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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』(67) 早くお母さんのところへ帰ろう。
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第三ラウンド開始早々。
龍太は麻美にプレッシャーをかけると一本背負いから腕挫十字固を見事に決めた。その一連の動きは流れるようで運動神経の良い麻美も防げない。
ギリギリギリ、、、
このアームロック(腕挫十字固)は肘を完全に伸ばされ極ったらまず逃げられない。初回に決めた三角絞めより単純なだけに逆に厄介な技なのだ。
完全に腕が伸び切ってしまえば終わりなので、麻美は目まぐるしく身体をずらし後転しようとしたり龍太の腕の付け根を踵で蹴ろうとした。
龍太は麻美の身体の柔らかさに驚いている。身体の硬い男子相手ならすぐに極っているだろう。
(麻美の関節は二重三重にあるのか?)
同じ柔らかさでも、NOZOMIや奥村美沙子の蛇を思わせるようなものではなく麻美の場合はネコ科の動物を思わせる柔らかさで弾力もある。
それでもギリギリと腕を引き込む。
麻美の顔が苦痛で歪んできた。
ここで龍太の甘さが出てしまう。
麻美の苦痛に耐える顔を見て、遠い日の幼い妹の顔が蘇った。
(このアームロックが完全に極っても麻美は絶対タップしない。妹の腕を折るような残酷なことは出来ない。それにお母さんも見ているんだ...)
そんな龍太の逡巡が隙になったのか?
反応の速い麻美はアームロックから女豹のように抜け出した。
(お兄ちゃん、あそこで思い切れば私の肘関節を破壊出来たかもしれないのに甘いわよ...)
そこからまた打撃戦となった。
麻美のストレートとフックで2度ダウンを奪われているとはいえ、龍太の一発一発のパンチ、キックは重い。
前へ出る龍太に後退しながらもキレの良いパンチ、キックで対抗する麻美。
接近戦になると龍太は、麻美の身体を何度も捕まえ持ち上げるとマットに叩き付けた。何度も何度も叩き付ける。
ダメージを受けた麻美の動きがやや鈍くなってきたようだ。
そこへ首投げから袈裟固めに入る。
天性の身体の柔らかさで必死に逃れようとする麻美だが、妹との試合に向け半年間猛特訓してきた龍太の身体は岩のように頑強で中々逃れられない。
袈裟固めでは極めきれないと思った龍太は仰向けの麻美にマウントを取る。
(これで終わりだ、、あさみ...)
龍太は大きく拳を振り上げた。
そしてそれを妹の顔面に向けて振り下ろそうとした時だった。
また、あの幼く可愛い妹の顔が蘇り、
父源太郎が、母佐知子が、とても悲しそうな顔で見ているような気がした。
(お父さん、お母さん、ごめんなさい。今、僕は麻美の顔を破壊しようとしてしまいました。安心して下さい、僕はアナタたちの愛する麻美の顔を破壊することなんて出来ません。当たり前じゃないですか!こんなに美しく可愛い僕にとっても自慢の妹。その顔に傷付けることなんて出来ませんよ...)
目を覆いながらも、テレビでふたりの戦況をジッと見つめていた佐知子は胸をなでおろした。
(やっぱり龍太は優しい子、、自分の可愛い妹の顔に拳を振り下ろすことなんて出来ない。そういう子だもの...)
マウントパンチを諦めた龍太は次はどう攻めようか?考えていた。
すると、自分の身体が浮き上がったような感覚がした。下になっていた麻美がアマレス特有のブリッジで逃れようとしている。全身バネ、麻美のブリッジは美しく首の力も強い。
そして、龍太がそのブリッジに驚き戸惑っている隙に麻美は逃れた。
麻美の動きは女豹のようでありゴムボールのように伸縮躍動する。
麻美は泣いていた。
兄の優しさに泣いていた。
マウントになった兄が拳を振り上げた時の表情が父源太郎そっくりだった。
兄に乗り移った? 否、父も兄も私のことが大好きなのだ。
勿論、お母さんもそうだ。家族が一番私のことを心配してくれる。
(お兄ちゃんの気持ちは分かります。それでも、この勝負は兄妹の情を捨て全力で倒しに行きます。どっちが勝っても負けても終わったらハグをして、今井さんの車で真っ直ぐお母さんのところへ帰ろうね。お母さん、きっと御節料理作って待ってるよ...)
