悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番

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6  強制力には徹底抗戦?!

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「意外だった……」

「え?」

 授業が終わった後に、隣で兄が私を見ながら言った。
 何が意外だったのだろう?
 私は、先ほどまで慎ましく授業を受けていたと思ったのだが……。

「とりあえず、食事に行こう、今日は一緒に食べるために、食事を届けさせたから、そろそろ、届いているはずだ」

「え? 届けさせた?」

 私は、兄の提案に驚いてしまった。
 フォルトナの記憶では、兄と学園で食事をすることは、なかったはずだ。
 だからと言って、婚約者のルジェク王子と食べていたわけでもない。
 フォルトナは、個室で一人で食事をしていたのだ。まぁ、いつも気を張っているフォルトナにとって、昼食を一人で過ごすのは、息抜きになっていたようだが……。

「ああ、急に言っても料理長も困ると思ってな。昼食の時間に合わせて、届けてもらったのだ」

 まぁ、朝、突然『お弁当よろしく~~』と言っても料理長だって困るだろう。
 いやいや、そうではなくて……。
 もしかして、昼も兄は、私と食べる予定なのだろうか?
 まぁ、ぼっちご飯は、寂しいので助かるが……。

「さぁ、行こう」

「ええ」

 兄は、私の手を引くと足早に教室を抜け出したのだった。


☆==☆==


「ありがとう」

「え? いえ、そんな、とんでもない!!」

 エントランスに、侍女が待っていたので、お弁当を受け取りながら、お礼を言うと、侍女はとても驚いていた。兄はお弁当を持つと、学園内でも人が余り来ない、のんびりとしたエリアに移動した。

「ここで昼食にするのはどうだろうか?」

 この場所は、風景画の授業にも使われる庭で、いつも美しく整備してあった。

「いいですね。食べましょう」

「ああ」

 そして、私たちは、ガゼボに座った。
 イケメンもいいが、キレイな景色も癒される。
 私が、庭に見とれている間に、兄がテキパキとお弁当を広げて、お茶を注いでくれようとしていた。

「兄上、私もお手伝いいたします」

 慌てて兄を手伝おうとすると、兄が首を振った。

「構わない。休んでいてくれ」

 え~~。
 兄は、私に何もさせてくれない。
 これでは、私はダメ人間になってしまう。
 困った……。
 そう思っていると、兄がカップのお茶を私の前に置きながら言った。

「先ほど、意外だったと言っただろう?」

「……ええ、そうですね」

 そう言えば、教室で、兄にそんなようなことを言われたことを思い出した。

「私はてっきり、フォルトナは、ルジェク王子殿下のパートナーを他人に譲ることなどないと思っていた」

 確かにゲームのフォルトナなら、絶対に譲ることはなかっただろう。
 だが、結局は主人公が踊ることになるのだ。
 それならば、ダンス上級者のクレアが踊った方がいいに決まっている。

「クレアさんのことを知っていたので……」

 私がそう言うと、兄は困ったように笑った。

「私はこれまで、フォルトナのことを誤解していたようだ。本当にルジェク王子殿下のことを考えて過ごしていたのだな」

 チョロ過ぎの兄が、私が自分のためにしたことを、『ルジェク王子殿下のため』と勘違いしてくれたようだ。本当に兄はチョロい。私は、思わず兄を心配しながら言った。

「兄上……悪い女性に騙されてはいけませんよ」

 すると、兄は、私の口に、小さな生春巻きのような物を運びながら言った。

「ん? なんのことだ? 口を開けてくれ」

「ええー。自分で食べますよ……」

 そう言うと、兄は必死な顔で言った。

「これは、手が汚れてしまいそうだから、これだけ。これと、メインと、デザートの果物だけ食べさせてたい」

 結構な量ですね?
 私は、仕方なく口を開けた。

「じゃあ、今日だけですから……」

「ああ」

 こうして私は、兄の目覚めてしまった、『親鳥心』を満足させるために口を開けたのだった。


☆==☆==


 食事が終わり、教室に向かうために廊下を歩いていると、私は、はっとした。

(あら? ここ庭のバラ園が見える廊下だ……もしかして!!)

 バラ園の見える廊下には見覚えがあった。
 ここで、ヒロインのクレアは、ルジェク王子とのダンスが決まって、この学園のダンスの先生に相談に行った後、フォルトナにぶつかるのだ。
 フォルトナは、厳しいくクレアを叱りつけるのだが、そこに偶然、ルジェク王子が通りかかり、フォルトナから助けてくれるが……。

(あれ……普通に考えて痛そうよね……)

 私は、窓際を歩いていた兄と、場所を交換することにした。私が窓側に移動すると、兄が眉を上げた。

「どうした?」

「いえ……窓際を歩きたいのですがいいですか?」

「ああ、景色が見たいのか? 歩きながら景色を見るとケガをする。少し止まっても問題ないだろう。フォルトナは、庭が好きなのだな……」

 庭が見たかった訳ではないが、兄が嬉しそうなので、まぁいいか、と思うことにした。
 しばらく、景色を見ていると、角からクレアが飛び出して来て、なんと兄とぶつかった。

「きゃあ! コルネリウス様?! 申し訳ございません!!」

 兄は、ゲームの私と違い、倒れることはなく、クレアを胸の中で受け止めた。
 クレアもだが、兄も心なしか、顔が赤くなっているようだ。

(あれ? もしかして……フォルトナとぶつかって、ルジェク王子殿下に助けられるイベントが、兄との出会いに、変化した??)

 私が首を傾けていると、兄が肩を震わせながら大声を上げた。

「おい!! 君は一体、何を考えているんだ!! 学園の廊下を走るなど、これまでどんな教育を受けてきたのだ!! 幸い、私だから何もなかったものの、さきほどまではフォルトナがこちら側を歩いていたのだぞ?! フォルトナがケガでもしたら、どうするつもりだったのだ?!」

 えええええ~~~~?!
 まさかの兄の説教タイム突入?!
 どうやら、兄は怒りで顔が赤くなっていたらしい。

「申し訳ございません!!」

 クレアは、ずっとあやまっているが、兄の怒りはおさまらない。
 そうしているうちに、向こうから、ルジェク王子殿下一行が歩いて来て、私たちに眉を寄せながら声をかけた。

「何をしている?」

 すると、兄は「ルジェク王子殿下のお手を煩わせることでは、ございません」と言うと、クレアを氷のような瞳で睨みつけながら言った。

「いいか、二度目はない。ルジェク王子殿下のパートナーを務めるというのなら、なおさら、もう少し淑女としての自覚を持て」

「は、はい」

 すると、ルジェク王子は「そうか、コルネリウスがそう言うのなら……この場は任せよう。皆行くぞ」っと言って通り過ぎてしまった。

 兄は、ゲームの中のフォルトナと全く同じことを言って、主人公を注意した。
 それなのに、王子はフォルトナの時は『フォルトナ、そう大きな声を出すな。他人の失敗を容認する寛容さも持て……。クレア嬢大丈夫か? あまり気にするな。失敗など誰にでもある』と言って、主人公を慰めるのに……。
 主人公目線の時は、助けてもらえたことが嬉しかったが、フォルトナになると、大変気分が悪い!!

 どうして、兄の時は任せて、通り過ぎて、フォルトナの時はヒロインのクレアを助けるって!!
 
 私は、強制力を蹴散らしてやったというのに、すっかりやさぐれてしまったのだった。
 









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