転生令嬢は最強の侍女!

キノン

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8.誘拐未遂

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 私とカイは男達の足跡を辿りながら、入り組んだ路地を走る。私は走りながら髪の毛と顔を隠す為に、マントの内側から黒のストールを取り出して、目元だけが見える様に巻いて、先程取ったフードを被り直した。
 マントの内側にはポケットがいくつもあって、他にも色々入ってます。凄く便利!

「アンタ、またフード被るの」
「素性をバラしたくないからね。念の為に、顔に布も巻いて置くわ。カイ、貴方言葉遣いも直さなくちゃね。雇い主をアンタなんて呼ばないのよ?」
「あー、えっーと。リ、リディアおお嬢、様?」
 私の言葉にカイは少し考えてから、私の事をリディアお嬢様と呼ぶが、ぎこちなくて笑ってしまった。

「クスッ、ぎこちないわね」 
「…じゃあ、お嬢!」
「うん、良いわね!でも、今みたいに素性を隠している時はディーと呼んで頂戴」
「わかっ、分かりまし、た。あっ、その先は行き止まりになってる」
 カイの言葉に、私は警戒を強め物陰から行き止まりの方を伺うと、そこにはフード付きのローブを着た、見るからに怪しい男達が四人居て、少女を行き止まり追い詰めていた。
 男達のリーダーみたいな人が少女に詰め寄っていた。少女の手には剣が握られていて、その刃先は男達に向いていた。

「大人しく捕まりなさい。悪い様にはしませんから、取引材料として我々は貴方が必要なのです。馬鹿な貴方が護衛を撒いてくれたお陰でこちらとしても手間が省けました。剣は玩具ではありませんよ?怪我をする前にこちらに渡しなさい」
「くっ…」
 フードから少女の表情は見えないが、少女は剣を構えたまま動かない。少女のフードから出ている綺麗なプラチナブランドの長い髪が風で揺れていた。
 綺麗な髪ね。よく聞こえなかったけど、取引材料とか言っていたな。あの子を誘拐するつもり?誘拐とは見逃せませんなぁ。
 卑怯な真似をするけれど、あっちは大人の男性が四人いるし、こっちは子どもが二人だ。念の為に気配を消して背後から、的確に男達の急所を狙う。

「ぐっ…!」
「ぐはっ」
「がっ!」
「どうした…っ!?」

 いきなりリーダー的な男の背後から、仲間の呻き声が聞こえて来て、振り返るとそこには仲間の男達が気絶し、その場に倒れていた。
 突然の事で何が起こったのか状況が把握出来ずに驚愕する男の背後から声が聞こえて来る。

「か弱い女性に見るからに怪しい男共が寄って集って何をしている。人間の屑め」
「誰だ!貴様は!!我々にこんな事をしてただで済むと思うなよ。私はこの王ーーがはっ!!」
「煩い」
 なるべく低い声で男を装いながら、男に向かって話すと、男は驚いたようにこちらを見る。
 男が喋っている最中だったけれど、面倒臭くなったので途中辞退してもらった。私のマントに唾飛んで来たのが癇に障りました。帰ったら、すぐに洗ってもらおう。
 只でさえ、手応えのない相手で満足してないのに帰ったらディールに八つ当た…手合わせしてもらおうかな。

「エゲツない…」
 カイはボソッと何か呟いていたけれど、スルーして、今だに撃沈している男達をカイに手伝ってもらい、持っていたロープで纏めて縛り上げる。
 気がついても逃げられないようにキツく縛ると、呻き声が聞こえて来たけど気にしない。

「お怪我はありませんか?」
「は、はい…あの」
「決して怪しい者ではありません。たまたま、通りかかっただけですので」
「どう見ても怪しいだろ」
 カイのツッコミはスルーして、座り込む少女に手を差し出すと、少女は躊躇しながらも私の手を取り立ち上がった。
 私と兄上達は父上に似て皆平均よりも背が高い。私も同年代の子と比べると少し高いけど、私の目の前で立ち上がった少女は私より少し背が高く、立ち上がっただけなのに気品があって、育ちの良さが分かった。私よりも少し年上かな。
 私は少し上を向いてフードの中を覗いて見ると、少女はとても綺麗に整った顔立ちをしていた。プラチナブロンドの髪に、大きな目は澄んだ青色をしていて、睫毛も長い。レティシア以来の天使が現れたと思った。
 いや、レティシアは今でも私の中で一番の天使だからね。浮気じゃないよ。
 と目が合うと、慌てて少女は下を向いた。
 何処かの身分の高い貴族の令嬢かな?素性がバレて危険なのは君だけじゃないのだね。

