悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番

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アイク ルート(先生ルート)

Ⅵ 劇の練習が楽し過ぎる件

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「では配役はこれでいきましょう!!」

 なんと私たちは『変調シンデレラ』をすることになった。
 脚本はなんと、ダイアン様だ。

 シンデレラ役はもちろんクレアさん。
 王子役はカイル様。
 騎士役がルジェク王子。
 魔法使いが兄。
 私と、ダイアン様がシンデレラの母と兄役だ。
 そしてアレク先生がシンデレラの父の役だ。

 配役はほとんど私が決めた!!

 なぜながら、クレアさんのドレス姿が見たかったし、ルジェク王子殿下の騎士服姿とか、兄の魔法使いの姿が見たかったからだ。
 みんなに必死でお願いすると、みんな赤い顔で「フォルトナが見たいというなら……仕方ないな」と受け入れてくれた。みんな心配になるくらいチョロ過ぎて心配になるレベルだ。



 ストーリーはこうだ。

 まず、私がアレク先生の家にダイアン様という息子を連れて嫁入りし、ダイアン様がシンデレラをいじめる。
 そして舞踏会に行けなくて泣いていたシンデレラの前に、魔法使いの兄が登場。
 魔法で綺麗になったシンデレラは舞踏会の会場で、騎士に「踊ってください」とダンスを申し込まれる。

 かなり高度なダンスを披露し、会場の話題を独占。
 それをカイル王子が聞きつけて、踊っている二人を見てシンデレラに一目ぼれ。
 その場で、求婚する。
 
 シンデレラは、12時が近くなり、王子に返事をしないままその場を去る。
 その後、シンデレラはお城から探しに来たルジェク王子扮する騎士に見つけられて王子様と結婚する。






 私はみんなに似合う衣装を探したり、メイク道具をかき集めた。

「ん~~~もう少し光を反射したい……パール本物混ぜようかな……」

 理想のために、公爵家の財力を使って理想を体現するようなメイク道具も作った。
 みんなはセリフも出番もたくさんあるが、私はほとんど出番がないので、みんなが劇の練習をしている間にどんなメイクをしようか、髪型はどうしようかと悩んでいた。

「とても楽しそうですね、フォルトナ様」

 アレク先生がテーブルの前に座って目を細めながら言った。
 そう言われて思い出した。

 そう、楽しいのだ。

 私は本来、メイクをして喜ぶ人の顔が見たくてBAになったのだ。
 とても体力も気力もいる大変な仕事だが、新しい商品を見た時は心底心が躍るし、お客様がキレイになると心の中では狂喜乱舞している。転生してから私はその感覚を久しぶりに味わっていた……
 
「そうですね、とても楽しいです」

 公爵令嬢という立場では自分にメイクをすることもできない。
 なぜならすでにそれを仕事にしている人たちがいるからだ。

 それに舞台のような場所でなら私の今風のメイクも受け入れられるが、この時代の社交界ではそうはいかない。
 自分の今まで生きてきた場所の感性とこの時代の感性が全く違うのでメイクも全く違う。
 だからパーティーなどの時は公爵家のメイク専門の侍女に任せている。

 厚塗りで個人の個性を完全に活かせてないメイク……

 この世界に合ったメイクは私にとって、地味にストレスだった。

 だが、この世界は私の世界の美的感覚をそのまま受け入れてくれるような世界ではない。
 ――素敵だわ……と簡単に新しい感覚が受け入れられるほど……社交界という伝統と格式に守られた場所は……甘くはないのだ。

 私は自分で手を加えた化粧品を見ながら言った。

「今後もこんなことが出来たら嬉しいですね……そのくらい楽しいです。でも……きっとこれで最後です」

 思わず、呟くとアイク先生が言った。

「そんな楽しそうなのに……あきらめるのですか?」

「え?」

 私は思わずアイク先生を見た。

「もうルジェク王子殿下の婚約者ではないのでしょう? 公爵家もコルネリウスさんが継いで下さる。あなたには才能があると思いますよ?」

 先生の瞳は分厚い眼鏡でよく見えない。
 でも、声は真剣そのものだった。
 確かに、今の私にはもう縛りはない。

 ――もしかして、こっちの世界でも美容にかかわって生きることができる??

 そんなことを思っていると、アイク先生が微笑みながら言った。

「オペラに出ていたエリオットという男性を招待してもよろしいでしょうか? 彼がとても興味があると言っていました」

「事前申請に通れば、いいのではないでしょうか?」

 劇はかなり評判になり、事前に申請して許可が下りれば生徒の関係者も見に来てもいいことになっている。

「ふふふ、ありがとうございます」

 アイク先生は笑うと普段とは違って見えた。
 私は頬が赤くなるのを感じて、先生から視線を逸らしながら言った。

「ところで先生、どうされたのですか?」

「ああ、そうでした。そろそろ私たちの出番ですよ、最初から通すそうです」

 私は慌てて立ち上がった。
 
「それは申し訳ございません、すぐに行きましょう」

 するとアイク先生が私に腕を差し出した。

「行きましょうか、奥様」

 私は頬が熱くなるのを誤魔化すように先生の腕にぎゅっとくっいた。

「はい」

 そして、そのままみんなの練習している場所に入った。
 アイク先生がセリフを言った。

「シンデレラ、この人が新しいお母さんだよ。どうだい? 綺麗な人だろう? 私はこの人のことがとても好きなんだ。愛しているんだ。ずっとずっと一緒にいたいと思っている。どうか仲良くしてくれ」

 アイク先生に演技でも好きだ、愛してる言われると恋愛リハビリ中の私は心臓が早くなる。
 だが私もセリフを言う。

「シンデレラ、私のことは今日からお母さんと呼んで頂戴」

「ああ、本当に美しい人と結婚出来て幸せだな」

「私もですわ」

 私とアイク先生がイチャラブ新婚夫婦を演じている横で、ダイアン様がセリフを言った。

「私もいますが……今日から私が兄になる。基本、私の言うことを聞くように」

 そしてクレアさんがセリフを言う。

「はい。お母様、お兄様。どうぞよろしくお願いいたします」

 ふと隣を見上げると、優しく微笑むアイク先生と目が合って心臓が跳ねたのだった。











――――――――――――――――


お気づきの方もいらっしゃるかもしれません。

そうです……――みんなで劇がしたかった。

それでアイク先生編をお届けしました。

劇のフルバージョンは、アイク先生編が終わったらお届けいたします!!
結構長い(笑)
どうぞ、お楽しみに!!

たぬきち25番

 
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