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19 平手打ちはちょっと……
しおりを挟む兄を国に、連れて帰りたい?
え?
どういうこと?
まさか……!!
私は、背中に冷や汗をかきながら、恐る恐る口を開いた。
「リオン王子殿下、大変申し訳ございませんが………兄上は、我がセルーン公爵家の跡取りです」
「……知っているが?」
「どうか、兄上を、リオン王子殿下の結婚相手にするのは、あきらめて下さい。兄上は確かに、イケメンでチョロくて可愛い性格ですが、将来、我が領を引き継ぐために、父上の元で必死で勉強しているのです!」
私は小声で、必死になって言った。
私個人としては、男同士に偏見はない。
だが、兄は、我がセルーン公爵家の優秀な跡取りなのだ。それに、兄だって、将来、セルーン公爵家を継ぐために大変努力しているのだ。
兄が心底リオン王子を溺愛していて、一緒になりたいというのなら、仕方ないが、私のせいで兄が望まぬ結婚を強いられるのは本意ではない。
「……は? ……………………まさか……そんな誤解をされるとは……私は、我が国の干ばつによる食料難を救済してもらうために、王家を通さず、直接、セルーン公爵家と、繋がりを持ちたかっただけだ!」
王子は、私の耳にピッタリと口を付けると、小声だが、必死な様子で言った。
「我が領と繋がり………それ、王家に打診されました?」
「当たり前だ。だが、他にも待っている者が多く、時間がかかると言われた」
実は、我がセルーン公爵領は、この辺りでも最大の農作物の出荷量を誇る。我が国の国民が飢えないのは、一重にセルーン公爵家が存在しているからだ。我が領の農業技術は、他国に類をみないほど発達している。そんな、我が領と繋がりを持ちたい国はかなり多いが、我が領と関係を結ぶには、必ず王家を介する必要がある。王家を介すと、調査や、面談などもあり、かなり時間がかかると王妃教育で学んだ。
リオン王子としては、自国で干ばつの被害があり、すでに崖っぷちだったために、こんな無謀な作戦に出たようだ。
「それで……私に平手打ちを……」
「ああ、この場には、多くの国が参加している。そんな場で、君に貸しを作れば、皆、セルーン公爵家が我が国のために動いても納得するだろう?」
「なるほど……」
私は、王子をじっと見つめた。最低な男だとは思ったが、自国の民のために自ら悪役になり、民を救おうとするのは、愚策だとは思うが、なりふり構っていられないのも理解できるので、何も言えなかった。しかも、今だって、私の事を配慮して、恥ずかしい想いをしてダンスに誘って、話をする機会を作ってくれたのだ。
こんな機会でもなければ、一応、ルジェク王子の婚約者の私と、内密に2人だけで。話をする機会などないだろう。
「話は、わかりました。でも……平手打ちしか手はないんでしょうか? 痛そうなのでイヤなのですが……」
気の毒だとは思うが、平手打ちはちょっと……遠慮したい。
こうなったら、兄に直接相談しようと思っていた時。
「失礼する、リオン王子!!」
「え?」
気が付くと、私と、リオン王子の間に、ルジェク王子が鋭い目つきで、立ちふさがっていたのだった。
これはどういう状況なのだろうか?
私の目の前には、推しの大きな背中……背中もいい……。
じゃなくて!!
どうして、今、ここにルジェク王子が?!
一応説明しておくと、ダンス中に、一緒に踊っている男女の間に割り込むのは、マナー違反だ。
大事なことなので、もう一度言う。
今、私はリオン王子とのダンスの真っ最中。
もちろん、曲も終わっていない。
そんな状況でのルジェク王子の乱入……。
これは、――マナー違反だ。
リオン王子もルジェク王子の乱入に、とても驚いた顔をしている。
だが、それは、私も同じだ。
なぜ、ここにルジェク王子がいるのだ??
ルジェク王子は、リオン王子を見据えながら言った。
「リオン王子。フォルトナは、私の婚約者だ!! 口説くのは止めて貰おう!!」
………………は?
私は、推しからの突然の執着に思わず、目を丸くしたのだった。
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