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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』その(8)スカート付きレオタード。

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『ジェンダー・バトル! 男女対抗シュート・マッチ三番勝負』

ここまでは1勝1敗。

大将戦であるNOZOMIとの試合に臨む村椿和樹は、既にリングの上で彼女の入場を待ち構えていた。

村椿和樹(28)。
42戦39勝(35KO)2敗1分、キックボクシング界ではあのダン嶋原と並ぶスーパースターである。
しかし、この2人は団体が別で交わることはなかった。それがこの夏、団体の威信をかけてのドリームマッチが実現した。キック界のモンスター(村椿)と、天才(嶋原)の対決は大変な話題になった。どちらも絶対負けられない一戦であった。しかし嶋原は超天才であり若さと勢いもあった...。

村椿には団体を背負うプレッシャーがあった。しかし、嶋原のスピードとキレの良いパンチに判定にまで持ち込むのがやっと。完敗だったと思う。

この敗戦によって、村椿の所属する団体『F』のダメージは想像以上に大きく、このままでは嶋原が所属する団体『S』に吸収されかねない。

(もう一度、ダン嶋原と戦いたい)

今度は団体を背負うプレッシャーの中で戦うのではなく村椿和樹本来の力を出し尽くして戦いたい。その上で負けたのなら諦めもつく。
前回は力を出し切れず後悔しかない。

そんな時にNOZOMI関係者から村椿のもとにオファーがあった。彼女はダン嶋原に挑戦していたのだが嶋原は逃げまわっているのだという。

「村椿さんが嶋原さんと再戦したいと仰っていることは知ってます。嶋原さんは私から逃げているかどうかはともかく、少なくとも世間ではそう見ています。どうでしょう? 村椿さんと私とで、嶋原さんの挑戦権を賭けて戦いませんか? 嶋原さんとしても、勝者の挑戦は受けざる得ないと思います」

(何で俺が女なんかと戦わなくてはならないのだ?)と思って、一度は断ったのだが何か政治的な力が加わったのか?
断ることが難しくなってきた。
所属するスタッフの生活もある。村椿和樹は責任感の強い男なのだ。

「ルールは立ち技のみ。グラウンドでの攻防はなし!スタンディングなら打撃も投げも関節技も絞め技もありということでどうでしょうか?」

ふざけるな!と思った。
立ち技のみなんて舐められたものだ。

「受けましょう! 立ち技のみならあっという間に倒してしまいますよ...」

挑戦を受けた村椿に向かってNOZOMIは美しい顔をニコッとさせた。

村椿はうまく乗せられたと思ったものの絶対の自信はある。問題は女子選手と戦うという違和感だけ。
(自分は本気で女を殴ることが、蹴ることが出来るのだろうか? そんな中途半端な気持ちでいけば思いもよらぬ苦戦を強いられる。NOZOMIは危険な相手だとは周囲から聞かされているが...)

リングアナ

「NOZOMI選手の入場です!」

場内が薄暗くなると、スポットライトが花道に照らされた。
奥の方から長身の美女が黒服にサングラスの屈強そうな男2人を従えて現れてきた。クラシック音楽が鳴り響く中、村椿和樹が待ち構えるリングに向かって歩いてくる。NOZOMIである。

(実況)

「今日のNOZOMI選手は鮮やかな真紅のレオタード? ノースリーブに腰まわりはスカート状になってるぞ。まるでバレリーナなのような出で立ちだ。2年前のデビュー戦はセーラー服入場でファンを驚かせましたが、今日は真紅のスカート付レオタードだ!」

村椿和樹はNOZOMIの入場シーンを信じられない思いで見ていた。
2年前に彼女と戦った堂島源太郎の気持ちが分かるような気がする。

(こんなセクシーな女を相手に正常な気持ちで戦えるのだろうか?)

