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11 悪役令嬢の誤算
しおりを挟む「殿下とフォルトナ様だわ……どうしたのかしら?」
「ああ~きっと、殿下が、他の女性に婚約を申し込んだって噂を払拭したいんじゃなくて?」
「ああ、なるほど……まだ公にはされてないものね。でもこれまで、お話もされていなかったのに、逆効果よね……」
周りの反応が、兄と一緒に登校した時より大きい。
あちらこちらから聞こえてくる噂話によると……どうやら周りは、ルジェク王子とクレアがダンスのパートナーになった時点で、この二人のくっつく未来を予見していたようだ。
なるほど、なるほど……知らなかったのは、孤独なフォルトナくらいだったのかもしれない。
私は、特に気にしていなかったが、ルジェク王子が先ほどよりも、不機嫌な顔になった。
触らぬ神に祟りなしだ。
不機嫌な男には近付かないに限る。
私は、不機嫌な殿下をあえてスルーして、何食わぬ顔で、歩いていると、廊下の窓からヒロインのクレアが、数人の令嬢に庭の方向に連れて行かれているのが見えた。
見えてしまった……。
これは……あれだよね……。
ヒロインのクレアは、突然ルジェク王子のダンスのパートナーになったことで、令嬢たちの嫉妬による攻撃対象になってしまうのだ。
そして、これを助けるのが……なんと、隠しキャラの兄なのだ。
氷のような瞳で『この娘には使命がある。下らぬことをするな』と、言って令嬢達を一蹴するのだ。
めちゃくちゃときめいたし、本気でカッコよかったし、スチルも最高だった。
まぁ、あのスチルがあったからこそ、あのドMルートを攻略出来たとも言える。
よし!! あれをリアルで見る!!
私は、兄の方を見て真剣な顔で言った。
「兄上、先ほど中庭で、クレアさんが数人の令嬢に連れて行かれるところを見ました」
「……そうか……それよりも、殿下と距離が近いが歩きづらくはないか?」
兄は、クレアが、連れて行かれる現場を見ていないからか、斜め上な質問をしてきた。おかしい、ゲームでは助けてくれたのに……。私は少し、ムキになりながら言った。
「兄上!! きっとクレアさんが、連れて行かれたのは、私のせいです!! お願い、助けて、コルネリウス兄上!!」
すると兄が、立ち止まって大きく目を開きながら言った。
「お願い?! フォルトナが……私にお願い?! わかった!! すぐに行こう、このコルネリウス兄上が!!」
よかった!
これで、兄の初登場のカッコイイ~~スチルが見れる!!
私も何気なく兄に付いて行こうとしていると、ルジェク王子が、私の手を取った。
「待て、フォルトナ!! 昨日もコルネリウスには涙を見せて……なぜ、私には頼ってくれないのだ?! 私のことを信用していないのか?!」
「え?」
何を言っているのだろうか?
私は意味がわからなくて、立ち止まってしまった。
そんな私から殿下は、悔しそうに顔を歪めながら、手を離して、兄の方に向かって早足で歩き始め、兄に声をかけた。
「コルネリウス、待て!! 私が行こう!!」
兄は、後ろをついてきた殿下に向かってきっぱりと言い放った。
「殿下は、結構です! フォルトナに頼まれたのは、私です!」
「フォルトナ、見ていてくれ」
そして、殿下は早足になって兄を抜かした。
「殿下、くっ!! 抜け駆けは卑怯です!!」
こうして、二人は競うように、クレアを助けに行った。
あまりのことに私は、ポカンと二人を見つめていた。
しばらくして、二人の姿が見えなくなった頃。私は重要なことを思い出した。
あ、兄のスチル……。
私は、兄が、クレアを助ける姿をみるために、兄をけしかけたのだが……。
今からでは、走っても間に合わないだろう。
「はぁ」
思わず溜息をついて、顔を上げると……。
私は全く変わっていないが、世間の目が変わっていた。
「フォルトナ嬢……あなたは、本当に素晴らしい女性だ」
「え?」
いきなりカイルに右手を取られた。
すると、今後は、ダイアンに左手を取られた。
「大局を見極め、引いたかと思えば、しっかりと手を差し伸べる。フォルトナ嬢、あなたは本当に王妃に相応しい」
「は?」
どうしよう。
なんだか、私は2人に、とんでもない誤解を与えてしまったようだ。
だが、私が誤解を与えてしまったのは、この2人だけではなかったようだ。
「今の……」
周りにいる生徒たちの声が聞こえて来た。
「ええ。フォルトナ様から辞退したって、本当なんじゃ……」
「そうよね。そうでなければ、手助けなんてされないわよね」
「では、本当に殿下のために、フォルトナ様は、伯爵家の令嬢にパートナーを譲ったの? 御自分のパートナーがいなくなるのに?」
「フォルトナ様って、本当に殿下を大切にしていらっしゃるのね……」
先ほどまでの噂と、話の内容が違ってきている。
何、これ……噂怖い!!
