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8 悪役令嬢の憂鬱
しおりを挟む「フォルトナ、もう戻ったのか?! 夕食まで、まだ時間がある。一緒に、お茶でもするか?」
城から逃げるように馬車に乗り込み、屋敷に戻ると、兄が手厚い歓迎をしてくれた。
「はい……そうですね、なんだか疲れたので、甘い物が食べたいです」
特に何をしたと言う訳ではないが、強制力に抗って、精神的に疲れた私は、兄の言葉に甘えて、お茶を頂くことにした。やはり、兄は、お茶も、私の隣に座って飲んでいた。どうやら、たった一日で、兄は私の隣に座るのが定位置のようになってしまったようだ。
「痛い………」
「どうした?」
目に違和感を感じて、声を上げると兄が瞬時にカップを置くと、私の顔を覗き込んで来た。
「目に何か入ったみたいで」
「目に?! 見せてみろ」
私は顔を兄の方に寄せた。かなり近くで兄の美しい顔をがあるが、今日一日で、私はすっかり慣れていた。兄と顔を近付けていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
だが、兄は真剣に、私の目を見ていたし、私も動かない方がいいと思い、何も答えなかった。
「ああ、まつ毛だな。大丈夫、今、取ってやるからな」
「お願いします」
痛みの正体がわかり、兄がまつ毛を取ってくれた瞬間。
扉が開いた。
「失礼するぞ…………何をしている?!」
大きな声が聞こえて、扉の方を向くと、ルジェク王子が、美しい顔を怒りで歪めながらこちらを見ていた。
「ルジェク王子殿下……いかがされましたか?」
兄は、ソファーから立ち上がり、ルジェク王子の方に向かって歩いた。
私はというと、兄がまつ毛を取ってくれたので、痛みはないが、涙が流れていた。
「何を言っている?! 先ほど……口付けをしていただろう?! 兄妹で何を考えているのだ?! しかも、フォルトナは私の婚約者だ!!」
ルジェク王子からは、どうやら、私と兄がキスをしていたように見えたらしい。
面倒なことになってしまった。折角このまま行けば、ルジェク王子が、ヒロインのクレアとくっつき、推しの最高の笑顔が見れるいう円満な婚約破棄による推し活への道筋が出来ていたのに……推し都合の婚約破棄なので、問題ないと思っていたのに……今の状況で婚約破棄をされると、推しに軽蔑される。それは……凹む……。
ルジェク王子の言葉に、兄は、冷静に答えた。
「ルジェク王子殿下……私は、結婚もしていない女性に手を出すような不届き者ではございません。故に、現段階で、私がフォルトナに口付けをするということは、万が一にも考えられません」
兄の言葉には、色々とツッコミどころが満載な気がする。
普通に、『まつ毛取ってました』と言えば良いのでは?
それに、その論法、本当に合ってる??
その言い方だと、『今後は手を出すかも?』って誤解されるって……本当に口下手だな。
兄よ……公爵、話術、大事。
私が兄の不器用さに心の中でツッコミを入れていると、ルジェク王子が少し、怒りを抑えながら言った。
「そ、そうか……だが……フォルトナ?!」
こんなに拙い説明の兄に丸込められそうになっている、こちらもチョロそうな推しのルジェク王子が、チラリと私を見ると、突然、青い顔をしながら、大声を上げて、私に近付いて来た。
「ルジェク王子……殿下?」
突然、真剣な顔で近付いて来た王子が怖すぎる。
顔がキレイ過ぎて、真剣な顔が、本気で怖い。なんだ? 何があった??
私が戸惑っていると、ルジェク王子が私の頬に触れた。
「フォルトナ……泣いて……いたのか……」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
そして、ようやく状況を理解した。
泣く?!
いやいやいやいやいやいやいや。
泣いたけど、違う。
「泣いたわけでは……」
慌ててフォローをしたが、ルジェク王子は、私の頬を自分のハンカチで撫でながら言った。
きっと涙を拭いてくれているのだろう。
「いいんだ!! すまなかった……フォルトナはいつも表情を見せないから、誤解していた。今日のことも泣くほどの想いで、私のためにダンスのパートナーを辞退してくれたのだな……私に恥をかかせないために……私は……私は……これほどまでに、フォルトナに愛されていたのだな」
えええええ~~~~~?!
ヤバい!!
これって、推しに虚偽の情報を与えたってことになるよね。
それはダメだ。
推しには誠実でいることが、私のプライドだ!!
「いえ、ルジェク王子殿下、まつげが目の中に入っただけなのですわ」
私は、必死で真実を伝えた。
「そんな……気を遣う必要はない……今度からは、コルネリウスの前ではなく、私の前で泣いてほしい!」
伝わらない!!
伝わらないよ、全然!!
私は、再び、兄をも巻き込み、真実を伝えることにした。
「ルジェク王子殿下、本当にまつ毛を取っていたのです。ねぇ、兄上?」
兄は、私の話は聞いておらず、うんうんと頷きながら「フォルトナは気遣いの出来る素晴らしい女性です」と謎の同意をしている。
ちょっと、待って!!
私、兄に気遣ったことなくない?
むしろ……手下かのように、めちゃくちゃこき使ってない?
それなのに、何言っているのかな~兄は……。
あれやこれやと誤解が進んで、修正できなかった。
その結果……。
「フォルトナ!! 私は君の涙を無駄にはしない!!」
「え? ルジェク王子殿下ぁ?」
私は、推しのルジェク王子に抱きしめられるという、信じられないほど驚くべき特典を得たのだが……。
どうやら、私は推しのルジェク王子に誤解され、兄に謎のイメージを植え付けていることがわかった。
これでは、悪役令嬢というより……悪女なのでは?
私は今後の方向性が心配になったのだった。
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