麻美は分かっていた。
アームロックになった時、マウントパンチの体勢になった時、兄が情のない人なら自分は負けていた。
麻美は二度負けていたのだ。
それを堂島龍太の甘さと人は言う。
違う!甘さじゃなく優しさなの...。
スタンド状態になった時だ。
麻美が高速タックルに出た。
テイクダウンは奪ったがそれは不完全でありマウントに持っていくことは出来ない。素早く立ち上がった兄に麻美は組み付くと両手をその胴にまわし、そのまま後方へ投げ捨てた。
あのダン嶋原を沈めた受け身の取れない超高速反り投げである。
後頭部を強打した龍太がフラフラと立ち上がる。麻美は兄の頭を押さえつけるとそのまま両腕を胴にまわし抱え上げた。兄は妹の肩に担ぎ上げられ天井を向いた格好になっている。女とは思えない恐るべきパワーだ。否、全身のバネと言った方がいいだろう。
妹は兄を頭からマットに叩き付けた。
グシャ!
誰の目にもそれは不自然な角度に落ちたように映った。
「うああああ~~!!」
テレビを観ていた佐知子が叫んだ。
龍太は首が熱くなったような感覚になったが逃げようとする。
う、動けない。。。
(お兄ちゃんの様子がおかしい...)
それでも戦う者の本能か? 麻美は動かない兄に馬乗りになろうとする。
険しい表情のレフェリーが飛び込んで間に入ると手を振った。
龍太の表情を見た彼は即座に「ドクター!ドクター!」と叫んだ。
意識が薄れそうな龍太は(早くお母さんの所へ麻美と一緒に帰らないと...)と考えている。
「お兄ちゃ~~~ん!!」
堂島麻美が泣き叫んでいた。
つづく
・・・・・・・・・・・・・・・・・
この物語予定よりかなり長くなっていますが、あと3~4回で完結予定です。
累計ポイントも10万を超えました。
結末は?最後まで読んで下されば嬉しく思います。
龍太は麻美にプレッシャーをかけると一本背負いから腕挫十字固を見事に決めた。その一連の動きは流れるようで運動神経の良い麻美も防げない。
ギリギリギリ、、、
このアームロック(腕挫十字固)は肘を完全に伸ばされ極ったらまず逃げられない。初回に決めた三角絞めより単純なだけに逆に厄介な技なのだ。
完全に腕が伸び切ってしまえば終わりなので、麻美は目まぐるしく身体をずらし後転しようとしたり龍太の腕の付け根を踵で蹴ろうとした。
龍太は麻美の身体の柔らかさに驚いている。身体の硬い男子相手ならすぐに極っているだろう。
(麻美の関節は二重三重にあるのか?)
同じ柔らかさでも、NOZOMIや奥村美沙子の蛇を思わせるようなものではなく麻美の場合はネコ科の動物を思わせる柔らかさで弾力もある。
それでもギリギリと腕を引き込む。
麻美の顔が苦痛で歪んできた。
ここで龍太の甘さが出てしまう。
麻美の苦痛に耐える顔を見て、遠い日の幼い妹の顔が蘇った。
(このアームロックが完全に極っても麻美は絶対タップしない。妹の腕を折るような残酷なことは出来ない。それにお母さんも見ているんだ...)
そんな龍太の逡巡が隙になったのか?
反応の速い麻美はアームロックから女豹のように抜け出した。
(お兄ちゃん、あそこで思い切れば私の肘関節を破壊出来たかもしれないのに甘いわよ...)
そこからまた打撃戦となった。
麻美のストレートとフックで2度ダウンを奪われているとはいえ、龍太の一発一発のパンチ、キックは重い。
前へ出る龍太に後退しながらもキレの良いパンチ、キックで対抗する麻美。
接近戦になると龍太は、麻美の身体を何度も捕まえ持ち上げるとマットに叩き付けた。何度も何度も叩き付ける。
ダメージを受けた麻美の動きがやや鈍くなってきたようだ。
そこへ首投げから袈裟固めに入る。
天性の身体の柔らかさで必死に逃れようとする麻美だが、妹との試合に向け半年間猛特訓してきた龍太の身体は岩のように頑強で中々逃れられない。
袈裟固めでは極めきれないと思った龍太は仰向けの麻美にマウントを取る。
(これで終わりだ、、あさみ...)
