転生令嬢は最強の侍女!

キノン

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10.舞踏会で再会

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 会場へと着くと、アルヴァス兄上は慣れた手付きで私を会場までエスコートしてくれた。
 先に着いていたレティシア達はもう会場の中へ入って行ったみたいで、外には居なかった。
 改めて、王宮を目の当たりにすると、凄くお金かかってそうだなと思った。あと、掃除とか大変そう。
 天井が高い所ってどうやって掃除してるのかな?素朴な疑問。

「どうした、リディア。緊張しているのか?」
 アルヴァス兄上が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
 ハッ!駄目だ。こんな所来るの初めてで私はさっきからトンチンカンな事ばかり考えていたわ。
 私は首を横に振って、笑顔で答えた。

「初めてなので、人の多さと王宮の大きさに圧倒されていただけですわ」
 ちゃんと淑女らしい言葉遣いも忘れずに。

「さあ、中へ入ろうか」
「ええ」
 アルヴァス兄上に続き、門番に招待状を見せて中へと案内される。
 王宮の中で一番広い場所とルドウェル兄上が言っていた事を思い出し、天井を見上げると、中心には大きなシャンデリアがぶら下がっていた。
 こんな立派なシャンデリアを前世でも見た事がない。いや、まずシャンデリアを見るのが初めてだった。

 「さあ、おいでリディア」
 「は、はい」
 前世では見慣れない光景に戸惑いながらも、アルヴァス兄上に手を引かれて会場に入る。その途端にあちらこちらから女性の黄色い歓声が聞こえて来た。
 流石、自慢のイケメン兄上。でも、そのせいで隣にいる私まで視線を感じる。
 アルヴァス兄上はこの状況に慣れているのか、平然としていた。
 しばらくすると、国王陛下や王族の方々が入場して来て、陛下の挨拶が終わると舞踏会は幕を開けた。

「リディア、先に国王陛下に挨拶に行くから来なさい」
「はい。父上」
 兄上に手を引かれて、父上と母上の後に着いて行く。私達の順番になり、父上から順に国王陛下達に挨拶をする。私は教わった通りに淑女風に挨拶をした。

「お初にお目にかかります。ローレンス家長女、リディアでございます。本日はお招きに預かり光栄に存じます」
「うむ、儂がこの国の現国王ノートル・シュヴァルツだ。今日は楽しむが良い」
「有難きお言葉で御座います」
 初めてお会いした国王陛下は、とてもイケメンダンディーなおじ様だった。
 私が想像していた王様って、もっと白髪の小太りのお爺ちゃんのイメージだったのだけれど、国王陛下は切れ長の澄んだ青色の目に明るめの茶髪をオールバックにしていて、顎髭がトレードマークね。それと服の上からでも分かるモリモリの筋肉さんは、脱いだらこの人凄いわ。絶対鍛えてる。父上と良い勝負ね。
 ジロジロと見入ってしまい、不意に国王陛下と目が合って慌てて私は目を逸らした。
 しまった!つい癖で、人様の筋肉を観察してしまったわ。今日は淑女リディアなのだから。
 まだ挨拶を済ませて居ない人が列をなしていたので、私達は早々にその場を後にする。何故か、国王陛下はこちらを見てニコニコと笑顔で私に手を振っていたので、会釈をして微笑んでおいた。

「リディ、お帰りなさい。どうだった?初めて拝見した国王陛下は」
「筋肉ーーーいや、凄く格好良い方でした」
「わかるわぁ!国王陛下は今でも人気があるのよ」
 危ない危ない。筋肉が凄かったって言いそうになっちゃった。私の言いかけた言葉が分かったのか、兄上達は笑いを堪えていましたけどね?
 気づかないレティシアは笑顔で頷いて答えてくれた。

「ところで二人とも、そろそろ曲も始まる頃だ」
「私達と踊って頂けますか。可愛いお姫様達」
 アルヴァス兄上とルドウェル兄上は、そう言って私達の前に来て手を差し出して来た。私とレティシアは互いの顔を見合わせて、クスリと笑うと互いのパートナーの手を取る。

「ええ、喜んで」
「お手柔らかにお願い致しますわ」

 ホールの中心に何組もの人が集まると、曲が流れて私達も踊り始めた。

「意外と上手いじゃないか、リディア」
「アルヴァス兄上?ではなくて、上手なのよ」
「フッ、そうだな」
 この日の為に、筋トレの傍らダンスも頑張って練習しました。嫌だったけれど。
 華麗にターンやステップを熟す私を見て意外そうにアルヴァス兄上は言うので、強調して上手だと言うと、アルヴァス兄上はふわりと笑顔になった。
 はい。その瞬間、周りの令嬢達は騒ぎます。悶絶している令嬢も居ます。もはや、犯罪レベルですよ。
 父上と同じで兄上達は普段から余り表情が変わらないらしいので、笑顔の兄上達はレアなのだそうです。レティシア曰く。
 普段から私やレティシアに笑いかけてくれているので、何とも思った事がなかった。だって、兄上達はシスコンだもの。
 曲が終わると、私とレティシアは壁際に移動した。兄上達に群がる令嬢達を横目に。

