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異世界の現実
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「お疲れ様でした~」
今日のバイトの時間をキッチリと仕事をして交代し食べ物を買ってアパートに帰る。住まいの中には雑多な物ばかりあるが殆ど戦略・戦術ゲームばかりだ。将棋や囲碁などから歴史物のゲームなどそこかしこにある。こういうのには殆どお金をつぎ込んでいる。まぁ、オタクというだろうな。別に変な嗜好があるわけではなく殆ど一人で夢中になれる環境を満喫していて友達も恋人もいない。
「今日はどれで遊ぼうかな~」
これ以上夢中になれるものなど無いため高校をずっとそういう一人で遊んでいた、勝つことに白熱しすぎるため友達も殆どいなかった。卒業してからアルバイトをほどほどにしながら自分の世界に埋没する。
「ええと、このゲームはどんな条件でもクリアしたからPCゲームでもするか」
PCにむかってオンラインゲームを探し始める。
「やっぱり『ガーガス・オルタネイト・システム』だよな~」
いつも遊んでいるゲームを選ぶ。これは徹底的に戦術戦略を競うゲームで既存戦力で敵を壊滅させたり他人が放棄した戦場を代理指揮したりするゲームだ。仮想空間であるがまるで戦場そのものにいるかのように戦場や思考パターンが多彩である。第3勢力を指揮したり完全に詰んである状態のような状況でも代理指揮官としてマネージャーとして入り込める。その貢献度が高ければ高いほどランク付けが高くなりより難関なミッションが与えられる、あまりにリアルすぎるためマニア向けだが中毒性は非常に高い。
「A戦力をこちらに動かしBを誘導してCは・・・、これで脱出成功だ!」
ガッツポーズをとる。作戦は拠点からの脱出ミッションで周囲を囲まれていてほぼ完全に詰み状態の戦場だった。この状態はどう見ても全滅というほどでどんな熟練プレイヤーですら参加しなかったが自分はここに臨時指揮官として息をも吐かせぬ極限状態で指揮して生存者の全員脱出を成功させた。今までで最高ランクの評価点を更新してプレイヤーネームとして登録される。
「『白狼』っと。よし、これで眠れる」
3時間も経っていた、それだけ熱中していたということだ、明日のバイトがあるので眠ることにした。
「青年や」
どこからともなく声が聞こえてくる
「ファッ?」
こっちは眠いんだよ。
「起きるのだ」
空耳ではないようで目を開けると、
「何もない白い平野とは、これはこれは」
全て真っ白で何もない平野だった。塩で出来ているのではないかと思うほど。
「青年、早くこちらの声に応えてくれ」
声の方に振り向くと何か豪華な服装をした初老の男性がいました。
「あんた、誰?」
「おぬし達からすると高位精神体、神様などとも呼ばれているな」
まぁ外見はそんな感じだな。
「その自称神様が極々平凡な自分をどこか分からない場所に連れてきてどうしようというのですか?」
説明を求める。
「実はな・・・」
やや困ったように一つ一つ順序だてて説明される。
「『間引き人』ですか?」
「そなたは誰からも関心をもたれず自分からも関心を買おうとはしない、そういう人物は何らかの形で神隠しや何かで消えてしまうということだな。あぁ、別に死んだわけではないぞ、別の世界へと行き生活しているということじゃな。大半の人がこの世界での生活に馴染めずある分野に突出した人物ばかりなのだ。他の全てを投げ捨ててでも夢中になれる世界なり技術なり知識なり力を求めている」
突出しすぎた人物はどうしても狂ったようにしかならずその処理方法の一つとして別の世界へと渡らせるそうだ。自分にもそれが該当されるそうだ。正直アルバイトの人間関係は良くなく自分の世界に永遠に入り込んで見たいと思うことが頻繁にあった。
「おぬしはゲームなどを通じて卓絶した戦術指揮官としての素質がある。他の世界の神々からそういう人物を招きたいという要請があっての。そこに行ってみぬか?」
「大量虐殺しろと?」
話の内容だとそういうことしか考えられないが。
「い、いや。そこではゲームで言う魔物と呼ばれる脅威があって生活している人間や獣人やエルフなどと言う種族を襲っている。まぁ、ファンタジーな世界ということじゃな。世界中が脅威に晒され優秀な指導者や指揮官などが不足していて別の世界から呼び出してもかまわないという状態だな」
この世界にたいして愛着はないし閉塞感を感じていたのは事実だ。殺し殺される状態など考えたことも無いがこの世界より生きやすいのは間違いない。承諾して恩恵を与えられる。
「この世界にある『ガーガス・オルタネイト・システム』というゲームの権限を全て使えるようにして欲しいのですが」
残念ながら自分には戦闘能力はさほど高くないことが説明された。最低限の能力はあるがむかう世界がどうだか分からないが『ガーガス・オルタネイト・システム』はあらゆるジョブや装備などが作成可能なシステムとして作られている。ゲームにありがちな勇者から現代戦闘戦術装備まで何でも揃っている。
「わかったぞ。ゲームマスターとしての権限と能力を恩恵として与えておく」
この世界の荷物はほぼ全て処分されるそうだ、自分が今まで生きていた存在を完全に消されることに多少迷ったが。
「それじゃ、お願いします」
最低限の生活用品などをバッグに入れて異世界に飛び立つ。
「何だこいつは?」
そこにいたのはいかにも偉そうな服装をした漫画に出てくるような人たちばかり。
「こいつも勇者なのか?スキルなどを見せてもらおう」
そうして中身を確認されるが、
「『奴隷使い』だと!何でこんな最悪な奴が勇者として呼ばれるのだ!」
ゲームステータスを確認する。
ハクロウ 男 ヒューマン 20歳
『奴隷使い』『?????』『?????』
【奴隷化】【洗脳】【元素魔法】【魔道具作成】【高速処理思考】【無限収納】【鞭適性】【?????】【?????」【?????】
他者を奴隷化して戦うジョブ 直接的な戦闘能力は最低レベル
うわ~、どう考えてもクズだわ。これで勇者などと呼ばれたら正気疑うな。現時点で分からないのはロックが掛かっているからだろう。ほかに数人いたがどう考えても場違いなのは違いない。
「あなた達が何者ですか?なぜこの場所にいるのか説明して下さい」
一つ一つ説明されるとモンスターの脅威が世界的に大きくなりすぎて異世界から勇者を召喚したそうだ。他の6人も異世界から来て神々から加護を与えられている。最後に呼び出されたのが自分であり最後の勇者だとか。
「さっさと消えろ!クズめ!」
全員一致でわずかばかりの金を袋に入れて城門から追い出される。
「面倒だなぁ、異世界だとこんなのばかりなのか?」
追い出されてから自分の中身を再確認する
「『ガーガス・オルタネイト・システムマスター』起動!」
そうして世界が一変してゲーム設定を出す。
『?????』→『ガーガス・オルタネイト・システムマスター』
異世界の仮想世界で作り出された究極戦術統合システム
スキル設定から道具作成まで全てを行なえる。小武具から戦術クラスの兵装まで作成可能 原料から道具生産できる ジョブ設定可能 スキル設定可能 全てを自分の影響下に置くことが出来る 奴隷化で戦闘指揮 戦術単位設定可能 etc
【?????】→【世界の理の外にいる者】
この世界の理から外れている者、神々の加護が無いかわりに異世界の力を行使できる 全ステータス異常無効化 レベルおよびステータス上限が無い 治癒魔法無効化 自然回復 反逆者
どうやら神様に頼んだことはきちんと出来るようだ、だけど、自分には直接的な戦闘能力など皆無だ。それ以外が見えないが今の時点ではどうでもいい。
「だからこのジョブなのか」
そういうことならばこのジョブが説明できるのだがどう考えても聞こえはよろしくない。ないのだが、これ以外呼び方が無いのかもしれないな。そうなると戦力確保が必要だ。
「行きたくないし見たくもないけどどうしようもないか」
悩んだが結局『奴隷市場』に行くことにした。そこそこ人の波があり商売として成り立っているようだ、服装は最悪だが健康状態はさほど悪くないのが多い、年齢もバラバラだ。
「お客さん、若いけどここに来た理由は奴隷使いなのかい?」
恰幅がよさそうな男が近づいて話しかける。
「ここでは奴隷がどういう風に呼ばれているのか先に知りたい」
「まぁ、大半が生活環境が苦しくて身売りしたか戦争で負けて罪人となったのがほとんどだね、中には例外もあるけど。大半の使い道が日用的な労働力か戦争での身の回りの世話など様々さ、夜の方のお相手としても使われるけど」
新米だと判断されて説明される。このような商売が成り立つのはよほど経済状態が悪化しなくては無理だ。人道的に見てもよろしくない。
「売り物はあるか?」
「売れるのはこの4人だけだね」
そうして出されたのは手かせ足かせが付いた男の子が一人、女の子が3人だった。
「(全員まだ10代半ばにも満たないじゃないか)」
年齢の低さに驚いたがステータスを確認する。
カイン=ミデラー 男 ヒューマン 13歳
エレン=トリア 女 ヒューマン 12歳
ミリオン=ユーリット 女 エルフ 55歳
ミエスク=テンタクラー 女 ビースト 13歳
全員奴隷なのは間違いない。こういうのがこの世界の現実だとはっきりと自覚させるが相手にもそれなりの理由があるのだろう、顔を見ると恐怖に怯えている。この相手に何をされるのか分からないのだから当然だ。ここで見逃したとしてもこの先どうなるか分からないしそれなら自分が買おうがどうしようが未来は分からない。
「全員でいくらだ?」
値段を聞いて購入することを決める。
「へイッ、全員でこのぐらいです」
値段を紙に書いて出される、すぐさま代金を出して支払う。全員の表情はとても暗い。
「【奴隷化】を持っているから後の事はこちらでおこなう」
そうして4人を【奴隷化】で支配する。ヘッドサークレットを全員がつける
「(どれどれ・・・、4人のことがはっきりと細かくわかるな。ステータスなどはさほど良くないが自分の戦術を徹底させれば問題ないはずだ)」
そうして全員の中身を弄ることにした。
カイン 『槍戦士』
【槍適性】【身体能力強化】【モンスターテイム】【雷属性魔術】
エレン 『剣士』
【剣術】【速度上昇】【風属性魔術】
ミリオン 『精霊術師』
【4大精霊術】【詠唱速度上昇】
ミエスク 『弓戦士』
【弓適性】【鷹の目】【敏捷上昇】
現時点では彼らの戦闘能力は最低レベルより少し上がった程度。これで戦闘などしようものなら真っ先に死ぬだろう。4人に必要な物を与えることにした。
『総合戦術軍団N(ノーマル)』
少人数単位で編成される平均タイプの戦術単位 全員の能力向上 ステータス異常回避 効率化 資源採取 ヒーリングバフ etc
職業に二つ目として登録しておく、これで最低限は仕事が出来るはずだ。後は服装などをどうにかして装備は強化しなければいけないな。
そうして町の中を見て周り服を買い与えて食事を取ることにした。
「食べないの?」
「・・・・・・」
全員無言で食事を見つめている。奴隷という境遇だが衣食住は保障するつもりだ。
「どうして、私達を、買ったのですか?」
ミリオンが聞いてくる。この年で商品として売られるなんて最悪極まりないが、
「自分は奴隷使いだ、なら、その目的も分かるはずだけど」
「・・・ただの使い捨ての道具として、ですか?」
こういう考えは非常に嫌いだ。確かに捨て駒としてならいまできるかもしれないがこの子らの将来をなぜそのように潰さないといけないのだ。こんな状況ではそういう考えになるのかもしれないが無意味に切り捨てる理由など人間としてどうかと思う。
「まずは食事を食え、今後のことはそれから説明する」
彼らは無心で食べ物を腹に収めていく、よほど空腹だったのだろう。次は最低限の装備を買う、殆ど資金が無いから最低レベルの装備だが自分の能力で限界まで強化しておく、能力も経験も無い彼らにはこれが命綱なのだ。
「とりあえず、傭兵ギルドに行く」
必要なモノを揃えてから行くことにした。金を稼がなければ数日で無くなってしまう。
「はい、こちらは傭兵ギルドです。傭兵として活躍したいとの希望ですか?」
そうだと答える。
「人数により小隊、中隊、大隊と変わっていきます。呼び名により戦士系か魔法使い系など様々に分かれ人数を揃えてから登録するのですが何人ですか」
そうして人数を書き込む。
「たった5人で傭兵ですか?」
それで周囲から笑いの声が上がる。
「おいおい兄ちゃんよ、傭兵は金で雇われる過酷な商売だぞ。そんなに子供ばかりでどうにかなる仕事じゃないぞ、平穏に暮らしたいなら他に行くんだな」
あからさまに馬鹿にしているがお前達の方こそ戦力になれるのか?当たり前の反応だが別に気にするまでも無く登録する。《白狼》というこの世界に来る前と同じ名前にした。そして比較的簡単で少人数でも受けられる依頼を取り外に出る。
「とりあえず採取依頼から初めてっと」
近くの森にある素材採取にむかう。
「あった~!」
『ガーガス・オルタネイト・システムマスター』の効果で薬草などが簡単かつ大量に手に入る。【探知】で探して丁寧に扱う。乱暴に取ると品質が下がってしまうからだ。ナイフなどの道具を使い丁寧に取り【無限収納】に入れる。幸いモンスターなどは出てこずかなりの量を取ることが出来た。それをギルドに持っていって換金する。
「いきなりこんなに大量に持ち込んでくる人は初めてです」
どうやらその結果が意外なことに驚いていた。お金を受け取り次の依頼を選ぶ、残念ながら人数的な問題で戦闘で稼ぐことが非常に難しいしある程度下積みが必要なのだ。レベルも低いし。
