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ルジェク ルート(王子ルート)

Ⅲ 開き直って

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 半狂乱で泣き叫んだ私はルジェク王子が心配で、頼み込んで、王宮内のルジェク王子の寝室に入れてもらった。
 ルジェク王子の傷は頭だったが、幸い深い傷ではなく、壊れた梯子でかすった時についた傷だった。剣術の稽古をしていたルジェク王子は、咄嗟に受け身を取ったようで、梯子に頭をぶつけ頭を切っていたが、命に別条はないし、頭以外には、傷はないと言われた。
 あんな状況で咄嗟に受け身を取れるなんて、ルジェク王子は、本当に凄いが、そんなルジェク王子はまだ目を覚まさない。
 私は心配と後悔で、ルジェク王子の側から離れることができずに、ルジェク王子の顔を見ながらずっと悔やんでいた。

 どうして、あの時ルジェク王子が梯子を使うのを止めなかったのだろう。
 古くて不安定だと思っていたのに!!
 なぜ、自分で本を探さなかったのだろう。
 なぜ、ルジェク王子が一緒に来ることを受け入れたのだろう。
 
 なぜ、なぜ、なぜと後悔が次々と押し寄せて来た。

「ルジェク王子……ごめんなさい……本当にごめんなさい」

 耐えきれなくなって、そう声に出した時。

「ん……」

 ルジェク王子の声が聞こえた。

「ルジェク王子?!」

 私は顔を上げて、ルジェク王子の顔をじっと見つめた。するとルジェク王子が目を開けて、少しぼんやりとした後に、私を見て口を開いた。

「……君は誰だ? どうして泣いている?」
「……え?」

 ルジェク王子の口から出て来た言葉は、想像もしていなかったほど衝撃的な言葉だった。


 ◆

 ルジェク王子が目を覚ますと、同室で待機していた侍女や執事がお医者様を呼んだ。
 お医者様の質問で、ルジェク王子は、自分のことも学園のこと、兄や学園の友人のことも覚えていたのに、なぜか私のことだけ覚えていないということがわかった。
 ちなみに、クレアのことも覚えているか聞いてみると、しっかりと覚えていた。

「ルジェク王子殿下。クレアさんのことは、覚えておいでですか?」

 私ではなく医者様が尋ねると、ルジェク王子は頷きながら言った。

「ああ、もちろんだ。彼女とは、一切の妥協を許さない厳しいダンスの訓練をこなし、文化交流祭に挑んだ同士だ。戦友とも言える」

 ん? 同士? 戦友?

 なんだか、これから恋愛に発展するとは思えない言葉が飛び出して、少しだけ疑問に思ったが、記憶に残っているということが羨ましいと思えた。

「一時的なものかもしれませんし……そうではないかもしれません。しばらく様子をみましょう」

 お医者様はそう言って、ルジェク王子殿下の寝室を出て行った。

 ……一時的なものかもしれないし、そうではないかもしれない。

 自分がルジェク王子殿下の記憶から消えてしまったことは、想像していた以上に耐えがたいことだった。
 でも、よく考えるとこれは私の願っていたことのはずだ。

 私は、ルジェク王子殿下を遠くから眺めていたいと思っていたはずだ。
 言葉を交わすことも、触れあうことも……望んではいなかった。

 だから、今の状況はいい状態だと言える。
 ルジェク王子が私のことを覚えていないのなら、ひっそりとルジェク王子を見ていられる。

 ――それなのに、私はこの状況が耐えられないほど苦痛だった。

 ルジェク王子と言葉を交わせないのも……。
 ルジェク王子と触れあえないのも……。
 ルジェク王子が笑いかけてくれないのも……。

 全部、全部耐えられないくらい、つらい!!
 ダメだ。私、ゲームとかそういうの関係なく、ルジェク王子に忘れられたくない!!

 ――もう、ゲームなんて……どうでもいい!!

 私はようやく押さえ込んでしまった本心に気付いた。
 そんな私にルジェク王子は心配そうに声をかけてくれた。

「そんな悲しそうな顔をさせて……すまない。皆が私の寝室に入ることを許可する程の女性なら……きっと親しい間柄だったのだろう?」

 自分も記憶を失って困惑しているのに、私を気遣ってくれるルジェク王子の優しさに、私はさらに泣きそうになった。
 私はルジェク王子を見つめながら言った。

「……ルジェク王子殿下の記憶を戻すお手伝いをさせてもらえませんか?」

 ルジェク王子は驚いた後に微笑みながら言った。

「ああ。では、よろしく頼む」
「はい」

 こうして、私はルジェク王子の記憶を取り戻すお手伝いを申し出たのだった。



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