転生令嬢は最強の侍女!

キノン

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2.神様の悪戯

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 病室のベッドで寝ている筈なのに、身体の節々が痛くて目が覚めた。
 ゆっくり身体を起こすと寝ていたのは冷たい床の上だった。寝相が悪くてベッドから落ちたのかなと思いつつ、目を擦りながら顔を上げると、目の前には本、本、本…辺りを見回しても、見上げても、そこには本しかなかった。
 どこまで続いているのかわからない程、上に長く伸びた本棚にビッシリと沢山の本が綺麗に整列して並んでいる。天井が見えない。昨日、マニアックな本を読んだせいで印象強過ぎて、普通の小説とか読みたくなったのかな?夢の中でも本を求めてたみたい。
 とりあえず、折角の大好きな本に囲まれた夢なので、私は適当に近くにある本を手に取ろうとした。

 その直後、背後から足音が聞こえる。

「その本達は、一冊一冊が1つの世界の記録であり、世界そのものなので、取り扱いを間違えると、その世界の輪が乱れてしまいます。気をつけて」
 背後から柔らかな口調で落ち着きのある若い男性の声が聞こえた。

「良かった。マッチョじゃない」
 振り返って声の主を確認すると、そこには声の通り、落ち着いた雰囲気の二十代前半くらいの青年が笑顔で立っていた。ボソッと呟いた私の言葉に、目の前の青年は聞こえていたのか苦笑いしていた。
 だって、先生から貰った本は筋肉モリモリの男性ばかりが写っていて、凄くむさ苦しかったから、まさか夢にまで出て来たかと思ってしまった。
 青年の見た目は、少し癖のある黒髪ショートヘアで黒縁の眼鏡をかけて、真っ黒な学生服のような服で足元すっぽり隠れるくらい長い服を着て、手元には一冊の本を持っていた。
 なんか、教会にいる神父様みたい。

「初めまして、僕は創世と記録の間の管理人です。貴女の世界では、神という者ですね。それで本題ですがーーこちらに来て早々大変申し上げにくいのですが、貴女はこちらの手違いで、本来決まっていた寿命よりも早く亡くなってしまいました」
 突如現れた管理人(?)と名乗る青年は、軽い自己紹介と自分の手違いで私が死んだと説明して来た。
 状況がイマイチ飲み込めていない私に管理人は笑顔でパチンと指を鳴らすと、突然何も無かった所からテーブルと椅子が2つ出てきた。

「状況が飲み込めていない様なので、一からご説明しますね。どうぞ、お掛け下さい」
 とりあえず、私は大人しく管理人の指示に従い、そのまま無言で椅子に腰掛けた。
 自分の夢の筈なのに、あまりにもこの夢は現実的リアル過ぎる。本の異様さには非現実を感じさせるけど、自分の身体の感覚とか、何とも言えないこの感じ。
 本当に私は死んでしまったの…?

「享年17歳、死因は火事による一酸化炭素中毒です。貴女は病室で熟睡していた為に警報の音にも気付かず、逃げ遅れてしまい、大量の煙を吸って、そのまま亡くなってしまいました。ですが、その火事の原因は僕の記録の過程で生じたものでした」
「あはは…」と困ったように笑いながら、管理人は手に持っていた本を開き、開いたページを私に見せる。
 本を覗き込むと、そこには見た事のない文字がぎっしりと書かれていたが、その紙の隅に茶色いシミで文字が滲んでいる所があった。

「この滲んでいる…」
「はい。お恥ずかしい話、記録を付けている時にうっかり珈琲を溢してしまって…すみません」
「は?」
いひゃいれす痛いです…」
「ああ、ごめんなさい!」
 ヘラっと笑いながら言う管理人の言葉に衝撃過ぎて、思わず弄っとした私は、目の前にいた管理人の頬をつねる。涙目でこちらに訴えて来たので、慌てて手を離した。
 一応、神様(?)なのに、天罰とか下ったらどうしよう。でも、管理人のせいで死んだんだから、これくらいしても大丈夫かな。

