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18 不可解な願い事

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 ダンスホールの中央は、意外と空いていた。
 私は、リオン王子の肩に手を回して、ゆったりとしたステップを踏んだ。
 しばらく、踊っていると、リオン王子が私に意味深な視線を向けた。

「フォルトナ嬢。ダンス、やっぱり得意じゃないか」

 私は、リオン王子にだけ聞こえるように、囁くように返事をした。

「光栄です」

 きっと私たちの会話は、周囲には聞こえていないだろう。
 私は、皆から楽しそうに踊って見えるように笑顔を作り、そして、呟くように尋ねた。

「それで? なぜ、こんなリスクを犯してまで、私をダンスに誘ったのですか?」

 するとリオン王子もまた、周りからは、楽し気に見えるように表情を変えずに言った。 

「ああ、君と話がしたかったからな。こうすれば、君は絶対に断れない。しかも、君の近くには、誰もパートナーも居なかった。私だけではなく、数人は、君は一人だと勘違いしていたはずだ。そんな中、私にあのように声をかけられれば、仕方なく誘われたという風に周囲には映るだろう?」

 なるほど、一応、私を考慮してくれたらしい。
 だが、そこまでして、私と個人的な話をしたいという理由がわからなかった。

「それは……感謝しますが、先ほどの件、私に何をさせたかったのですか?」
 
 王子が、さらに身体を寄せながら言った。

「ああ、実は、君を怒らせて、平手打ちをされようと思っていた」

 やっぱり……ケンカ売ってたんだ!!
 でも男性が、見ず知らずの女性に、平手打ちをされたいって理由って……?
 普通なら、『そういうご趣味で?!』と、戸惑っただろうが、裏のありそうなリオン王子が、こんなところで、性癖を満足させるためにそんなリスクを犯すとは思えなかった。
 そうだとするなら、平手打ちを受けて、王子が得をすることを考えればいい。

 まぁ、平手打ちをされれば、痛いだろう。
 痛みが快感だと言う人以外は、喜ばしいことではないが、それと引き換えにしてでも平手打ちをされたい理由。

 もし、公爵令嬢の私が隣国の王子に平手打ちをした場合、例え如何なる理由があろうとも、王族に手を上げたと、国家間の問題になる可能がある。
 そんな時、責任の所在は……。

「もしかして……我が国……もしくは、我が領に借りを作りたかったとか?」

 私が、そういうと、リオン王子が満足そうに笑って、私を大胆に持ち上げるステップを踏んだので、私も急いで、その高度なステップに応じた。すると、周囲から「おお~~」と感嘆の声が上がった。

「さすがだ、フォルトナ嬢。本気でこのまま国まで連れて帰りたい」

 リオン王子に褒められたが、ダンスを褒められたのだろうか?
 それとも、私の読みが的中したのだろうか?

 まぁ、読みが的中したのだろう。
 だが、この状況でリオン王子の思惑を想像することは、難しいことではないと思うが……。

 私は、とりあえず、「どうも」と言って、リオン王子の顔を見た。

「……それで、借りを作りたかった理由は、なんでしょうか?」

 私が、踊りながら尋ねると、リオン王子が少し黙った後に、楽し気な表情を崩さぬまま言い放った。

「ああ、君が私に無礼を働き、そちらの国に借りを作ったあかつきには、次期セルーン公爵のコルネリウス殿を、私の国に連れて帰りたいと思っていた」

 ………………は?
 
 え?

 まさかの……兄、目当て?!
 え?
 え?

 それって、どういうこと~~~~???

 私は、全く想像していなかった王子の望みに、笑顔も忘れて、真顔でリオン王子を見つめてしまったのだった。




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