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ギルバートエンド
1 生誕祭当日
しおりを挟むそしてアルバート殿下の生誕祭の日になった。
もちろん、今回の私のドレスは真っ青でポケットを縫い付けたドレスだ。
「お待たせいたしました」
私がギルバート様の元に向かうと、ギルバート様が真っ赤になって口を押さえながら私の耳元に顔を近づけながら言った。
「そのドレス……とても嬉しいです……よくお似合いです、ビアンカ様」
私も頬に熱を感じたが、ギルバート様の青い瞳を真っすぐに見つめながら言った。
「ありがとうございます。私の……好きな……色を選びました……」
ギルバート様は真っ赤な顔のまま言った。
「次にドレスを作る機会があれば……私に贈らせて下さいね」
私は顔を上げた。
「はい……ありがとうございます」
ギルバート様は困ったように耳まで真っ赤にして顔を隠しながら私の耳元に唇を近づけながら言った。
「とても可愛いです。ビアンカ様」
私はギルバード様を見ながら言った。
「ギルバート様こそ……素敵です」
するとギルバード様に抱きしめられた。
「ビアンカ様、今日は生誕祭の後は私と過ごしてくださいませんか?」
私はゆっくりと頷いた。
「は、はい」
私の言葉にギルバート様も照れたように言った。
「はい、生誕祭の後で……続きを……」
そして私は、ギルバート様に差し出された手を取って、屋敷を出ると王家の用意した馬車に乗り込んだのだった。
◇
そして生誕祭の会場に到着した。
前回は一人で入場したが、今回はギルバート様がついてくれている。
私たちは、事前に話していた通りホールには入らずにエントランスで始まる待機することにした。
ホールに入るよりもここの方があらゆることに対処できると考えたのだ。
「ビアンカ様。来ましたよ」
ギルバード様が小声で言った。
「ええ」
そして案の定、会場に入るとすぐにツェツィーリアが多くの人に紛れて近付いていた。
ツェツィーリアのドレスは前回のようなオーダーメイドではなく既製品のよくあるドレスだった。
(あら……ドレスが前回と全く違うわ……)
私がドレスを観察している間に、ギルバート様が前に出て接触を絶ってくれた。
「ギルバード様!?」
ツェツィーリアは私の後ろの柱に隠れていたギルバードには気づかなかったようで驚いた顔をしていた。
さらに彼はツェツィーリアが手に持っていた女神の雫に気付き声を上げた。
「ご令嬢、それはもしや、我が国の至宝、女神の雫ではありませんか?」
「え?」
エンドランスホールがざわざわとうるさくなった。
「女神の雫? なぜあの令嬢が?」
「まさか、盗みを!?」
「なんて恐れ多い!!」
エントランスにもホールほどではないがそれなりに人が多かったので、ざわつき始めた。
顔を歪ませるツェツィーリアに向かって、ギルバート様が大きな声を上げた。
「なぜ、王家の秘宝をあなたが持っているのですか? 盗んだのですか? 衛兵!! 彼女を捕らえろ!!」
ギルバート様の声にツェツィーリアが泣きながら大きな声を上げた。
「まさか、違います!! アルバート殿下からお借りしたのです」
衛兵が駆けつけてツェツィーリアの腕を取った。
ギルバート様はツェツィーリアを睨みつけながら声を上げた。
「さらに殿下の名を語るなど!!」
ツェツィーリアの必死な声がエントランスホールに響き渡る。
通り過ぎる人々も何事かと、私たちを見ていた。
「お願いします、アルバート殿下を呼んで下さい!! 呼んで下されば私が嘘をついてないことがわかります」
ツェツィーリアが一際大声だ叫んだ時、アルバート殿下が走って来た。
「どうした?」
ツェツィーリアがすがるようにアルバート殿下の名前を呼んだ。
「アルバート殿下!!」
アルバート殿下は、ツェツィーリアの前まで行って衛兵から彼女を解放した。
「ツェツィーリア!! 離せ、彼女は私の客人だ」
そんな殿下にギルバート様が近づいた。
「殿下、この者が女神の雫を殿下からもらい受けたと申しております。確か『女神の雫』は本日、ビアンカ様が身に着けているはずですが? そう届け出が出されていました」
「え? アルバート殿下?」
ツェツィーリアが青い顔をさらに青くしてアルバート殿下を見ていた。
「失礼、ご令嬢」
ギルバート様が、ツェツィーリアの手から女神の雫を取り上げると、アルバート殿下の手上に女神の雫を乗せた。
場所は、会場のエントランス。
招待客の多くは、会場内。しかも、陛下と王妃殿下は不在。だが見ている人はそれなりにいる。
張りぼてのような粗末な舞台。
そんな中、アルバート殿下が口を開いた。
「この女神の雫は、私が彼女に持たせた。……――ビアンカ、君のとの婚約を破棄するために……」
ふと後ろを見ると、陛下と王妃様の姿も見えた。
お二人もこの状況に眉をひそめている。しかも、一緒に私の父やギルバード様のお父様、その他多くの貴族が見ていた。
(二人も見ている。アルバート殿下からの婚約破棄。陛下たちや、証人もその他大勢。これなら大丈夫だわ……)
私は優雅に頭を下げた後に、顔を上げて殿下を真っすぐに見つめた。
「アルバート殿下。婚約破棄、承知いたしました」
私は笑顔で、殿下にあいさつをした。
「え……?」
なぜだろう、当のアルバートとても殿下は驚いていた。
私はというと、やっとアルバート殿下から婚約破棄を言い渡されてほっとしていた。
すると私は嬉しそうに微笑むギルバート様に抱き寄せられた。
「アルバート!! 何を言っているのだ!?」
陛下が大きな声を上げた。
私の父は怒りで震えているようだった。
「アルバート殿下、これはどういうことですか?」
父がいち早くこの場に駆けつけてアルバート殿下に問いただした。
何も言葉にしないアルバート殿下の代わりに私が説明した。
「お父様。私はアルバート殿下に婚約破棄を言い渡され、そして……――受け入れました」
王妃様は「ああ……なんてことでしょう」と倒れて、従者に支えられている。
父は「長年アルバート殿下に尽くしてきた娘を、このように皆の前で辱めを……」と青筋を立ててワナワナと震えた後に、アルバート殿下を無視して、陛下に向かって言った。
「陛下、これまで我が娘は殿下のために努めて参りました。それなのに、この仕打ち……婚約をなかったことにすることには了承いたしますが、条件については後日、話し合う場を設けて頂きたく存じます」
父の言葉に陛下が苦虫を潰したように顔を歪めながら言った。
「すぐにでも場を設けよう……」
アルバート殿下との婚約がなくなったことを確認したギルバード様が私の手を取りながら言った。
「アルバート殿下との婚約はなくなったようですね。それでは……ビアンカ様。行きましょうか?」
私は再びアルバート殿下を見ながら言った。
「それでは……アルバート殿下、ごきげんよう!!」
私はギルバート様と手を取って歩き出した。遠くで「待ってくれ、ビアンカ!!」という声が聞こえた気がしたが、私はギルバート様と手を取り、すでに会場を出ていたのだった。
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