そうして同じ採集依頼を受けて外に出る。簡単な依頼なので報酬が低く数をこなさないとその日暮らしが精一杯なのだが品質は出来る限り上げているので評判は良いはずだ。
「薬草見つけた~」
「こちらには食用キノコが大量にあります」
「粗悪だけど鉱物発見です」
「この果物はとても美味しそうです」
そうして森に入ると恵みが多くありいくつかは自分らの懐に入れる、量も質も十分すぎるほど確保しているのでこれぐらいは問題ない。焚き火を起こして手に入れた素材や食材を味わうことにした。味付けは塩だけで素っ気ないがそれでも彼らから見ればご馳走だろう、次々と胃の中に入れていく。
「「「「ごちそうさま~」」」」
4人は笑顔で幸せそうだが、
「(やはりというか匂いを嗅ぎつけてきたな、もう少しのんびりしていたいがそうは行かないか)」
未確認の生物が近づいてくる、移動速度から人間ではないはずだ。
「ヒィッ!魔物だぁ!」
カインが大声で叫ぶ、数は10体ほど。全員が驚いているが、
「慌てるな!自分の指揮に従え、必ず勝つぞ!」
大声で叫び怯えや恐れを取り除く。
「『ガーガス・オルタネイト・システム』戦術単位N展開!」
すると自分の周囲に見慣れた画面が多数展開される。こちらの人数は不利だし連携もおぼつかないがやるしかない。
「カインをトップに陣形構築」
彼らに戦闘方法をサークレットを通じて送る。
「「「「何ですかこれは!?」」」」
彼らは突然現れた情報が理解できない、当然だが説明は後だ。うろたえながらも何とか陣形を構築する。
「ミリオンは精霊術で攻撃してミエスクはその援護をしろ、カインが最前線で戦うからエレンはそのサポートと自分らの護衛だ!死にたくなければ頭に入ってくる情報どおりに動け、敵は待ってくれないぞ!」
半ば強制的になるがこのシステムサポートどおりに動けば負傷せずに倒せるはずだ。ミリオンは【ストーン・アロー】などで攻撃してミエスクは弓矢で追撃する。敵の前衛を機先を制して攻撃すると動きに乱れが生まれそこにカインで仕留めに掛かる。後衛を守るためにエレンは側につけておいて遊撃をしてもらう。そうしてしばらくして全ての魔物を倒すことが出来た。
「「「「勝て・・・たの?」」」」
全員無我夢中で戦闘して周囲の様子を見ている余裕など無かったのだろう、全員がペタリと腰を地面に落としてモンスターの死体を見ている。
「(これが魔物か?現時点では自分の戦術の脅威ではないがこれから先を考えるとこの子らの両手を血で汚し死体を積み上げる以外に方法は無い。【奴隷化】を解除したとしてもこの脅威が付きまとうならば安全な場所などどこにもない。例え戦を起こしてでも安全確保が先になるのか)」
残酷な現実だがそれ以外に方法を考えられない、奴隷という商売も戦乱の時代だからこそ成り立っている訳だから予想以上に過酷な時代なのだ。
「(戦力強化に訓練に資金に居場所すらも確保できない・・・、クソッ!今までどれだけ恵まれた場所にいた自分が情けない。こんな自分で彼らを守れるのか?居場所を与えられるのか?こんな殺し合いの日々から逃げ出すことなどもはや出来ない、殺さなければ殺される世界なのだから)」
決意を固める。とりあえず、まずは彼らを労わらないと。
「良く頑張った」
全員にねぎらいの言葉を掛けるがいまだに半信半疑であるようだ、普通ならば安全な場所にいるべきはずなのに。
「「「「フェ~ン!ヒグッ、グスッ」」」」
全員涙で顔がボロボロだ。抱きしめてあげること出来ない自分がもどかしかった。しばらくそうしてから依頼を完了すると夜が訪れる。報酬を多めに貰ったので宿屋で食事を取ってから部屋を一つ借りる。全員一緒なのはどうかと思うがこちらの方が安いのだ。
「あの、先ほどは的確な指揮を出していただき感謝いたします」
一番年長のミリオンがお礼を言ってきた。
「気にしなくて良いよ。元々こういう畑で育ったのだからやるべき仕事をしただけ」
「完全に素人の私達でもモンスターを倒せるほど飛びぬけた指揮官など初めてです、どこか高等軍事訓練学校の卒業者なのですか」
全員興味津々眼を光らせている。
「そんなにご大層な学問も知らないし戦闘指揮だって始めてだよ」
「では、どこから来たのですか?」
そうして考えることしばし。
「空よりも高く星よりも遠い場所から、異邦人とでも言えば良いのかな。あと、呼び方はハクロウでいいよ、差別する気も無いし横暴を働く気も無い。これからよろしく頼むよ」
「「「「うん!」」」」
もっとも大事な信頼が少し上がってとりあえずこの世界に馴染む努力をするのだった。
「システム戦術整理及び展開、現時点で戦力は4人。適性範囲拡大、スキル効果上昇、能力値補正・・・」
全員が眠った後に『ガーガス・オルタネイト・システムマスター』の内容を弄ることにした、ゲームマスター権限があるのでかなり細かく設定できるし改造するにも制限が無い。現時点で彼らを大幅に弄ると問題が大きすぎるので単純に効果が高くする設定にする。
「現時点では分散戦術は使用不可、個別戦闘に持ち込み撃破のみ、魔物の情報を構築・・・」
今の状態では高度な戦術は混乱してしまうから前衛後衛に分けて指揮を執るしか方法が無い上人数が自分を含めて5人なので一人減ればそれだけ負担が大きくなる。戦闘能力が全員低いので強力な個体に出会えば戦死する可能性が大きい。魔物の情報が出来る限り欲しいが大半はゲームと同じパターンが先ほどの戦闘だと感じる。
「(あの程度ならまったくの初心者でも倒せなくは無いけどそれが出来ないほどに情報が出回っていない上に戦術錬度も子供だまし以下、これじゃ他の世界から勇者などを呼びたくもなるか。他の勇者らは直接戦闘が得意そうだがここでは数対数の戦いだから単独戦闘に持ち込むのは難しい)」
他の勇者らのステータスをチラッと見たが単独ならば得意だが集団戦闘は未熟者レベルだ。どうしてだかこの世界は個々の戦闘能力は高いが戦術戦略は未発達というバランスが悪い世界のみたいだ。普通ならば最低限の訓練が必要なはずなのだが。手に入れた薬草から回復薬をそれなりに作り出す。とりあえず、明日あの子達に聞いてみることにして眠りについた.
「この世界では最低限の戦闘訓練はされていないの?」
翌朝、全員を集めて率直に疑問をぶつける。ここまで状況が悪ければ徴兵制も考えていると思うのだが、
「兵役ですか?そんな言葉は始めて聞きます。10歳以上になれば志願兵として従軍できますが基本補給任務しかありませんよ。王族や貴族らはお金を出すだけで訓練は戦闘をした者が仕事としてますが軍学校では基礎訓練だけです。1月もあれば卒業できます」
なんだと!それじゃその後の軍事訓練や教育は個人個人で行なうというのか、なんという無意味な教育方針だ。そんな短時間でまともに育つわけが無い。上から下まで最悪だがこれでよく成り立つのだと思う。
「(この子らは自分に嘘は言えないから本当のことなのだろうな)」
誰もそのことに疑問を出すほうがおかしく感じるのは自分だけなのか?そうだとしたらよほどこの世界は歪んでいる。この世界の神様や教育者はどこまで無責任なのだ。
「どうかしましたか」
「あ・・・いや、もういい。依頼を受けに行こうか」
現実を変えたいのならば力を持つしかない。今のままでは小虫以下なのだ。そうして採取依頼を受けて町を出て森に入る。難易度はさほど高くないはずなのだが【探知】が使えなければ時間がかかり過ぎて報酬と釣り合わないし品質もそれなりに要求されるため乱暴には出来ない。夕方までに4つの依頼をこなしてから宿に戻って所持金を確認する。
「1万ギニーってどれぐらいの価値なの?」
ある程度所持金は貯まったが価値が分からない。
「この地域では1月は暮らしていける程度の金額です。この短期間でこれだけ稼ぐのは非常に難しいですよ、依頼もさほど高度ではないのに報酬が良いのは品質評価が高いせいですね」
ミリオン達がこの世界のことを徐々に教えてくれる。モンスターによる侵攻による生活圏からの追い出しによって数多くの難民が出てしまいその日暮らしすら難しくなり奴隷となり身売りしたことや家族らと離れ離れとなったこと、それに対して子供だからと無力だったことなど話してもらった。彼らとて好きでこんな状態になったわけではない、全ては魔物という脅威が大きすぎて指揮官が判断を誤ったからだ。ただそれだけなのにこれがこの世界の現実だ。
彼らの居場所も生活も守れない指揮官や統治者に殺意が沸くが勇者召喚という方法まで使うほどに難しい状況なのだろう、自分には地位も名声も権力もお金も興味が無い代物だがそれが無くては変えられない事実がそこに存在するのだ。
「(面倒な世界だが現実でもあるし死ねばそこまでなのだ。ただ『突撃しろ!』と言うだけなのか?どう考えてもその辺りが疑問しか浮かばないのはどうしてだ?中世の騎士でもあるまいし少しは現実が見える人物がいてもおかしいないとは思うがどうしたものかな)」
傭兵は金次第結果次第の職業だ。報酬は高いが危険度は高いし子供だと買い叩かれるし仕事が終わっても依頼主から報酬が支払われるとも限らない。国などに常駐しているわけではないから国から金は出ないし健康だって見てくれない。雇用制度から外れている上に治安の悪化などから傭兵からゲリラに身を落としてしまう可能性が大きい。この子らを自力で守る限界はすでに見えてしまっている。新規の奴隷を買う資金もほとんどないしそもそもこんな子供が依頼をこなすこと自体がおかしいのだ。年齢制限が設けられていないので当然だが無駄な存在を増やしているとも取れる。
「(規則の方を変えるとこの子らが路頭に迷うか売られてしまう。法整備が未熟だから仕方ないといえばそれまでだが難民雇用の方法が問題だ)」
世界のシステムに個人で抗うのは不可能なので結局可能な限り奴隷を買い育てて彼らが自立できるようにするしか方法が無いとの結論に達してしまった。
「どうかされましたか?」
依頼を受けてからずっと沈んでいる自分を見て全員が不安そうな顔をしている。依頼は早く確実にこなしているので評判は良いし報酬の払いも確実だがこのままでは行き詰ってしまうことは目に見えていた。モンスター退治の依頼もそろそろ受けてもいいがいまだに迷っていた。
『彼らを戦場に引きずり込んでよいのか』
あれから数日たち何度かモンスターを倒したことで自信と不安が大きくなっていく。このまま彼らを養うだけならば問題はないが奴隷は世界中に腐るほど存在するそうだ。このままではただ使い捨ての道具としか価値が無くなり世界の衰退に繋がってしまうだろう。ただの醜い殺し合いなどさせずにこのままで良いのだろうか?他に救えるはずなのにそれで良いのだろうか?この世界に来る前に道徳が倫理が通用するのか?悩んでも誰も答えてはくれない。自分が奴隷使いということも変わらない。
依頼は順調に終わり奴隷市場の方に行ってみることにした。
「これは!」
そこにいたのは負傷してるのに放置された子供が10人もいたのだ。息も絶え絶えで今にも死にそうだ。
「なんで治療を行なわない!奴隷といえども最低限の安全と生活は保障されているはずだ!」
語気を荒くして奴隷商人に詰め寄るが、
「こいつらは窃盗をして警備兵に拷問された後に売られたんだよ。こっちも治療したいが治療薬は高いし治癒士もいないしこんな子供に暴力を振るいたくはないけどこれが現実なんだよ。回復させても売れる見込みが無いから放置するしか方法がない」
カイン達も同じ年頃の子供が犯罪を犯したからといってここまで乱暴にされたことに怒りが大きい。
「最悪」
全員一致である。
「ハクロウ、どうにかなりませんか?」
彼らを助けて欲しいとの懇願。
「全員買うからいくらだ。この状態のまま買うから値引きして欲しい」
相手も困り果てていたのでかなり割引をしてもらった、すぐさま治療薬などで治すが体の衰弱が激しくしばらく安静にして栄養のある食べ物を食べないと回復は出来ない。健康状態はかなり酷く満足な食事などとっていないのは明らかで窃盗に手を染めてもおかしくは無かった。宿屋の大部屋まで連れて行ってベッドに横たえる。
「あ・・・は・・・ここは?」
「宿屋だよ、奴隷商人から買って治療してここまで連れて来た。とりあえず何か胃に優しい食べ物を用意するよ。事情はその後で聞くから」
そうして大量の食事を振舞うと彼らは泣き出してしまった。いまはそのまま泣かせるのが一番だろう。そうして数日交代で看護するとある程度動けるまでに回復する。
「アタシはミアータ=シェルフ。仲間達を助けてくれてありがとう」
リーダー格の少女がお礼を述べる。
「自分はハクロウ。傭兵で奴隷使いだ。君らを買ったからには奴隷として管理する権利がある、だけど、娼婦のように体を売ったり窃盗などの犯罪はさせない。これからは傭兵として指揮下に入ってもらう」
全員承諾して【奴隷化】でヘッドサークレットをつける。全員にそれぞれ汎用性のあるジョブやスキルなどを与えてから。
「一気に増えたからこれまで以上に稼がないと生活費すら出てこなくなる」
所有権はこちらにあるから窃盗などには二度と手を染めないことを厳命しておく。ここまで増えるとモンスター討伐依頼に手を出すことを決定しなくてはいけない。傭兵ギルドでこの子らを登録してから依頼を受ける、内容は近くの村に出没しているモンスターの討伐依頼だ。数は不明だが農作物などをかなり荒らしているようなので住民が怯えてしまいまともな生活が出来ないことはすぐに考えられた。
「戦術単位Nを全員展開し情報の共用化。NBは右側をNCは左側に布陣、NAは前面に出ろ」
