36 / 50
ルジェク ルート(王子ルート)
Ⅲ 開き直って
しおりを挟む半狂乱で泣き叫んだ私はルジェク王子が心配で、頼み込んで、王宮内のルジェク王子の寝室に入れてもらった。
ルジェク王子の傷は頭だったが、幸い深い傷ではなく、壊れた梯子でかすった時についた傷だった。剣術の稽古をしていたルジェク王子は、咄嗟に受け身を取ったようで、梯子に頭をぶつけ頭を切っていたが、命に別条はないし、頭以外には、傷はないと言われた。
あんな状況で咄嗟に受け身を取れるなんて、ルジェク王子は、本当に凄いが、そんなルジェク王子はまだ目を覚まさない。
私は心配と後悔で、ルジェク王子の側から離れることができずに、ルジェク王子の顔を見ながらずっと悔やんでいた。
どうして、あの時ルジェク王子が梯子を使うのを止めなかったのだろう。
古くて不安定だと思っていたのに!!
なぜ、自分で本を探さなかったのだろう。
なぜ、ルジェク王子が一緒に来ることを受け入れたのだろう。
なぜ、なぜ、なぜと後悔が次々と押し寄せて来た。
「ルジェク王子……ごめんなさい……本当にごめんなさい」
耐えきれなくなって、そう声に出した時。
「ん……」
ルジェク王子の声が聞こえた。
「ルジェク王子?!」
私は顔を上げて、ルジェク王子の顔をじっと見つめた。するとルジェク王子が目を開けて、少しぼんやりとした後に、私を見て口を開いた。
「……君は誰だ? どうして泣いている?」
「……え?」
ルジェク王子の口から出て来た言葉は、想像もしていなかったほど衝撃的な言葉だった。
◆
ルジェク王子が目を覚ますと、同室で待機していた侍女や執事がお医者様を呼んだ。
お医者様の質問で、ルジェク王子は、自分のことも学園のこと、兄や学園の友人のことも覚えていたのに、なぜか私のことだけ覚えていないということがわかった。
ちなみに、クレアのことも覚えているか聞いてみると、しっかりと覚えていた。
「ルジェク王子殿下。クレアさんのことは、覚えておいでですか?」
私ではなく医者様が尋ねると、ルジェク王子は頷きながら言った。
「ああ、もちろんだ。彼女とは、一切の妥協を許さない厳しいダンスの訓練をこなし、文化交流祭に挑んだ同士だ。戦友とも言える」
ん? 同士? 戦友?
なんだか、これから恋愛に発展するとは思えない言葉が飛び出して、少しだけ疑問に思ったが、記憶に残っているということが羨ましいと思えた。
「一時的なものかもしれませんし……そうではないかもしれません。しばらく様子をみましょう」
お医者様はそう言って、ルジェク王子殿下の寝室を出て行った。
……一時的なものかもしれないし、そうではないかもしれない。
自分がルジェク王子殿下の記憶から消えてしまったことは、想像していた以上に耐えがたいことだった。
でも、よく考えるとこれは私の願っていたことのはずだ。
私は、ルジェク王子殿下を遠くから眺めていたいと思っていたはずだ。
言葉を交わすことも、触れあうことも……望んではいなかった。
だから、今の状況はいい状態だと言える。
ルジェク王子が私のことを覚えていないのなら、ひっそりとルジェク王子を見ていられる。
――それなのに、私はこの状況が耐えられないほど苦痛だった。
ルジェク王子と言葉を交わせないのも……。
ルジェク王子と触れあえないのも……。
ルジェク王子が笑いかけてくれないのも……。
全部、全部耐えられないくらい、つらい!!
ダメだ。私、ゲームとかそういうの関係なく、ルジェク王子に忘れられたくない!!
――もう、ゲームなんて……どうでもいい!!
私はようやく押さえ込んでしまった本心に気付いた。
そんな私にルジェク王子は心配そうに声をかけてくれた。
「そんな悲しそうな顔をさせて……すまない。皆が私の寝室に入ることを許可する程の女性なら……きっと親しい間柄だったのだろう?」
自分も記憶を失って困惑しているのに、私を気遣ってくれるルジェク王子の優しさに、私はさらに泣きそうになった。
私はルジェク王子を見つめながら言った。
「……ルジェク王子殿下の記憶を戻すお手伝いをさせてもらえませんか?」
ルジェク王子は驚いた後に微笑みながら言った。
「ああ。では、よろしく頼む」
「はい」
こうして、私はルジェク王子の記憶を取り戻すお手伝いを申し出たのだった。
60
お気に入りに追加
1,119
あなたにおすすめの小説
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい
千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。
「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」
「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」
でも、お願いされたら断れない性分の私…。
異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。
※この話は、小説家になろう様へも掲載しています
転生したら死亡エンドしかない悪役令嬢だったので、王子との婚約を全力で回避します
真理亜
恋愛
気合いを入れて臨んだ憧れの第二王子とのお茶会。婚約者に選ばれようと我先にと飛び出した私は、将棋倒しに巻き込まれて意識を失う。目が覚めた時には前世の記憶が蘇っていた。そしてこの世界が自分が好きだった小説の世界だと知る。どうやら転生したらしい。しかも死亡エンドしかない悪役令嬢に! これは是が非でも王子との婚約を回避せねば! だけどなんだか知らないけど、いくら断っても王子の方から近寄って来るわ、ヒロインはヒロインで全然攻略しないわでもう大変! 一体なにがどーなってんの!? 長くなって来たんで短編から長編に変更しました。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる