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12.リディアの新しい侍女
しおりを挟む舞踏会も何事もなく無事終わり、私は翌日ローレンス領地へと帰る為、馬車に揺られていた。
勿論、隣にはカイとイズ、ナタリーも一緒です。ナタリーは自然溢れるローレンス領でゆっくり療養するのが一番だと思ったからだ。
カイは強くなるまで私から離れないらしい。イズは二人が行くなら僕も行くと、そりゃあそうよね。
父上は、まだ王都に用があるみたいで後から母上と一緒に帰ってくる。なので、一足先に私は帰る事にした。
そして何故か、レティシアとユラも乗っているけど気にしない。気にしたら負けだ。伯父上と伯母上はいつもの事だから何も言わなかった。勿論、後で伯母上は母上と一緒にこちらに来る様なので。
いつもの事だけど、財務長官である伯父上は仕事が山積みなので一人寂しく王都に残る。ちょっとだけ伯父上が可哀想だと思った。
そういえば、前にあった天使がまさか舞踏会に来ていた事には驚いたけど、やっぱり何処かの貴族だったのね。
ちょっとドジって気付かれそうになったけど、なんとか回避出来た筈だ。今度からあの格好で外に出る時は気を付けないといけないな。
あっ、レティシアに言い寄っていた男共は、私がレティシアの背後から笑顔で見つめると、私から凄まじい殺気を感じてくれたのか顔面蒼白になって、走って逃げて行ってくれた。当たり前よ。私の大事な天使をそう簡単にくれてやるか!
「リディ、また王都へ行きましょうね」
「当分は行きたくないわ。結局、武器屋にも行けなかったし、そこは残念だけれど…」
「リディアお嬢様、悔やむところをお間違えです」
すかさず、ユラは私の話に突っ込んで来た。
いや、でもね?お小遣い持って来たのに行けなかったのよ。地味に忙しかったから仕方ないけど。
本当は自分で選びたかったのだけど、兄上達が社交界デビューした記念にプレゼントしてくれる事になった。
記念なのかよく分からないけど、レティシアも社交界デビューした時に兄上達からプレゼントを貰ったと言っていた。
何度か立ち寄った街の宿屋に泊まりながら、何事もなく予定通り領地へ着く。
邸へ着くと留守番をしていた使用人達が総出で出迎えてくれた。
事前に手紙で、カイ達の事も知らせていたので、既にカイ達の部屋と新しい使用人の服を用意して、暖かく迎え入れてくれた。
カイ達は、初めはウェルカムな使用人達に戸惑っていたけれど、照れ臭そうに受け入れていた。
「お帰りなさいッス!リディアお嬢!」
使用人の中から、一際背の低い少女が私の前に現れた。
笑顔で私を出迎えてくれる彼女は、私の専属侍女のエイミーだった。
明るい茶色の髪を後ろで束ねてお団子にし、前髪は目の上で綺麗に真っ直ぐ揃えられていて、幼い顔をしている。見た目は10歳くらいの子供に見えるが、実は彼女はこれでも17歳の立派な女性だ。
ユラとは違って、明るく元気なのだけどドジっ娘で、元気過ぎてよく失敗をしては毎日侍女長に怒られていた。
エイミーは今まで見習い侍女として邸で働いていたけれど、私と歳が近いということで、ユラがレティシアの専属侍女になった後に私の専属侍女になった。私の事をお嬢と呼んで慕ってくれている。
だから、カイにお嬢と言われても、別に悪い気はしなかったのよね。エイミーもカイも敬語で話すのが苦手みたいで、二人は何処と無く似ている。
「エイミー、ただいま。私が居ない間、邸に変わりなかった?」
「勿論ッスよ!この、エイミーがしっかりお留守番してたッス!」
「エイミー、言葉遣いをあれほど直しなさいと言っているのに、まだ直っていませんよ」
「ああ!ユラ先輩!申し訳ないッス」
「申し訳ございません。ですよ?」
エイミーは胸に手を当てて、誇らし気に言うと、背後からユラが出て来て、エイミーの言葉遣いに注意をした。
エイミーはユラの顔を見た途端、顔を青くして慌てて頭を下げる。
普段無表情のユラがニッコリと微笑むが、目は笑っていなかった。ユラ、怖い。
「そ、そうそう!エイミー!新しくローレンス家の一員になったカイとイズとナタリーよ」
