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1  ハイスぺ悪役令嬢に転生しました

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 その日、私は、残業で遅くなり、足早に家に向かっていた。

 一秒でも早く帰って、乙女ゲームをしたかったのだ。
 家の近くのコンビニで、ビールとお弁当を買って、歩道を歩いていると、眩しい光が見えた……というところまでは、覚えている……。

 でも……。

 ――これは一体、どういうことなのだろうか?


「フォルトナお嬢様。今日の髪型は、いかがいたしましょうか?」

 目を開けると、私は鏡の前に座って、メイド服のような服を着た女性に、サラサラの銀糸のような髪を櫛で丁寧に、梳かされていた。
 鏡に映っているのは、私……と言うのは、おこがましいほどの紫の瞳が印象的な美少女だ。

 フォルトナと言っただろうか?
 今、ハマっている乙女ゲームに出て来る悪役令嬢と同じ名前で同じ髪色、同じ目の色である。私は夢でも見ているのだろうか?

 次の瞬間、私の頭に大量の記憶が、何種類もの動画を一度に高速再生しているかのように流れ込んで来た。

「うっ……酔う……」

 私は余りのことに、頭を押さえて、倒れてしまったのだった。

「フォルトナ様、いかがされたのですか? フォルトナ様~~~~~!!」

 女性は必死で、私の名前を呼んでくれている。
 だが、私は、大変申し訳ないが、『頭が痛い時に大きな声は遠慮してほしいな』と思いながら、目を閉じたのだった。



☆==☆==



 気が付くと、私はベッドの上に寝ていた。
 高い天井に、天蓋付きのベッド、そして、肌ざわりのやたらいいシーツ。

 ああ、そうだ。
 私、セルーン公爵家の令嬢フォルトナ・セルーンだ。
 ぼんやりと、先ほどの記憶を整理していると、すぐ近くで声が聞こえた。

「フォルトナ様、お加減はいかがでしょうか?」

 私はフォルトナだった時の記憶と混じって、少し混乱していたが、ようやく落ち着いたので、ゆっくりと侍女の言葉に答えた。この女性は、フォルトナのお世話をしてくれているようだが、フォルトナの記憶では、この人の名前は記憶されておらず、『最近入ったフォルトナの侍女』ということしか、わからなかった。

「大丈夫よ。ありがとう」

 本当は、初対面の相手に心配されて、お世話をしてもらっているので、『お気遣い頂き、誠にありがとうございます』と言いたいところだが、侍女にそのような言葉を使えば、逆に侍女を困らせると思って、フォルトナっぽく答えてみた。

「え? いえ、そんな、当たり前のことでございます。もったいないお言葉です」

 フォルトナっぽく答えたにも関わらず、侍女は、真っ赤な顔で、驚いているようだった。
 私は何か間違えたのだろうか?
 懸命に記憶をたどると、フォルトナは、誰に対しても塩対応だったようだ。
 自分のお世話をしてくれている侍女の名前もわからないのだから、普段から彼女たちと話をしていなかったことも気づくべきだった。

 私はと言えば、前職は化粧品を販売する販売員をしていたので、人に、塩対応をする方が慣れない。
 塩対応と言えば、このフォルトナは、やはり、私のハマっていた乙女ゲームの中に出て来る悪役令嬢のようだった。婚約者が、ルジェク王子殿下ということまで同じだった。しかも、主人公の攻略対象である養子の兄までいるのだ。

 私は、ゲームでは、ルジェク王子殿下が一番の推しではあったが、二次元と三次元が、同じ好みとは限らないし、なにしろ、フォルトナは、これほどの美貌と、抜群の身体さらには、公爵令嬢という、権力まで持っているのだ。まさにハイスぺックな令嬢だ。
 折角こんなに恵まれた状況に生まれたのだ。最終的には、主人公に取られるとわかっているルジェク王子殿下に、こだわることはない。

 社会人になって3年。現在は、彼氏なし。
 美容系の専門学校を卒業してすぐに、お互い仕事が忙しくなって別れて以来、彼氏もいなし、恋愛もしていない。職場は女性ばかりだし、そもそも男性は通勤の時にすれ違うくらいの存在だ。生活に、全く言ってもいいほど、男性との出会いがないのだ!!

 そんな自分が乙女ゲームの世界に転生したのだ!
 これは、もう、自分なりにこの世界を楽しむしかない!!

 恋愛したいと、誰かに愛されたいと、そんな贅沢は言わない。
 だが、せめて、最終的には、恋愛特有の、心がふわふわとして、日常が甘い空気になっていた頃を思い出したい。

 よし、まずは、三次元の男性を見て、男性が身近に存在してた頃のことを思い出す!!

 まぁ、目標はかなり低いかもしれないが、それも仕方ないだろう。
 私は、いきなり高い目標を掲げると挫折する可能性が高いのだ。


 こうして、私の恋愛リハビリ生活が始まったのだった。






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