婚約破棄された令嬢は何度も時を遡る

たぬきち25番

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第三章 令嬢の新たな時の流れ

1 生誕祭まであと5ヶ月(1)

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  ダンスパーティーが終わった数日後、私はギルバート様や課題メンバーの皆と一緒に頭を抱えていた。

「やはり、書類だけだとわからないことも多いですね……」

 解決策を考えていたが、どうしても書類だけだと、治安悪化と言ってもどの程度なのかわからないし、町の様子が知りたいと思っていた。

(バスロ伯爵領って、王都からもそれほど遠くないわよね……)

 私は地図を見ながら考えた。
 数時間馬車で移動すれば見に行くことができる。
 私がバスロ伯爵領までの距離を考えているとゲオルグ様が提案してくれた。

「ビアンカ嬢。バスロ伯爵領は王都からそれほど遠くはない。実際に見て来てはどうだ?」

 ゲオルグ様はさらに地図を見せながら言った。

「ほら、日の出と共に出発すれば、数時間視察をしても日の入りくらいには戻れるのではないか?」

 私も内心『見に行った方がいいかもしれない』と思っていたので、ゲオルグ様の言葉に頷いた。

「そうですわね……週末に行ってみます」

 するとギルバート様も頷きながら言った。

「わかりました、では……休みの日の早朝に迎えに行きます」
「え? ギルバート様、一緒に行って下さるのですか?」

 私はまさかギルバート様が一緒に行ってくれると思っていなかったので驚いてしまった。

「もちろんです。治安の悪化で問題になっている場所にビアンカ様をお一人でなんて、課題の責任者として絶対に許可できません!!」

「でも……お忙しいのでは? 家の護衛を連れて行きますわ」

 私は王妃教育も休んでいるし、休みの日は特に予定もない。
 だが、次期宰相のギルバート様は違う。
 
「ビアンカ様、私にとってもこの課題は重要なのです。それにあなたを一人で行かせてもしも何かあったらと思うと、何も手につきません」

 ギルバート様の言葉にクリス様も同意した。

「私も心配です。それにギルバート様なら剣の腕も立つし、何かあった時に、課題の責任者として対処できる」

 みんなの心配そうな顔を見て、私はギルバート様に向かって言った。

「では、お願いできますか?」

「はい」

 こうして私は、ギルバート様と共にバスロ伯爵領へ行くことになったのだった。



 ◇


「お嬢様……本当にこのようなお洋服でよろしいのですか?」

 私は町の人に紛れ込むために貴族が着る服ではなく、町の人が仕事着にするような服を用意して貰った。さらに髪も三つ編みをサイドに作ってもらって、黒縁の度のないメガネをかけた。

「ええ、これがいいの」

 私は以前、町で会ったギルバート様のように町に溶け込みたいと思ったのだ。
 それに王都でさえ普段のワンピースで襲われたのだ。治安が悪いというのならなおさら普段の服は避けたほうがいいだろう、と思ったのだ。

 それに……

(私も普段の町の様子が見たいわ)

 貴族として出向くと、皆が委縮してどうしても本来の町の様子はわからない。
 私は本来の町を見て問題の解決策を考える必要があるのだ。




「おはようございます……ビアンカ様!?」

 支度を終えて、待っているとギルバート様が馬車から降りて来た。
 ギルバート様は、服は平民のような服を着ているがカツラはつけていなかった。

「おはようございます、ギルバート様。視察ならこの格好がいいかな、と思いまして」

 ギルバート様はにこやかに笑うと「そうでね。私も町に着いたら変装しようと思っていました」と言った。ギルバート様は私に手を差しだして、「では行きましょうか」と言った。私はギルバート様の手を取ると、「はい」と言って馬車に乗り込んだのだった。




「ギルバート様、街中では私のことは『ビー』と呼んで下さいませんか?」

 街中でギルバート様にビアンカ様と呼ばれては注目されるので、私は以前ギルバート様が『ギル』と名乗ったことを参考して提案した。
 ギルバート様は驚いた後に少し照れたように言った。

「ビアンカ様をそのように呼ぶのは恐れ多いですが……街中ではその方がいいかもしれませんね。それでは私のことは『ギル』と呼んで下さい」

 私は笑顔で「はい」と答えたのだった。


 二度ほど停まって休憩をして。お昼前にはバスロ伯爵領の中心の町に到着した。
 ギルは馬車の中でカツラをつけ、私もメガネをかけて準備した。
 どんな風に回るのか、すでにここに来るまでに馬車の中で打合せ済みだ。

「では行きましょうか、ビアンカ様」

 私はギルを見ながら言った。「ビーですわ。ギル」と言った。するとギルバートは少し照れたように笑うと「行きましょう、ビー」と言ったのだった。
 
 人気のない場所で馬車を降りると、私たちはまず、市場に向かった。
 
「おい!! 俺、銀貨、出した! 銅貨、残り、渡せ」
「何言ってるんだい、ここに銀貨って書いてあるだろう!?」
「これ、銅貨だ!」
「違うって言ってるだろう!?」

 市場に入った途端に、怒鳴り声が聞こえてきた。

「ビー、少し離れましょう」
「ええ」

 どうやら、二人は商品の価格で揉めているようだった。私はすぐ近くにお店を見た。
 お店に値札とは別に、隣に絵が書いてある。
 
「ギル、ここ。値札のようなものの隣に絵が書いてあるわ」

 私が口を開くと、ギルが「本当ですね……なんでしょうか?」と言った。どうやらギルもわからないようだったので、私は近くの店の女性に尋ねた。

「あの、この絵は何ですか?」

 すると女性は「ああ、あんたこの町の人間じゃないのかい? これは銅貨の絵だよ」と答えてくれた。
 私は不思議に思って女性に尋ねた。

「どうして、銅貨の絵を?」

 すると女性が困ったように言った。

「実は最近、隣の国で大きな戦があっただろう? この町は隣国から逃げてきた人をたくさん受けれたんだが……言葉も通じないし、持ってるお金も違ってね……こうして絵で描いて伝えているんだが……なかなか難しくてね……」

 そういえば……隣国は大きな戦をしている。さらにここは国境に近い。

(……隣国の戦いで住む場所を失った人々を受け入れ、後に税収が増えるという利点の裏にはこんな問題があるのね……)

「ありがとう」

 私は、女性にお礼を言った。そしてさらに私たちは調査をすすめた。
 二時間ほど町を回った私たちは予定していた調査を全て終えていた。

「ビー、このくらいでいいですか?」

「はい。やはり実際に見ないとわかりませんね……」

 私と、ギルバート様が話をしていると、急に周りが騒がしくなった。

「おい、なんでもお城の王子様が広場に来てるんだってよ」
「ええ!! 王子様が?」
「そうそう、行ってみるか?」
「王子様、見たぁ~~い!!」

 町の人たちの話を聞いて、私はギルバート様と顔を見合わせた。

「え? 王子様って……もしかして、アルバート殿下でしょうか?」

 ギルバート様が私を見ながら尋ねた。

「行ってみますか?」

「ええ」

 こうして私たちは広場に向かったのだった。














――――――――――――

明日からは1日1話になります。
よろしくお願いいたします。




たぬきち25番


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