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59 鉄の願い
しおりを挟む「名刀が酷い状態か・・。」
宗がその場に寝っ転がった。
「刀の扱い方をわかってなかったんだろうな・・。俺みたいに・・。」
「まだ多くの人が刀に理解があるわけじゃねぇしな。宗、過ぎたことを悔やむな。」
「ああ。だがそうだな・・新しい道具だからな・・。」
小さく呟いた宗の言葉に鉄が口を開いた。
「そもそも新しい道具ってのは、持つ人間にどうしたって変化を与えちまう。その道具があることで、得られる物もあるが、失う物もある。その変化がいいことだけとは限らねぇ。俺が言えたことじゃねぇが、面倒なもんだな、刀ってよ。」
「くすくす」と宗が笑った。
「鉄の言うことはいつも難しいが、そう言われてみりゃ~そうだとしか言えなくなるから不思議だな。確かに刀は面倒だ!」
すると、宗が眩しそうに手を木々の間から差し込む日の光にかざした。
「だが・・。手放せねぇ~んだよな。」
鉄が小さく笑った。
「そうか・・。手放せねぇなら荷物にならねぇようにするしかねぇな。」
「ふふ。そうだな。大切にするって決めたからな。大切にするさ。一生な。」
「宗・・。おまえ、間違うなよ?」
鉄が真剣な目で宗を見た。
宗は起き上がると、鉄と視線を合わせた。
「・・・・?」
「なによりも大切にしなきゃいけねぇのは、自分だ。刀は道具だ。自分の生き方や大切なものを守るために必要でなくなったら、刀に執着するなよ?」
「どういうことだ?」
「そのまんまの意味だよ。じいさんの刀を大切にしてくれるのは有難いが、執着されるのは忍びねぇ。宗が刀と別れることで幸せになれるなら遠慮なくそうしてくれ。」
宗が暫く考えて、口を開いた。
「そうだな。もし、俺が刀を使わなくなったら・・。そしたら、刀は腰には差さずに家に飾っておくか。」
鉄が目を細めて口角を上げた。
「・・じいさんの刀は飾るのには向いてねぇと思うがなぁ?」
「いいんだよ。」
鉄が伸びをした。
先程まではのんびりしていた宗が急に刀に手をかけ、背後に鋭い視線を向けた。
鉄も宗の視線の先を見た。
カサカサ。
草を踏みつける音が近づいた。
相手の姿がぼんやりと見えると、宗が刀に置いた手をどかした。
「鉄さ~ん。」
この村の娘のツタが手を振りながら近づいてきた。
「鉄さん。お取込中にすみませ~ん。」
「いや。別に取り込んでねぇ。休んでたたけだ。」
「ああ。この辺りは風が涼しいですしね。」
ツタが宗の方を見て頭を下げた。
「こんにちは。宗さん。」
「ああ。」
宗にあいさつをすると、ツタはすぐに鉄を見た。
「鉄さん、朝にお願いしたクワを一度持っていってもいいですか? おとっちゃんたら、しばらく使わないっていうから鉄さんに預けたのに、どうしても今日中に使うってきかなくて。」
鉄が腰を上げた。
「ああ。悪い。もう研ぎ終っちゃいるんだ。宗。先に戻るな。」
「俺も戻る。」
鉄と宗はツタと一緒に家に戻ることにした。
鉄とツタが並んで歩く後ろを宗はついていった。
「しかし、よくここがわかったな~。」
「はい。先程、育ちの良さそうな山伏が教えてくれたんです。鉄さんのお知り合いですか?」
ツタの言葉に鉄は首をひねった。
「育ちの良さそうな山伏ね~。まぁ。知り合い・・。だな。」
(育ちの良さそうな山伏?弁慶じゃねぇな。九郎殿か? だが、場所をツタさんに教えたとなると、俺たちの後を付けていたのか?)
「ふふ。知り合いなのにそんなに曖昧なのですか?」
「ああ。すまない。知り合いだ。」
「ふふふ。変な鉄さん。」
鉄とツタはとても仲が良さそうに話をしていた。
ツタの顔が心なしか赤くなっているように思えた。
その様子を見ていた宗は少しムッとしていた。
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