リングに上がったNOZOMIは174cmの村椿より7cmも背が高い。計量では村椿62.5kg NOZOMIは62kgであった。

NOZOMIの全身を見廻すと、真紅のレオタードはフリルのミニスカートが一体となっており、そこから長く伸びた脚は蛇のようにしなやかで美しい。
そんな典型的女の子した格好に、格闘用のオープンフィンガーグローブが不釣り合いであり異様なのだ。

(この女、そんなスカートが付いた真っ赤なレオタードで、スカートひらひらさせながらこの俺を倒そうっていうのか?ふざけるな!)

ゴングは鳴った。

NOZOMIの長い手足がシュルシュルっと伸びて村椿を襲ってきた。
それには構わず村椿はインファイトに持ち込むと、腕でガードするNOZOMIに向かってパンチを繰り出す。
そのままコーナに追い込むと、村椿は一気にNOZOMIを倒すつもりでいた。

(実況)

「これは開始早々村椿和樹の猛攻だ! この試合、村椿選手は第2ラウンドでKOすると宣言していますが、1ラウンドで終わらす勢いだ」

NOZOMIは実は誘っていた。
コーナーに詰められ追い込まれたとみるや、その長い腕を村椿の首にまわすと強引にクリンチから密着技を狙う。首相撲? しかし、その間も与えることなく、村椿はNOZOMIの胸をドン!と突き離し次の攻撃に移った。

恐るべき村椿の体幹、そのフィジカルの強さはNOZOMIの想像を遥かに超えていた。これでは組んでもそう簡単には極められない。寝技なしにどうやって攻略すればいいのだろうか?

(そうでなくちゃ面白くないわね...)

NOZOMIはキック界のスーパースター村椿和樹の手応えにワクワクする思いだ。明らかに2年前の35才だった堂島源太郎とは圧力が違う。パンチ、キックの重さもスピードも全然違う。

2年前のNOZOMI戦で堂島源太郎のセコンドについていた岩崎と今井がこの試合を会場の片隅で観ていた。
あの老いた堂島であっても、ヒットアンドアウェイ作戦が功を奏し残り時間1分まで有利に試合を進めていた。
自らNOZOMIのゾーンに飛び込まなければ判定で勝っていた試合だ。

寝技でも何でもありという総合ルールで戦ってもあれだけ追い込んだのだ。今の村椿和樹は、あの時の堂島源太郎とは比較にならぬほど強い。しかも、寝技なしのスタンディングルールだ。
いかに天才美少女ファイターと謳われたNOZOMIであっても、この試合は分が悪すぎるだろう。

今井も岩崎もよもや村椿和樹が苦戦するなんて考えもしないが、堂島のセコンドについた時に感じたNOZOMI独特の間、リズムが不気味に感じる。彼女には想像を超えた何かがある。

そんな心配を余所に村椿がNOZOMIを追い込んでいる。
NOZOMIの膝にローキックを入れるとガードが下がったところに右ストレートが顔面に決まった。

後方に倒れるNOZOMI。

女子相手に手加減もせず、村椿和樹の恐るべき速攻であった。

ワン、ツー、スリー!

(終わったな!案外大したことなかったな。所詮は女だからな...)

カウントを聞きながら村椿はNOZOMIの手応えのなさに失望する思いだ。

コーナーに戻ろうと後ろを向いたその時であった。

ウオオオオオオ!

場内が湧いている。

NOZOMIがカウント8で立ち上がると村椿に目を向けニヤッと笑いファイティングポーズを取ったからだ。

(なんだ、この女。まだ立ち上がって、俺と戦おうっていうのか?)

村椿は格闘技をするうえで、最も男女差が大きいのは瞬発力と、打撃における打たれ弱さだと思っている。

(あのパンチを喰らえば男だって立っていられないはずだ。なんで女が立ち上がってくるんだ?)

村椿は自分のパンチがNOZOMIに顔面にヒットした時の変な違和感を思い出していた。この女はパンチを受ける瞬間、微妙に身体を左右前後にスウェーしながら急所を外しているのだ。
それによって打撃の衝撃を吸収しているのだ。何ていうカンだろう。

スカート付きレオタード姿のNOZOMIが迫ってきた。村椿和樹は構えた。

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