転生令嬢は最強の侍女!

キノン

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1.何もない日々

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 私は、生まれつき病弱で常に入退院を繰り返していた。

 満足に外へ遊びに行く事も許されず、突然体調を崩してしまう為に学校にも通う事が出来なかった。
 今年で17歳になる私は、本来ならば私も高校2年になる頃だけど、今日もまた見慣れた病室のベッドで寝ている。学校には通った事がない。いや、小学校へ入学した際、初日の授業で興奮し過ぎて倒れたんだった。
 それ以来、学校には行っていない。行かせてもらえなかった。勉強は家庭教師を雇い、無理のない程度で勉強をしている。
 学校へ通うのはもう諦めた。家庭教師の先生は良い人だし、旅行に出かけるのが趣味らしく、授業の合間に私の知らない外の話をしてくれたり、写真などを見せてくれる。お土産なんかもくれたりした。両親には内緒で。
 それだけでも、私は満足していた。

 両親は私の事を大切にしてくれていた。妹が産まれるまでは。
 自分でいうのもなんだけど、病弱だったというのもあるけど、いつも私の事を気にかけてくれていた。他の子と違って外で遊べない私が退屈しないようにいつもいろんな本を買って来てくれた。私の体調が良い日には無理しない程度で、近場にドライブに連れて行ってくれた。
 それなりに両親の愛情独り占め出来ていたと思う。
 だから、学校へ通えなくても、外で元気に走り回れなくても我慢出来た。
 ところが妹が産まれてから、私の周りは一変した。
 私と違って健康的に産まれた妹は両親にとっての癒しとなり、私は家族のお荷物になった。
 今まで私の事を気にかけてくれていた両親は、私以上に全力で妹に愛情を注ぎ、私には見向きもしなくなっていった。
 私が体調を崩すと、両親の態度はあからさまになり、私に罵倒を浴びせるは暴力を振るう両親。
 いつの間にか、私の身体には痣があちらこちらに出来ていた。どう考えても、身体中に痣があれば、先生や病院の人達は怪しむ。
「自分で転んだと言いなさい。貴女があの子みたいに普通に生まれて来ていたら、こんな事にはならなかったのよ」と、両親に言われて誤魔化してきた。
 両親のしている事は、世間から見て間違ってるけど、今まで私に尽くして来てくれたのだから、私は文句なんて言えない。感謝しかない。だから、余計な事は言わない。
 妹を可愛がる理由も分かるし、私が妹に嫉妬するのはお門違いだ。これ以上親に迷惑をかけたくないのに、嫌われたくないのに、それでも私の思いとは裏腹に身体はいう事を聞かない。

 今回は突然の高熱で痙攣を起こし、緊急入院する事になった。慣れた手つきで両親は入院手続きを済ますと私は一人病室に残される。これもいつもの事。
 私にはお見舞いに来てくれる友達もいない。両親も私の着替えを持って来るだけですぐに帰ってしまう。昔はしばらく一緒に居てくれた事もあった。たわいのない会話をして、今度はどんな本を買って来てほしいか聞かれたり、次体調が良くなったらどこに行きたいとか、今はもうない。
 唯一の楽しみであった大好きな本すらも買って来てくれなくなった。
 本だけが私の唯一の楽しみであり、友達だったから。それ以上の物なんて望んでないのに。

 あれから少し熱が下がり、私はまだ少し怠い身体を起こし、着替えの入った鞄から携帯を取り出した。何年か前に両親が私に与えてくれた。特に連絡する人もいないが、連絡先は両親か家庭教師の先生の名前だけがある。メールが受信されていて、確認すると先生からのメールだった。
 今日は家庭教師の日だった事を思い出す。週に一度だけの先生との楽しい時間。妹が産まれても唯一私への態度が変わらなかった人。
    そんな先生が私のお見舞いに病室来てくれた。

