上 下
11 / 50
共通 ルート

11 悪役令嬢の誤算

しおりを挟む






「殿下とフォルトナ様だわ……どうしたのかしら?」
「ああ~きっと、殿下が、他の女性に婚約を申し込んだって噂を払拭したいんじゃなくて?」
「ああ、なるほど……まだ公にはされてないものね。でもこれまで、お話もされていなかったのに、逆効果よね……」

 周りの反応が、兄と一緒に登校した時より大きい。
 あちらこちらから聞こえてくる噂話によると……どうやら周りは、ルジェク王子とクレアがダンスのパートナーになった時点で、この二人のくっつく未来を予見していたようだ。
 なるほど、なるほど……知らなかったのは、孤独なフォルトナくらいだったのかもしれない。

 私は、特に気にしていなかったが、ルジェク王子が先ほどよりも、不機嫌な顔になった。

 触らぬ神に祟りなしだ。
 不機嫌な男には近付かないに限る。

 私は、不機嫌な殿下をあえてスルーして、何食わぬ顔で、歩いていると、廊下の窓からヒロインのクレアが、数人の令嬢に庭の方向に連れて行かれているのが見えた。

 見えてしまった……。
 これは……あれだよね……。

 ヒロインのクレアは、突然ルジェク王子のダンスのパートナーになったことで、令嬢たちの嫉妬による攻撃対象になってしまうのだ。
 そして、これを助けるのが……なんと、隠しキャラの兄なのだ。
 氷のような瞳で『この娘には使命がある。下らぬことをするな』と、言って令嬢達を一蹴するのだ。

 めちゃくちゃときめいたし、本気でカッコよかったし、スチルも最高だった。
 まぁ、あのスチルがあったからこそ、あのドMルートを攻略出来たとも言える。
 よし!! あれをリアルで見る!!

 私は、兄の方を見て真剣な顔で言った。

「兄上、先ほど中庭で、クレアさんが数人の令嬢に連れて行かれるところを見ました」

「……そうか……それよりも、殿下と距離が近いが歩きづらくはないか?」

 兄は、クレアが、連れて行かれる現場を見ていないからか、斜め上な質問をしてきた。おかしい、ゲームでは助けてくれたのに……。私は少し、ムキになりながら言った。

「兄上!! きっとクレアさんが、連れて行かれたのは、私のせいです!! お願い、助けて、コルネリウス兄上!!」

 すると兄が、立ち止まって大きく目を開きながら言った。

「お願い?! フォルトナが……私にお願い?! わかった!! すぐに行こう、このコルネリウス兄上が!!」

 よかった!
 これで、兄の初登場のカッコイイ~~スチルが見れる!!
 私も何気なく兄に付いて行こうとしていると、ルジェク王子が、私の手を取った。

「待て、フォルトナ!! 昨日もコルネリウスには涙を見せて……なぜ、私には頼ってくれないのだ?! 私のことを信用していないのか?!」

「え?」

 何を言っているのだろうか?
 私は意味がわからなくて、立ち止まってしまった。
 そんな私から殿下は、悔しそうに顔を歪めながら、手を離して、兄の方に向かって早足で歩き始め、兄に声をかけた。

「コルネリウス、待て!! 私が行こう!!」

 兄は、後ろをついてきた殿下に向かってきっぱりと言い放った。

「殿下は、結構です! フォルトナに頼まれたのは、私です!」

「フォルトナ、見ていてくれ」
 
 そして、殿下は早足になって兄を抜かした。

「殿下、くっ!! 抜け駆けは卑怯です!!」

 こうして、二人は競うように、クレアを助けに行った。
 あまりのことに私は、ポカンと二人を見つめていた。
 しばらくして、二人の姿が見えなくなった頃。私は重要なことを思い出した。

