女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ

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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』その(12)顔面崩壊。

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2○○○年7月30日。
格闘技運営会社『G』主催の格闘技大会は、今回は話題性に乏しいと言われながらも、玄人受けするカードも多く
○○スーパーアリーナには25000の観衆が詰めかけた。

今回のメインは、前大会であの渡瀬耕作から総合格闘技無差別級日本王者の座を奪った大田原慎二が、その初の防衛戦を行うもの。
そしてなんと言っても注目されるのはケンカ空手少女シルヴィア滝田と、元幕内力士雷豪の、格闘技デビュー戦となる男女シュートマッチ対決。

雷豪は黒のハーフパンツ。シルヴィアは真紅の空手道着に黒帯で入場。
謂わばシルヴィア滝田はNOZOMI軍団所属選手と言ってもよく、そのリング衣装の真紅は軍団のトレードマーク。

試合前の軽量。

雷豪(34) 185.8cm 186.5kg
シルヴィア滝田(18) 174.5cm 68kg

この巨漢元幕内力士と、ケンカ空手少女の異名を持つ女子高生は、リングで向かい合うだけでも狂逸だ。
いったい、どんな戦いになるのか?

(実況)

「さあ! ゴングが鳴った。大きい、これは大きい。こんな人間山脈雷豪を前にシルヴィアはどう戦うのか? 彼女も女子選手としては長身ですが、それより雷豪は11cmも高く、体重はなんと120kg近くも差があるぞ。2人共、今夜が総合格闘技デビュー戦です」

試合は凄惨なものになった...。

雷豪の巨体がぬっとシルヴィアの前に立ち塞がった。
さすがのケンカ空手少女もその巨体に恐怖を感じたようだが、アフリカの血が流れる精悍な褐色の肌、鋭い目に光を放ち下から雷豪を睨みつける。
どうやら覚悟が決まったようである。

雷豪がその巨体を利してシルヴィアにジリジリと近寄って来ようとする。シルヴィアはそんな雷豪の周囲をピョンピョンと飛び跳ねながら軽快なフットワークでまわる。
雷豪が手を伸ばしてつかまえようとした時だ。“ビシッ!” っと鈍い音。
シルヴィアの回し蹴り、ローキックが雷豪の膝を襲った。
しかし、雷豪はビクともせず逆にニヤッと不気味に笑った。これが元幕内力士の強靭な肉体なのか?
それでもシルヴィアは諦めずに雷豪の周囲を飛び跳ねながらその膝を狙って何度もローキックを放った。

雷豪は早くシルヴィアをつかまえてしまいたかった。だが、ピョンピョン動き回られどうしても掴まえることが出来ない。彼の作戦はコーナーに追い詰め至近距離からぶちかましか張り手で倒してしまおうというものだ。そうなれば試合はすぐに終わるだろう。
膝に蹴りを何発も浴びながらも、第1Rも終盤になると雷豪はシルヴィアをコーナーに追い詰めた。

その時だった。

ドスッ!

シルヴィアの正拳突きが雷豪の厚い胸板にまともに突き刺さった。
彼女の正拳突きは強烈で普通なら立っていられないだろう。しかし、そこは元幕内力士の雷豪である。一瞬、顔を顰めさせたが そんなの効いていないと言わんばかりにニヤッと笑った。
すると、シルヴィアはすかさず2発目の正拳突きをその顔面に狙いを定め打ち付けた。雷豪は顎を引いてはいたが眉間に拳がぶち当たった。
しかし、効いていない。逆にシルヴィアの方が顔を歪めたのだった。

立ち合いで頭からぶち当たる力士の頭部は鍛えられており、ケンカ空手とはいっても女子選手の正拳突き程度では倒れるはずもない。
シルヴィアは自分の拳を気にする仕草を見せている。痛めたのだろうか?
こんな巨大な肉の壁を前にどうやって攻略するというのだろうか?
コーナーに追い込まれそうになりながらもシルヴィアは逃げ切ったところで第1R終了のゴングが鳴った。

シルヴィアは雷豪の額の硬さに驚いていた。力士の頑強さは噂には聞いていたが、まるで岩のようである。オープンフィンガーグローブを付けているとはいえ、逆に突いた自分の拳の方に痛みが走った。それでも彼女は相手雷豪の動きが読めてきたように思う。

雷豪は元幕内力士の頑強さを衆人に見せつけたとは思ったが、本当は第1Rで決着を付けたかった。
力士を廃業して3年以上も経ち、この試合に向けてあまり練習もしてこなかった。スタミナが不安なのだ。

(実況)

「さあ! 第2Rのゴングが鳴った。1Rはシルヴィアのローキックが、正拳突きが雷豪の身体を襲いましたが、さすがに元幕内力士の肉体は強靭だ。あまり効いているようには見えません。どうするシルヴィア。雷豪もシルヴィアを掴まえることが出来ない...」

第2Rに入ってもシルヴィアは雷豪の周囲を飛び跳ねながらその膝に蹴りを入れる。それを今まで平然と受けていた雷豪が明らかに嫌な顔をしだした。
雷豪は気付いていた。シルヴィアは左膝ばかりを集中して、ピンポイントで狙い撃ちしている。それがジワジワ効いてきたようなのだ。これ以上蹴られ続ければ膝が持たない。
(早く掴まえてしまわなければ...)