「い、いえ、僕が悪いので、仕方ありません」
「…それで、私はこれからどうなるの?生き返らせてもらえるとか」
「飲み込みが早くて助かります。こちらの不手際で起こってしまった事ではありますが、一度死んでしまったら生き返らせる事は出来ないのです。転生として生き返らせるとしても、この世界でまた貴女が転生出来るのは、僕の力を使ってもあと100年後になりますし、今までの記憶は全て消えてしまいます」
「そんな…」
「但し、こちら不手際で亡くなってしまったので、貴女のいた世界とは別の世界でなら、記憶も残ったまま転生という形で生き返らせる事は出来ます。少しなら、オプションも付けれますし」
 まあ、思い残す事があるのなら、先生かな…
 最期まで、私に優しくしてくれた気にかけてくれた。姉のような人。
 私が転生したとしても、貴女との楽しかった記憶も全て消えてしまう。私が次に生まれ変わった時には貴女は居ないかも知れない。
 それなら、貴女との記憶が残ったまま、新しい世界に行くのも悪くないかもしれない。私の人生は、嫌な事も悪い事も沢山あったけど、それだけじゃなかった。
 先生が教えてくれた。

「決めました。私はーーー」














 誰も居なくなった部屋で、僕は1つの本を手に取り、の行く末を見守る。先程までここに居た彼女は、僕の不手際でみせた。

 本当に誰が見ても彼女は不幸だった。病弱な身体に、追い討ちをかけるように繰り返される両親から虐待。
 両親の愛情も妹に全て奪われて、自由のない生活。生きる糧は、本と家庭教師の先生との会話。それでも必至に生きようと愛されようとする彼女の魂は強かった。可哀想なくらいに。
 ここまで、強い魂を見たのは初めてかもしれない。
 本当に彼女は火事で死ぬ筈ではなかった。けれど、僕は故意的に彼女を殺してしまった。
 僕の管理する世界は、数え切れない程ある。その中で、たまたま見つけた彼女を僕のエゴで新しい世界へと送った。同情した訳じゃない。探せば、彼女以上に不幸な人間はいる。
 これはただの興味本位。彼女の強い魂が、次の世界でどの様に影響されるのか見てみたい。
 彼女が転生した世界は、前の世界とは大分違い、発展もしていない。王国、貴族、奴隷、紛争、醜い人間同士の争い事が絶えないこの世界で、前世の記憶と多種多様の知識を持つ彼女なら、この世界をもう少し良い方向へ導いてくれるかもしれないという、ほんの少しの期待も添えてーーー

 彼女はただ神様の悪戯に付き合わされただけ。
 ごめんね。君にとっても良い話だと思ったんだ。その世界では、もう君を愛してくれる人なんていないのだから。
 君の唯一の救いだったは、もう君の居た世界にはいないからね。戻っても、君を思う人間は一人もいない。
 君には、あえて言わなかったけどね。

 そんな僕の考えなど彼女は知らない。




「あれぇ?神様、あの子は?!もう行っちゃったのー?」
「たった今ね」
「最悪!!私が帰って来るまで待ってって言ったのに!!」
「君が居ると、彼女が混乱するだろう」
「あーあ、私も会いたかったのにー!ほーんと、性格悪い神様だよね。あー怖い怖い」
 彼女の知るが、突然現れた扉から出て来て、辺りを見渡すが彼女の姿を確認出来ず、神様と呼ぶ青年に話しかけた。
 先生に神様と呼ばれ、先程までは管理人と呼ばれた青年がサラリと転生した事を告げると、不満を露わにしながら、先程まで彼女が座っていた椅子に座り、テーブルに肘をついて青年を睨んだ。

「一応、君はなんだけど、どこで造り方間違えたかな?」
「さぁね。で、あの子は今どこへ?」
「まだあちらに行ったばかりだから、もう少し待ちなよ」
「今度は幸せになれるといいなぁ」
「人の話を聞きなさい。まあ、気になるのなら、少しくらいは干渉しても構わないよ。そうでなくても、君は行くだろうけど」
 青年は諦めたように深い溜め息を吐きながら言うと、もとい、は青年の言葉に少し申し訳なさそうな顔をする。

「勿論。ごめんね。こんな、言う事聞かない眷属で」
「自覚してるなら、直してくれないかな」
 青年はまた一つ深い溜め息を吐くと、開いたままの本に視線を戻した。

 彼女の世界を覗く為にーーー


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