さい」

 そう言ってヒューゴが、袋から小さな袋で包まれた何かを取り出した。

「もし、この右側の匂いを嗅いだら、こちらのアメを口に入れて下さい。それで中和されるので、意識を失うことはなくなります。あ、皆様も美味しいのでどうぞ。ちなみにこのアメは美容効果の高い成分の入っていますので、媚薬とは関係なく楽しめます。王宮の侍女の皆様も普段から召し上がっていますよ」

 ヒューゴの取り出したアメを見たリリアが声を上げた。

「あ、それ。私も侍女仲間に貰って時々食べてます!! 媚薬を防ぐ効果まであったのですね……知らなかった……」

 リリアはこのアメを食べていたようだ。
 
 ヒューゴは、袋からアメを取り出すと自分の口の中に入れた。きっとこれは安全だと伝えてくれたのだろう。
 私がアメを手に取って袋から出すと、ブラッドが私の手のそっと手を添えた。ブラッドに大きな手を重ねられて大きく心臓が跳ねた。
 
「クローディア殿、待て。念のために私が食べた数時間後に口にしてくれ」

 ブラッドはそう言うと、私が食べようとしたアメをそのまま自分の口に入れた。

 ……え?

 一瞬、指先に柔らかさが触れて、思わず全身が熱くなった。

 な、な、なんてことを?! 今……口が……。

 私が突然のブラッドの信じられない行動に動けなくなっていると、ブラッドは何もなかったように「甘いな」と言ったのだった。




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