「お手紙に書いてあった子らッ…デスネ。君達の先輩になるエイミーッス!身長は低いけど、私は17歳でお嬢よりも歳上ッスよ!」
「えっ!?17歳?同じ歳かと思った」
「ムッ!今は低いだけで、まだまだこれから成長するッス!」
ユラの睨みに一瞬ビクッと肩を震わせながらも、エイミーはカイ達に挨拶をした。
カイ達は17歳と聞いて驚くと、エイミーは頬を膨らませて怒るのだけれど、怒っても迫力がないから、可愛いだけだから。
そんなエイミーにカイ達は苦笑いしながらも、挨拶をすませた。
「そういえば…お嬢、本当に王都では何もやらかしていないッスよね?」
「当たり前でしょう?私は淑女だもの。手紙にも書いてあった通り、それはそれは大人しくしていたわ」
自己紹介を簡単に済ませて、部屋へと向かう道中にエイミーがソワソワしながら心配そうに言って来たので、私は胸を張って答える。
「し、信じられないッス。お嬢が大人しくしていたなんて…」
「エイミー、ちょっと失礼じゃない!」
「あっ、申し訳ないッス。お嬢、でも私は心配で心配で…」
驚愕した表情で、エイミーは私に失礼な事を言ってくる。
まあ、エイミーに信用されていないのも無理はない。いつもエイミーを振り回して困らせていたのだから。
私が王都へ行く時もエイミーは丁度父上に別の用を任されてしまったのでお留守番になり、心配なのか最後の最後まで何か言ってたなぁ。忘れちゃったけど。
エイミーも人の事は言えないよね?
それに、私は自分で言うのも何だけど、領地よりは大人しく過ごしていた方だと思うし。
「エイミー。心配しなくとも、お嬢様はいつもの事ながら問題ばかり起こしていましたよ」
「や、やっぱりッスか…」
なんて思っていたのに、ユラの一言で、エイミーは安心したように項垂れていた。
いや、そこで安心するのは違うと思うけど?逆に普通の行動を取るのが、おかしいって事?
「ユ、ユラ!なんて事を言うの!」
「私が知らないとでもお思いですか」
「カイね!」
「いや!俺はお嬢に口止めされなかったし、ユラさんが聞いて来た事を言っただけで」
「そうですよ」
ユラの言葉に私はカイの方を見るが、カイは私に口止めされなかったと言う。そういえば、何も言ってなかった様な気がする。それなら、仕方がない。
エイミーはまた何か言い始めていたけれど、私はエイミーに唯一王都で買ったお土産を渡して黙らせた。エイミーは目を輝かせて喜んでいました。単純なのは良い事だよ。
帰って来た翌日から、私はいつもの様に早朝から日課の筋トレや剣術、他等を、王都で思う様に出来なかった分、鬱憤を晴らすかのようにいつも以上に鍛錬に励んでいた。
新しく使用人となったカイと、エイミーとユラも一緒に。
ユラさん…君、自分の主人を放ったらかしにして大丈夫なの?まあ、筋トレの良さを分かってくれるのは、私としては嬉しいのだけれども!
レティシアはまだ寝てると思うけどね?なかなか自由だよね。
そんな事を気にせず、ユラは筋トレに没頭していた。
カイは途中でバテていたけれど、恐るべしユラとエイミーは私と同じ様に淡々とこなしていた。もう自分で言うのも何だけど、普通の使用人じゃないよね?
今までもそうだけど、王都でのディールの行動もそう、家の使用人達は私が何処に居ても、呼べば何処からともなく現れる。
一人でいる時も見えないけれど、いつも近くに人の気配を感じていた。
エイミーはエイミーで、握力が異常に強くて、力加減が下手なのか、よく家の物を壊してしまうし。
他の家でもそうなのかな。なんて思って、今まで気にしてなかったけれど、王都へ行った時にその違和感が確信に変わっていった。
やっぱり、家の使用人達は何処か違う。
別にこのままでも良いのだけれど、やっぱり気になり出したら止まらない。
使用人に聞いたところで、多分答えてくれないだろう。なら、父上に直接聞いた方が良さそうね。
父上が帰って来たら、聞いてみよう。
そんな事を考えながらも、いつもの様に鍛錬に励んでいた。
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