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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』その(17)悩殺衣装。
しおりを挟むクラシック音楽に乗せて、真っ暗な場内が徐々に明るくなる。花道の向こうから長身のスタイルのいい美女らしきシルエットが浮かび上がってきた。それをスポットライトが照らした。
(実況)
「おおっと、こ、これは、、なんという衣装でしょうか! NOZOMI選手が花道の向こうから現れましたが、、この格好で戦うというのか?」
NOZOMIは全身真紅のスカート状のコスチュームで歩いてくる。
否、これは女子フィギュア選手が競技の時に着用するものではないのか?
(実況)
「まるで、まるで、、フィギュアスケート浅田真央選手が氷上を舞うような衣装に身を包みNOZOMI選手が歩いてきました。これは女子フィギュアスケート選手のような格好だ!」
NOZOMIは日頃から、女を捨てて男のようにマッチョになって強くなっても意味がない。ミニスカートも穿くオシャレな女の子として男性を倒すと言っていた。この姿で屈強な男子格闘家を倒せばかなりのインパクトである。
目を真っ直ぐリングに向け、口元に笑みを浮かべNOZOMIは歩いてくる。
歩く度にフィギュアスケートドレス?スカート部の裾がふわふわ靡く。
時折、立ち止まるとファンの声援に応え、また、真っすぐ歩く。ファッションモデルでもあるNOZOMIの長い手足の運びは美しい。そしてリングイン。
(リングアナ)
「ダン嶋原選手の入場です!」
花道を “ダン嶋原のテーマ曲” に乗せてチームが一丸となるダントレインでやってきた。その表情は、幾分笑みを浮かべていたNOZOMIとは対照的に固いようだ。珍しく緊張しているのか?
(オレは尊敬する堂島源太郎さんや、お互いキック界の為に競い合った盟友村椿和樹さんの為にも絶対勝つ。圧倒的な力でこの女をぶちのめす!)
リングインした嶋原はNOZOMIの姿に目を見張った。
(なんだ! この格好で彼女はファイトするのか? フィギュアスケートみたいな衣装で、これじゃ、キックする度にスカートの裾がチラチラするじゃないか、オレはこんなのと戦うのか?)
それでも気を取り直して彼はこの試合に集中しようと懸命だ。
公に1RKO宣言しているのだ、全神経を集中してゴングと共に一気に倒してしまおうと考えているからだ。
その頃、堂島ファミリーもテレビの前でこの試合を固唾を飲んで見守っていた。なぜか、堂島源太郎のキックトレーナーだった今井も招かれている。
息子の龍太が色々世話になり、龍太も彼にまるで父のように懐いている。
それに今井は独身でもあり、佐知子が誘ったのである。
「今井さん、このキックルールなら嶋原さんが簡単にKOするよね?」
龍太が今井に向かって言うと、今井は幾分考えながら口を開いた。
「そう思うけど、、正直言って不安もあるんだ。NOZOMIの真の実力が分からない。龍太のお父さんと戦った時から3年。あれからかなり進化、強くなっている。練習は常に極秘でマスコミに見せないだろ? 不気味だ。それに嶋原はこのルールで勝っても世間は納得しないと分かっている。だから圧倒的な実力差を見せるために1RKO宣言をしている。罠にかからなければいいけどね。彼女は得体の知れない蛇だ」
「・・・・」
今井の言葉に龍太は不安になった。
そんな龍太とは対照的に、麻美は黙ってテレビに釘付けである。
(実況)
「思えば、3年前の大晦日格闘技戦でダン嶋原はムエタイ王者KSとこのリングで戦い、NOZOMIは堂島源太郎と死闘を繰り広げました。そして、嶋原は23才、女子高生だったNOZOMIも20才になりました。両者はその時からこの日が来る運命だったのでしょう。それにしても、NOZOMIはこのルールでいったいどうやって戦うのか?」
ゴングは鳴った。
一気に決着をつけるべく、嶋原は気持ちをマックスに高めスススッと、カウンターを警戒しながらNOZOMIの懐に入ろうとした。
ギクッ!