「案外、ダンスも楽しいわね」
「私も今日は、ダンスも何もかも今まで来ていた舞踏会の中で一番楽しかったわ。貴女と来れたのだもの」
 レティシアは満面の笑みでそう言って、手を握ってくれた。天使の笑顔で癒されて、私も笑顔で手を握り返す。

「そうだわ。私、飲み物を取りに行って来るわね」
「それなら私が行くわよ」
「ううん。私にやらせて?今日は本当に気分が良いの」
「ふふ、ありがとう。じゃあ、少し風に当たりたいから、バルコニーの方へ行っているわね」
「わかったわ」
 余程楽しいのか、レティシアは笑顔で私の元を離れて飲み物を取りに行った。
 私はその姿を見送ると、すぐ近くにあったバルコニーへと出る。
 外へ出ると、少し肌寒くなっていたが中とは違い静かで、身体の熱が一気に冷える。バルコニーの端には中庭へ降りれる階段があり、私は階段を降りて中庭にあったベンチに腰掛けた。

「ふう。毎日楽しいな…」
 空を見上げてると、前世では見られない綺麗に輝く星空が広がっていた。
 心の声が不意に私の口から漏れる。
 愛情たっぷりの家族と使用人達に、可愛く心優しい従姉妹…
 前世では味わえない程、毎日が充実していて、自由に動く身体に今では出来ない事は殆どない。
 後は、レティシアを一年後に迫った乙女ゲームの断罪イベントから護るだけ。
 でも、それが無事に終われば?レティシアは幸せになれる?私は結婚するの?
 恋愛なんてした事ない。好きな人も居なかった。まず、が分からない。
 レティシアは好き、兄上達も両親も好き。これ以外の感情がイマイチ私には分からなかった。
 前まで前世では、こんな事思った事もなかったのに。

「ああ、グダグダ思っても仕方ない!」
 私はモヤモヤした心を鎮める為に、目を閉じて深く深呼吸をする。
 意識を集中させて、いつもの落ち着きに戻って来た時、背後から人の気配を感じ、レティシアだと思い振り返った。

「遅かったね。レティシーー」
「こんな所で寝て居ては風邪を引いてしまいますよ」
「し、失礼致しました。人違いをしてしまいましたわ。少し考え事をしていて、寝ては居ませんでしたの」
 そこに居たのはレティシアではなく、丁度月が雲に隠れていたので、姿がハッキリと見えなかった。シルエット的にドレスの様にも見えるけれど、声は女性としては少し低いし、でも柔らかい口調だった。

「そうでしたか。こちらこそ、失礼致しました。もしや、ご気分が優れないのかと思い、お声を掛けさせて頂いたのです」
「まあ、わざわざご親切にありがとうございます」

 声を掛けてくれた方は、女性が一人で居たので、心配して見に来てくれたみたいで、もう一度礼を言って会場へ戻ろうと私は立ち上がると、雲に隠れていた月がまた顔を覗かせ、姿が見えなかった人物に明かりが照らされる。
 月の光で綺麗に輝くプラチナブランドの髪に大きな目は澄んだ青色をしていて、バサバサ言いそうな長い睫毛に顔も整っていてレティシア以来の天使が現れたと思った。
 あれ?このくだり前にもなかったかしら?

「綺麗なお嬢様…」
「わ、私は男だ!」
「あら、それは失礼致しました。あまりにも整ったお顔立ちに綺麗な長い髪をしていらっしゃっので」
 試しに相手に聞こえる様にボソッと呟くと、私の言葉に彼は顔を紅く染めて、否定をした。服装を見直すと、見るからに高価そうな燕尾服の様な服を身に纏い、肩から地面まで着きそうなガウンを羽織っていた。ガウンがドレスに見えたのね。
いや、待って。そうじゃなくて、

「まあ、今に始まった事ではないので、お気になさらーーー」
 彼の言葉は途中で止まり、不思議に思い視線を彼に戻すと、目が合う。
 まさか、相手も思い出した?いや、顔隠してたし、声も低い声出していたから、大丈夫な、筈…

「どうか、なさいましたか?」
 焦ってしまったら気付かれてしまう。平常心を保ちながら、笑顔を絶やさないように彼に問いかけた。

「いや、前にもこの様な会話をした気がして…私と何処かでお会いしていたのかも知れませんね」
「そうでしょうか?私は今回初めて領地を出て、王都に参りましたので、他人の空似かも知れませんわね」
「そうかも…あれは男だったしな…気のせいか」
 ブツブツとボヤく彼を他所に私はバルコニーの方を見ると、飲み物を両手に持って辺りをキョロキョロするレティシアの姿を見つけた。
 すぐ様、レティシアに言いよる男性の姿を確認。変な虫が寄ってきた。助け潰さなくては!

「会話の途中ですが、連れの者が私を探していますので、お先に失礼致しますね」
「ああ、あれはヴィンセント家の令嬢ですね。どうぞ、行ってあげて下さい」
「はい。お気遣いありがとうございました」
 この場を逃げる絶好のチャンスに今だにブツブツとボヤく彼に話しかけると、私の視線の先にいるレティシアを見つけ、すんなりと逃がしてくれた。
 ちゃんと淑女的な一礼もしました。そしてもう会う事はないだろう。何処ぞの貴族様よ!



「あれがディー?まさか、な…」
 足早にその場から去るリディアの姿をアシュリーは怪訝な顔で見つめながら呟いた事をリディアは知る由も無い。
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