新しく入った子らには強化したダガーぐらいしか現時点では与えられない、指揮官として判断を間違えばすぐさま全滅だ、周囲を警戒しつつ魔物をを倒していく。最低の訓練すらしてないし突然サークレットから入ってくる情報に戸惑うがその通りに動くと無傷でモンスターを倒せることに気づき迅速に馴染んでいく。食料がギリギリなので出来るだけ早く依頼を達成しなくてはいけない。魔物の毛皮や骨や肉など回収できるものは全て手に入れ【無限収納】に入れていき4日かけて全てのモンスターを倒すことが出来た。最後の辺りは満足に食料が手に入らず森の中の食べ物で飢えを凌いだほど危険だった。
「こちらが報酬になります」
傭兵ギルドで3万ギニーを出される。これで当座は凌げるが装備や食料や宿屋代を考えるとそれほど持たないことは確実だ。宿屋に戻らずそのまま外に出て大量の薬草確保に動く。治療薬は作っていたが売値がはんぱなく高いのでこれを大量に作れば使う分にも売る分にも有用だからだ。子供らにひたすら薬草を採集させ『ガーガス・オルタネイト・システムマスター』で鑑定して回復薬を大量に作る。目の前で訳が分からないまま大量の薬草が回復薬に変わっていく姿は異常極まりないが子供らは怖がらない。
「これを持っておけ」
全員に5個ずつ配る。残りを商店に売却すると8万ギニーになった。
「(この子らは食べ盛りだからなぁ)」
食事も宿屋だと高いので自炊してお金を節約しなくてはいけない。基本は麦粥で調味料で味付けする、色々食べさせたいが15人もいると資金がギリギリだ。大鍋をいくつも出して薪で火を起こして調理を開始する。
「いただきま~す」
いままでろくに食べていなかったのだろう、ひたすら無心で腹に収めていく。
「お代わりは大量にあるから」
子供らは皿の中身を食べつくして次から次へと鍋の中身を取っていく。原料が安い麦ではなく米にしたかったしもっとおかずが欲しいのだが今の所持金ではこれが限界だ。チーズや干した食材や栄養価の高い食材なども欲しいし装備なども最低なので欲しい物はキリが無い。今の生活サイクルを崩さずに資金集めと戦力強化などもしないといけないのだから。今日はそうして終わり宿屋に戻る、15人全員が寝泊りできる大部屋一つの代金を支払う、本当は男女分けたいがこの子らを攫ったり脅したりする横暴な輩が現れないとも限らないので2人歩哨に立てて警戒させる。
「(これからどうするか)」
今後のことを考えると稼ぎはギリギリだし頻繁にやると目立ちすぎてしまう。でも、資金が不足している事実は変わらない。もっと稼ぎたいがこの場所では仕事に限界がある。
「ミリオン、どうしたら良いと思う?」
一番年長者の彼女に聞くことにした。今のままではいつか行き詰ってしまうことを嘘偽り無く。
「能力、装備、資金、人材、訓練などを増やしたり施したりするにはこの場所の仕事は少ないし食わせていくためだけでも難しい。しばらく経てば稼ぎすぎていることがバレて他の傭兵が襲い掛かってくることも考えられる。人数は小隊程度だけど訓練を施し指揮に従えば3倍の戦力ほどになれるからもっと稼げる場所を知っているのなら教えて欲しい」
「それならば隣の都市アラールはどうでしょうか?ここより激しい戦場が多く強い傭兵を常時募集してますからここにいるよりは危険度は増しますが稼ぐのにはうってつけです」
まずは情報確認をしてから動くことにした。翌日傭兵ギルドに向かう。
「アラールの現在の状況ですか?」
「うん、人数が増えたからもっと稼げる場所に行こうと思って」
どうせこの王国では最底辺なのだ。移動したとしても何の問題もないし王族らには他の勇者がいるので自分など消えて欲しいだろうし。
「傭兵募集はどこでも行なわれています、あそこは頻繁にモンスターが出没するので常時募集されていますがその人数では評価の判断が難しいと思います。ここの方が安全です」
もっと人数を増やさなければ依頼は受けられても死ぬ危険性が高いことを指摘される。それはまっとうな判断だがもうここではこれ以上稼ぐと悪目立ちすぎることが問題なのだ。結局移動馬車でアラール王国に向かうことにした。
「ふわぁ~」
移動馬車はそれなりの速度で全員を運ぶ、自分以外全員奴隷だが手出しはさせない。4日かけて移動する、幸いモンスターなどは出てこなかった。都市に到着する、町の様子はさほど酷い状態ではなかったが損傷がかなり激しい、戦闘状況は酷いものだとはっきりと分かる。すぐさま傭兵ギルドに向かう。
「ここで依頼を受けたい」
「それならば登録書を見せてください」
確認させる。
「あちらの方に依頼が書いてありますから」
簡素な返事で掲示板の方に行けと促される。
「どれどれ~」
モンスター討伐に護衛に採集と色々あるし依頼数も格段に多い、これならかなりの金額を稼ぐことが出来る。採集依頼を受けてから出て行く。状況が酷いためただ採集依頼でもかなりの額が支払われている。傭兵ギルドに納める分はもちろんだが今後のことを考えると装備もどうにかしなくてはいけない。
「木を何本か切ろう、全員に斧を配るから交代で作業するように」
奴隷らに道具を配り木を切らせる。腕力などが低い子供達しかいないのでまともに戦闘などしたら力負けしてしまう、前衛と後衛の隊を分けるが重装備など出来ないので機動性を重視した装備とするしかない、10本ほど確保してギルドに依頼品を納めてから必要な材料を買い装備作成となる。
「(この子らは非力だから大型の装備だと取り扱うことが出来ない、体格を考えるとギリギリ『クロスボウ』だな、これなら誰でも安定して使えるが弦を強化して威力と飛距離を上げてある程度連続発射も可能にして・・・)」
これを基本装備とする、クロスボウだが普通に作ったのでは装備として不十分なので頭の中で色々弄り改良して製作するとよく分からない物になった、一応描いたとおりに動くが子供にこんな凶悪な装備など持たせたら前世では重大犯罪だと思う。矢は共通規格の物で使える。
『ブラッドライン・クロスボウ』 異世界の知識で製作された武器 威力や射程距離などが格段に向上されているが子供でも取り扱いができるほど簡単で軽い 簡単だが連射機能を備えていて最大10本の矢をストックできる
う~ん、説明を見たがやはり子供に持たせるべきではないがモンスターという脅威を前にそんなことなど言っていられないな。これを10個作成する。それ以外では転売用に回復薬の作成や鉱石の精錬を行なう。これを売りさばいて当座の資金として食料などを買い訓練を施して・・・、あぁ、非常に面倒だ。
翌日、作った装備を渡して適当な的を攻撃させる。
「すご~い、こんなに簡単で軽いのにこんなに威力があるなんて!」
子供らはその威力に驚きの声を上げる。取り扱いが簡単であり強力かつ軽くさらにさほど反動もないという理想的な装備となる、矢筒も装備させ火力不足はほぼ解消された。前衛にも鉄製の装備を揃えているが自分の戦術指揮が無ければあっと言う間に殺されるという事実は変わらない。今日からそれぞれに軍事訓練を付ける、子供だがこれをしてないといざという時に動けないからだ。
子供らは言う事を聞いて訓練に励む、この世界の現実では戦わなくてはその日の安全な食事すら出ないことが分かっているからだ。こんな苛酷な現実などこの世界に来る前は考えたことなどなかった。場所が変われば何もかもが違うのだと実感する。
「よし、モンスターを倒した!」
装備の強化と訓練を施してからモンスターを相手に経験を積む時間を作る、あまりにも大規模な討伐依頼はこなせないが近場にいる簡単な依頼をある程度こなして傭兵団の実績作りをしている、普通に生活させるならば【奴隷化】など必要ないが能力が低いこの子らを食わせていくためにはどうしてもブーストさせなくてはいけない。自分はさほど戦闘はしないが指揮官としての采配は気を抜かない。もし、誰か一人でも死なせれば信頼関係など崩壊してしまう砂の城だからだ。負傷者すら出さずに戦闘を終えるのは非常に難しいしそもそも遥かにモンスターは強いのだ、そんな状態でも通用するのは『ガーガス・オルタネイト・システムマスター』のおかげだろう、目の前で戦闘など始めは戸惑ったが徐々に慣れてきてすぐさま最適な指揮を出せるようになってきた。
ある程度余裕が出来てからこの子らに文字の読み書きや数字の計算を教える、戦術単位で運用しているが今後高度な命令を実行できるようになるには必要不可欠だし教えておくべきだろう、この子らにも最低限自由はある、買い物などもしてもらったりするため騙されないようにしないと。
依頼を達成し続けてお金に余裕ができたので食料などはある程度大目に買う事が出来るようになったので【無限収納】で保存しておく、矢なども再使用出来るものは回収させ使いまわす。資金不足はまだまだ深刻なのだ。採集依頼が基本だがモンスターとの戦闘回数もそれなりに多い、装備の強化は全員分してあるし回復薬も不足させないようにしてある。
「ご飯が出来たよぉ~」
「「「わーい」」」
食べ盛りの子供たちなので大量に作らなくてはいけない、基本は変わってないがある程度チーズなども足して彩りを添える。栄養バランス的な物もあるのでこの世界にはニンニクなども存在していてそれを粥に入れておくく、贅沢は出来ないが食わせていけるぐらいには収入が安定してきた。
「(そろそろモンスターとの戦闘を本格的にしたいが人数的にギリギリなのはどうしたものか・・・、奴隷を増やすか?そうはいっても収入は多少余裕が出来た程度で増やしたら食わせることは難しい。この戦力でどうにかするしかないか。確認したが幸いにもモンスターの危険度はそれほど高くない、最初は多数の敵に戸惑うかもしれないが実戦を重ねれば問題ないだろう)」
食事を嬉しそうに食べ続けている奴隷らを見ながらもっと戦力を増やす判断をする。
次の日から近辺を荒らしまわるモンスター討伐依頼を受ける。ビグベアという熊の魔物を10体討伐するという依頼だ、証拠として耳を取ってくる。森の中を隊列を組んで索的を開始する。
「・・・いませんね」
奴隷らの子供達には緊張の色がはっきりと出ている。普通ならば戦闘になどならず殺されてしまうからだ、奴隷なので命令に逆らうことは絶対に出来ない。探知魔法を使い徐々に森の奥に進んでいくと目標を発見した、数は3体でこちらには気がついていない。
「戦術単位NAを除く全員で周囲を包囲して武器による一斉射撃、各自配置につけ」
単位ごとに分散させ一網打尽にする作戦にする、前衛のNA以外にクロスボウを装備させているのでそれで一斉射撃でダメージを稼ぎ前衛で仕留める、すぐさま命令を出して配置につかせる。それぞれが配置に付いたことを確認してから、
「NB、NC、NDの順に攻撃開始、NAは自分と共に前衛に出るぞ」
敵に向かって時間差攻撃を行なう。
「「「グギャァァア!」」」
3体は突然の攻撃に混乱する。
「目標が沈黙するまで発射を続けろ、矢の補充は順次行なえ」
何本もの矢を打ち込まれる、普通の装備とは格段に威力や射程が長いので大ダメージを与えるのにさほど時間は掛からない。
「NAは前衛に出て一体を囲んで攻撃、他は残りの2体に矢を打ち込み続けろ。味方への誤射は厳禁だ」
NAと共に敵の眼前に出る、かなりの本数を打ち込まれているが絶命させるには至っていない。
「カイン!エレン!」
「「わかってるよ」」
二人はそれぞれ武器を構えて1体に狙いを定める。
「敵は瀕死だが油断するな」
二人で挟むように陣形を取り攻撃していく、残りは魔術などでサポートだ。そうして1体に止めを刺す。
「全単位を残り2体に分け攻撃開始」
そこからは一方的な展開になる、こちらは全員子供だが見事な指揮と武器が優れているためさほど時間が掛からず2体も絶命する。
「NAとNDは周囲を警戒、NBとNCはモンスターを解体だ」
戦闘は負傷者なく終わりモンスターの解体を始める、肉や骨や毛皮など結構な額で売れるので放置するのは非常にもったいない。
全員に【解体】を覚えさせているのでさほど時間が掛からず部位ごとに分けてしまう。それを【無限収納】で仕舞い残りの標的を探すことにした。
残りも見つけるのにさほど時間は掛からず同じ要領で倒す、必要数は全部倒したがもう少し時間に余裕があるので他の得物も探して狩ることにした。兎や鹿型のモンスターを狩って解体して素材にして売りさばくのだ。
「肉って美味しい!」
火を起こして鉄板で焼肉にする、山菜や町で買った野菜も一緒に焼いて食べる。この子らにはモンスターと戦った報酬はきちんと出すべきだろう。肉は中々食べる機会が無い世界だった。交代で警備と入れ替わり全員腹一杯になる。
「町に戻ろうか」
全員幸せそうだがこういう時こそ注意が必要なのだ、警戒を怠らず町まで戻りギルドに報告して報酬を受け取り宿屋まで戻る。
「ふむ、ある程度お金が溜まってきたな」
報酬の額と今までの分のお金を計算する、依頼報酬は短時間で終わらせたので払いは良かった。今後大きな仕事を請けるには人数を増やす必要があるな。
「ミリオン」
「はい」
彼女はここで一番の年長者であり事情もよく知っているので相談相手としていつも話している。
「所持金には余裕が出来初めているが依頼はさほど受けられない、今後を考えればどうすれば良い?」
彼女も悩んでいる、傭兵団は非常に順調だが戦力としての頭数が足りず稼げる依頼を弾かれているのだと言って来た。
「あとどれぐらい増やせば良い」
「最低でも15人で出来れば倍以上は欲しいですね、普通傭兵団は最低でも40人規模からなりますから。そうしたら大規模討伐の依頼斡旋も向こうからしてくれます、問題は・・・」
戦闘要員がほぼ全員子供だということ、だと。その問題はどうしても頭から離れないのだ、大人の戦闘要員も欲しいが奴隷として高額であり子供らに暴行を加える危険性がある、子供だと安いが能力不足であり錬度不足なども考慮しなくてはいけない。
「自分は大人だとか子供だとかで選ぶ気は無いけど経験豊富な大人が欲しいな、指揮能力などが高いのならなおさら欲しい」
ミリオンは非常に意外そうな顔をしていた、どうしたのだろうか?
