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4.記憶と決意
しおりを挟むこの世界に来て、前世の記憶が戻ってから1ヶ月が経とうとしていた。
あの後、体調は一日寝ただけで、すぐに回復し医師には驚かれた。強制的に一日部屋に寝かされたのだけれど、普通に私はピンピンしていた。
そして、回復した私とレティシアは母上と伯母にこってり怒られると同時に凄く心配された。鬼の形相っていうのをあの時初めて見た気がする。
母上達の背後で男達は下を向いて小さく震え上がっていたのを見た。兄上達も流石に母上達には敵わないのか助けてはくれなかったけど、後で隠れてお菓子を沢山貰ったのは内緒。
兄上達は、私とレティシアには凄く甘いらしい。私から見てもシスコンだなと思う事はーーー沢山ありました。それはまた後の機会に。
話は変わって、この1ヶ月間の私の日課は午前中に書庫へ行って、この世界の事を知る為にお勉強しています。
この世界の文字は日本語とは全く違うので、独学なのだけれど、字の練習をしています。お陰で字は大体書けるようになった。勿論、それ以外の本も読んだりしている。やっぱり本は面白いし、読んでて飽きない。
午後からは、レティシアと一緒に外で遊んだり、一人の時は屋敷の散策をしている。
ローレンス伯爵家は、王宮のある王都とは遠く離れた辺境の地にあるみたいで、土地が凄く広く、自然に囲まれていて、私にとって全てが新鮮で目を惹くものばかりで、毎日駆け回っている。
前世の記憶が戻る前よりも活発なお嬢様になってしまったらしい。侍女長から言われました。家で働く者は皆明るく優しい人達ばかりで、毎日が凄く楽しい。
「リディア。そんな所で何をしている?」
「あっ父上!!」
今日は稽古場の近くで木登りを堪能して居たら、剣の稽古を終えた父上が私を見つけて手を伸ばして来たので、木の上から父上の所へジャンプすると、軽々と私をキャッチし、抱きしめてくれた。
最初は抱っこされるのに抵抗があった。中身は17歳だけど、今は5歳児だからと自分に言い聞かせて、大人しく抱っこされている。
ローレンス家の当主であり、この地を治める領主であるカルディア・ローレンス伯爵。艶やかな黒髪をオールバックにし、私と同じ翡翠色の切れ長つり目のイケメンです。ちなみに私の目は父上似です。
父上は常に無表情で、あまり父上の表情が変わった所は見た事ないのだけど、娘には激甘です。私を抱っこしてくれる時や、私と接してくれる時は微かに目元が優しくなる事がわかった。
これでも、年齢は四十代後半らしいけど全く見えない。
そうだそうだ。今日は父上に会ったらお願いしようと思ってた事があったんだった。どう切り出そうかなぁ。
「今日は何をしたんだ?」
「今日は午前中は読書をして、午後から木登りしていたの」
「身体を動かす事は楽しいか?」
「とっても!まだまだ遊び足りないわ。だからね。父上にお願いがある、の…」
「どうした?お前が願い事をするのは珍しいな」
「実はね。剣術を習いたいの。……だめ?」
前世で先生が持って来た本、いや雑誌に載っていた。男を落とす為に必須!あざと可愛い仕草7パターンの1つ、子犬のような上目遣いで相手を見上げる。どうだ、父上!可愛い娘のお願いだよ!
「リ、リディアが剣術を?」
私の必殺上目遣いに父上は固まっている。よし、効いてるみたいた。あともう一押し!