「失礼しました。お嬢さん」
「ぼ、僕は男だ!」
「ぶふっ」
「申し訳ない。髪も長くて余りにも美しい方だったので、女性かと思っていました」
「…いや、こちらこそ危ない所を助けてくれたのに礼も言わず、ありがとう」
「礼には及びません」
 天使の様に美しい少女は、まさかの天使の様に美しい少年でした。
 少年は怒ってしまった様で顔を赤らめながら、こちらを睨んでいた。睨んだ顔も可愛いから。いや、女の子にしか見えないから。なんの説得力もない。
 隣でカイは吹き出して笑っていた。うん、気にしない。
 私は素直に謝ると、彼も私にお礼を言って頭を下げた。
 少し張り付いた空気から一転、少し場の空気が穏やかになった気がする。
 さて、問題はこの彼をどうするかだ。縛ってあるものの、ここに一緒に彼を置いておくのは私のポリシーが許さないし、かと言って面倒事に巻き込まれるのも嫌だし。
 そんな事を考えていたら、背後から複数の人の気配を感じた。

「あちらの方から物音が聞こえたぞ」
「急げ」
 近くで声も聞こえて来て、その声にカイも気づいた様でこちらを見た。

「ディー、誰か来たみたいだ」
「そうだね。貴方のお連れ様かな?」
「その様だ」
 お連れの方が来たならもう心配いらないね。見つかる前に退散するとしますか。
 私は隣に居たカイをヒョイと担ぐと、近くにあった木箱を台に軽々と屋根の上に登った。カイは突然の事で焦って情けない声を出していた。

「ま、待ってくれ!まだ礼をちゃんとしていない」
「いえいえ、貰いましたよ。綺麗な顔を拝ましてもらったので充分です。ありがとうございます」
「なっ、いや!それだけではこちらが納得いかない」
 私が屋根の上に登って去ろうとすると、少年が引き止めようとしたので、逆にお礼を言ったらカイに白い目で見られてた。このまま逆さ吊りにして帰るぞ!っと意味を込めて、見つめたら大人しくなりました。
 少年は私の言葉に顔を真っ赤にしながら、引き下がろうとしないので、強制終了しました。
 少年に一礼して、私とカイはその場を後にした。


***


 リディアとカイが去った後、路地裏には甲冑を着て武装した騎士達が居た。

「よくぞ無事で!」
「ダート、無茶な真似をして済まなかった」
「いえ、一時はどうなる事かと思いましたが、貴方様が無事で良かったです。しかし、あれはアシュリー殿下が一人で?」
 ダートと呼ばれた騎士は少年に駆け寄り、怪我をしていないか確認をすると、騎士の視線は、外傷の目立たない撃沈する縄で縛り上げられた男達に移った。
 アシュリー殿下と呼ばれた少年は、被っていたフードを取り顔を見せると、フードに隠れていたプラチナブロンドの長く伸びた髪は腰の位置まであり、緩く一つにリボンで束ねられていた。
 彼は、この国の第二王子アシュリー・シュヴァルツ殿下で、偶然誘拐されそうになっていた訳ではなく、自らが囮になり、男達と接触する必要があった。
 無事に事なきを終え、ターゲットであった男達を捕まえる事が出来たが、アシュリー達に予想していなかった出来事が起きてしまう。
 それは、距離を置いてアシュリーを見守っていた騎士達と逸れてしまった事だった。
 下手をすれば計画は失敗終わり、アシュリーは誘拐される所だったのだ。リディアが助けなければ。
 アシュリーはダートの視線の先にあるモノを見て、綺麗に整った顔は少し困った表情をしていた。
 
「いや、私は何もしていない。情けない話だが、剣を抜く事は出来ても、動けなかった」
「貴族の私兵と言いましても、そこそこの腕はあるはずです。怪我がなくて本当に良かった。では、一体誰が?」
「それがわからんのだ」
「わからない?とは」
 わからないとアシュリーが告げると、その言葉にダートは首を傾げる。

「マントを羽織り、フードを深く被っていた。用心深く、顔に布を巻いていて目の色しかわからなかった。6、7歳くらいの少年を連れて居たが、兄弟の様にも見えなかった。その者は私よりも若く感じたが、かなりの手練れだった。」
「大人の男ではなく、子どもがアレを…ですか?」
「お前が驚くのも無理はない。俄には信じ難いが、剣も使わずに素手でやってのけた」
 アシュリーは自分が見たままの事をダートに話すが、ダートは信じられないと、驚きを隠せないでいた。

「す、素手で?!その者の名は!」
「聞く暇さえ与えてはくれなかった。よっぽど表出る事が嫌なのだろう。いち早くお前達の気配を感じると、すぐに屋根の上から消えてしまった。ただ、連れて居たが子どもが、その者をディーと呼んでいたのは確かだ」
 アシュリーはリディアが去った後を暫く眺めた後、その場を後にし王宮へと戻り、国王陛下に報告を済ませると、早々に翡翠色の目をしたディーという名の男を秘密裏に探し始めた。

 一方、リディアがアシュリーの正体を知ったのはもう少し後の事だった。
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