婚約破棄された令嬢は何度も時を遡る

たぬきち25番

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第一章 令嬢は時を遡る

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 私が急いで会場内に入ると、すぐに今日の進行役が大きな声で「国王陛下、王妃殿下、第一王子殿下、第二王子殿下のご入場」と声を張り上げて、ファンファーレが流れた。

(遅れなくてよかった……)

 せめて生誕祭に遅刻しなかったことにほっとしていると、国王陛下と王妃殿下の後に、アルバート殿下が入場した。そして弟君のアルフレッド殿下が入場した。
 アルフレッド殿下の隣には婚約者のレイラ様がいらっしゃった。

(あ!! レイラ様はアルフレッド殿下とご一緒に入場されているわ!! 間に合わなかったのだわ!!)

 私はとんでもない大失態に、この場から逃げたくなるほどの罪悪感や、恐怖、絶望を感じていた。

「あら? アルバート殿下はお一人だわ」
「確かご婚約者様がいらっしゃったわよね? どうされたのかしら?」
「第二王子のアルフレッド殿下はレイラ様といらっしゃるのに……」

 周囲も皆私の不在を不審に思っていた。
 私は穴があったら入りたいほどの羞恥を感じていた。

(やはり、馬車を待たずに自分で向かえばよかった。いえ、到着してすぐに会場に向かわずに王家の方の控室に行けばよかったのだわ!! アルバート殿下……どうして何も教えて下さらなかったの? 本来なら私もあの場所に立っていたはずなのに……)

「あら、あの方……」
「ええ。確か第一王子殿下の御婚約者様よね?」
「どうしてこちらにいらっしゃるのかしら?」

 皆が私い気付いてヒソヒソと白い目を向けながら批判的な言葉を並べているのが耳に入る。
 大切なアルバート殿下の生誕祭で婚約者の私が隣にいないのだ。
 皆に悪く言われるもの当たり前だった。

 私は少し顔を下げて批判的な視線や陰口に耐えていると、王族の方々が登壇して陛下が口を開いた。
 あいさつをされているが、恥ずかしくて情けなくて話が耳に入って来ない。
 そして、次にアルバート殿下の声が聞こえた。

「今日は皆に報告がある。侯爵令嬢ビアンカ・リョーシュ前へ」

 アルバート殿下に名前を呼ばれて、私は顔を上げると「はい」と返事をした。

(アルバート殿下……このタイミングで私を呼び出すなんて……一体何を考えているの?)

 私は不安になりながら、私は殿下の立つひな壇の下へ足を進めた。
 そして下から殿下を見上げていると、再びアルバート殿下が声を上げた。

「伯爵令嬢のツェツィーリア・バスロこちらへ」

「はいっ!!」

 ふと声をした方に視線を向けると、先ほどぶつかった令嬢が返事をした。
 そして、私を通り過ぎてひな壇へ上がっていく。

(どういうこと? ……なぜあの方が呼ばれるの?)

 私は思わずじっと彼女を見ていると、私の隣を通り過ぎる時、勝ち誇った顔をしたのが見えた。
 そして殿下の前に立つ私の横を通り過ぎ、アルバート殿下の隣に立った。

(殿下の横に立った……?)

 私は意味がわからなくてぼんやりと見つめた。
 何が起こったのかわからない。

「何を……」

 震える声で問いかけたが声が小さすぎて誰にも聞こえないだろう。
 そしてアルバート殿下は、ツェツィーリア・バスロ伯爵令嬢の腰を抱き寄せながら言った。

「ビアンカ・リョーシュ、あなたとの婚約を破棄します」

 咄嗟に声が出なかった。
 まるで全ての身体の機能が停止したような感覚。
 そして、ようやく口から言葉が出た。

「……――え?」

 会場内にはまるで人がいないかのように静かだ。
 身体にまるで鉛が流し込まれているように重い。
 声が出ない。
 指さえも動かない。
 ――息ができない!!

 私のことなど無視して、殿下は話を続けた。

「そして、この王家の秘宝『女神の雫』を付けた女性、ツェツィーリア・バスロを私の新たな伴侶にとする」

 そう言って、殿下が声を上げると隣にいるツェツィーリア を見て声を上げた。

「ツェツィーリア、女神の雫はどうした!?」

 すると ツェツィーリア泣きそうな顔で言った。

「それが……先ほど、ビアンカ様に取り上げられて……」

(……え?)

 私は再び意識を失ってしまいそうなほど驚いた。
 心臓が早く、音が耳まで聞こえる。
 全身から冷や汗が止まらない。

 まさか……

 私は先ほど、ツェツィーリアとぶつかったことを思い出した。

 まさか……!!

 私はポケットに手を入れると身に覚えのない石のような物が入っていた。
 心臓が耳の近くにあるほど音が大きく感じる。
 全身の血液が沸き立つ感覚がある……

 ポケットに入っていた物を取り出すと見に覚えの全くない真っ青な石のついたブローチが入っていた。

「ビアンカ!! まさか、盗みを働くとは!! しかも、王家の秘宝『女神の雫』を!!」

 アルバート殿下の怒声が響き渡る。
 そして会場内も先程の静寂が嘘のように騒がしくなる。

「まぁ、『女神の雫』を盗むだなんて!!」
「アルバート殿下の生誕祭でなんて恥知らずな」

 周囲の人の声がまるで私の身体に矢のように私を蔑む視線が突き刺さる。

「違います、私ではありません!!」

 私は必死で声を張り上げた。

「見損なったぞ!! まさか盗むとは!!」

 だが、アルバート殿下は私の話など全く耳に入れてくれない。

「違います。私、盗んでなんか……」

 ふと、ツェツィーリアと目が合うと彼女は目を細めて……――笑っていた。

(――嵌められた!!)

 その時、私はようやく彼女に嵌められたことに気付いた。

「捕えろ!!」

 殿下の声がして私は必死で叫んでいた。

「違います。信じて下さい。アルバート殿下!!」

 アルバート殿下は苦しそうな顔で私を見ていた。
 違う、私じゃない。
 盗んでなんかいない!!

 そう思った時だった。
 急に女神の雫から青くて強い光が溢れた。

「な……に……?」

 私はとても目を開けていられずに瞳を閉じたのだった。


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