「あなたはとても優しいですね、普通だと使い捨てて満足に食事などさせることも難しいし暴行を加えるのにまったくしないし」
普通の奴隷使いとは違うと。別にこのぐらいは戦闘の危険や働きを考えれば当然なのだがこの世界はかなり酷いのだと思う。
子供らには訓練をさせている間に奴隷市場にミリオンと一緒に行くことにした。
「いらっしゃい!」
奴隷商人は嫌らしい笑顔をしていた。
「出物はあるか?」
そうして奴隷らを見定める、
「ん?」
そこにいたのはえらく能力が高そうな男が3人と女が2人いた。
「こいつらは」
「お目が高いねぇ。こいつらは元はどこかの騎士団に所属してたんだけど罪人として売られたんだよ。事情なんてどうでも良いが今日目玉品として売ろうかと考えていたんだ」
どうやら朝早く来たことで誰にも目を付けられていないようだった、年齢も若く能力やスキルも高い。
「今買うならいくらだ?」
「旦那は手が早いねぇ」
すぐさま金額を書かれる。
「残念だけどバラ売りできねえ事情があるからこんなもんだよ」
ふむ、値段は良心的だと思うがかなりの高額だ。
「あと子供らを10人奴隷として買うから多少値引きしろ」
子供らは結構売れ残っている場合が多いので向こうにとっても渡りに船だ。大人数買うことになったがまだ所持金には余裕があるのでどうにかなるだろう。【奴隷化】で全員にヘッドサークレットをつけて水洗いし最低限の服を買い与える。
「自分らをどうするつもりだ?」
子供らはミリオンに預けて世話をさせている間に彼らと話をする。
「自分は『奴隷使い』だ。あなたたちがどのような罪を犯して奴隷として売られたかなんてどうでも良い、若く能力が高く他の奴隷の纏め役として大人の奴隷が欲しかったから買っただけ、そちらの事情など分からないし理解する気もないし聞く気も無いが奴隷として買ったのだから仕事はきちんとしてもらう」
「自分らには戦闘以外何も出来ないぞ」
それで良いとだけ言う。
「自分の所に居るのは殆どが子供ばかりだ、彼らの纏め役となり自分の指揮に従ってもらう。これでも傭兵団の長だからモンスターと戦える大人が欲しかったし。先に厳命しておくけど子供らに乱暴を働けば容赦なく罰を与える、さすがにそのままで戦闘は不可能だから最低限の装備を買いに行こうか」
子供らには全員クロスボウを与えて矢筒を装備させればそれで良いがこの人たちにはそれぞれで装備が必要だった。
ジド=ラナール 男 21歳 『騎士』 ヒューマン
ランガ=デル 男 20歳 『騎士』 ヒューマン
フゥ=レゼーナ 男 19歳 『騎士』 ヒューマン
ファラ=パニシェ 女 19歳 『騎士』 ヒューマン
エリス・ヴァニラ=ウェルチ 女 18歳 『司祭』 ヒューマン
能力が高いとは思っていたが男は3人とも騎士だし女の方も治療師がいる、これなら負傷したときに助かる。町の中で装備を買い与える。即日からギルドで依頼を受けて稼いでもらうことを説明する。
そして夜になり部屋でくつろいでいると、
「話がある、ですか?」
買った大人らが全員話があるのだとか。ミリオンらも一緒にと言うと拒否される。そして夜の闇の中に入っていき人気が無い場所まで来る。
「(もしかして自分を殺して奴隷から解放されようと考えているの?)」
嫌な予感がしてきた、買い主を殺せば奴隷から逃げ出すことも可能とは思えるが【奴隷化】で付けられているヘッドサークレットはそれを簡単には許さないし買い主を殺したとしてもそれは外れず死ぬまで苦痛を与え続ける。その苦痛は死ぬよりも辛く自殺は許さないのだ。
冷や汗を流し出すが、
「話があるなら単刀直入にお願い」
冷静に対応する。すると彼らは。
「頼む!エリス様を解放してくれ!」
頭を地面につけてお願いしてきた。そうして1時間かけて彼らの話を聞く。
「ふぅん、元公爵令嬢で聖女様ね。道理で他と比べて違うと思った」
彼らが食事をしていたとき彼女だけ食器の使い方がまるで違っていたのを思い出す、そういう教育を長く教えられていなければ説明できなかったのだ。神殿などで治療方法も学んでいて道理で気品があると思った。
「頼む!不幸にも奴隷として売られたがあなたは他の奴隷使いに比べて格段に優しい、金を支払ったのでどのように扱うのかは自由だが無理を承知でお願いする!」
こちらの態度をよく見てるとは思っていたが彼らは彼女の側近として仕えていて邪魔者として罪を被せて売られたのだ。事情は大体読めるが貴族の身内の争いに負けたのだろう。普通ならば殺されるが何かしらの事情があり奴隷となったのだ。この世界でも流刑のような方法があるようだ。
「理解は出来た」
「ならば!」
彼らは期待するが、
「無理に決まってるでしょ」
残酷だが切り捨てる。こいつらの夢を現実問題として考えれば不可能なのだ。
「今ここで開放したとしよう、彼女はどうやって生きていくの?」
「そ、それは・・・」
反論が出来ないだろう。
「評判が良い彼女なら誰かが保護してくれるの?そいつが悪人ではないという証拠はどこにあるの?女一人でどうやって生きていけるの?お金はどうするの?領地に戻ればどうにかなるの?」
「・・・」
彼らには彼女がもはや帰る場所など無いことが分かっている。
「もし戦争になったら彼女の力には誰がなれるの?誰かしら信頼できるのならば奴隷にならずにすんだはずだよね、味方がいなくなったからこうなっている。それなのに彼女を解放したら容赦なく殺されるよ、それともただの道具として扱われるかしかない。そんな状態で現実なんて変えられない、夢物語をほざくな!」
「だからこうして頼んでいるのではないですか!」
「奴隷が買い主に頼む?何を間違えればそんなことが言える?そんなことは自分自身を買い戻してから言え!自分は慈善で商売はしてない!対等に話したければ金を出せ!!」
奴隷の規則は厳しい。多少人により違うが買い主に十分利益を出さなければ自由など無いし待遇も違う、どれくらいが基本か分からないが最低買値の10倍だ。全員を15万ギニーで買ったから150万ギニーまで貯めるか働かなくては開放されない。
こっちはもうその代金を奴隷商人に支払ったのに何もせずに開放など出来るはずが無い。
「現実を理解したか?自由になりたかったらひたすら働け、それ以外方法は無い」
子供じゃあるましいこれで納得できたはずだが。
「騎士の自分らがこういうことはしたくなかったが」
全員武器を抜いてくる。
「自分を殺しても問題は解決しないよ、むしろ苦しみが増えるだけだ」
「たかが奴隷使いが騎士の自分らに勝てるとでも?」
もはや話し合いは決裂してしまった。
「NAからNDまで命令、敵戦力を無力化しろ」
「なっ!」
自分が何もせずに話していると思っていたのか?カインらにコッソリと命令を出して周囲を囲ませていたのだ。全員掛かりで騎士ら4人を地面に倒す。
「この子供ら、なぜ奴隷使いなどの言う事を聞く!こいつを脅して開放させれば自由になれるのに!」
奴隷使いとはどこまで嫌われているのか?色々考えさせられるが頭が固すぎる。
「この子らには衣食住不足なく与えているからですよ、奴隷なのに普通の住民より待遇が良いですから」
ミリオンらが現れる。
「あなた達も馬鹿なことをしてくれましたね。自分達の価値観だけで判断して相手を見下すのは良くないことですよ。結果を見てからするべきです」
「奴隷使いなど最低の悪職業ではないか!」
もはや理解など出来ないしどうにもならない、能力が高いから買ったのにここまで敵意があると命令違反を行なうのは確実だ。
「もうお前らは必要ない」
子供らからクロスボウを借りる。
「無駄金になるが殺すしかない」
「ヒイッ!」
全員が恐怖に歪む。
「待ってください!」
エリスが腕を掴んで武器を下げるように頼み込む。武器をとりあえず下ろす。
「彼らも完全な悪人ではありません、盲信して世界が見えていないのでしょう」
自分はどうなっても良いから彼らを解放するように頼んでくる。
「彼らの購入費を見逃してある程度のお金を与えてあげる代わりに君の分の借金をその分増やすということでどうかな?」
その答えにうなづく。
「エリス様!そんなことはダメです!あなたは公爵令嬢なのですよ!!」
「妹との後継者争いに敗れた私にはもはや味方はいません、それでも、付いてきたあなた達の忠義は嬉しく思いますが世界の状況は酷い物なのです。もはや貴族だとか奴隷だとか言っている場合ではありません。この子らに聞きましたが非常に優秀な戦術指揮官だそうです。数まかせで押すしか言わない指揮官などもはやどこにも必要ではないでしょう、これは天の采配だと私は思っています」
「でも、こいつは奴隷使いですよ!」
「良いではありませんか、見栄えばかり気を使う貴族らと違い有用か無用かをすぐさま判断する部分は重要ですよ」
「しかし」
「実は先ほど天の声を聞きました。『汝の苦労は天からの試練である、その眼で現実を直視しろ。そなたを買った人物は天の向こう側より来た者、真を持って側にいろ』と。私はこれに従おうと思います」
「そこまでの決意があるのですか」
全員が抵抗を止める。
「ハクロウ様、道を示してください。微力ではありますが出来る限りのことはします」
彼女は地面に頭を下げて頼み込んでくる。
「・・・分かったよ。こいつらはどうするの?」
彼らに解放されて出て行くか奴隷としてここに留まるのか選択肢を与える。
「とりあえず時間は与えるけどできるだけ早くして」
翌朝まで待つことにした。
「我らはハクロウ様に従います」
結局全員奴隷として留まることにしたそうだ。
「買い主を殺そうとしたのだからその分だけ借金が増えているのは当然だからね」
彼らの借金はそのままではない、エリスが買い主に刃を向けたためその分だけ借金を増やすことを受け入れたからだ。普通ならば殺されてもおかしくは無いが彼女は司祭であり貴重な治癒術の使い手であるので殺すのはもったいない。
「「「「エリス様・・・、もうしわけありません・・・」」」」
全員が愚かなことをしてしまったと後悔しているがもはや買い主に刃を向けたことに変わりは無い。こいつらには拘束を強くしておく。
「色々不満や言いたいこともあるだろうし奴隷使いに騎士が従うなど不名誉に違いないかもしれないが傭兵として仕事をしてもらうよ、子供らに乱暴を振舞えばエリスの借金が増えるしそれだけ自由が遠くなる。幸いにもモンスター討伐など傭兵ギルドの依頼は増える一方だから仕事には困らない」
「我らが傭兵とは」
この人達からすると金次第で敵にも味方にもなる野蛮な職業と思っている、一部悪徳傭兵もいると思うがギブアンドテイクであり払うべき物を払えばきちんと仕事をしてくれるプロとも言える。正規軍のように常駐させるお金が無く突然の脅威を排除するために金で臨時の軍隊を使うことなどたいして珍しくない、ただの寄せ集めを用意して無駄死にさせたりするより損失は少ないのだ。
人数が増えたので戦術単位を増やすなどして人数編成をする、戦闘要員の半分以上が子供だが自分が作成した装備を与え時間が経てば馴染むだろう。傭兵ギルドに人数が増えたことを報告すると、
「『白狼』は必要人数と実績を積んだので正式な小隊として認可が下りました、今後は難易度の高い依頼も受けられるようになります」
正式な傭兵部隊としての認可だった、今までより報酬の高い依頼も受けられるようになり都市側から直接依頼なども出てくるようになった。色々依頼を見てから一つの依頼を受ける、近くの山にモンスターが出没して入れなくなったため討伐して欲しいという内容だった、数が多いことを考えて矢等は大量に買い込む。
現場に行くとかなりのモンスターがいる。
「NAからNDまで戦術単位を構築、NEは待機、各自指揮に従え」
単位を出して目標を排除させる、ヘッドサークレットから情報が出されるがNEは大人たちで構成されているため必要に応じて援護させる。
「NAは前に出すぎだ!NBは右側から牽制しろ、NCは左側から回れ、ND!もっと周囲を見てから援護するべき仲間を判断しろ、仲間を殺したいのか」
最適な単位を出しているが訓練時間が足りないのでどうしても情報の誤認が出てしまうし理解不能な子供らも多い、もっと訓練時間を増やしたいが資金不足なので実戦の中でどうにかしなくてはいけないのだ。さらに能力が低い子供ばかりということも問題の増加をしている。恐怖をもてば判断力も鈍るし上手く体も動かない、子供ならばなおさらだ、本当だったらこんなことなどさせたくは無いが自分が出来る事は指揮を執ることだけだ、この子らが自力で食べていけるようにしなくては開放は出来ない。
自分の戦闘能力は最低であり戦力は奴隷らに全て掛かっている。
別に一度命令を出して放置しているわけではない。戦場は生き物、何らかの形で負傷者が出たり予測不可能な敵が現れることもあるからだ。実際に予想外の敵が現れたり戦術を理解できず右往左往する子供らもいるしもっと酷いと恐怖のあまり仲間に誤射したりもする。
すべて訓練不足と理解力の無さで起こっているのだが時間とお金が無いのだ、自分だってド素人にいきなり戦場で戦えなど命令したくないし平和に暮らせるのならばそちらを選ばせるがモンスターの脅威はもはや限界であり満足な生活が出来ず奴隷は増える一方だ。自分は慈善事業でしてるわけではないし金持ちでもない、駒として捨てる気は無いがこの子らがいなければ自分も食えない。衣食住は保障できるように仕事を選び稼いで信頼されるしかない。
傭兵という商売はハイリスクハイリターンなので上手くいけば旨みが多いが不幸だと簡単に依頼金の値切りや未払いが発生してしまう。もっと酷ければ捨て駒扱いにしかならない。
この世界ではどうだか分からないが苛酷な現実が存在している。
「(この子らにも親兄弟はいると思うが身売りするしかないことを考えれば食べていけることだけでも幸せなのかもしれないな)」
戦闘を続ける子供達、大人らを見ていると信じられないような顔をしている。戦闘をが終わりモンスターを解体するのと周囲警戒をする子供らに分ける。
「なぜあのような子供らがここまで強いのですか?」
エリスらが当然聞いてくる。
「多少装備とかあるけど最適な戦術を徹底させただけ、単独では不可能だが頭数を揃えれば自分には出来る、それは見ていて分かった筈だ」
「戦闘とは正面から堂々とするべきだ、一体に複数でかかったり側面や背後から攻撃など論外」
馬鹿の一つ覚えのようにうるさい、それで戦えば無駄な犠牲が出るだろう。
「それじゃあお前達が子供らを指揮して正面から堂々と戦えと言って。果たして、それでモンスターに対抗できるのならね?それとも、子供達を一生面倒見てくれるお金支払ってくれるなら今すぐ開放するよ」
大人らは何もいえない、言ってることではこちらが優位ならともかく不利ならば押し負けるからだ。
「こんな戦術など邪道だ」
「文句があるならお前たちだけで戦って勝手に負傷して勝手に死んで」
こいつらには戦術の重要性がまるで見えていない、馬鹿の一つ覚えの力押しだけだ。よくそれで騎士だと言えるな、いや、騎士だからこそ正々堂々と力で捻じ伏せるという考えなのか。
「お前らには奴隷から解放されるという選択を先に与えておきながら奴隷として留まるのだと言った、それを反故にするとでも?」
「・・・」
意味不明だとでも言いたそうだな。一度見逃したから同じようにしてもらえるとでも思っているのか?
