婚約破棄された令嬢は何度も時を遡る

たぬきち25番

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第二章 令嬢の時が流れる

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 それから私は週に一日、課題のメンバーと集まり、様々な意見を交換して刺激的な時間を過ごした。
 さらに三日に一度は放課後に、ギルバート様と会って課題についてや学園の変革のことの話をした。

『ビアンカ様、私と会う予定のある日は私が屋敷まで馬車でお送りいたします』

『ありがとうございます』

 学園は週に五日。そしてギルバート様とお会いするのは週に四日。つまり、私はほとんど毎日のようにギルバート様に会って言葉を交わし、さらには共に帰っていた。
 毎日がとても充実していて、自分がまだアルバート殿下の婚約者であることなどすっかり忘れていた時のことだ。



 
「ビアンカ・リョーシュは、いるだろうか?」

 ダンスパーティーの前日に、アルバート殿下が女子棟に私を訪ねて来た。

「……どうされたのですか? アルバート殿下?」

 私を訪ねて来るなど、学園に入学して三年、初めてのことだったので私は驚いてしまった。
 なぜ訪ねてきたのか、理由がわからない……というよりも、私は今まですっかり、殿下の存在を忘れていた。

「明日は、ダンスパーティーだ。今日の放課後にさすがに一度合わせてみないか?」

 アルバート殿下が困ったように言った。
 もしかしたら、殿下は今頃になって、急に入賞できるのか不安になったのかもしれないが、殿下のダンスの実力でダンスパーティーの前日に一度合わせただけでは、入賞は不可能だ。
 前回だって二ヶ月、毎日のように数時間私二人で訓練して、ようやく入賞できたのだ。

 さらに言うと、私とは結婚するつもりもないのに『歴代』の方のように私相手に入賞する必要はない、とは思わないのだろうか?
 明日はただ殿下は、参加すれば問題ない。
 それにどうしても心配なら、あの奥庭園でツェツィーリアと二人で練習すればいい。

(うん、やっぱり必要ないわね。それに今日も予定があるし…)

 私は申し訳ないとうように殿下に謝罪した。

「大変申し訳ございませんが、私は本日も特別課題の集まりがございますで、アルバート殿下とのダンスの練習にご一緒できません」

 これできっと帰って行くだろうと思っていると、殿下が口を開いた。

「特別課題と、明日のダンスパーティーとどちらが重要なのだ!?」

 ――練習初日にツェツィーリアと会っていて練習を放棄したあなたがそれを言いますか?

 と言ってやりたかった。
 だが、もう私にはアルバート殿下と殿下と会話をすることも意味がないように思えた。

「今回の課題は『国王陛下の命』でございます。無責任なことはできません。アルバート殿下もそれをご存知だったからこそ、ダンスの練習を行わないと同意されたのではないですか?」

 殿下は押し黙った後に「そうか、もういい」と行って戻って行った。
 以前なら絶対にアルバート殿下の後を追いかけていただろう。
 だが……

(はぁ、ようやく戻って下さったわ。どうか、次の授業に間に合いますように……さぁ、私も次の授業の準備をしなければいけないわ)

 私はほっとすると、次の授業の準備をしたのだった。







 ビアンカの教室を飛び出したアルバートは、教室から少し離れたところでビアンカが追いかけて来るのを待っていた。

 ――きっとビアンカは自分を追って来る。そして『申し訳ございませんでした』と言って、今日の放課後にダンスの練習をすると言い出すだろう――そう思っていた。

 だが……

 ビアンカは、追っては来なかった……

(……っ!! ビアンカは、なぜ追って来ないのだ!?)

 アルバートがビアンカを待ちながら苛立っていると鐘が一つ鳴った。
 授業の始まる合図だ。
 真面目なビアンカは授業が始まってしまえば、もう自分を追って来ることもないだろう。

(追って来ないだと? ビアンカが私を?)

 アルバートは呆然としながら、授業も受けずに城に戻った。





「殿下!? お早いお帰りですね? あれ? まだ授業中ですよね!? 体調でも悪いのですか? 医師を呼びますか?」

 慌てる側近のジルに向かって、アルバートは不機嫌そうに答えた。

「ビアンカが……私とのダンスの練習を断った。折角私からダンスの練習に誘ってやったのに!!」

 ジルは首を傾けながら「え……と、はい?」と首を傾けた。
 そして不貞腐れたように何も言わないアルバートに向かって困ったように言った。

「あの……それ、随分前にお伝えしましたよね? 特別課題が終わるまでビアンカ様はそちらに集中されるって……それに殿下だってこれまで一度だって、ダンスの練習するなんてことおっしゃらなかったではありませんか?」

 ジルの言葉にアルバートが睨みながら言った。

「だが、明日はダンスパーティーだぞ? 私から練習に誘ってやったのに断るなどと……」

「殿下……ビアンカ様は王妃教育までお休みになられて、新しい機関立ち上げの礎となる課題に臨まれているのですよ? なんでも毎日遅くまで課題に取り組まれているそうです。突然、ダンスの練習など言ってお誘いしても無理ですよ……」

 ジルの言葉にアルバートが声を上げた。

「なんだって!? ビアンカは、王妃教育も休んでいるのか?」

「え、ええ。あれ? お伝えしていませんでしたか? 確かここに……」

 ジルは処理済みの書類の中から王妃教育担当の女官からの報告書を取り出した。

「ああ、あったこれですよ。ほら、ここに書いてあります。『特別課題を優先し、王妃教育を中断する』ってね。ほら、殿下だって、ちゃんとサインされています……ってまた読まずにサインしたのですね……まだあまり書類も多くないのですから……読んで下さい……」

 アルバートは書類を見ながら、なぜか動けなくなった。

(あのビアンカが、王妃教育を休んで……特別課題を選んだ? 私よりも宰相からの依頼を優先させているというのか?)

 これまでアルバートは、ビアンカとのダンスの練習がなくなったことを喜んでいた。
 だが、周りが放課後に婚約者と練習するのを見て不安になった。
 さらにはどうしてビアンカが練習を休むのか、理由を深く考えていなかった。
 てっきり、王妃教育の傍らに特別課題に取り組んでいると思っていが、王妃教育より優先していると聞いてなぜか、怒りが湧いて来た。

「なぜ、私とのダンスや王妃教育よりも……宰相の依頼を……」

 そんなアルバートにジルが話しかけた。

「殿下……明日のダンスパーティーのことで不安になってイライラされているのですね……そんなに心配なら、ダンスの講師の先生に予定を聞いてみましょうか?」

 アルバートは大きな声で「必要ない」と答えたのだった。




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