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その3 セーラー服
しおりを挟む来年大学受験を控える陽介は、その日その資料を探しに友人と神保町の書店に出掛けていた。友人との待ち合わせの時間もあり、寝過ぎた陽介は大急ぎで家を出てきたのだ。
昼近くだった。
スマホにメールが届いているのに気付いた。送信者は孝介。兄だった。
『陽介! おまえ、今朝、部屋の鍵を掛け忘れたまま出掛けただろ? お母さんが部屋を覗くとベッドの上に置いてあるものに気付いた。いいか!覚悟して帰ってこい。何か言い訳を考えておくんだぞ。例えば文化祭で必要だからとかしらばっくれるんだ』
陽介は真っ青になった。
思い出したのだ、、通販で買った白いセーラー服を夏が終わりなのでクリーニングに出した。それを取りに行ってそのままにしておいた。きれいにクリーニングされたそれをビニールから取り出すのが勿体なかった。
今朝、慌ただしく家を出たのでうっかり部屋の鍵を掛け忘れたみたいだ。
ど、どうしよう・・・。
兄には感謝している。
あの日、警察署で兄に自分の女装姿を見られた時は心がパニックになった。
本当のところ兄がどう思っているかは分からない。もし、あの時兄が自分を軽蔑し父や母に話していたら?
真面目一筋保守的な父には殴られていたかもしれない。心配性で神経質な母には病院に連れた行かれたかも...。
陽介は一度は覚悟したのだ。
兄は何も喋らなかった。
そして、メールで知らせてくれた。
何も知らないまま家に帰ったら自分は
大変なことになっていた。
午後3時過ぎ。
友人と駅で別れた陽介は暗い気持ちで家に向かった。
兄の言うとおり文化祭で使うからと言い訳をしようと考えながら。
問題は平然と言えるかどうかだ、陽介は問い詰められると顔に出てしまう。
「ただいまぁ~!」
陽介はドキドキしながらもそっと家に入った。母はキッチンで何やら料理を作っている。陽介がそのまま二階に上がろうとしたその時だった。
「陽介! 部屋に入る前にリビングで待ってなさい。話があるから...」
リビングに入った陽介。
目の前にハンガーに丁寧に吊るされたセーラー服が目に入った。
清潔なはずのセーラー服が、なぜか卑猥なもののように見えた。
呆然と立ち尽くすしかなかった。
(母はなんでわざわざこんな目立つ処にこれを? 信じられない...)
「陽介! これは何なの? アナタの部屋にあったのよ」
「・・・・」
黙っている陽介を、母は睨むようにジッと見ている。陽介は自分の心を落ち着かせようとしていた。
「お、お母さん。何だってこんな処にわざわざ吊るしておくんだ?」
「そんなこと聞いてないの。これがアナタの部屋にあったの。陽介、アナタ男でしょ? それが、どうしてセーラー服なんか持ってるの?」
「お母さん。これはね、、来月行われる文化祭での衣装なんだ。クラスの女子から借りたものをクリーニングに出しておいただけだよ...」
そう言い訳しても母は疑わしそうな目を向けている。
「文化祭でお前はこのセーラー服を着るのかい? 劇かなんかで女子高生の役をするってことなの?」
「まぁ、そんなとこだよ...」
そこへ兄の孝介が二階から降りてリビングに入ってきた。彼は母と弟の修羅場を恐れ自部屋に逃げ込んでいた。陽介が上手く言い訳出来るか心配で部屋の外で聞き耳を立てていた。
「聞こえたけど、やっぱりオレの言うとおりだったでしょ? あの高校は例年女装コンテストの類があるって聞いたことあるからね」
母は半信半疑の表情ながら少し安心したようだった。兄の助け舟に陽介は救われた。頼りになる兄なのだ。
「陽介がオカマになったんじゃないかって心配したんだよ。私の育て方が間違ってたんじゃないかって...」