「それじゃあ次はお前らが指揮を執ってみろ」
立場を分からせるしか方法は無かった。次の戦闘で好きにやって見せてもらう。
「突撃~!」
この馬鹿達は装備のことなど考えずに全員正面から不意打ちもせず攻撃を始めた。突然そんな命令を出されて子供らは大混乱し右往左往する、大人らが最前線ではなく後方にいるためさらに問題が大きくなる。結局モンスターに負けてしまい6人ほど子供らが軽く負傷してしまい撤退した後、
「ヒイッ!助けてくれ!」
子供らから敵意を買ってしまった。全員が大人らに武器やクロスボウを向けている。こいつらは自分らの戦力分析すらせず無謀な攻撃を命令して自分らは危険を犯そうとはしなかったのでこの反応は当然の結果だ。エリスは負傷した子供の傷を治している。
「ハクロウ、こいつらを仲間だとは認められません」
カインが子供らを代表して言う。
「あ、あれはお前達が命令に従わなかったせいだ、本当なら勝利していたのだ」
このようなことになったのは子供らの命令無視のせいだと責任転嫁する。それを聞いて子供の一人がクロスボウを足元に発射して警告する。
「騎士である自分らに攻撃するとは身の程知らずが!」
「・・・今は同じ奴隷ではないですか。好き勝手できる自由などありません。ハクロウの的確な指揮に比べて幼稚な子供以下の戦術、もはや敵以外ありません」
全員が武器を構えて『出て行け!』で一致する。
「もう一回奴隷として売るしかないか」
もはや彼らにはここに居場所など存在しない。ここまで問題を起こしたのだから少しでもお金を回収しなければ。
「エリス様、助けてください!」
こいつらはどこまでも甘い、誰かが助けてくれるなんて勇者じゃあるまいし。
「・・・今までご苦労様でした、もう私に付いて来る必要はありませんよ」
エリスは彼らを解放することにした。
「そんな!」
「あなた達の借金は私が返済することにします。愚か者ですがここまでついてきたので最後の面倒を見ます、生きていればどうにかなるのが人生ですから」
寂しそうな表情で断言する。自分に開放するように頼みこむ。ここまで来てしまうとどうにもならないので無駄金になったが【奴隷化】を解除して放り出すしかない。最低限のお金を出しておいた、今後一切関わらないように念を押しておいたが彼らはいまだに未練を持っていて離れようとはせず子供らに武器で攻撃されながら逃げていった。翌日から子供らを指揮して依頼を達成して報酬を受け取る。
訓練を施し依頼をこなす、何度もそれを繰り返して所持金を増やす。まったく利益が出ずに開放したので所持金不足なのだ。
一月かけてなんとか所持金不足は解消したがもう大人らを買うことが出来なくなってしまった、子供らが先の問題で、
「大人など信用できません」
全員が断言したのだ。あのような人たちではなく子供らを買えと。
正直エリスは子供らをよく見ていて色々ケアをしているが大半があんな人たちばかりだとか。それじゃあ嫌悪するのも当然だ。戦力を増やすために奴隷市場に行くと開放した大人らが再び売られていた。
「何でこいつらはまた奴隷として売られているの?」
奴隷商人に聞くと街中で乱暴狼藉を繰り返し無銭飲食から強盗までしたそうだ。警備兵が捕縛して同情の余地が無いと判断して奴隷として売ることにしたそうだ。
彼らはこちらに気づき『助けて欲しい!』と大声を上げるがもはやどうしようもない。
鉱山経営者や豪農などにバラバラに売られていく。今後彼らには強制的な重労働が待っているだろう。
「彼らには残酷ですが現実を見てもらいましょう、もはや夢物語などないのですから」
エリスは少し残念そうな顔をしていた。
新たに10人の子供を買い装備を与えて訓練し依頼をこなす日々を続ける、人数が増えれば食費なども当然増えるのでそれらをギリギリで回しながら資金を蓄えなければいけない。山に入って鉱物を取り森に入って薬草などを取るなど金になるのなら大概の仕事はこなしそれらを自分が回復薬やインゴットにして商人に売りさばく、値段はミリオンやエリスに判断してもらい高値で売れる場所を探してもらう。
気が付くとこの世界で3ヶ月が経っていた。
今日のバイトの時間をキッチリと仕事をして交代し食べ物を買ってアパートに帰る。住まいの中には雑多な物ばかりあるが殆ど戦略・戦術ゲームばかりだ。将棋や囲碁などから歴史物のゲームなどそこかしこにある。こういうのには殆どお金をつぎ込んでいる。まぁ、オタクというだろうな。別に変な嗜好があるわけではなく殆ど一人で夢中になれる環境を満喫していて友達も恋人もいない。
「今日はどれで遊ぼうかな~」
これ以上夢中になれるものなど無いため高校をずっとそういう一人で遊んでいた、勝つことに白熱しすぎるため友達も殆どいなかった。卒業してからアルバイトをほどほどにしながら自分の世界に埋没する。
「ええと、このゲームはどんな条件でもクリアしたからPCゲームでもするか」
PCにむかってオンラインゲームを探し始める。
「やっぱり『ガーガス・オルタネイト・システム』だよな~」
いつも遊んでいるゲームを選ぶ。これは徹底的に戦術戦略を競うゲームで既存戦力で敵を壊滅させたり他人が放棄した戦場を代理指揮したりするゲームだ。仮想空間であるがまるで戦場そのものにいるかのように戦場や思考パターンが多彩である。第3勢力を指揮したり完全に詰んである状態のような状況でも代理指揮官としてマネージャーとして入り込める。その貢献度が高ければ高いほどランク付けが高くなりより難関なミッションが与えられる、あまりにリアルすぎるためマニア向けだが中毒性は非常に高い。
「A戦力をこちらに動かしBを誘導してCは・・・、これで脱出成功だ!」
ガッツポーズをとる。作戦は拠点からの脱出ミッションで周囲を囲まれていてほぼ完全に詰み状態の戦場だった。この状態はどう見ても全滅というほどでどんな熟練プレイヤーですら参加しなかったが自分はここに臨時指揮官として息をも吐かせぬ極限状態で指揮して生存者の全員脱出を成功させた。今までで最高ランクの評価点を更新してプレイヤーネームとして登録される。
「『白狼』っと。よし、これで眠れる」
3時間も経っていた、それだけ熱中していたということだ、明日のバイトがあるので眠ることにした。
「青年や」
どこからともなく声が聞こえてくる
「ファッ?」
こっちは眠いんだよ。
「起きるのだ」
空耳ではないようで目を開けると、
「何もない白い平野とは、これはこれは」
全て真っ白で何もない平野だった。塩で出来ているのではないかと思うほど。
「青年、早くこちらの声に応えてくれ」
声の方に振り向くと何か豪華な服装をした初老の男性がいました。
「あんた、誰?」
「おぬし達からすると高位精神体、神様などとも呼ばれているな」
まぁ外見はそんな感じだな。
「その自称神様が極々平凡な自分をどこか分からない場所に連れてきてどうしようというのですか?」
説明を求める。
「実はな・・・」
やや困ったように一つ一つ順序だてて説明される。
「『間引き人』ですか?」
「そなたは誰からも関心をもたれず自分からも関心を買おうとはしない、そういう人物は何らかの形で神隠しや何かで消えてしまうということだな。あぁ、別に死んだわけではないぞ、別の世界へと行き生活しているということじゃな。大半の人がこの世界での生活に馴染めずある分野に突出した人物ばかりなのだ。他の全てを投げ捨ててでも夢中になれる世界なり技術なり知識なり力を求めている」
突出しすぎた人物はどうしても狂ったようにしかならずその処理方法の一つとして別の世界へと渡らせるそうだ。自分にもそれが該当されるそうだ。正直アルバイトの人間関係は良くなく自分の世界に永遠に入り込んで見たいと思うことが頻繁にあった。
「おぬしはゲームなどを通じて卓絶した戦術指揮官としての素質がある。他の世界の神々からそういう人物を招きたいという要請があっての。そこに行ってみぬか?」
「大量虐殺しろと?」
話の内容だとそういうことしか考えられないが。
「い、いや。そこではゲームで言う魔物と呼ばれる脅威があって生活している人間や獣人やエルフなどと言う種族を襲っている。まぁ、ファンタジーな世界ということじゃな。世界中が脅威に晒され優秀な指導者や指揮官などが不足していて別の世界から呼び出してもかまわないという状態だな」
この世界にたいして愛着はないし閉塞感を感じていたのは事実だ。殺し殺される状態など考えたことも無いがこの世界より生きやすいのは間違いない。承諾して恩恵を与えられる。
「この世界にある『ガーガス・オルタネイト・システム』というゲームの権限を全て使えるようにして欲しいのですが」
残念ながら自分には戦闘能力はさほど高くないことが説明された。最低限の能力はあるがむかう世界がどうだか分からないが『ガーガス・オルタネイト・システム』はあらゆるジョブや装備などが作成可能なシステムとして作られている。ゲームにありがちな勇者から現代戦闘戦術装備まで何でも揃っている。
「わかったぞ。ゲームマスターとしての権限と能力を恩恵として与えておく」
この世界の荷物はほぼ全て処分されるそうだ、自分が今まで生きていた存在を完全に消されることに多少迷ったが。
「それじゃ、お願いします」
最低限の生活用品などをバッグに入れて異世界に飛び立つ。
「何だこいつは?」
そこにいたのはいかにも偉そうな服装をした漫画に出てくるような人たちばかり。
「こいつも勇者なのか?スキルなどを見せてもらおう」
そうして中身を確認されるが、
「『奴隷使い』だと!何でこんな最悪な奴が勇者として呼ばれるのだ!」
ゲームステータスを確認する。
ハクロウ 男 ヒューマン 20歳
『奴隷使い』『?????』『?????』
【奴隷化】【洗脳】【元素魔法】【魔道具作成】【高速処理思考】【無限収納】【鞭適性】【?????】【?????」【?????】
他者を奴隷化して戦うジョブ 直接的な戦闘能力は最低レベル
うわ~、どう考えてもクズだわ。これで勇者などと呼ばれたら正気疑うな。現時点で分からないのはロックが掛かっているからだろう。ほかに数人いたがどう考えても場違いなのは違いない。
「あなた達が何者ですか?なぜこの場所にいるのか説明して下さい」
一つ一つ説明されるとモンスターの脅威が世界的に大きくなりすぎて異世界から勇者を召喚したそうだ。他の6人も異世界から来て神々から加護を与えられている。最後に呼び出されたのが自分であり最後の勇者だとか。
「さっさと消えろ!クズめ!」
全員一致でわずかばかりの金を袋に入れて城門から追い出される。
「面倒だなぁ、異世界だとこんなのばかりなのか?」
追い出されてから自分の中身を再確認する
「『ガーガス・オルタネイト・システムマスター』起動!」
そうして世界が一変してゲーム設定を出す。
『?????』→『ガーガス・オルタネイト・システムマスター』
異世界の仮想世界で作り出された究極戦術統合システム
スキル設定から道具作成まで全てを行なえる。小武具から戦術クラスの兵装まで作成可能 原料から道具生産できる ジョブ設定可能 スキル設定可能 全てを自分の影響下に置くことが出来る 奴隷化で戦闘指揮 戦術単位設定可能 etc
【?????】→【世界の理の外にいる者】
この世界の理から外れている者、神々の加護が無いかわりに異世界の力を行使できる 全ステータス異常無効化 レベルおよびステータス上限が無い 治癒魔法無効化 自然回復 反逆者
どうやら神様に頼んだことはきちんと出来るようだ、だけど、自分には直接的な戦闘能力など皆無だ。それ以外が見えないが今の時点ではどうでもいい。
「だからこのジョブなのか」
そういうことならばこのジョブが説明できるのだがどう考えても聞こえはよろしくない。ないのだが、これ以外呼び方が無いのかもしれないな。そうなると戦力確保が必要だ。
「行きたくないし見たくもないけどどうしようもないか」
悩んだが結局『奴隷市場』に行くことにした。そこそこ人の波があり商売として成り立っているようだ、服装は最悪だが健康状態はさほど悪くないのが多い、年齢もバラバラだ。
「お客さん、若いけどここに来た理由は奴隷使いなのかい?」
恰幅がよさそうな男が近づいて話しかける。
「ここでは奴隷がどういう風に呼ばれているのか先に知りたい」
「まぁ、大半が生活環境が苦しくて身売りしたか戦争で負けて罪人となったのがほとんどだね、中には例外もあるけど。大半の使い道が日用的な労働力か戦争での身の回りの世話など様々さ、夜の方のお相手としても使われるけど」
新米だと判断されて説明される。このような商売が成り立つのはよほど経済状態が悪化しなくては無理だ。人道的に見てもよろしくない。
「売り物はあるか?」
「売れるのはこの4人だけだね」
そうして出されたのは手かせ足かせが付いた男の子が一人、女の子が3人だった。
「(全員まだ10代半ばにも満たないじゃないか)」
年齢の低さに驚いたがステータスを確認する。
カイン=ミデラー 男 ヒューマン 13歳
エレン=トリア 女 ヒューマン 12歳
ミリオン=ユーリット 女 エルフ 55歳
ミエスク=テンタクラー 女 ビースト 13歳
全員奴隷なのは間違いない。こういうのがこの世界の現実だとはっきりと自覚させるが相手にもそれなりの理由があるのだろう、顔を見ると恐怖に怯えている。この相手に何をされるのか分からないのだから当然だ。ここで見逃したとしてもこの先どうなるか分からないしそれなら自分が買おうがどうしようが未来は分からない。
「全員でいくらだ?」
値段を聞いて購入することを決める。
「へイッ、全員でこのぐらいです」
値段を紙に書いて出される、すぐさま代金を出して支払う。全員の表情はとても暗い。
「【奴隷化】を持っているから後の事はこちらでおこなう」
そうして4人を【奴隷化】で支配する。ヘッドサークレットを全員がつける
「(どれどれ・・・、4人のことがはっきりと細かくわかるな。ステータスなどはさほど良くないが自分の戦術を徹底させれば問題ないはずだ)」
そうして全員の中身を弄ることにした。
カイン 『槍戦士』
【槍適性】【身体能力強化】【モンスターテイム】【雷属性魔術】
エレン 『剣士』
【剣術】【速度上昇】【風属性魔術】
ミリオン 『精霊術師』
【4大精霊術】【詠唱速度上昇】
ミエスク 『弓戦士』
【弓適性】【鷹の目】【敏捷上昇】
現時点では彼らの戦闘能力は最低レベルより少し上がった程度。これで戦闘などしようものなら真っ先に死ぬだろう。4人に必要な物を与えることにした。
『総合戦術軍団N(ノーマル)』
少人数単位で編成される平均タイプの戦術単位 全員の能力向上 ステータス異常回避 効率化 資源採取 ヒーリングバフ etc
職業に二つ目として登録しておく、これで最低限は仕事が出来るはずだ。後は服装などをどうにかして装備は強化しなければいけないな。
そうして町の中を見て周り服を買い与えて食事を取ることにした。
「食べないの?」
「・・・・・・」
全員無言で食事を見つめている。奴隷という境遇だが衣食住は保障するつもりだ。
