28 / 28
成功条件は、絶対に婚約阻止!!
6 側近カルの婚約事情
しおりを挟むベアトリス様にお見合いを中止するように迫られ、陛下のお顔が青くなっていらっしゃいました。
「いや、でも、ほら、ああ!! そうだアリエッタは何か言っていたかい?」
「『お父様にご相談しなさい』と!!」
「そ、そうか……」
すると今度は、ベアトリス様が泣きそうな顔で私に視線を向けてこられた。
「カルは私との結婚を取りやめにするほど、そのご令嬢が好きなのですか? 愛しているのですか?」
「そ、そんな!! まだお会いしたこともないですし……」
「では、なぜそんな浮気のような真似を?」
「浮気?!」
(え? あれ? 浮気って、なんだっけ? これって浮気?? え? 浮気なの?)
思いがけない単語に私は思わずパニックになってしまいました。
「いえ、そんなつもりは……」
私はベアトリス様に浮気を責めらることになって困惑していると、ベアトリス様が私の胸に飛び込んで来られた。
「カル……後、1年待ってて。そうすれば私は社交界にも正式にデビューするし、成人もするから、みんなの前で堂々と愛し合っているところを見せつけることができるわ。そうしたらこんな煩わしい話を持ちかける人もいなくなるわ」
そして、ベアトリス様が鋭い目を陛下に向けた後に、私の顔をじっと見つめてこられた。
「カル!! 私、昔から頑張ってあなたの隣に立っても他の令嬢を威嚇できるくらいの女性になれるように努力したんですもの!!」
「威嚇?!」
ベアトリス様の思いがけない言葉に陛下が驚いて声をあげられた。
「お父様は黙ってて!!」
ベアトリス様がキッと鋭い視線を陛下に向けられた。
「はい」
陛下が素直に返事をすると、ベアトリス様は私の胸の中から私を見上げならおっしゃいました。
「長かったわ!! やっとここまできたのに!! まさか、お父様とお母様に邪魔されるなんて!! やっぱり影をつけていて正解だったわ!!
カルの側近として立場を考えて、散々イチャイチャラブラブするのを押さえてきたのに!! こんなに我慢に我慢をして押さえていたのに、今更、カルは絶対に誰にも渡さないわ!!」
「え? え?」
「ねぇ、カル。私と結婚するでしょ?」
ベアトリス様から真剣な眼差しを向けられた私の答えなどもうこれしか残されていなかった。
「はい。でも、ベアトリス様? 本当に私でよろしいのですか?」
ベアトリス様は嬉しそうに笑うと、私を手招きして耳を近づけるような仕草をされた。この仕草は昔からよく内緒話をする時はされておられた。
「ちょっとカル」
私は懐かしくて少しだけ腰を曲げました。昔は膝をつく必要があったのですが、ベアトリス様も成長され、少しかがめばよくなっていました。
(大きくなられたな~)
私が感慨深く思っていると、ふと唇に柔らかい物が触れました。
(え?)
私はまたベアトリス様にキスをされ、抱きつかれていました。
「カル……好き。大好き……ずっと一緒にいて……」
切なそうなベアトリス様の声に私の身体には全身に雷に打たれたかのような抗いがたい何かが駆け抜けました。
(私も、もっと抱きしめたい……髪の毛を撫でて甘やかしたい!!)
謎の衝動を抑えることに私が全神経を使っていると、なんと、今度はベアトリス様はすりすりと頬を私の胸に押し付けてこられた。
(くっ!! なんだこれは、可愛い。可愛い過ぎる!! 連れて帰りたい!!)