嶋原は何だかは分からないが危険を察知して立ち止まった。
これは何だろう? NOZOMIの構えが正統的なキックボクシングのそれとは違うのだ。間合いが、、リズムが違う。
キックボクシングルールなのにキックボクシングをやろうとしていない?
そんな感じを受けるのだ。
例えるならば、そのまま飛び込んで打ち合いに持ち込めばルール無視で組み付かれるような感覚。
(この女、何を考えてやがるんだ?)
この間合い、リズムは、今まで試合でも練習でも一度も感じたことのない感覚。まだ打ち合ってもいないのに瞬時に危険を察知する野生的なカンもダン嶋原の稀有なところなのだ。
(この距離感、リズム感が男と女の感性の違いなのか? 読めない...)
気持ちをマックスに高めていた嶋原だったがその気持を削がれてしまう。
それでも嶋原はNOZOMIの周囲を前後左右軽快なフットワークでまわる。
まるでキックボクシングの構えをしないNOZOMI、この構えは柔術でも柔道でもレスリングでもない。およそ、格闘技、武道の類ではない。
気が付けは一分が過ぎていた。
(このままでは1RKO出来ない...)
様子を見ているだけで全く打ち合おうとしない両者に「ファイト!」と、レフェリーから声が飛んだ。それでもどう出て来るか分からないNOZOMIの不気味さに嶋原は踏み込めずにいた。
NOZOMIも不敵な笑みを浮かべるだけで何もしてくることはない。
“ 虎穴に入らずんば虎児を得ず ”
という、生前の堂島源太郎がよく言っていた諺を思い出した。
そんな堂島は虎穴(蛇穴)に入って、逆に自分が喰らわれてしまったのだが、嶋原は勇気を振り絞って飛び込もうと考えた。このままでは何も進展しないまま1Rが終わってしまう。
(何をオレは恐れているんだ?これはキックルール。ルール無視で掴まえに来られてもオープンフィンガーグローブではなく、普通のボクシンググローブなのだ。第一、ルールを破れば即反則負けだ!何も問題はない)
1Rも半分を経過すると動きがあった。
嶋原はNOZOMIの懐に瞬時に入ると、その顔面にめがけ拳を振るう。両腕でガッチリガードするNOZOMIだが、嶋原の動きは入ったり出たり、右に左にすごいスピードだ。
繰り出すパンチ、キックの切れ味も驚くべきものだ。相当トレーニングを積んでこの試合に臨んだのだろう。
NOZOMIは猛攻を受けながら思った。
(速い! これが10年に1人の天才ダン嶋原なんだわ。堂島さんや村椿さんとは違う。一瞬の油断が命取りになる。正直勝てるという確信はない。でも負けるわけにもいかない)
嶋原のローキックがNOZOMIの長い脚を襲い、ボディーにもパンチが飛ぶ。
コーナーに追い詰められたNOZOMIは防戦一方になった。
(実況)
「嶋原の猛攻です。NOZOMIは何も出来ない。やはり、このルールでは無理だったのか? このまま、宣言通り1Rで決着がついてしまうのか!」
嶋原はこのまま倒して試合を終わらせるつもりだったが、ロープ際でもつれ合っている時だった。
NOZOMIの長い脚が嶋原の脚に引っ掛かった。ちょうど引いたところだったので、嶋原はそのまま後方に躓き尻餅をついた。スリップダウン扱いだ。
その時、嶋原は妙なことを考えそれを必死に打ち消そうとしていた。
リングに上がった時からの違和感なのだが、NOZOMIのリングコスチュームが気になって仕方ない。
コーナーに追い詰め攻めていると、自分はこんな女子フィギュアスケート選手みたいな衣装を着た女を殴っているのか?という罪悪感。悪ぶってはいても、基本、彼はやさしい性格だ。
NOZOMIに脚を引っ掛けられ尻餅をつきながら、彼女の衣装のスカート部の裾がフワッと翻ったのが見えた。
(そんな衣装でオレを悩殺しようっていうのか? リングという戦場へそんな姿で上がりやがって、舐めんな!)
カッとしやすい嶋原の悪い面が出る。
このあと、衝撃的な結末を迎える。
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