「どうして、私達を、買ったのですか?」
ミリオンが聞いてくる。この年で商品として売られるなんて最悪極まりないが、
「自分は奴隷使いだ、なら、その目的も分かるはずだけど」
「・・・ただの使い捨ての道具として、ですか?」
こういう考えは非常に嫌いだ。確かに捨て駒としてならいまできるかもしれないがこの子らの将来をなぜそのように潰さないといけないのだ。こんな状況ではそういう考えになるのかもしれないが無意味に切り捨てる理由など人間としてどうかと思う。
「まずは食事を食え、今後のことはそれから説明する」
彼らは無心で食べ物を腹に収めていく、よほど空腹だったのだろう。次は最低限の装備を買う、殆ど資金が無いから最低レベルの装備だが自分の能力で限界まで強化しておく、能力も経験も無い彼らにはこれが命綱なのだ。
「とりあえず、傭兵ギルドに行く」
必要なモノを揃えてから行くことにした。金を稼がなければ数日で無くなってしまう。
「はい、こちらは傭兵ギルドです。傭兵として活躍したいとの希望ですか?」
そうだと答える。
「人数により小隊、中隊、大隊と変わっていきます。呼び名により戦士系か魔法使い系など様々に分かれ人数を揃えてから登録するのですが何人ですか」
そうして人数を書き込む。
「たった5人で傭兵ですか?」
それで周囲から笑いの声が上がる。
「おいおい兄ちゃんよ、傭兵は金で雇われる過酷な商売だぞ。そんなに子供ばかりでどうにかなる仕事じゃないぞ、平穏に暮らしたいなら他に行くんだな」
あからさまに馬鹿にしているがお前達の方こそ戦力になれるのか?当たり前の反応だが別に気にするまでも無く登録する。《白狼》というこの世界に来る前と同じ名前にした。そして比較的簡単で少人数でも受けられる依頼を取り外に出る。
「とりあえず採取依頼から初めてっと」
近くの森にある素材採取にむかう。
「あった~!」
『ガーガス・オルタネイト・システムマスター』の効果で薬草などが簡単かつ大量に手に入る。【探知】で探して丁寧に扱う。乱暴に取ると品質が下がってしまうからだ。ナイフなどの道具を使い丁寧に取り【無限収納】に入れる。幸いモンスターなどは出てこずかなりの量を取ることが出来た。それをギルドに持っていって換金する。
「いきなりこんなに大量に持ち込んでくる人は初めてです」
どうやらその結果が意外なことに驚いていた。お金を受け取り次の依頼を選ぶ、残念ながら人数的な問題で戦闘で稼ぐことが非常に難しいしある程度下積みが必要なのだ。レベルも低いし。
そうして同じ採集依頼を受けて外に出る。簡単な依頼なので報酬が低く数をこなさないとその日暮らしが精一杯なのだが品質は出来る限り上げているので評判は良いはずだ。
「薬草見つけた~」
「こちらには食用キノコが大量にあります」
「粗悪だけど鉱物発見です」
「この果物はとても美味しそうです」
そうして森に入ると恵みが多くありいくつかは自分らの懐に入れる、量も質も十分すぎるほど確保しているのでこれぐらいは問題ない。焚き火を起こして手に入れた素材や食材を味わうことにした。味付けは塩だけで素っ気ないがそれでも彼らから見ればご馳走だろう、次々と胃の中に入れていく。
「「「「ごちそうさま~」」」」
4人は笑顔で幸せそうだが、
「(やはりというか匂いを嗅ぎつけてきたな、もう少しのんびりしていたいがそうは行かないか)」
未確認の生物が近づいてくる、移動速度から人間ではないはずだ。
「ヒィッ!魔物だぁ!」
カインが大声で叫ぶ、数は10体ほど。全員が驚いているが、
「慌てるな!自分の指揮に従え、必ず勝つぞ!」
大声で叫び怯えや恐れを取り除く。
「『ガーガス・オルタネイト・システム』戦術単位N展開!」
すると自分の周囲に見慣れた画面が多数展開される。こちらの人数は不利だし連携もおぼつかないがやるしかない。
「カインをトップに陣形構築」
彼らに戦闘方法をサークレットを通じて送る。
「「「「何ですかこれは!?」」」」
彼らは突然現れた情報が理解できない、当然だが説明は後だ。うろたえながらも何とか陣形を構築する。
「ミリオンは精霊術で攻撃してミエスクはその援護をしろ、カインが最前線で戦うからエレンはそのサポートと自分らの護衛だ!死にたくなければ頭に入ってくる情報どおりに動け、敵は待ってくれないぞ!」
半ば強制的になるがこのシステムサポートどおりに動けば負傷せずに倒せるはずだ。ミリオンは【ストーン・アロー】などで攻撃してミエスクは弓矢で追撃する。敵の前衛を機先を制して攻撃すると動きに乱れが生まれそこにカインで仕留めに掛かる。後衛を守るためにエレンは側につけておいて遊撃をしてもらう。そうしてしばらくして全ての魔物を倒すことが出来た。
「「「「勝て・・・たの?」」」」
全員無我夢中で戦闘して周囲の様子を見ている余裕など無かったのだろう、全員がペタリと腰を地面に落としてモンスターの死体を見ている。
「(これが魔物か?現時点では自分の戦術の脅威ではないがこれから先を考えるとこの子らの両手を血で汚し死体を積み上げる以外に方法は無い。【奴隷化】を解除したとしてもこの脅威が付きまとうならば安全な場所などどこにもない。例え戦を起こしてでも安全確保が先になるのか)」
残酷な現実だがそれ以外に方法を考えられない、奴隷という商売も戦乱の時代だからこそ成り立っている訳だから予想以上に過酷な時代なのだ。
「(戦力強化に訓練に資金に居場所すらも確保できない・・・、クソッ!今までどれだけ恵まれた場所にいた自分が情けない。こんな自分で彼らを守れるのか?居場所を与えられるのか?こんな殺し合いの日々から逃げ出すことなどもはや出来ない、殺さなければ殺される世界なのだから)」
決意を固める。とりあえず、まずは彼らを労わらないと。
「良く頑張った」
全員にねぎらいの言葉を掛けるがいまだに半信半疑であるようだ、普通ならば安全な場所にいるべきはずなのに。
「「「「フェ~ン!ヒグッ、グスッ」」」」
全員涙で顔がボロボロだ。抱きしめてあげること出来ない自分がもどかしかった。しばらくそうしてから依頼を完了すると夜が訪れる。報酬を多めに貰ったので宿屋で食事を取ってから部屋を一つ借りる。全員一緒なのはどうかと思うがこちらの方が安いのだ。
「あの、先ほどは的確な指揮を出していただき感謝いたします」
一番年長のミリオンがお礼を言ってきた。
「気にしなくて良いよ。元々こういう畑で育ったのだからやるべき仕事をしただけ」
「完全に素人の私達でもモンスターを倒せるほど飛びぬけた指揮官など初めてです、どこか高等軍事訓練学校の卒業者なのですか」
全員興味津々眼を光らせている。
「そんなにご大層な学問も知らないし戦闘指揮だって始めてだよ」
「では、どこから来たのですか?」
そうして考えることしばし。
「空よりも高く星よりも遠い場所から、異邦人とでも言えば良いのかな。あと、呼び方はハクロウでいいよ、差別する気も無いし横暴を働く気も無い。これからよろしく頼むよ」
「「「「うん!」」」」
もっとも大事な信頼が少し上がってとりあえずこの世界に馴染む努力をするのだった。
「システム戦術整理及び展開、現時点で戦力は4人。適性範囲拡大、スキル効果上昇、能力値補正・・・」
全員が眠った後に『ガーガス・オルタネイト・システムマスター』の内容を弄ることにした、ゲームマスター権限があるのでかなり細かく設定できるし改造するにも制限が無い。現時点で彼らを大幅に弄ると問題が大きすぎるので単純に効果が高くする設定にする。
「現時点では分散戦術は使用不可、個別戦闘に持ち込み撃破のみ、魔物の情報を構築・・・」
今の状態では高度な戦術は混乱してしまうから前衛後衛に分けて指揮を執るしか方法が無い上人数が自分を含めて5人なので一人減ればそれだけ負担が大きくなる。戦闘能力が全員低いので強力な個体に出会えば戦死する可能性が大きい。魔物の情報が出来る限り欲しいが大半はゲームと同じパターンが先ほどの戦闘だと感じる。
「(あの程度ならまったくの初心者でも倒せなくは無いけどそれが出来ないほどに情報が出回っていない上に戦術錬度も子供だまし以下、これじゃ他の世界から勇者などを呼びたくもなるか。他の勇者らは直接戦闘が得意そうだがここでは数対数の戦いだから単独戦闘に持ち込むのは難しい)」
他の勇者らのステータスをチラッと見たが単独ならば得意だが集団戦闘は未熟者レベルだ。どうしてだかこの世界は個々の戦闘能力は高いが戦術戦略は未発達というバランスが悪い世界のみたいだ。普通ならば最低限の訓練が必要なはずなのだが。手に入れた薬草から回復薬をそれなりに作り出す。とりあえず、明日あの子達に聞いてみることにして眠りについた.
「この世界では最低限の戦闘訓練はされていないの?」
翌朝、全員を集めて率直に疑問をぶつける。ここまで状況が悪ければ徴兵制も考えていると思うのだが、
「兵役ですか?そんな言葉は始めて聞きます。10歳以上になれば志願兵として従軍できますが基本補給任務しかありませんよ。王族や貴族らはお金を出すだけで訓練は戦闘をした者が仕事としてますが軍学校では基礎訓練だけです。1月もあれば卒業できます」
なんだと!それじゃその後の軍事訓練や教育は個人個人で行なうというのか、なんという無意味な教育方針だ。そんな短時間でまともに育つわけが無い。上から下まで最悪だがこれでよく成り立つのだと思う。
「(この子らは自分に嘘は言えないから本当のことなのだろうな)」
誰もそのことに疑問を出すほうがおかしく感じるのは自分だけなのか?そうだとしたらよほどこの世界は歪んでいる。この世界の神様や教育者はどこまで無責任なのだ。
「どうかしましたか」
「あ・・・いや、もういい。依頼を受けに行こうか」
現実を変えたいのならば力を持つしかない。今のままでは小虫以下なのだ。そうして採取依頼を受けて町を出て森に入る。難易度はさほど高くないはずなのだが【探知】が使えなければ時間がかかり過ぎて報酬と釣り合わないし品質もそれなりに要求されるため乱暴には出来ない。夕方までに4つの依頼をこなしてから宿に戻って所持金を確認する。
「1万ギニーってどれぐらいの価値なの?」
ある程度所持金は貯まったが価値が分からない。
「この地域では1月は暮らしていける程度の金額です。この短期間でこれだけ稼ぐのは非常に難しいですよ、依頼もさほど高度ではないのに報酬が良いのは品質評価が高いせいですね」
ミリオン達がこの世界のことを徐々に教えてくれる。モンスターによる侵攻による生活圏からの追い出しによって数多くの難民が出てしまいその日暮らしすら難しくなり奴隷となり身売りしたことや家族らと離れ離れとなったこと、それに対して子供だからと無力だったことなど話してもらった。彼らとて好きでこんな状態になったわけではない、全ては魔物という脅威が大きすぎて指揮官が判断を誤ったからだ。ただそれだけなのにこれがこの世界の現実だ。
彼らの居場所も生活も守れない指揮官や統治者に殺意が沸くが勇者召喚という方法まで使うほどに難しい状況なのだろう、自分には地位も名声も権力もお金も興味が無い代物だがそれが無くては変えられない事実がそこに存在するのだ。
「(面倒な世界だが現実でもあるし死ねばそこまでなのだ。ただ『突撃しろ!』と言うだけなのか?どう考えてもその辺りが疑問しか浮かばないのはどうしてだ?中世の騎士でもあるまいし少しは現実が見える人物がいてもおかしいないとは思うがどうしたものかな)」
傭兵は金次第結果次第の職業だ。報酬は高いが危険度は高いし子供だと買い叩かれるし仕事が終わっても依頼主から報酬が支払われるとも限らない。国などに常駐しているわけではないから国から金は出ないし健康だって見てくれない。雇用制度から外れている上に治安の悪化などから傭兵からゲリラに身を落としてしまう可能性が大きい。この子らを自力で守る限界はすでに見えてしまっている。新規の奴隷を買う資金もほとんどないしそもそもこんな子供が依頼をこなすこと自体がおかしいのだ。年齢制限が設けられていないので当然だが無駄な存在を増やしているとも取れる。
「(規則の方を変えるとこの子らが路頭に迷うか売られてしまう。法整備が未熟だから仕方ないといえばそれまでだが難民雇用の方法が問題だ)」
世界のシステムに個人で抗うのは不可能なので結局可能な限り奴隷を買い育てて彼らが自立できるようにするしか方法が無いとの結論に達してしまった。
「どうかされましたか?」
依頼を受けてからずっと沈んでいる自分を見て全員が不安そうな顔をしている。依頼は早く確実にこなしているので評判は良いし報酬の払いも確実だがこのままでは行き詰ってしまうことは目に見えていた。モンスター退治の依頼もそろそろ受けてもいいがいまだに迷っていた。
『彼らを戦場に引きずり込んでよいのか』
あれから数日たち何度かモンスターを倒したことで自信と不安が大きくなっていく。このまま彼らを養うだけならば問題はないが奴隷は世界中に腐るほど存在するそうだ。このままではただ使い捨ての道具としか価値が無くなり世界の衰退に繋がってしまうだろう。ただの醜い殺し合いなどさせずにこのままで良いのだろうか?他に救えるはずなのにそれで良いのだろうか?この世界に来る前に道徳が倫理が通用するのか?悩んでも誰も答えてはくれない。自分が奴隷使いということも変わらない。
依頼は順調に終わり奴隷市場の方に行ってみることにした。
「これは!」
そこにいたのは負傷してるのに放置された子供が10人もいたのだ。息も絶え絶えで今にも死にそうだ。
「なんで治療を行なわない!奴隷といえども最低限の安全と生活は保障されているはずだ!」
語気を荒くして奴隷商人に詰め寄るが、
「こいつらは窃盗をして警備兵に拷問された後に売られたんだよ。こっちも治療したいが治療薬は高いし治癒士もいないしこんな子供に暴力を振るいたくはないけどこれが現実なんだよ。回復させても売れる見込みが無いから放置するしか方法がない」
カイン達も同じ年頃の子供が犯罪を犯したからといってここまで乱暴にされたことに怒りが大きい。
「最悪」
全員一致である。
「ハクロウ、どうにかなりませんか?」
彼らを助けて欲しいとの懇願。
「全員買うからいくらだ。この状態のまま買うから値引きして欲しい」
相手も困り果てていたのでかなり割引をしてもらった、すぐさま治療薬などで治すが体の衰弱が激しくしばらく安静にして栄養のある食べ物を食べないと回復は出来ない。健康状態はかなり酷く満足な食事などとっていないのは明らかで窃盗に手を染めてもおかしくは無かった。宿屋の大部屋まで連れて行ってベッドに横たえる。
「あ・・・は・・・ここは?」
「宿屋だよ、奴隷商人から買って治療してここまで連れて来た。とりあえず何か胃に優しい食べ物を用意するよ。事情はその後で聞くから」
そうして大量の食事を振舞うと彼らは泣き出してしまった。いまはそのまま泣かせるのが一番だろう。そうして数日交代で看護するとある程度動けるまでに回復する。
「アタシはミアータ=シェルフ。仲間達を助けてくれてありがとう」
リーダー格の少女がお礼を述べる。