 あ、兄のスチル……。
 
 私は、兄が、クレアを助ける姿をみるために、兄をけしかけたのだが……。
 今からでは、走っても間に合わないだろう。

「はぁ」

 思わず溜息をついて、顔を上げると……。
 私は全く変わっていないが、世間の目が変わっていた。

「フォルトナ嬢……あなたは、本当に素晴らしい女性だ」

「え?」

 いきなりカイルに右手を取られた。
 すると、今後は、ダイアンに左手を取られた。

「大局を見極め、引いたかと思えば、しっかりと手を差し伸べる。フォルトナ嬢、あなたは本当に王妃に相応しい」

「は?」

 どうしよう。
 なんだか、私は2人に、とんでもない誤解を与えてしまったようだ。
 だが、私が誤解を与えてしまったのは、この2人だけではなかったようだ。


「今の……」


 周りにいる生徒たちの声が聞こえて来た。 

「ええ。フォルトナ様から辞退したって、本当なんじゃ……」
「そうよね。そうでなければ、手助けなんてされないわよね」
「では、本当に殿下のために、フォルトナ様は、伯爵家の令嬢にパートナーを譲ったの? 御自分のパートナーがいなくなるのに?」
「フォルトナ様って、本当に殿下を大切にしていらっしゃるのね……」

 先ほどまでの噂と、話の内容が違ってきている。
 何、これ……噂怖い!!
 私、凄く、いい人みたいになってる!!
 根も葉もないし、意図してることと全然違う!!

 私が、今の状況に困惑していると、さらなる頭痛の種が今、まさに生まれようとしていた。

「フォルトナ様~~~~!!」

「え?」

 名前を呼ばれて、振り向くと、笑顔の眩しい美少女がこちらに向かって走って来た。
 あれは、もしかして……ヒロインのクレア?!
 正面から、初めて見たけど、可愛すぎない??
 さすが、乙女ゲームの主人公の言うべき壮絶な美少女の登場に私がたじろいでいると、クレアが走って、私の前までやってきた。

「フォルトナ様!! 私のような者のことを知って下さっただけではなく、助けて頂けるなんて!!」

「え?」

 私、助ケテ、ナイヨ?
 どういうこと??
 もう、この状況の意味がわからない!
 一体、これはどういう事態なんだと、首を傾けていると、クレアが眩し笑顔で言った。眩しくて、本当に目が痛い……。

「殿下と、コルネリウス様にお伺いいたしました。フォルトナ様に頼まれたと」

「え……」

 どうして、そんな興ざめなこと言っちゃうかな~~。
 折角、攻略対象が2人で助けに行ったのに、私に頼まれたとか言ったら……。
 ときめき半減だよ!!
 乙女ゲームの攻略対象の名折れだよ!!
 もう!!

「事実だ。……カイル、手を離せ」

「そうだな……ダイアン、不用意に触れるなと言ったはずだが?」

 兄とルジェク王子が、戻って来ると、しれっと言い放った。
 そして、兄と殿下は、私の手を握っているカイルと、ダイアンの手を払い落とした。

 どうやら、折角のときめきイベントは、『フォルトナの命令を遂行する手下の登場』という残念極まりないイベントになってしまったようだ。
 
 ああ~~折角の……カッコイイシーンがぁ~~。

 私が頭を抱えていると、ヒロインのクレアが、さらに頭を抱えるようなことを言い放った。

「フォルトナ様、私、フォルトナ様のためにも頑張ります!!」

 え?
 私のため?
 いやいやいやいやいや!
 それ、迷惑だから!!
 頼むから、自分のためとか、せめて、攻略対象の殿下のためにやってくれ!!

「いえ。私ことなど、一切考える必要はありません。あなたは、ご自分と、そして、ルジェク王子殿下のために努力して下さい」

 伝わった?
 これで伝わったよね?
 私、関係ないって、伝わったよね?!

「フォルトナ……そんなにも私のことを……」

 なぜか、このタイミングで、ルジェク王子が感動した様子で口を開いた。
 周りで見ていた生徒たちもなぜか、ウルウルと目に涙を溜めている。

 そして、何より……。

「フォルトナ様~~~!! そのような光栄なお言葉……私、一生、フォルトナ様にお仕えいたします!! これは、自分のためでございます!!」

 ヒロインのクレアが、泣きながら言った。


 はぁぁぁぁあああ?!


 私は思わず、空を見上げた。

 ああ……伝わらなかった……。
 たぶん、伝え方を間違えた。
 言葉って、難し~~~~~い!!!


 こうして、私には、手下……ではなく、とても親切なお友達がたくさん出来たのだった。

 









しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい
恋愛
 公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。  そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。  家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます

下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。 悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。 悪役令嬢は諦めも早かった。 ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。 ご都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

処理中です...