「やあ!体調はどう?」
「大分マシにはなったよ」
「そりゃあ良かった!」
 病室の扉から笑顔で顔だけを覗かせて、いつもの様にブラウン色のフレームの眼鏡をかけ、腰まである長い黒髪を一つに束ねて右肩から前に垂らし、膝下まである長いワンピースを着ている。清楚な感じに見えるけど、中身はちょっと変わった感じの人、明るく元気で私には羨ましい。

「先生、そんな所で話してないで、中に入って来なよ」
「失礼しまーす。いやいや、びっくりしたよ。お家に行ったら、お母様が君は病院で入院だからって」
 先生は困ったように笑いながら病室へ入って来た。
「連絡入れなくてごめんなさい」
「気にしなくて良いよ!また、元気になったら勉強すれば良いんだから。そうそう、はい。これ」
 私が謝ると、そんな事は気にしていないとばかりに手をヒラヒラさせると、ふと何か思い出したように鞄の中から大きな紙袋を私に手渡して来た。

「何これ?」
「入院中は暇だからね。暇つぶしにと思ってプレゼント!」
 ニッコリと笑う先生から紙袋を受け取り、中身を確認すると、紙袋の中にはジャンルがバラバラの本が数冊入っていた。

「ありがとう先生!急だったから、何も本を持って来れなくて、今回の入院は暇になりそうだなと思っていたから嬉しい」
「そう言ってもらえて、こちらも嬉しいよ。君はすぐ読んでしまうから、何冊か選んで買って来たんだけど、あっという間に読み終わりそうだね」
 紙袋を抱きしめながら、私は先生にお礼を言うと、先生は満足そうに笑顔で答えてくれた。
 先生は何かと私の事を気にかけてくれていた。妹が産まれてからは余計に、私に対する両親の態度を知ってからは尚更のこと。
 いつしか先生は、私の中で姉のような存在になっていた。

「何この本…」
「たまには変わった本も面白いかなって思って、感想聞かせてね!」
「『戦闘術を基礎から学ぶ』『簡単筋トレ!貴方もムキムキのボディを手に!』…先生は何を目指してるの?このチョイスはないよ」
 前言撤回したい。先生は、他の人とは違って結構な変わり者だ。どう考えたらこのチョイスになるんだ。読書には不向きの本だよ。
 私が呆れた顔で先生を見ると、またニッコリと笑みを浮かべて肩を叩いた。ちょっと、病人なんだけどなぁ。

「大丈夫大丈夫!ほら、これもあるし『今日から始めるヨガ』とか!君が内緒で身体動かしてるのは知っているし、それならこれはどうかなって思って!」
「な、何で知ってるの…」
 身体が少しでも丈夫になるように、無理しない程度で、家に誰もいない日を見計らって、見よう見まねでプロレスの技を大きなぬいぐるみにかけていた。
 ぬいぐるみの形が変わってきたからかな?バレないようにしていたんだどなぁ。先生にはお見通しのようだった。
 あれから、本の話や旅行の話などをして先生は帰って行った。

 帰り際も、「その本読んで、ストレス発散してね!あっ、でも無理は禁物だから!本も一気に読んじゃ駄目だよー。また来るね!欲しいものとかあったら、気軽に連絡してくれて大丈夫だから」
「ありがとう、先生。ちゃんと連絡するから」
  私はお礼を言って、連絡すると先生に言い聞かすと、先生は満足気に帰って行った。
 いろいろと私の事を心配してくれているんだな。と思うと目頭が熱くなってしまった。誰も居なくなり静寂な病室に戻ると、少し寂しい気持ちになる。
 私は寂しさを紛らわそうと先生から貰った本を一冊手に取り、読み進めていった。



「全部読んでしまった…」
 あれから何時間が経ったかわからない。病み上がりの癖に、いつも本を読み始めると時間を忘れてしまう。携帯の画面を確認すると深夜の2時になっていた。流石にそろそろ寝ないと、体調が良くならないな。先生にも言われてたのに…
 本を片付けると、布団を深く被り、目を閉じたらすぐに睡魔がやって来て、私はそのまま深い眠りについた。
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