「自分はハクロウ。傭兵で奴隷使いだ。君らを買ったからには奴隷として管理する権利がある、だけど、娼婦のように体を売ったり窃盗などの犯罪はさせない。これからは傭兵として指揮下に入ってもらう」
全員承諾して【奴隷化】でヘッドサークレットをつける。全員にそれぞれ汎用性のあるジョブやスキルなどを与えてから。
「一気に増えたからこれまで以上に稼がないと生活費すら出てこなくなる」
所有権はこちらにあるから窃盗などには二度と手を染めないことを厳命しておく。ここまで増えるとモンスター討伐依頼に手を出すことを決定しなくてはいけない。傭兵ギルドでこの子らを登録してから依頼を受ける、内容は近くの村に出没しているモンスターの討伐依頼だ。数は不明だが農作物などをかなり荒らしているようなので住民が怯えてしまいまともな生活が出来ないことはすぐに考えられた。
「戦術単位Nを全員展開し情報の共用化。NBは右側をNCは左側に布陣、NAは前面に出ろ」
新しく入った子らには強化したダガーぐらいしか現時点では与えられない、指揮官として判断を間違えばすぐさま全滅だ、周囲を警戒しつつ魔物をを倒していく。最低の訓練すらしてないし突然サークレットから入ってくる情報に戸惑うがその通りに動くと無傷でモンスターを倒せることに気づき迅速に馴染んでいく。食料がギリギリなので出来るだけ早く依頼を達成しなくてはいけない。魔物の毛皮や骨や肉など回収できるものは全て手に入れ【無限収納】に入れていき4日かけて全てのモンスターを倒すことが出来た。最後の辺りは満足に食料が手に入らず森の中の食べ物で飢えを凌いだほど危険だった。
「こちらが報酬になります」
傭兵ギルドで3万ギニーを出される。これで当座は凌げるが装備や食料や宿屋代を考えるとそれほど持たないことは確実だ。宿屋に戻らずそのまま外に出て大量の薬草確保に動く。治療薬は作っていたが売値がはんぱなく高いのでこれを大量に作れば使う分にも売る分にも有用だからだ。子供らにひたすら薬草を採集させ『ガーガス・オルタネイト・システムマスター』で鑑定して回復薬を大量に作る。目の前で訳が分からないまま大量の薬草が回復薬に変わっていく姿は異常極まりないが子供らは怖がらない。
「これを持っておけ」
全員に5個ずつ配る。残りを商店に売却すると8万ギニーになった。
「(この子らは食べ盛りだからなぁ)」
食事も宿屋だと高いので自炊してお金を節約しなくてはいけない。基本は麦粥で調味料で味付けする、色々食べさせたいが15人もいると資金がギリギリだ。大鍋をいくつも出して薪で火を起こして調理を開始する。
「いただきま~す」
いままでろくに食べていなかったのだろう、ひたすら無心で腹に収めていく。
「お代わりは大量にあるから」
子供らは皿の中身を食べつくして次から次へと鍋の中身を取っていく。原料が安い麦ではなく米にしたかったしもっとおかずが欲しいのだが今の所持金ではこれが限界だ。チーズや干した食材や栄養価の高い食材なども欲しいし装備なども最低なので欲しい物はキリが無い。今の生活サイクルを崩さずに資金集めと戦力強化などもしないといけないのだから。今日はそうして終わり宿屋に戻る、15人全員が寝泊りできる大部屋一つの代金を支払う、本当は男女分けたいがこの子らを攫ったり脅したりする横暴な輩が現れないとも限らないので2人歩哨に立てて警戒させる。
「(これからどうするか)」
今後のことを考えると稼ぎはギリギリだし頻繁にやると目立ちすぎてしまう。でも、資金が不足している事実は変わらない。もっと稼ぎたいがこの場所では仕事に限界がある。
「ミリオン、どうしたら良いと思う?」
一番年長者の彼女に聞くことにした。今のままではいつか行き詰ってしまうことを嘘偽り無く。
「能力、装備、資金、人材、訓練などを増やしたり施したりするにはこの場所の仕事は少ないし食わせていくためだけでも難しい。しばらく経てば稼ぎすぎていることがバレて他の傭兵が襲い掛かってくることも考えられる。人数は小隊程度だけど訓練を施し指揮に従えば3倍の戦力ほどになれるからもっと稼げる場所を知っているのなら教えて欲しい」
「それならば隣の都市アラールはどうでしょうか?ここより激しい戦場が多く強い傭兵を常時募集してますからここにいるよりは危険度は増しますが稼ぐのにはうってつけです」
まずは情報確認をしてから動くことにした。翌日傭兵ギルドに向かう。
「アラールの現在の状況ですか?」
「うん、人数が増えたからもっと稼げる場所に行こうと思って」
どうせこの王国では最底辺なのだ。移動したとしても何の問題もないし王族らには他の勇者がいるので自分など消えて欲しいだろうし。
「傭兵募集はどこでも行なわれています、あそこは頻繁にモンスターが出没するので常時募集されていますがその人数では評価の判断が難しいと思います。ここの方が安全です」
もっと人数を増やさなければ依頼は受けられても死ぬ危険性が高いことを指摘される。それはまっとうな判断だがもうここではこれ以上稼ぐと悪目立ちすぎることが問題なのだ。結局移動馬車でアラール王国に向かうことにした。
「ふわぁ~」
移動馬車はそれなりの速度で全員を運ぶ、自分以外全員奴隷だが手出しはさせない。4日かけて移動する、幸いモンスターなどは出てこなかった。都市に到着する、町の様子はさほど酷い状態ではなかったが損傷がかなり激しい、戦闘状況は酷いものだとはっきりと分かる。すぐさま傭兵ギルドに向かう。
「ここで依頼を受けたい」
「それならば登録書を見せてください」
確認させる。
「あちらの方に依頼が書いてありますから」
簡素な返事で掲示板の方に行けと促される。
「どれどれ~」
モンスター討伐に護衛に採集と色々あるし依頼数も格段に多い、これならかなりの金額を稼ぐことが出来る。採集依頼を受けてから出て行く。状況が酷いためただ採集依頼でもかなりの額が支払われている。傭兵ギルドに納める分はもちろんだが今後のことを考えると装備もどうにかしなくてはいけない。
「木を何本か切ろう、全員に斧を配るから交代で作業するように」
奴隷らに道具を配り木を切らせる。腕力などが低い子供達しかいないのでまともに戦闘などしたら力負けしてしまう、前衛と後衛の隊を分けるが重装備など出来ないので機動性を重視した装備とするしかない、10本ほど確保してギルドに依頼品を納めてから必要な材料を買い装備作成となる。
「(この子らは非力だから大型の装備だと取り扱うことが出来ない、体格を考えるとギリギリ『クロスボウ』だな、これなら誰でも安定して使えるが弦を強化して威力と飛距離を上げてある程度連続発射も可能にして・・・)」
これを基本装備とする、クロスボウだが普通に作ったのでは装備として不十分なので頭の中で色々弄り改良して製作するとよく分からない物になった、一応描いたとおりに動くが子供にこんな凶悪な装備など持たせたら前世では重大犯罪だと思う。矢は共通規格の物で使える。
『ブラッドライン・クロスボウ』 異世界の知識で製作された武器 威力や射程距離などが格段に向上されているが子供でも取り扱いができるほど簡単で軽い 簡単だが連射機能を備えていて最大10本の矢をストックできる
う~ん、説明を見たがやはり子供に持たせるべきではないがモンスターという脅威を前にそんなことなど言っていられないな。これを10個作成する。それ以外では転売用に回復薬の作成や鉱石の精錬を行なう。これを売りさばいて当座の資金として食料などを買い訓練を施して・・・、あぁ、非常に面倒だ。
翌日、作った装備を渡して適当な的を攻撃させる。
「すご~い、こんなに簡単で軽いのにこんなに威力があるなんて!」
子供らはその威力に驚きの声を上げる。取り扱いが簡単であり強力かつ軽くさらにさほど反動もないという理想的な装備となる、矢筒も装備させ火力不足はほぼ解消された。前衛にも鉄製の装備を揃えているが自分の戦術指揮が無ければあっと言う間に殺されるという事実は変わらない。今日からそれぞれに軍事訓練を付ける、子供だがこれをしてないといざという時に動けないからだ。
子供らは言う事を聞いて訓練に励む、この世界の現実では戦わなくてはその日の安全な食事すら出ないことが分かっているからだ。こんな苛酷な現実などこの世界に来る前は考えたことなどなかった。場所が変われば何もかもが違うのだと実感する。
「よし、モンスターを倒した!」
装備の強化と訓練を施してからモンスターを相手に経験を積む時間を作る、あまりにも大規模な討伐依頼はこなせないが近場にいる簡単な依頼をある程度こなして傭兵団の実績作りをしている、普通に生活させるならば【奴隷化】など必要ないが能力が低いこの子らを食わせていくためにはどうしてもブーストさせなくてはいけない。自分はさほど戦闘はしないが指揮官としての采配は気を抜かない。もし、誰か一人でも死なせれば信頼関係など崩壊してしまう砂の城だからだ。負傷者すら出さずに戦闘を終えるのは非常に難しいしそもそも遥かにモンスターは強いのだ、そんな状態でも通用するのは『ガーガス・オルタネイト・システムマスター』のおかげだろう、目の前で戦闘など始めは戸惑ったが徐々に慣れてきてすぐさま最適な指揮を出せるようになってきた。
ある程度余裕が出来てからこの子らに文字の読み書きや数字の計算を教える、戦術単位で運用しているが今後高度な命令を実行できるようになるには必要不可欠だし教えておくべきだろう、この子らにも最低限自由はある、買い物などもしてもらったりするため騙されないようにしないと。
依頼を達成し続けてお金に余裕ができたので食料などはある程度大目に買う事が出来るようになったので【無限収納】で保存しておく、矢なども再使用出来るものは回収させ使いまわす。資金不足はまだまだ深刻なのだ。採集依頼が基本だがモンスターとの戦闘回数もそれなりに多い、装備の強化は全員分してあるし回復薬も不足させないようにしてある。
「ご飯が出来たよぉ~」
「「「わーい」」」
食べ盛りの子供たちなので大量に作らなくてはいけない、基本は変わってないがある程度チーズなども足して彩りを添える。栄養バランス的な物もあるのでこの世界にはニンニクなども存在していてそれを粥に入れておくく、贅沢は出来ないが食わせていけるぐらいには収入が安定してきた。
「(そろそろモンスターとの戦闘を本格的にしたいが人数的にギリギリなのはどうしたものか・・・、奴隷を増やすか?そうはいっても収入は多少余裕が出来た程度で増やしたら食わせることは難しい。この戦力でどうにかするしかないか。確認したが幸いにもモンスターの危険度はそれほど高くない、最初は多数の敵に戸惑うかもしれないが実戦を重ねれば問題ないだろう)」
食事を嬉しそうに食べ続けている奴隷らを見ながらもっと戦力を増やす判断をする。
次の日から近辺を荒らしまわるモンスター討伐依頼を受ける。ビグベアという熊の魔物を10体討伐するという依頼だ、証拠として耳を取ってくる。森の中を隊列を組んで索的を開始する。
「・・・いませんね」
奴隷らの子供達には緊張の色がはっきりと出ている。普通ならば戦闘になどならず殺されてしまうからだ、奴隷なので命令に逆らうことは絶対に出来ない。探知魔法を使い徐々に森の奥に進んでいくと目標を発見した、数は3体でこちらには気がついていない。
「戦術単位NAを除く全員で周囲を包囲して武器による一斉射撃、各自配置につけ」
単位ごとに分散させ一網打尽にする作戦にする、前衛のNA以外にクロスボウを装備させているのでそれで一斉射撃でダメージを稼ぎ前衛で仕留める、すぐさま命令を出して配置につかせる。それぞれが配置に付いたことを確認してから、
「NB、NC、NDの順に攻撃開始、NAは自分と共に前衛に出るぞ」
敵に向かって時間差攻撃を行なう。
「「「グギャァァア!」」」
3体は突然の攻撃に混乱する。
「目標が沈黙するまで発射を続けろ、矢の補充は順次行なえ」
何本もの矢を打ち込まれる、普通の装備とは格段に威力や射程が長いので大ダメージを与えるのにさほど時間は掛からない。
「NAは前衛に出て一体を囲んで攻撃、他は残りの2体に矢を打ち込み続けろ。味方への誤射は厳禁だ」
NAと共に敵の眼前に出る、かなりの本数を打ち込まれているが絶命させるには至っていない。
「カイン!エレン!」
「「わかってるよ」」
二人はそれぞれ武器を構えて1体に狙いを定める。
「敵は瀕死だが油断するな」
二人で挟むように陣形を取り攻撃していく、残りは魔術などでサポートだ。そうして1体に止めを刺す。
「全単位を残り2体に分け攻撃開始」
そこからは一方的な展開になる、こちらは全員子供だが見事な指揮と武器が優れているためさほど時間が掛からず2体も絶命する。
「NAとNDは周囲を警戒、NBとNCはモンスターを解体だ」
戦闘は負傷者なく終わりモンスターの解体を始める、肉や骨や毛皮など結構な額で売れるので放置するのは非常にもったいない。
全員に【解体】を覚えさせているのでさほど時間が掛からず部位ごとに分けてしまう。それを【無限収納】で仕舞い残りの標的を探すことにした。
残りも見つけるのにさほど時間は掛からず同じ要領で倒す、必要数は全部倒したがもう少し時間に余裕があるので他の得物も探して狩ることにした。兎や鹿型のモンスターを狩って解体して素材にして売りさばくのだ。
「肉って美味しい!」
火を起こして鉄板で焼肉にする、山菜や町で買った野菜も一緒に焼いて食べる。この子らにはモンスターと戦った報酬はきちんと出すべきだろう。肉は中々食べる機会が無い世界だった。交代で警備と入れ替わり全員腹一杯になる。
「町に戻ろうか」
全員幸せそうだがこういう時こそ注意が必要なのだ、警戒を怠らず町まで戻りギルドに報告して報酬を受け取り宿屋まで戻る。
「ふむ、ある程度お金が溜まってきたな」
報酬の額と今までの分のお金を計算する、依頼報酬は短時間で終わらせたので払いは良かった。今後大きな仕事を請けるには人数を増やす必要があるな。
「ミリオン」
「はい」
彼女はここで一番の年長者であり事情もよく知っているので相談相手としていつも話している。
「所持金には余裕が出来初めているが依頼はさほど受けられない、今後を考えればどうすれば良い?」
彼女も悩んでいる、傭兵団は非常に順調だが戦力としての頭数が足りず稼げる依頼を弾かれているのだと言って来た。
「あとどれぐらい増やせば良い」
「最低でも15人で出来れば倍以上は欲しいですね、普通傭兵団は最低でも40人規模からなりますから。そうしたら大規模討伐の依頼斡旋も向こうからしてくれます、問題は・・・」
戦闘要員がほぼ全員子供だということ、だと。その問題はどうしても頭から離れないのだ、大人の戦闘要員も欲しいが奴隷として高額であり子供らに暴行を加える危険性がある、子供だと安いが能力不足であり錬度不足なども考慮しなくてはいけない。
「自分は大人だとか子供だとかで選ぶ気は無いけど経験豊富な大人が欲しいな、指揮能力などが高いのならなおさら欲しい」
ミリオンは非常に意外そうな顔をしていた、どうしたのだろうか?
