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【閑話】ディール・後半
しおりを挟むローレンス家で働き始めて、1ヶ月が経とうとしていた。
今のところは、朝から日課の剣の稽古をして、旦那様であるローレンス家当主のカルディア・ローレンス様の専属執事ヨシュアさんに使用人の仕事を教えてもらいながら、毎日を平和に過ごしていた。
団長には知り合いとしか聞いていなかった為、ローレンス家とは知らずに来てしまい、その場の流れで働く事になってしまったが、まさか団長が旦那様と知り合いで、自分がローレンス家で働くとは思いもしなかった。
ローレンス家の噂は騎士時代の時に少しだけ耳にした事があった。
旦那様は貴族の間から、王都嫌いの田舎者の伯爵だの、変わり者の辺境伯などと呼ばれる程の王都嫌いで有名だった。
俺の雇い主のカルディア・ローレンス伯爵様は、貴族が好んでよく集まる夜会やお茶会にも滅多にその姿を見せないらしい。
出世などにも興味のない旦那様は、他の貴族との交流もあまりなくひっそりと暮らしていた。特に悪い噂も聞いた事がなく、ごく普通の田舎者の伯爵家という印象だった。
普段領地で仕事をしているらしいが、たまに用事で王都に来ているらしい。強制的に呼ばれない限り、滅多に王都に行かないから、今回旦那様が王都にある別邸に居たのはある意味奇跡に近いらしい。
俺は運良く旦那様に遭う事が出来たみたいだった。
そんな王都嫌いの旦那様がとうとう明日にでも領地へ戻るらしい。
俺はそのまま別邸で働くのだと思っていた。
なのにーーーー
「お前も一緒に領地へ来い」
「へっ?俺もご一緒して宜しいのですか?」
「双子の息子が居てな、その二人に剣術を教えてやってほしい」
「俺で宜しいのでしょうか…」
「構わん」
朝から書斎に呼び出されて何かと思えば、領地へ俺も来いとの事だった。
予想していなかった言葉に少し驚いていたが、旦那様のご子息達の剣術の先生にとの事で、俺的にも久々に誰かと剣を交える事が出来るし、少し嬉しかった。相手が例え子供であっても。
前言撤回します。
子供だと思って舐めてました。
「はぁはぁ…ま、前まではヨシュアさんがお二人に教えていたのです、か!?」
「ええ、ですが最近少し忙しくなり、あまりしっかりと教える事が出来なくなって来ましたので、ディールが来てくれて助かりました」
「ヨシュアさん、何者…」
領地へ着いてからは、驚きの連続だった。
まず、旦那様の奥様がとても美人な方だった。そしてもう一つ衝撃的だったのが、かの有名な元騎士団長カーライル・メディオ伯爵の娘で、美人で名高いユーシア・ヴィンセント侯爵夫人の妹だった事。
そして、旦那様の双子の息子アルヴァス様とルドウェル様は、10歳ながら剣の腕前が凄く上手だった。
俺とは歳が6歳離れているけど、あと数年すれば、確実に抜かれてしまう。
子供だからと言って、手なんて一切抜けませんよ。目が本気で怖いんです。
かと言って、我儘でもなく聞き分けも良くお優しい方達だった。
前に二人を教えていたのが、ヨシュアさんと聞いて、さらに驚きましたよ。ヨシュアさん、貴方一体何者ですか…
そんな疑問も、一度で解決致した。
ある日、旦那様に呼ばれて書斎へ行くと、さらに驚きの話が飛び出てくる。
もう驚き過ぎて、逆に冷静に聞いてた自分が一番の驚きだった。
ローレンス家が田舎者とか、変わり者とか言ってた奴誰?国一の最強武装集団じゃないですか。えっ…俺、そんな凄い所に雇われてたの?団長も知ってる!?何それ、団長なんで教えてくれなかったんですか!!いや、無理か。
でも、王都の騎士団よりも凄い所で働いていた俺は、自分にとってはある意味案外居心地良い所なのかも知れないと思ってしまった。
騎士団で感じた嫌悪感は此処では一切感じなかった。
まあ、俺がローレンス家を、旦那様を裏切った所で、簡単に口封じされる事は分かっている。いや、そんな事しないけどね。
また、こうやって騎士団と同じ様に国を守る仕事に就けて嬉しい気持ちもあった。
やっぱり俺は騎士に未練があったみたい。貴族でも国の為に働くマトモな奴は居た。かと言って、自分の私欲の為にいる貴族と一緒にもう一度働きたいとは思わないけど。