龍太は大きく拳を振り上げた。
そしてそれを妹の顔面に向けて振り下ろそうとした時だった。
また、あの幼く可愛い妹の顔が蘇り、
父源太郎が、母佐知子が、とても悲しそうな顔で見ているような気がした。
(お父さん、お母さん、ごめんなさい。今、僕は麻美の顔を破壊しようとしてしまいました。安心して下さい、僕はアナタたちの愛する麻美の顔を破壊することなんて出来ません。当たり前じゃないですか!こんなに美しく可愛い僕にとっても自慢の妹。その顔に傷付けることなんて出来ませんよ...)
目を覆いながらも、テレビでふたりの戦況をジッと見つめていた佐知子は胸をなでおろした。
(やっぱり龍太は優しい子、、自分の可愛い妹の顔に拳を振り下ろすことなんて出来ない。そういう子だもの...)
マウントパンチを諦めた龍太は次はどう攻めようか?考えていた。
すると、自分の身体が浮き上がったような感覚がした。下になっていた麻美がアマレス特有のブリッジで逃れようとしている。全身バネ、麻美のブリッジは美しく首の力も強い。
そして、龍太がそのブリッジに驚き戸惑っている隙に麻美は逃れた。
麻美の動きは女豹のようでありゴムボールのように伸縮躍動する。
麻美は泣いていた。
兄の優しさに泣いていた。
マウントになった兄が拳を振り上げた時の表情が父源太郎そっくりだった。
兄に乗り移った? 否、父も兄も私のことが大好きなのだ。
勿論、お母さんもそうだ。家族が一番私のことを心配してくれる。
(お兄ちゃんの気持ちは分かります。それでも、この勝負は兄妹の情を捨て全力で倒しに行きます。どっちが勝っても負けても終わったらハグをして、今井さんの車で真っ直ぐお母さんのところへ帰ろうね。お母さん、きっと御節料理作って待ってるよ...)
麻美は分かっていた。
アームロックになった時、マウントパンチの体勢になった時、兄が情のない人なら自分は負けていた。
麻美は二度負けていたのだ。
それを堂島龍太の甘さと人は言う。
違う!甘さじゃなく優しさなの...。
スタンド状態になった時だ。
麻美が高速タックルに出た。
テイクダウンは奪ったがそれは不完全でありマウントに持っていくことは出来ない。素早く立ち上がった兄に麻美は組み付くと両手をその胴にまわし、そのまま後方へ投げ捨てた。
あのダン嶋原を沈めた受け身の取れない超高速反り投げである。
後頭部を強打した龍太がフラフラと立ち上がる。麻美は兄の頭を押さえつけるとそのまま両腕を胴にまわし抱え上げた。兄は妹の肩に担ぎ上げられ天井を向いた格好になっている。女とは思えない恐るべきパワーだ。否、全身のバネと言った方がいいだろう。
妹は兄を頭からマットに叩き付けた。
グシャ!
誰の目にもそれは不自然な角度に落ちたように映った。
「うああああ~~!!」
テレビを観ていた佐知子が叫んだ。
龍太は首が熱くなったような感覚になったが逃げようとする。
う、動けない。。。
(お兄ちゃんの様子がおかしい...)
それでも戦う者の本能か? 麻美は動かない兄に馬乗りになろうとする。
険しい表情のレフェリーが飛び込んで間に入ると手を振った。
龍太の表情を見た彼は即座に「ドクター!ドクター!」と叫んだ。
意識が薄れそうな龍太は(早くお母さんの所へ麻美と一緒に帰らないと...)と考えている。
「お兄ちゃ~~~ん!!」
堂島麻美が泣き叫んでいた。
つづく
・・・・・・・・・・・・・・・・・
この物語予定よりかなり長くなっていますが、あと3~4回で完結予定です。
累計ポイントも10万を超えました。
結末は?最後まで読んで下されば嬉しく思います。
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