「父上や兄上達は良くて、女の私は駄目なの?」
「いや、そうではなくて」
渋る父上にこれでもかと、諦めず涙を目に浮かべながらお願いを続ける。
どうして私がここまで父上に剣術をしたいとお願いするかというと、レティシアが原因だった。
前世の記憶を思い出した時に、初めてレティシアを見て凄く引っかかった事があった。この世界観といい、父上や兄上達、そしてレティシアの名前を聞いて思い出した。
前世で先生がやり込んでいた乙女ゲームの話を思い出す。そういえば、悪役令嬢がレティシアという名前だった。
『このレティシアはね。私的にはタイプなんだぁ!心優しく、とても良い子で正義感が凄く強くて、悪い事は見逃せない子なんだけど、婚約者の第一王子がヒロインと仲良くしている所を見て、ヒロインに何かと嫌がらせをするんだけど、一つ一つイベントがあって、そこでもポイント貯めないとhappy endにならないから大変なんだよね~』
『ちょっと待って先生。そのヒロインは沢山の攻略者がいる訳だけど、先生の話からして攻略対象者が全員婚約者持ちなのにそれってどうなの?有りなの?婚約者に手出される令嬢達の方がよっぽど可哀想な気がするんだけど』
『まっ、ゲームだから!気にしたら負け~!』
『私はあり得ないなぁ』
あー言ってた。先生が言ってたわ。私は全く興味がなかったし、余り話も聞いていなかったけど、頭が覚えていたみたいで、最終的にレティシアは婚約破棄されて、断罪イベントで良くて国外追放で、悪くて死亡の運命にある。
私の可愛い天使のレティシアが?!そんな運命捻じ曲げてやる。そう私は決意をした訳で、今の流れに至る。と言っても、私はまだ5歳で乙女ゲームと同じシナリオが始まるのは、あと10年後だから、まだ時間はたっぷりとある。
その間に、私はある程度レティシアを護れるように力を付けようと思う。
そんな酷い結末を迎えさせない為に。
「護られるだけではなく、私も護りたいの。大切な人達をーー」
「…わかった」
「えっ?」
「但し、一度決めたからには途中で投げ出すな。それが無理なら許可は出来ない」
「は、はい!逃げ出すなど致しません。ありがとう、父上!」
父上は少し考え込むと、意外とすんなり了承してくれた。
条件付きではあるけど、私は遊び半分で言った訳でもなく、飽きたから、辛いからと言って途中で投げ出すつもりも毛頭ない。
これで一つ前進した。そういえば、前世で死ぬ前に読んでた筋トレの本があったな。少しでも体力を付ける為に、今日から身体にあまり負担がかかり過ぎない程度で基礎体力作りをしよう。
今までみたいに無闇やたらに走り回るのではなく、決まったメニューを作って、それを毎日必ずやると決めてもいいな。
そうとなったら、一度部屋に戻って今後の計画を立てよう。
「父上、では剣術はいつから誰に教われば」
「お前がすぐにでもと言うなら、明日から兄達と一緒に学べばいい。私からも伝えておく」
「はい。わかりました」
「では、私は仕事に戻る」
「無理しないで下さいね」
抱き上げていた私をそっと地に下ろすと、父上は目を細めて私の頭を優しく撫でると、その場を後にした。
***
リディアと別れた後、ローレンス家当主であり、ローレンス領の領主カルディア・ローレンス伯爵は、執務室に戻っていた。
「宜しいのですか、お嬢様に剣術を教えるなど…」
「構わん。あれは本気だ。やる気があるなら、それに答えてやるのが親だろう」
書類に目を通すカルディアに、側に控えていた短髪で暗めの茶髪に、細目の執事の服を身に纏う青年は先程のリディアの言葉を思い出し、カルディアに問い掛けると、カルディアは書類から目を離して、青年に向かって少し微笑みながら答えた。
「池での一件以来、お嬢様は変わられました。大変喜ばしい事ではありますが、使用人達が毎日肝を冷やしております」
「ヨシュア。リディアはあの歳で自分の無力さを肌で痛感したのだ。流石、我が娘と言える」
「我が主は、お嬢様に大変甘いですね。それでは、私共お嬢様のお邪魔にならぬ様、陰ながら見守らせて頂きます」
ヨシュアと呼ばれた青年は、主の親馬鹿っぷりの言葉に苦笑いをしながらも、カルディアに深くお辞儀をした。
「ああ、宜しく頼む」
「畏まりました。それでは失礼致します」
ヨシュアが部屋を出ると、カルディアは書類から手を離し、窓の外を眺める。
「我が娘には真っ当な道を歩んで欲しかったのだが、血は争えんな。お前もこちら側に来るのか。リディア」
カルディアは外で元気に遊ぶリディアを眺めながら、眉を寄せて一瞬だけ悲しげな顔をするが、またいつもの無表情に戻り、誰も居ない部屋で静かに呟いた。
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