私、凄く、いい人みたいになってる!!
根も葉もないし、意図してることと全然違う!!
私が、今の状況に困惑していると、さらなる頭痛の種が今、まさに生まれようとしていた。
「フォルトナ様~~~~!!」
「え?」
名前を呼ばれて、振り向くと、笑顔の眩しい美少女がこちらに向かって走って来た。
あれは、もしかして……ヒロインのクレア?!
正面から、初めて見たけど、可愛すぎない??
さすが、乙女ゲームの主人公の言うべき壮絶な美少女の登場に私がたじろいでいると、クレアが走って、私の前までやってきた。
「フォルトナ様!! 私のような者のことを知って下さっただけではなく、助けて頂けるなんて!!」
「え?」
私、助ケテ、ナイヨ?
どういうこと??
もう、この状況の意味がわからない!
一体、これはどういう事態なんだと、首を傾けていると、クレアが眩し笑顔で言った。眩しくて、本当に目が痛い……。
「殿下と、コルネリウス様にお伺いいたしました。フォルトナ様に頼まれたと」
「え……」
どうして、そんな興ざめなこと言っちゃうかな~~。
折角、攻略対象が2人で助けに行ったのに、私に頼まれたとか言ったら……。
ときめき半減だよ!!
乙女ゲームの攻略対象の名折れだよ!!
もう!!
「事実だ。……カイル、手を離せ」
「そうだな……ダイアン、不用意に触れるなと言ったはずだが?」
兄とルジェク王子が、戻って来ると、しれっと言い放った。
そして、兄と殿下は、私の手を握っているカイルと、ダイアンの手を払い落とした。
どうやら、折角のときめきイベントは、『フォルトナの命令を遂行する手下の登場』という残念極まりないイベントになってしまったようだ。
ああ~~折角の……カッコイイシーンがぁ~~。
私が頭を抱えていると、ヒロインのクレアが、さらに頭を抱えるようなことを言い放った。
「フォルトナ様、私、フォルトナ様のためにも頑張ります!!」
え?
私のため?
いやいやいやいやいや!
それ、迷惑だから!!
頼むから、自分のためとか、せめて、攻略対象の殿下のためにやってくれ!!
「いえ。私ことなど、一切考える必要はありません。あなたは、ご自分と、そして、ルジェク王子殿下のために努力して下さい」
伝わった?
これで伝わったよね?
私、関係ないって、伝わったよね?!
「フォルトナ……そんなにも私のことを……」
なぜか、このタイミングで、ルジェク王子が感動した様子で口を開いた。
周りで見ていた生徒たちもなぜか、ウルウルと目に涙を溜めている。
そして、何より……。
「フォルトナ様~~~!! そのような光栄なお言葉……私、一生、フォルトナ様にお仕えいたします!! これは、自分のためでございます!!」
ヒロインのクレアが、泣きながら言った。
はぁぁぁぁあああ?!
私は思わず、空を見上げた。
ああ……伝わらなかった……。
たぶん、伝え方を間違えた。
言葉って、難し~~~~~い!!!
こうして、私には、手下……ではなく、とても親切なお友達がたくさん出来たのだった。
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