「お母さん、オカマなんて差別用語だからね。そんなこと他人に言っちゃダメだよ。まぁ、陽介の女装は見てみたいけどな。スタイルいいし、絶対似合うと思うんだ。アハハ!」
それ以上、陽介は問い詰められることはなかった。
その夜、夕食を終えると母は疲れたようで早めに床に就いた。
陽介は兄の部屋をノックした。
「お! 陽介珍しいな。こんな夜遅くどうしたんだ? ま、中に入れ、、」
「お兄ちゃん、今日は助け舟出してくれて助かったよ。あのままお母さんに問い詰め続けられたら顔に出るとこだったんだ。ありがとう」
「そんなことか? お前に女装趣味があることを知ったら、お母さん卒倒するかもしれないからな」
「う、うん...」
厳しい家庭で箱入り娘として育てられた母にしてみれば、女装趣味の男なんて変態との認識しかないだろう。
頑固で保守的な父にしても同じだ。
自分を理解してくれるのは、家族では兄だけだと陽介は思う。
その兄が真剣な顔を向けてきた。
「陽介、さっき、オレはお前のことを女装趣味と言ったけど、本当のところはどうなんだ? 何て言ったっけな、、心と身体の性に違和感があるトランスジェンダーと言ったかな? それとも、単なる女装趣味なのかな?」
「う~ん、、僕にもよく分からないけど多分単なる女装趣味だと思う」
兄は陽介に疑わしそうな目を向ける。
「こんなこと聞いていいかどうか分からないけど、あの、野上君と言ったかな? 彼とはその後どうなったんだ?
答えたくなかったら答えなくてもいいからな。気になってたんだ」
「野上君はあの一件以来、僕を避けてる感じ。進路も別々になると思うし、あの時は興味本位の女装外出をサポートしてもらっただけ。彼も女装の僕は絶対男だとばれないと言ってた...」
「そうか、それだけだったのか、、」
「あ! お兄ちゃん。変なこと想像してたでしょ? 野上君とは何の関係もなかったし、手をつないで歩いただけ。キスなんかしたこともないし、勿論、身体の関係もないから安心して」
兄は陽介のストレートな物言いに、頭をかいて照れていた。そこで陽介にちょっとした悪戯心が湧いた。
「お兄ちゃん、僕の女装姿見た時はどう思った? 可愛いと思った?それとも気持ち悪かったかな?」
「な、なんてこと聞くんだ! まぁ、似合ってるとは思ったよ。気持ち悪いなんて思うもんか...」
「気持ち悪がられてるかも?と思っていたから安心した...。じゃ、デートしたいと思うほど可愛かったかな?」
「兄をからかうな!もう部屋に戻れ」
陽介にはカラオケボックスで自分の方へ向けてきた兄の視線が頭にあった。
(兄は僕を見ていけないことを考えていた? エッチなものを見る目)
「じゃ、部屋に戻るけど、お兄ちゃんに見てもらいたい写真があるから後でメール送るので見てね」
「見てもらいたい写真?...」
陽介は部屋に戻るとあの夏用の白いセーラー服を押入れの奥に仕舞った。
代りに冬用紺のセーラー服を出す。
(これからの季節はこれだね)
陽介は女子制服フェチであり様々な制服を隠し持っていた。
制服以外でも普段着のスカート、ワンピースの類、それからランジェリーや化粧品も隠してあるのだ。
陽介はスマホに目をやった。
(さて、どの画像を送ろうかな?)
孝介は陽介が部屋に戻っても心がざわざわしていた。
“デートしたいほどかわいい?”
図星だった。
陽介はかわいいタイプではなくきれいな美少女タイプだと思う。
(陽介はオレのことを挑発してたのか? まさか、、それじゃ、ホモセクシャルの上に近親相姦になってしまう)
布団に入ろうとすると着信メールが届いた。孝介はそっと開いた。
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