女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ

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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』その(41)残酷な光景。

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話を再開します。
週1~2度の更新になると思います。

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妹の麻美がNLFSへ入校してから既に1年半が経っていた。

龍太は高ニ、麻美は中ニの秋である。

その間、麻美は余程NLFSでの格闘技に夢中で取り組んでいたのか?あれだけ母に顔を見せに来い!と言ったのに、入校した年は一度も顔を見せず、久しぶりに見たのは今年の正月だった。
龍太は麻美の顔付きが変わったのを感じた。あのネコ科の猛獣を思わせる獰猛な目は戦士の目だ。

「麻美、あなた目付きが鋭くなったわね。まるで豹みたい...」

母は久しぶりに見る娘にそう言った。
麻美は静かに微笑んでいた。


あれから1年半。
龍太も成長していた。身長は176にも達し筋肉もつき70kg位あるだろう。
相変わらず空手やキックの打撃系格闘技は才能を発揮しており、高校に入っても続けている柔道は、中学時代は都でベスト8が精一杯だったのが、全国大会でベスト16まで勝ち進むまでになった。それでも龍太は満足しない。

このままじゃNOZOMIに勝てない...。

最近、龍太は焦っていた。

龍太の父源太郎にNOZOMIが挑戦したのは彼女がまだ17才女子高生の時だったのだ。その試合で彼女は父を倒し父はそのまま帰らぬ人となった。龍太も現在高ニの17才、あの時のNOZOMIと同じ年齢になっていた。


(今の自分があの時の父に勝てるだろうか? ましてや、あのMMA無差別級日本王者だった渡瀬耕作さんをKO寸前まで追い込んだNOZOMIさんに勝てるのだろうか? 無理だ! 絶対無理だ。あれから7年が経った。NOZOMIさんは30才になったら引退すると公言しているんだ。あと6年で彼女に追いつけるのか? 追いつけなくても彼女に認められせめて戦う資格を得たい...)

今更ながら、龍太はNOZOMIの偉大さを思い知るのであった。


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NLFSに入校してから1年半。
麻美は自分でもかなり成長しているのを自覚している。
入校時167だった身長は更に6cm伸び173近くになり今や生前の父源太郎をも超えていた。これは中学ニ年女子としては結構高く、麻美の運動神経と相俟ってバスケやバレボール部からも勧誘される程だった。それでも麻美は格闘技一筋であった。

大鏡の前で裸になり自分の全身を映してみた。小学生時代とは身体付きが明らかに違う。

NLFSでのトレーニングの日々はカルチャーショックだった。
レスリングや空手を男子に混じって練してきた麻美だったが、ここでのトレーニング方法は全然違った。

「古来からある格闘技におけるノウハウは男子が考えた男子のためのもの。
男女の身体構造、その特徴は全然違うのに女子は戦わないものと決められてきた歴史があるせいか? 女子に合ったトレーニング方法ではありませんでした。男子の考えた伝統的トレーニングで女子が頑張っても限界があると思うのです。女子にも男子より優れた精神面があり、身体能力、個性が少なくありません。筋肉のぶつかり合いで男子と勝負しても勝てません。女子の特徴を生かせば男子打倒は可能です」

それがNOZOMIの基本的考え方。

実際にスクールでトレーニングを積んでみると麻美は心身共にがらっと変わっていった。今まで自分でも気付いていなかった眠っていた女子たる肉体的長所を感じることが出来た。

女子による女子のための、その身体構造に合った科学的トレーニング。

格闘技における女子の能力は今後も進化し続けるだろう。


入校日。
NOZOMIと再会した麻美はそのオーラに一瞬ドキッとしたが、それ以上に感じたのが圧倒的な美しさだった。

「堂島麻美さん、久しぶりね。志望動機は聞いたわよ。早く私が戦いたいと思うほど強くなれればいいわね。それより、あなた怖いほどきれいね...」

(怖いほどきれい?)

その言葉は意外だったがあまり気にすることはなかった。麻美にとっては早く強くなること。NOZOMIが引退するまであと6年しかない。麻美が二十歳を迎えるまでが期限なのだ。

NLFSの方針なのか?
道場以外でのプライベートには立ち入られることはなかった。
スクール内でのイジメや派閥を作ることは絶対に許されない。

しかし、格闘技をやるからといって、恋愛禁止なんていうことはない。
むしろ、大いに恋愛をしてオシャレをしなさい!というのがNOZOMIの考え方なのだ。女は恋をすると弱くなるなんて、男の都合の良い考え方だと思っている。そこで弱くなるようならそこまでの格闘家に過ぎない。


入校早々麻美は寮に入ることになったのだが、二人一部屋で同室になったのはムエタイ天才少女の天海瞳。
彼女は麻美より二つ上だが、道場では競い合い、プライベートでは仲の良い先輩、後輩として日々を過ごした。

麻美は今でも覚えている。
兄、龍太と天海瞳のスパーリングを。あの小さな身体で兄に襲いかかった鬼神のような波状攻撃。
倒されても倒されても立上がり、泣き叫びながら兄に向かっていった負けん気に兄も感動していたことを。

NLFSではプロデビューすると寮を出ることになる。

プロデビューは早ければ16才だ。
天海瞳は中二でプロの男子キックボクサーと戦いKO勝ちしているが、あれはあくまでエキシビションマッチ扱い。
そんな天海瞳はこの夏に16才(高一)にしてデビューを果たした。

相手は同じくキックボクシングプロデビュー戦になる梶村誠。彼は子どもの頃からキックボクサーになるのを夢見てそれを実現した20歳の若者だ。

この試合はダン嶋原も所属し、かつて堂島源太郎も所属したキック団体Sの公式戦として行われた。男子の公式戦に女子選手が出場するということで大変な話題になった。
中二の時にエキシビションとはいえ、
男子キックボクサーをKOした天海瞳は知名度もかなりあった。

かつては肘や首相撲からの膝は禁止されていたSのルールだったが、現在では認められるようになった。

試合は一方的になった。

デビュー戦の対戦相手が女子、それもまだ高一女子高生でガチガチ緊張気味の梶村は動きが鈍かった。
そこへ容赦なく瞳のパンチがローキックが襲いかかってくると、あっという間にコーナーに追い詰められ瞳の鋭角な肘が眉間に炸裂し流血。
ダウン寸前の梶村の様子を見たレフェリーが手を広げ試合ストップ。
梶村はレフェリーにもたれかかるようにその場に倒れ込んでしまった。

1ラウンド、53秒。

ムエタイ少女。衝撃の秒殺TKO勝ち。


かわいそうだったのは梶村誠である。
小さい頃からキックボクサーになることを夢見ていたそのデビュー戦で、まさかの16才少女に屈辱のTKO負け。

泣いていた。

それを客席にいた、彼のデビュー戦を楽しみに地方から観戦しに来ていた両親が呆然として見ていた。両親は息子のデビュー戦の相手が女の子だと知らされずに来たのだ。

残酷で心が痛む光景である。



その後。

「麻美ちゃんも、2年後にデビュー出来ると思うよ。あなた強いもの...」

天海瞳はそう言って寮を出て行った。

代わりに麻美のルームメイトになったのは榊枝美樹という麻美と同い年の少女だった。

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