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【閑話】ディール・前半
しおりを挟む俺はディール。ローレンス家に仕える使用人です。十年程前までは王都で騎士をしていました。
王都から離れた小さな村出身の平民である俺は16歳の頃に夢だった騎士の試験を受ける事にした。
そしたら、最年少ながらトップの成績で合格してしまい、そのせいで貴族の騎士達には、あまり良い目で見られていなかった。
それでも騎士団長は、凄く良い人間で平民も貴族も関係なく、接してくれていたし、貴族の中にも平民でも関係なく接してくれる同僚も居て、俺もあまり気にせず、毎日一生懸命仕事に取り組んでいた。
「よう、ディール!今日は一緒に貴族街の巡回だったよな?」
「フィン、そうだったな。今日はよろしく頼むよ」
「おう!」
フィンは、貴族出身の同僚だったが歳も近く、他の貴族とは違って平民出身の俺を差別せず、気兼ねなく話を出来る同僚の一人だった。
騎士の試験も俺の次に成績が良く、一緒に騎士団長率いる第一班に配属された。
今日も一緒に貴族街へ巡回に行く任務だった。
「貴族街って本当煌びやかで落ち着かねぇよな」
「貴族のお前が言うなよ」
「貴族って言っても、俺の家は男爵だからな。俺は跡継ぎになりたくなかったし、弟に押し付けて、騎士になったから、弟には恨まれてるかもなっ」
フィンとたわいのない話をしながら、俺達は貴族街を見回っていた。
貴族街の中でも、店が並ぶ通りを抜けて、路地へ入った時だった。
俺達の目の前に突然五人のフードを被った男達が剣を構えて、俺達に襲って来た。
「なんだなんだ。ディール、お前誰かに恨まれていたりする?」
「いや?お前じゃないのか?容姿が良いからモテるし」
「そりゃどうも」
「褒めてない」
冗談を言いながら、互いに剣を抜いて背中合せになり、男達と戦闘になった。
男達は、それなりに腕が立つ者達で幾ら俺達が成績優秀でも、手練れが五人ともなれば苦戦していた。
そんな中、ふと男達の剣に目が行き、フィンも俺と同じ事を思ったのか口を開いた。
「俺達を襲うなら、剣ぐらい変えて来いよな。騎士で配布された剣を使えば、幾らフードで姿を隠してもバレるぞ?」
「大方、平民出身の俺を敵視してた者だろう。ほら、な?」
フィンの言葉に続いて、俺は剣先で一人のフードの先を引っ掛けてフードを剥がすと、見知った顔の騎士がこちらを睨んでいた。
「コイツ、日頃からディールの事にケチ付けてた第二班の奴じゃねぇか」
「クソッ!平民出身の分際で団長様に気に入られたぐらいで調子に乗るなよ!」
「うわっ。嫉妬?醜いな」
「フィン、煽ってどうするんだ。幾ら、俺達でもこの人数じゃあ厳しいんだぞ」
「分かってるよ」
見知った顔の人物は、日頃から俺に何かと突っかかって来ていた第二班の貴族出身の者達だった。
団長に気に入られている俺達を嫉妬して、不満が溜まりに溜まった結果がこれか。腕は確かだが、仕事をするにあたって、平民に対して態度が悪く、差別的な言動と行動から団長からの評価も低かった筈だ。
こんな事を仕出かしたと団長が知れば、彼らは重い処罰を下されるだろう。団長は曲がった事が大嫌いだ。
「そうだ!お前達には、怪我を負ってもらい、騎士から退いてもらおうか!やれ、お前達」
「「「おお!!」」」
主犯とされる男の合図で他の男達が、俺達に剣を振りかざして来た。
結果的に、俺は背後から狙われたフィンを庇い、少し怪我を負ったものの、剣を振りかざして来た男達を拘束し、団長に引き渡した。
団長の行動は早く、愚かな騎士達は貴族なだけあり、辞めさせられる事は出来なかったが、地方の駐在騎士に移動になった。
俺の方は、怪我も傷は残るものの大した事は無かった。
平民出身ながらも夢だった騎士になり、やり甲斐のある仕事ではあったが、それでも貴族出身の騎士からは疎まれ続け、嫌がらせは減る事はなかった。
いつしか、国や国民を守る騎士の姿に不信感を抱き、自分が目指していた騎士とは何だったのか分からなくなってしまい、フィンや団長からは引き止められたが、騎士を辞める事にした。
騎士を辞めてからは村にも帰り辛かったので、王都に留まり、かといって定職には就かず、日雇いの護衛や私兵などで日々を過ごしていた。
そんなある日、護衛の仕事を終えて、いつもの酒屋で酒を飲んでいたら、フードを被ったガタイの良い一人の男が俺の隣へ座って来た。
「思ったより、元気そうじゃないか」
「団長!どうして此処がーーー」
「何、探そうと思えば、すぐに見つけられる」
隣に座って来た男は、かつての上司である騎士団長だった。
俺は驚きを隠せず、席を立ち深く頭を下げた。
「寄せ、今はもうお前の上司でもない」
