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第一章 異世界での新生活
第15話 続・ありがとうを伝えたい……
しおりを挟む人間、それなりに成長してしまうと誰かの肩に担がれて、運ばれるバッグの気持ちを知れる体験などそうそうできるものではない。
俺は、今、バッグの気持ちがわかる状況です。
バッグというのは、日々大変な思いをしてるのかもしれない。
拝啓
肩からかける系のバッグの皆々様
日頃よりあなた様を肩からかけて時に電車に挟まれ、時に電柱にぶつけ、時にペットボトルのフタを閉め忘れ水浸しにし、過酷に使用していることをお詫び申し上げます。
あなた様の頑張りに今まで気づけなかった愚鈍なわたくしをお許し下さい。
今後はあなた様を大切にいたしますので、これまでのことは水に流して頂けると有難く存じます。
敬具
無事に帰れたら普段使っているバッグに『ありがとう、いつも揺さぶってごめんな』と感謝と謝罪をするのもいいかもしれないと、誰かに『この状況からの逃避ではないか?』と言われても否定出来ないことを考えていた俺はやはり動揺していたのだろう。
男性は力が強いし、動いてもビクともしない。
むしろ抵抗し過ぎると酔ってしまいそうだ。
俺が現実逃避をしながら男性に担がれていると、男性は豪華な馬車の前で止まった。
「さぁ、中に入ってくれ」
そうして男性は俺を馬車に乗せると、自分も馬車に乗って馬車の中の小さな窓から「出してくれ」と言って馬車を出した。
俺、一体……どこに連れて行かれるの??
怖いんですけど……。
俺はようやく口が動き男性に尋ねた。
「あの……あなたは誰ですか? 俺は……どこに連れて行かれるのですか?」
「え?」
男性は信じられないという顔で俺を見ていた。
「私のことが……わからないのか?」
なんだ?
この人はこの世界のアイドルか何かなのだろうか?
『みんな知ってて、当然』のように言われると、こちらが戸惑ってしまう。
「知りません。初めてお会いしますよね?」
「は? 何を言っているんだ!! 一度、会っているだろう?!」
男性は慌てて大声を上げた。
会ったことがある?
この王子系イケメンと?
いや~~、さすがにこんな派手な顔、会ってたら思い出すって……。
「ええー?」
「耳が好きだと褒めてくれただろう? 耳など褒められたことなど無かったから嬉しかったというのに……君は本当に私の耳しか興味がなかったのだな。ほら、よく見ろ君の好きな耳だ」
男性は俺の目の前に耳を出してくれた。
……は? 耳?
そんな耳フェチみたいな言い方……
俺、こんなイケメン見て耳を褒めたの?
意味わかんね……なんで、こんなイケメン見て耳を褒めるとか……無難に顔を褒めとけよ、空気読めなさすぎ……。
あれ、でも……すごい福耳……福耳!?
「あああああ!! あなたは俺の魔法の適正判断してくれた福耳男性?!」
俺はようやく、この男性が魔法学院初日に魔法の適正を診断してくれた男性だと気付いた。
「ああ、ようやく思い出したのだな? よかった」
男性は、ほっとしたように言った。
なるほど彼が俺に気さくに話かけてきたのは適正判断の時に一度会っていたからのようだった。
「それで……あなたは一体誰で……」
そう尋ねた時、窓からは大きな城の城門が見えた。
どうやらこの馬車は城に向かっていたらしい。
え?
なぜ城に?
お城ってとにかく偉い人が住んでいる場所では?
とにかく俺は想像を越える視覚情報と、自分の中の常識を擦り合わせている間に馬車の扉が開かれた。
「お帰りなさいませ。殿下!!」
デンカ?
電化製品のデンカ?
え?
デンカって、なんだっけ?
とんでもなく偉い人の呼び方じゃない?