それでもシルヴィアが雷豪の膝を蹴る乾いた音が “ピシッ!” と、聞こえる。雷豪の表情が苦痛に変わった。

第2R後半になると、雷豪の動きが明らかに鈍くなってきた。

(実況)

「これはどうしたことか? 雷豪の息が明らかに上がってきたぞ!スタミナが切れてきたのか? 呼吸が激しくなっています。それに、見て下さい、シルヴィアに蹴られ続けた左膝が赤くなり足を引きずってるぞ。これは立っているのがやっとなのか!?」

それでもシルヴィアは勝負を急ぐことなく慎重に雷豪の周囲を回る。まだまだスタミナは全く衰えていない。

そこで第2R終了のゴングが鳴った。

インターバルの間、雷豪は焦りを感じていた。殆どシルヴィアの身体に触れることすら出来ない。それにこの膝は限界に近くスタミナも切れそうだ。
(このままでは逃げ切られて判定に持ち込まれる。そうなればオレの負けだ。
元幕内力士が判定であっても女子高生に負けたら大変なことになる...)

判定に持ち込まれる?
しかし、それは雷豪の甘い考えだったことを思い知らされることになる。

第3R(最終R)のゴングが鳴った。

足を引きずりながらも、雷豪はスタミナが尽きる前に最後の力を振り絞ってシルヴィアに襲いかかった。
避けようとしたシルヴィアだが、道着の裾を掴まれたようだ。雷豪はもの凄い怪力でそのままシルヴィアの身体を振り回した。倒れるシルヴィア。

雷豪は(ここが勝負だ!)と、倒れているシルヴィアにその巨体で覆い被さろうとした。押しつぶすかギロチンチョークで決着を付けるつもりなのだ。

雷豪が勢いを付けてシルヴィアに覆い被さった、、と、思われたが、既のところでシルヴィアはそれを避けると素早く立ち上がった。

(また逃げられたか?)

雷豪も痛い膝を抱えながらゆっくり立ち上がろうとしたその時だった。

ズドッ!

シルヴィアのサッカーボールキックが雷豪の側頭部に炸裂した。

雷豪は、一瞬意識が飛びそうな感覚を覚えた。(何が起こったんだ?)
それでも戦う男の本能なのか?フラフラっと立ち上がった。

目の前に褐色肌の美少女が拳を構えているのが見えた。

次の瞬間...。

少女の拳が自分の顔面に向かって飛んでくるのを感じた。絶対に鍛えることの出来ない顔面である。

グシャッ!!

鼻骨が折れる、否、鼻が潰れたような不気味で嫌な音がした。
鼻を両手で抑えると、指の間からダラダラと生温かい血が流れている。

尚もシルヴィアは追撃の体勢をとったが、それより先に雷豪が一、二歩後退するとその巨体が崩れ落ちた。

ズドドオオオオ!!

仰向けに倒れた雷豪の上に飛び乗り、マウントになったシルヴィアはその拳を振り上げた。ケンカ空手少女の異名がある彼女は、こういう時に一切躊躇しない。容赦がないのだ。

そこへ、慌ててレフェリーが突っ込んで間に入ると激しく手を振った。
レフェリーストップである。

(実況)

「うわぁ~! これは凄惨な試合になりました。雷豪の鼻が変形しているぞ。大丈夫なのか? リングに血が散っているようだ。驚きました、空手女子高生が元幕内力士を倒しました!」

シルヴィア滝田 (3R1分12秒KO)雷豪 
  

この試合は、ある意味NOZOMIの対堂島源太郎戦、対村椿和樹戦より衝撃が走った。このケンカ空手少女は自分より3倍近く大きな男を倒したのだ。
女子高生が元幕内力士をKOした。
それも顔面を破壊し血の海に沈めた。

試合後のインタビューでシルヴィアは
「私なんかまだまだです。NOZOMIさんは私より遥かに強いんです」と語った。NOZOMIはどれだけ強いのか?

雷豪は鼻骨骨折で手術、蹴られ続けた膝も血栓症になり入院、全治2ヶ月以上の重症であった。

これで、堂島源太郎vsNOZOMIから続く男女対抗シュートマッチは、女子側の4勝1敗である。

“ 男子情けないぞ! どうにかしろ”

そんな声が聞こえてくるのも当然だ。

シルヴィア滝田vs雷豪の試合をテレビで観ていたダン嶋原は思った。

滝田という空手少女が非凡であるのは確かだが、相手の雷豪があまりにも格闘技を舐めているように感じた。
現役を引退して3年以上も経っており、試合に向けて練習もろくにせず、噂では酒ばかり飲んでいたという。

女子高生といっても、シルヴィア滝田は日々真剣に空手に取り組んでいる。
あんなデカいだけの弛んだ身体で彼女の前に立てば殺されるぞ。

何が元幕内力士だ!
大相撲の名を汚しただけじゃないか。

いよいよ俺の出番だな。

ダン嶋原は闘志を燃やすのであった。
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