「しかし…」
「今日はな、お前に良い話を持って来たんだ」
「騎士に戻れという事で有れば、お断りーーー」
「それは分かっている。お前の意思が固い事も、ただ力のあるお前を野放しにしておくのは忍びない。お前の事だから、今のところは定職には就かず、日雇いの護衛をして、数日分の生活費を稼いでの暮らしだろう?」
「ゔっ」
団長の言っている事は当たっていた。今のところ、定職に就く予定はなかった。一応、探してはいるもののコレといってやりたい仕事もなかった。
かと言って、このまま無職の訳にもいかない。
「先が見えない暮らしをするぐらいなら、俺の知り合いの所で働かないか?三食寝床付きで、休みもちゃんとある」
「団長のお知り合いです、か…」
団長の言葉に少し心が揺らいだ。三食寝床付きは有難い。俺が今住んでいるのは、値段が安いボロボロの宿屋だった。
日雇いの賃金では食費と宿代で殆ど無くなってしまう。賃金も多い日もあれば、少ない日もあるので、無駄には使えない。
その事を考えると、団長の話は俺にとっては願っても無い。
更に、団長の知り合いなら信用性がある。
「まあ、実際に一度会ってみると良い。無理強いはしない。気が向いたら、この紙に書かれている所へ行けばいい」
「分かりました。騎士を辞めた俺なんかに、ここまでして頂いてありがとうございます」
「それだけ俺はお前を買っていたんだ。今の俺では、腐敗した騎士団を立て直す事が出来ない。俺の力不足だ…済まなかった」
「謝らないで下さい!!団長は悪くありません。俺は力が強くても、心が弱かったんです。騎士だった癖に情けないですよね」
団長は俺に謝ると土下座する勢いで頭を下げて来たので、俺は慌てて団長を止めた。
その後、団長はまだ仕事があるみたいで帰って行った。俺も、団長から受け取った紙を手に宿屋へ帰って行った。
***
翌日は護衛の仕事が入っていたので、あれから一週間後、俺は団長から受け取った紙に書かれた場所へとやって来た。
紙に書かれた場所は中立街にあり、人で賑わう市場を抜けて、さらに路地を抜けて歩いて行くと中立街と平民街の境まで来ていた。
「えっと、ここだよな?」
俺の目の前には、中立街には珍しい立派なお邸が建っていた。立派な邸だが、貴族街に建ち並ぶ邸よりは小さいくらいだ。
団長の知り合いって貴族だったのか?!でも、大体の貴族は貴族街に暮らしているし、という事は商人上がりの子爵や男爵か?商品を各地へ運ぶのに盗賊に襲われたりするから、護衛の仕事か?
「どちら様でしょうか?」
「うわっ」
いつの間にか俺の目の前には、執事の服を着た身なりの良い男性が立っていた。
気配を感じなかったので、俺は驚いて声を上げてしまった。
「あ、すみません。急に居たので驚いてしまって、あの!団ーーいや、こちらを知人に紹介してもらったのですが」
流石に外で団長の名は言えず、咄嗟に知人と言って、男性に団長から受け取った紙を渡した。
男性は俺から紙を受け取り、中を確認すると俺を見て優しく微笑んだ。
「話は伺っております。旦那様が丁度いらっしゃいますので、中へどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
男性の後に着いて行き、邸に入るとそのまま邸の主人の部屋まで案内された。
「旦那様、お客様でございます」
男性は扉をノックすると、中から低く冷たい声が聞こえてきた。
扉を開けて、中へと案内されると奥の机の上には紙が山積みに置かれていて、そこには見るからに怖そうな男性が居た。
「先日、騎士団長様が話されていた方でございます」
「お前が…話は聞いている。私はここの主人のカルディア・ローレンスだ。優秀な部下だったと、騎士を辞めるには惜しい人間と言っていたぞ」
「あ、ありがとうございます…俺には勿体ないお言葉です。俺は、ディールと言います。団長から聞いておられる通り、元騎士でしたが今は日雇いの護衛などをしています。それで…本題なのですが」
「ああ、早速部屋を用意しよう。ヨシュア」
「畏まりました。では、こちらへ」
「えっ?はい?」
「ディール。お前は仕事のアテも無ければ、行くところもないのだろう?なら、ここで暮らせ。ちゃんと仕事も賃金も与える。どうだ?」
「あ、えっと、宜しくお願いしますっ!!」
あまりにもすんなりと就職先が決まったので、唖然としつつも俺はローレンス伯爵に深く頭を下げた。
これが、俺とローレンス伯爵の初めての出会いでした。
_________
思ってた以上にディールの過去の話が長くなってしまったので、前半後半で分けます。
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