俺はますます身体が凍り付きそうな恐怖を感じていた。
◇
「着いたぞ。秀人」
「はい……」
俺は福耳男性に連れられて城の中を歩いた。
内装はいつか見た映像に出てきたヨーロッパの歴史ある博物館という感じだった。ちなみに俺は海外旅行には行ったことがないので本物は知らない。
右を向いたら精巧な置物。
左の壁には凡人には理解が難しいが、なんだかとてつもなく高額そうな絵画。
俺はひたすら『これって、絶対触ったらダメなヤツ』そう思って静かに廊下を歩いていた。
こんなところをうっかりよそ見でもして歩いて何かにぶつかったらそれこそ大惨事だ。
それから俺はやたら大きな扉の前に連れて行かれた。
「ここだ。父上が話がしたいと言っていてな」
父上?
どうやらこれから俺は、この福耳男性の父親に紹介されるらしい。
名前も知らない人の父親にいきなり紹介されるとか本気で意味がわからない。
俺は、今、一体どういう状況なのだろうか?
誰か教えてほしい。
もしこんな時、検索システムが使えたら『見知らぬ男性 親に紹介 なぜ』と入力して検索していたことだろう。
誰か俺の代わりに検索して俺になんらかの特殊能力で教えてくれないだろうか……。
そんなことを考えているうちに、扉が開き中に入ると少し高くなっている場所に壮年の男性と女性が座っていた。
威厳の漂う雰囲気は俺のような一般人が話かけていいのかと恐れるレベルだ。
あれ?
なんか……この雰囲気……王様と、お妃様みたいじゃね?
背中にイヤな汗が流れた。
すると隣で福耳男性が声を上げた。
「父上、異世界からの客人をお連れいたしました。彼は時白秀人と言います」
俺は頭を下げてお辞儀をした。
こんな時『はじめまして~』とか、『お招き頂き、ありがとうございます~~』とか、そんな気の利いたことを言った方がいいのかもしれないが、そんな俺の知っている言葉を使ってもいいのかどうか、わからないので下手に声を出せなかったのだった。
「秀人殿。私はこの国の王、アガフォーノヴィチ・へリヴァガッツァ―ノべグン・ガレオン」
…………え?
なんて言った?
自己紹介を受けたが、名前が難しくて全く理解出来ない……
しかも……
待って? 今、名前の前に『この国の王』って言わなかった?
「あなた様は王様……で在られたのございましたのでしゅか……」
噛んだ!!
いや、それよりも敬語の使い方がおかしいというのは理解している。
だが、いきなり王様の前に差し出されたのだ……
こんな場合、尊敬語? 謙譲語?
え~王様というのはこの場に相応しくないので最高敬語の敬称を使って国王陛下と言うべきだった!!
また、国王陛下にあいさつをするなら、この後ももちろん最高敬語を使うべきで……待てよ? 多重敬語も使うべきじゃね?
『かしこく国王陛下におかせられましては、わたくしのような者にまで、このような……』
とか悠長に文法を考えている余裕はない。
やはりいつ王様の前に出されても流暢な会話ができるように、普段から敬語を頑張ろうと思っただけだった。
「秀人、大丈夫だ。落ち着いてくれ」
俺が動揺していると、隣の福耳イケメンが優しく微笑みながら言った。
ヤベ~~~惚れそう!!
こんな心細い状況でイケメンに微笑まれたら男でも惚れるから止めて~~~!!
いや、待て。そもそもこんな状況に説明もなく追い込んだのはこのイケメンだ。
落ち着け俺!!
俺は気を取り直して、少し深呼吸をしてもう一度礼をした。
「失礼いたしました。このような場に慣れていないため、陛下のお耳を汚すことがあるとは思いますが、どうぞお許し下さい」
そう言うとイケメンの父親のイケオジ陛下がこれまた笑顔で言った。
「構わぬ。私は秀人殿と話がしたいのだ。秀人殿の言葉で構わない」
どうやら俺の言葉使いは大目に見てくれるらしい。理解のある王様でよかった。
だが王様直々に何か話があるらしい。
怖すぎるんですけど?!
俺はビクビクしながら王様の顔を見上げたのだった。
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