私はぐっと抱きしめたい衝動を抑えて口を開いた。
「はい。ベアトリス様のお望みのままに」
私が見悶えていると、ベアトリス様がつらそうに離れていかれた。私はまだ抱きしめていたいと思ってしまった。
「私が望むままか……まぁ、今はそれでもいいわ!! いつか絶対にカルの口から『離れたくない』って言わせてみせるわ!! カル? 覚悟してね♡」
「…………え?」
私が固まっていると、ベアトリス様が姿勢を正し、陛下にお顔を向けられました。
「では、謁見前にお邪魔しました。失礼致します」
ベアトリス様は真っ赤な顔で控室を出て行かれた。
残された私は呆然と立ち尽くすしかなかったのでした。
「カル……その……迷惑をかけた……」
「いえ……」
私がぼんやりしていると、陛下にお声をかけられはっとした。
「ふふふ。だが、カルのそんなに赤くなった顔を見るのは初めてだな。一緒に酒を飲んでも顔色一つ変えないからな……」
「え?」
私は思わず自分の顔を押さえていました。
「あはは。難攻不落と言われたカルを陥落させたのがまさか我が娘とは……ベアトリスは、凄いな」
私は陛下に恐る恐る視線を向けました。
「陛下……反対されないのですか? 私は伯爵ですよ? 隣国から妃にとの打診もあるのでしょ?」
私の言葉に陛下はニヤリと笑って答えられた。
「カル……我が国は娘を差し出して関係を維持せなばならぬほど脆弱な外交はしていないぞ?」
「それはそうですが……」
そして、陛下がご自身の御子息様に向けるような慈しむような視線を向けてくれた。
「どうだ、カル。ベアトリスは令嬢として立派になっただろ?」
「それはもちろんです!!」
私の答えに陛下は小さく笑って下さった。
「ベアトリスがカルと一緒になるためにがんばり、あのように努力したのなら、カルは女性を輝かせることの出来る、いい男だということだ」
「え?」
「娘がいい男を伴侶に選ぶのは親として喜ばしい……それに」
「それに?」
「ベアトリスは私に一番よく似ている。カルがいいと決めてしまったベアトリスを押さえるのは不可能だ」
そう言われて思い出しました。陛下もその昔、確かにアリエッタ様を逃がさないように秘密裏に『影』を使って監視させ逃がさないようにしていらっしゃいました。
陛下にベアトリス様はよく似ていらっしゃる。
(それは……確かに逃げられないかもしれないな……)
私は当時の陛下の様子を思い出し、納得してしまいました。
「ふふふ。では私も陛下のようにベアトリス様に愛していただけるのでしょうか?」
「それは、間違いないな」
私はいつの間にか笑っていました。陛下に愛されたアリエッタ様は大変だな~とつくづく思ってはいたが、同時にそこまで陛下に愛されるアリエッタ様を羨ましく思っていたのです。
「では、陛下? 今回の私の見合いの件はなかったことにして頂けますでしょか?」
「ああ。悪かったな、カル」
「いえ」
「だがそうか~。カルが息子になるのか」
「息子?!」
「あはは。それは楽しみだな」
「それは恐れ多いです!!」
「もう遅いな」
陛下の楽しそうに笑うお顔を見ながら私はこれからのことを考え、少しだけ震えてしまったのでした。
134
お気に入りに追加
1,473
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(25件)
あなたにおすすめの小説
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい
花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。
仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!
結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?
宮永レン
恋愛
没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。
ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。
仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
アルベルトくん良かったね(笑)
エールを贈らせていただきます!
高校生の母様
エールありがとうございます!!
お気持ちが大変有難いです♪
(>᎑<`๑)♡
淡雪様
いつも感想ありがとうございます‧•͙‧⁺•͙‧⁺o(⁎˃ᴗ˂⁎)o⁺‧•͙‧⁺
過去作も読んで頂けて大変光栄です((っ´;ω;)っ
励みになる感想ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
馬は元々扱いが繊細な生き物です。なので、自分を磨くだけの剣舞より動物相手なので大変だと思います。
しかし、プレッシャーを感じない騎手に乗られるなら、乗り手の心の機微に左右される繊細な馬も安心ですね。
玄兎狼様
感想ありがとうございます‧•͙‧⁺•͙‧⁺o(⁎˃ᴗ˂⁎)o⁺‧•͙‧⁺
貴重なご感想を頂き大変有難いです。
また、他の作品にも感想を頂きまして誠にありがとうございます((っ´;ω;)っ
今後ともよろしくお願いいたします。