俺は騎士団に居た頃よりも、伸び伸びと自分らしく暮らせている様な気がした。
「えっ?リディアお嬢様に剣術を、ですか?」
「リディアが兄達の様に剣術をしたいと言い出してな。やる気はあるみたいだ」
「…か、畏まりました」
まさか、リディアお嬢様が剣術を習いたいと言うとは思わなかった。
領地へ来て、初めてお会いした時、リディアお嬢様は美しい銀色の髪で天使が舞い降りて来たかと思った。…のも束の間、リディアお嬢様は風貌に似合わず、お転婆娘で活発なお嬢様であった。
何処で習ったのか、見た事のない筋力強化訓練を毎日し、身体を鍛えていた。
渋々ながらも、剣術をリディアお嬢様に教える事になったが、流石に黒騎士と言われる旦那様の娘と言っても、令嬢だからそこまで本格的に教える事は無いだろうと思っていた。
はい。これまた前言撤回します。
剣術を初めてから、ぐんぐんと上達していくお嬢様は半年で殆ど完璧なまでに仕上がっていた。
ここで調子に乗った俺はお嬢様に暗器の使い方も教える事にした。
俺も此処に来てから、暗器等をヨシュアさんに一から教えてもらい、最初は苦戦したものの、やっと使い熟せる様になった。
剣術の上達が早いお嬢様も出来るんじゃないか?と、ふと思った俺はお嬢様に暗器を教える事にした。
アルヴァス様とルドウェル様も一緒に教えてみたら、お嬢様の暗器の上達は予想以上に凄く、暗器に関してはアルヴァス様とルドウェル様を超えていた。
後で、旦那様に暗器の事がバレて殺されそうになりました。「リディアを陰にさせる気か」と怒られました。
そんなつもりはなかったけど、つい飲み込みの早いお嬢様にあれやこれやと教えてしまい、気が付けばお嬢様は立派な陰の一員になってました。本人知らず。
旦那様も最終的には、今後先お嬢様の役に立つかも知れないからと、ヨシュアさんに言い包められて、俺は死なずに済みました。
あっぶねぇーーーー…本気で殺やれるかと思った。旦那様は現役の黒騎士だから、俺なんて歯が立たない。
これに懲りて、今度からは張り切り過ぎて羽目を外さないように気を付けようと心に誓いました。
あれから10年が経ち、お嬢様も更に剣術等の磨きがかかり、軽く化物レベルです。
先日はお嬢様は社交界デビューの為、初めての王都で嫌々来たものの、ルドウェル様から良い武器屋を教えてもらって、お嬢様は大事に貯め込んでいたお小遣いをちゃっかりと持って来て居た。抜かりない。
武器屋へ行く途中にスリに遭い、俺の出番なくしてスリを捕まえ、更にはスリの子供達を雇われました。
そして、俺の気配に気付いて呼ばれました。
いや、ちゃんと気配は消してましたよ?これでも10年陰をしてますからね?もう、お嬢様はこのレベルの陰なんて簡単に気付いてしまわれる様になりました。
他の使用人達の気配も察知しているみたいで、皆はある意味お嬢様にビクビクしながら過ごしています。
ヨシュアさんだけは、まだ気付かれてないみたいなんですけどね。流石はプロだ。
領地に戻ってからは、等々…お嬢様は旦那様から我々の存在やローレンス家の裏の顔を話されたみたいで、お嬢様は納得していた様です。
それからというものーーーー
使用人達は、以前までお嬢様の前ではごく普通の使用人らしく過ごして来たが、今では黒騎士もとい陰の姿を隠す事なく伸び伸びと過ごしていた。
かく言う俺も元騎士として、現ローレンス家の黒騎士として、ありのままの自分でお嬢様と接している。
今の俺は国の為に、ローレンス家の為に、黒騎士として騎士の時に思い描いていた自分で居られる様な気がする。騎士とは違う所も多々あるけど。
紹介してくれた団長と、貴族でありながら俺を慕ってくれたフィンにはは申し訳ないけど、俺は今幸せだ。
嫌な事もあったけど、二人が居たから旦那様に出会えて、今の自分があるんだと思う。
この先何があっても、俺はローレンス家を守ろうと決意した。
__________
最後グダグタな感じで終わってしまいましたが、一応ディールの過去的なお話でした。
次回は本編戻ります。
後2話で、乙女ゲームシナリオスタートです!
やっとタイトル回収出来ます。
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