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 ――フォルトナ!! 私は君の涙を無駄にはしない!!

 
 推しに、こんなことを言われてから、一週間が経ちました。
 さぁ、現在、私はどんな日常を過ごしているのでしょう?

 え? やっぱり、ルジェク王子殿下のパートナーからは、逃げられなかったのではないか?
 いえ!! そこは逃げております。

 とうとう、イケメン彼氏を見つけたのではないか? 
 ……ああ、そうであったなら、どんなによかったでしょうね……どんなに!!

 兄に溺愛され、甘やかされ、兄がいなくては、生きていけなくなったのではないか? 
 ……それは……危惧しておりますので、気をつけます……。

 さて、正解は……?

「フォルトナ。昼食は、何にする? 用意しよう」

 授業が終わり、ルジェク王子が、私の席までやって来て言った。

「ルジェク王子殿下、申し訳ございませんが、昼食は持参しております」

 兄が、ルジェク王子を見ながら冷静に言った。

「フォルトナ様!! ぜひ私もご一緒させて下さい!! 準備や片付けはお任せ下さい」

 なぜか、ヒロインのクレアも私の席まで来ていた。

「あはは。フォルトナ嬢は今日も、人気だな。昼食の場所が決まったら、席を取っておこう」

 そして、攻略対象である、カイルとダイアンも私の席まで歩いて来ていた。
 現在、私には……。
 
 ――手下が……増えました……。


 ええー?
 なんで?
 どうしてこうなった?

 そう、あれは……ダンスの代表をクレアに譲った次の日のこと……。


☆==☆==


 ルジェク王子殿下のダンスのパートナーを、クレアに譲った、その日の夜。
 私の元に、城から手紙が届いた。

 内容は『文化交流祭までは、一応、ダンスの練習してはどうか』という提案だった。

 そう、ここで注目して欲しいことは、『提案』だったということだ。
 何度も言うが、私は推し活も大事だが、恋愛リハビリ中でもあるのだ。
 放課後、時間が貰えるのなら、学園でのんびりと過ごして、出会いを探したいのだ。
 
 私は、すぐに『私が練習していると、ルジェク王子が責任を感じるかも』とか、なんとか――やんわりと、お断りの手紙書いて、王宮に使いを送った。

 そして、次の朝……。

 屋敷の前に、王家の豪華絢爛な馬車が停まったかと、思うと、馬車の中から、巨大な花束を持った、ルジェク王子が登場した。推しと花束、最高に絵になる。だが、美し過ぎて、恐れ多い。正直、ルジェク王子が、眩し過ぎて、目が眩みそうだ、逃げたい……。

「フォルトナ、君の提案はありがたい。だが、私は、フォルトナと共に出場したいのだ」

 なんで~~?
 ダンス大会だよ?!
 ダンスのことはよくわからないけど、上手い人と出た方が絶対いいでしょ~~??

 強制力め!!
 私の恋愛リハビリを邪魔する気か!!
 こうなったら、徹底的に叩き潰すしかない。

「ルジェク王子殿下!! 状況をよく見極めて下さい!! あなたは、この国の王になるのです!!
 そんなあなたが、文化交流祭に正式に出場する以上、誰よりも優美に踊る必要があるのです。
 殿下は、大変お優しいので、心のどこかで、婚約者の私を差し置いて、他の令嬢と踊るなどと……と気にされているかもしれませんが、そんなことは、一切忘れて下さい!! 今の、殿下のパートナーは、クレアさんだけです!! むしろこの期間は運命共同体という名で婚約者よりも強固な関係なのです」

「だが……それでは、来賓として参加するフォルトナの文化交流祭でのパートナーが……」

 ああ、なるほど……そこを気にしてくれていたのか……。
 ルジェク王子殿下優しいな~~。
 でも、そんなことでは流されない!!

「私のパートナーは、コルネリウス様、つまり、兄上にお願い致します」

「え?」

 ルジェク王子は、なぜか目を大きく開けて驚いていた。

「いいですよね? 兄上……」

 私が後ろにいる兄を見ると、兄がフルフルと震えていた。

「コルネリウス様? フォルトナが……私の名前を呼んだ……!! 私の名前を知ってくれたのか!!!」

 あ~しまった、王子にわかりやすく、名前を呼んだが、その名前呼びが、兄の琴線に触れてしまったようだ……。
 
 でも……兄よ。
 どうして、一緒に住んでいる、兄の名前を知らないとか、思うかなぁ~~?

 どうしよう……私の欲しい返事を貰えるだろうか?
 名前ダメだ。
 話が進まない。

「それで……兄上、良いのですか?」

「もちろんだ!! フォルトナ!! パートナーは私が務めよう!! いや、むしろ、他の男性では邪推される可能性もある!! 私しかいない。このコルネリウス兄上しか!! コルネリウス兄上がパートナーになる」

 シャラララン~~と、効果音が聞こえてきそうなほど、煌めく瞳で見つめられた。
 どうやら、兄は、私に名前を呼ばれたことが、相当嬉しかったようだ。
 あ~兄が可愛いな~~。

「ということで、ルジェク王子殿下。パートナーは、兄上が受けて下さいましたのでご心配なく」

 私が、兄の腕を組みながら言うと、「え? 腕?!」と、兄が一瞬驚いた後に、背筋を伸ばした。

「ルジェク王子殿下、このコルネリウスが、責任を持ってエスコート致します。コルネリウスが!」

 ルジェク王子は、なぜか苦い顔をした。

「う……では…………頼む。コルネリウス…………私の代理として」

 なんだか、その顔が苦しそうだった。
 私は、兄から離れると、ルジェク王子の前に立った。

「お花、綺麗ですね」

 そう言うと、ルジェク王子が笑顔になって、私に花束を差し出した。

「そうか……気に入ってくれたのか……受け取ってくれるだろうか?」

「もちろんです。ありがとうございます」

 私は、遠慮することなく花束を頂いた。
 花束には、色とりどりの花が使われているのに、とてもまとまっていて、センスのいい花束だった。

 こんなに大きな花束を貰ったことなどないので、素直に嬉しいと思えた。
 だが、勘違いはしない。
 ルジェク王子は、これから、ヒロインのクレアと予定通り恋に落ちるはずだ。
 ここまでの強制力の強さから考えても、それは間違いない。

 どうか、幸せになってほしい。
 優しく微笑むルジェク王子を見ながら、私は心からそう思った。



 ――ということで、他人の幸せを喜べるためにも、自分の彼氏を作る必要がある!!

 私は、恋愛リハビリに力を入れることを決意した。



 …………と、この時の私は思っていたのだった。

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