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17 王子による捨て身攻撃
しおりを挟むルジェク王子とクレアを見ていると、2人と目が合って、ルジェク王子が驚いていた。
きっと、私と一緒に居る相手が、リオン王子だということに気付いたのだろう。
どうやら、ルジェク王子は、視力も動体視力もいいらしい。さすが推し。
私は、それから、ルジェク王子とクレアのダンスに夢中になっていた。
「はぁ~やっぱり素敵だったわ……」
2人のダンスが終わって、思わず呟くと、リオン王子が口を開いた。
「確かに見事だが……君だって、ダンスは得意だと聞いているが?」
どうやら、リオン王子は、私のことをかなり調査しているようだった。
まぁ、私にケンカを吹っかけて何かをしようと企んでいたのだ。
調べていても不思議ではない。個人的には、ストーカーっぽくて、かなり怖いが……。
「次元が違いますよ。クレアさんには敵いません。私は、絶対にルジェク王子に恥をかかせるわけにはいかないので」
私が溜息を付きながら言うと、リオン王子が、困ったように言った。
「恥ねぇ~~。では、どうだ? 私と一緒に恥をかいてみるか?」
「どういうことですか?」
私は、リオン王子の顔を見つめた。
「六曲目が終わったら、フリーのダンスの時間だろ? 私と踊らないか?」
私は、リオン王子を見ながら冷静に言った。
「お断りします。もし、この場で私が、リオン王子殿下とダンスなどを踊ってしまえば、『ルジェク王子殿下ではく、リオン王子殿下に乗り換えた』というルジェク王子殿下にとって不都合な噂が流れてしまいます。私はこの先、ルジェク王子殿下と、どんな関係になろうと、あくまで円満な関係を望んでいます。だから、私は今日は、兄としか踊れないのです」
すると、リオン王子は、楽しそうに笑った。
「なるほど……婚約破棄は視野に入れているが、あくまでルジェク王子側の都合だと言いたいわけか。確かにそうだな。やはり、君は聡明だな。どうしても君が欲しくなった」
欲しくなったって……私……リアル『花いちもんめ』なんて、望んでないんですけど?!
でもこの流れって……私なんか、この王子様に、腹黒女子みたいな扱い受けてない?!
酷くない? たぶん、私、腹黒くはないんですけど?!
リオン王子が笑った途端。
六曲目が終わった。
フリーのダンスとなり、演奏がピアノとヴァイオリンだけになった。
すると、入口から、ルジェク王子と、クレアがこちらに向かっているのが見えた。
ルジェク王子と目が合ったので、私が、2人に手を振ろうとしていると、突然、リオン王子が私の前に跪いて、私の手を取った。
「え? ちょっと、リオン王子殿下…これは?」
私が小声で尋ねると、リオン王子は、キリと丹精な顔をして、ホールに響くほどの大きな声で言った。
「フォルトナ嬢、どうぞ、今宵は、私と一緒に踊っては、いただけませんか?」
先ほどまで、ざわざわとしていたホール内が、急に静かになった。
誰も何も話をせずに、全員が私たちを見ていた。
――やられた!!
隣国の王子にダンスを申し込まれる公爵家の令嬢に断る選択肢などあるだろうか?
そんな選択肢が――あるはずがない!!
え?
え?
何してくれちゃってるの、この人??
しかも、王子が自ら、跪いてダンスの申し込みとか!!
あ・り・え・な・い!!
有り得ないが、ここで、もしもリオン王子の申し出を断ったら、国際問題だ。
しかも、かなり大きな声で言ったので、みんながこの事態を知っている。
何、これ……。
リオン王子にだって、ここまでするほどのメリットがあるとは思えない。
何を考えているのだろう?
私は、静かにリオン王子の手を取った。
「光栄ですわ。リオン王子殿下………」
「感謝します。フォルトナ嬢」
その瞬間、リオン王子が嬉しそうに微笑むと、立ち上がり、私の手を持ったまま、反対の腕で私の腰を抱いて、ホール中央へと向かった。
そして、衆人環視の中、優雅にダンスを始めた。
しばらくすると、ずっとぼんやり見ていた人々も、ホールに出てダンスを始めた。
私は、小さく溜息をついた。
(こんなはずじゃなかったのにな……)
そう、もしこれが将棋なら、この王子の取ったこの捨て身の一手は、私が確実に詰むことになる恐怖の一手だったのだった。
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