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1章

どうでもいい人間

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仕事は失ったが、命は失わなかったし、変な容疑もかけられることはなかった。
とすれば結果論としては僕は影武者の仕事を失ってもよかったのだろう。

しかし、それと僕が黒いローブの男の計画を止めに行かなかったことは全く関係がない。
僕がいっても何も変わらなかっただろうとは思うが……

それはただの言い訳に過ぎない。
僕は止めに行くべきだった。

その罪滅ぼしか、あるいは自己満足のためか。
そのためにはやるべきことをやらなければならない。

適当に女将さんとシャルロッテさんの話を切り上げて僕は宿屋の扉を開けて宿屋の外へと体を繰り出した。

先程は朝に外出したのでそこまで太陽が高い位置になく暑さを感じることはなかったが、あれから幾ばくか時はたってしまっている。

そして低い位置に居た太陽はもう僕の真上でギラギラと輝いている。
うだるような暑さが僕をむしばむ。

やはり僕が猪肉を一度宿屋に戻って手渡したことは正解だったようだ。

こんな暑さで猪肉なんていう生ものを持ち歩いていれば腐ることは間違いないだろう。

「ふーむ さてどこにいるだろうか?」

僕は考えてみる。
しかし王宮が崩壊してしまった今僕は黒いローブの男がどこにいるかなど見当もつかない。

でも……現場に犯人は戻ってくると何かの本を読んだことがある。
一応、崩壊した王宮へと向かうことにしよう。

確かに大通りは人通りが少なかったが、崩壊した王宮へと向かうにつれて人通りは多くなってきた。
見落としてしまっていたようだ。

先に僕に猪肉を売りつけた商人も大通りの人通りを見て誰もが家の中に引き困っていると勘違いして途方に暮れていたのであろう。

まあ、この城下町で一番の大通りに人が全く見受けられなかったのだから奥まで探しに行く気力が失われてしまうのも無理はないだろう。

僕だって商人の立場であれば、そこで探す気力は失せてしまっていた。
王宮に向かうにつれて嘆きの声が響いてくる。

耳に嫌でも泣き声や阿鼻叫喚が耳に伝わってくる。

どうでもいい人間の死を悲しむの憐みの声だが……
耳に入ってくるとどうでもいい人間だろうが、あまりいい気分はしないのである。


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