「あなたはとても優しいですね、普通だと使い捨てて満足に食事などさせることも難しいし暴行を加えるのにまったくしないし」
普通の奴隷使いとは違うと。別にこのぐらいは戦闘の危険や働きを考えれば当然なのだがこの世界はかなり酷いのだと思う。
子供らには訓練をさせている間に奴隷市場にミリオンと一緒に行くことにした。
「いらっしゃい!」
奴隷商人は嫌らしい笑顔をしていた。
「出物はあるか?」
そうして奴隷らを見定める、
「ん?」
そこにいたのはえらく能力が高そうな男が3人と女が2人いた。
「こいつらは」
「お目が高いねぇ。こいつらは元はどこかの騎士団に所属してたんだけど罪人として売られたんだよ。事情なんてどうでも良いが今日目玉品として売ろうかと考えていたんだ」
どうやら朝早く来たことで誰にも目を付けられていないようだった、年齢も若く能力やスキルも高い。
「今買うならいくらだ?」
「旦那は手が早いねぇ」
すぐさま金額を書かれる。
「残念だけどバラ売りできねえ事情があるからこんなもんだよ」
ふむ、値段は良心的だと思うがかなりの高額だ。
「あと子供らを10人奴隷として買うから多少値引きしろ」
子供らは結構売れ残っている場合が多いので向こうにとっても渡りに船だ。大人数買うことになったがまだ所持金には余裕があるのでどうにかなるだろう。【奴隷化】で全員にヘッドサークレットをつけて水洗いし最低限の服を買い与える。
「自分らをどうするつもりだ?」
子供らはミリオンに預けて世話をさせている間に彼らと話をする。
「自分は『奴隷使い』だ。あなたたちがどのような罪を犯して奴隷として売られたかなんてどうでも良い、若く能力が高く他の奴隷の纏め役として大人の奴隷が欲しかったから買っただけ、そちらの事情など分からないし理解する気もないし聞く気も無いが奴隷として買ったのだから仕事はきちんとしてもらう」
「自分らには戦闘以外何も出来ないぞ」
それで良いとだけ言う。
「自分の所に居るのは殆どが子供ばかりだ、彼らの纏め役となり自分の指揮に従ってもらう。これでも傭兵団の長だからモンスターと戦える大人が欲しかったし。先に厳命しておくけど子供らに乱暴を働けば容赦なく罰を与える、さすがにそのままで戦闘は不可能だから最低限の装備を買いに行こうか」
子供らには全員クロスボウを与えて矢筒を装備させればそれで良いがこの人たちにはそれぞれで装備が必要だった。
ジド=ラナール 男 21歳 『騎士』 ヒューマン
ランガ=デル 男 20歳 『騎士』 ヒューマン
フゥ=レゼーナ 男 19歳 『騎士』 ヒューマン
ファラ=パニシェ 女 19歳 『騎士』 ヒューマン
エリス・ヴァニラ=ウェルチ 女 18歳 『司祭』 ヒューマン
能力が高いとは思っていたが男は3人とも騎士だし女の方も治療師がいる、これなら負傷したときに助かる。町の中で装備を買い与える。即日からギルドで依頼を受けて稼いでもらうことを説明する。
そして夜になり部屋でくつろいでいると、
「話がある、ですか?」
買った大人らが全員話があるのだとか。ミリオンらも一緒にと言うと拒否される。そして夜の闇の中に入っていき人気が無い場所まで来る。
「(もしかして自分を殺して奴隷から解放されようと考えているの?)」
嫌な予感がしてきた、買い主を殺せば奴隷から逃げ出すことも可能とは思えるが【奴隷化】で付けられているヘッドサークレットはそれを簡単には許さないし買い主を殺したとしてもそれは外れず死ぬまで苦痛を与え続ける。その苦痛は死ぬよりも辛く自殺は許さないのだ。
冷や汗を流し出すが、
「話があるなら単刀直入にお願い」
冷静に対応する。すると彼らは。
「頼む!エリス様を解放してくれ!」
頭を地面につけてお願いしてきた。そうして1時間かけて彼らの話を聞く。
「ふぅん、元公爵令嬢で聖女様ね。道理で他と比べて違うと思った」
彼らが食事をしていたとき彼女だけ食器の使い方がまるで違っていたのを思い出す、そういう教育を長く教えられていなければ説明できなかったのだ。神殿などで治療方法も学んでいて道理で気品があると思った。
「頼む!不幸にも奴隷として売られたがあなたは他の奴隷使いに比べて格段に優しい、金を支払ったのでどのように扱うのかは自由だが無理を承知でお願いする!」
こちらの態度をよく見てるとは思っていたが彼らは彼女の側近として仕えていて邪魔者として罪を被せて売られたのだ。事情は大体読めるが貴族の身内の争いに負けたのだろう。普通ならば殺されるが何かしらの事情があり奴隷となったのだ。この世界でも流刑のような方法があるようだ。
「理解は出来た」
「ならば!」
彼らは期待するが、
「無理に決まってるでしょ」
残酷だが切り捨てる。こいつらの夢を現実問題として考えれば不可能なのだ。
「今ここで開放したとしよう、彼女はどうやって生きていくの?」
「そ、それは・・・」
反論が出来ないだろう。
「評判が良い彼女なら誰かが保護してくれるの?そいつが悪人ではないという証拠はどこにあるの?女一人でどうやって生きていけるの?お金はどうするの?領地に戻ればどうにかなるの?」
「・・・」
彼らには彼女がもはや帰る場所など無いことが分かっている。
「もし戦争になったら彼女の力には誰がなれるの?誰かしら信頼できるのならば奴隷にならずにすんだはずだよね、味方がいなくなったからこうなっている。それなのに彼女を解放したら容赦なく殺されるよ、それともただの道具として扱われるかしかない。そんな状態で現実なんて変えられない、夢物語をほざくな!」
「だからこうして頼んでいるのではないですか!」
「奴隷が買い主に頼む?何を間違えればそんなことが言える?そんなことは自分自身を買い戻してから言え!自分は慈善で商売はしてない!対等に話したければ金を出せ!!」
奴隷の規則は厳しい。多少人により違うが買い主に十分利益を出さなければ自由など無いし待遇も違う、どれくらいが基本か分からないが最低買値の10倍だ。全員を15万ギニーで買ったから150万ギニーまで貯めるか働かなくては開放されない。
こっちはもうその代金を奴隷商人に支払ったのに何もせずに開放など出来るはずが無い。
「現実を理解したか?自由になりたかったらひたすら働け、それ以外方法は無い」
子供じゃあるましいこれで納得できたはずだが。
「騎士の自分らがこういうことはしたくなかったが」
全員武器を抜いてくる。
「自分を殺しても問題は解決しないよ、むしろ苦しみが増えるだけだ」
「たかが奴隷使いが騎士の自分らに勝てるとでも?」
もはや話し合いは決裂してしまった。
「NAからNDまで命令、敵戦力を無力化しろ」
「なっ!」
自分が何もせずに話していると思っていたのか?カインらにコッソリと命令を出して周囲を囲ませていたのだ。全員掛かりで騎士ら4人を地面に倒す。
「この子供ら、なぜ奴隷使いなどの言う事を聞く!こいつを脅して開放させれば自由になれるのに!」
奴隷使いとはどこまで嫌われているのか?色々考えさせられるが頭が固すぎる。
「この子らには衣食住不足なく与えているからですよ、奴隷なのに普通の住民より待遇が良いですから」
ミリオンらが現れる。
「あなた達も馬鹿なことをしてくれましたね。自分達の価値観だけで判断して相手を見下すのは良くないことですよ。結果を見てからするべきです」
「奴隷使いなど最低の悪職業ではないか!」
もはや理解など出来ないしどうにもならない、能力が高いから買ったのにここまで敵意があると命令違反を行なうのは確実だ。
「もうお前らは必要ない」
子供らからクロスボウを借りる。
「無駄金になるが殺すしかない」
「ヒイッ!」
全員が恐怖に歪む。
「待ってください!」
エリスが腕を掴んで武器を下げるように頼み込む。武器をとりあえず下ろす。
「彼らも完全な悪人ではありません、盲信して世界が見えていないのでしょう」
自分はどうなっても良いから彼らを解放するように頼んでくる。
「彼らの購入費を見逃してある程度のお金を与えてあげる代わりに君の分の借金をその分増やすということでどうかな?」
その答えにうなづく。
「エリス様!そんなことはダメです!あなたは公爵令嬢なのですよ!!」
「妹との後継者争いに敗れた私にはもはや味方はいません、それでも、付いてきたあなた達の忠義は嬉しく思いますが世界の状況は酷い物なのです。もはや貴族だとか奴隷だとか言っている場合ではありません。この子らに聞きましたが非常に優秀な戦術指揮官だそうです。数まかせで押すしか言わない指揮官などもはやどこにも必要ではないでしょう、これは天の采配だと私は思っています」
「でも、こいつは奴隷使いですよ!」
「良いではありませんか、見栄えばかり気を使う貴族らと違い有用か無用かをすぐさま判断する部分は重要ですよ」
「しかし」
「実は先ほど天の声を聞きました。『汝の苦労は天からの試練である、その眼で現実を直視しろ。そなたを買った人物は天の向こう側より来た者、真を持って側にいろ』と。私はこれに従おうと思います」
「そこまでの決意があるのですか」
全員が抵抗を止める。
「ハクロウ様、道を示してください。微力ではありますが出来る限りのことはします」
彼女は地面に頭を下げて頼み込んでくる。
「・・・分かったよ。こいつらはどうするの?」
彼らに解放されて出て行くか奴隷としてここに留まるのか選択肢を与える。
「とりあえず時間は与えるけどできるだけ早くして」
翌朝まで待つことにした。
「我らはハクロウ様に従います」
結局全員奴隷として留まることにしたそうだ。
「買い主を殺そうとしたのだからその分だけ借金が増えているのは当然だからね」
彼らの借金はそのままではない、エリスが買い主に刃を向けたためその分だけ借金を増やすことを受け入れたからだ。普通ならば殺されてもおかしくは無いが彼女は司祭であり貴重な治癒術の使い手であるので殺すのはもったいない。
「「「「エリス様・・・、もうしわけありません・・・」」」」
全員が愚かなことをしてしまったと後悔しているがもはや買い主に刃を向けたことに変わりは無い。こいつらには拘束を強くしておく。
「色々不満や言いたいこともあるだろうし奴隷使いに騎士が従うなど不名誉に違いないかもしれないが傭兵として仕事をしてもらうよ、子供らに乱暴を振舞えばエリスの借金が増えるしそれだけ自由が遠くなる。幸いにもモンスター討伐など傭兵ギルドの依頼は増える一方だから仕事には困らない」
「我らが傭兵とは」
この人達からすると金次第で敵にも味方にもなる野蛮な職業と思っている、一部悪徳傭兵もいると思うがギブアンドテイクであり払うべき物を払えばきちんと仕事をしてくれるプロとも言える。正規軍のように常駐させるお金が無く突然の脅威を排除するために金で臨時の軍隊を使うことなどたいして珍しくない、ただの寄せ集めを用意して無駄死にさせたりするより損失は少ないのだ。
人数が増えたので戦術単位を増やすなどして人数編成をする、戦闘要員の半分以上が子供だが自分が作成した装備を与え時間が経てば馴染むだろう。傭兵ギルドに人数が増えたことを報告すると、
「『白狼』は必要人数と実績を積んだので正式な小隊として認可が下りました、今後は難易度の高い依頼も受けられるようになります」
正式な傭兵部隊としての認可だった、今までより報酬の高い依頼も受けられるようになり都市側から直接依頼なども出てくるようになった。色々依頼を見てから一つの依頼を受ける、近くの山にモンスターが出没して入れなくなったため討伐して欲しいという内容だった、数が多いことを考えて矢等は大量に買い込む。
現場に行くとかなりのモンスターがいる。
「NAからNDまで戦術単位を構築、NEは待機、各自指揮に従え」
単位を出して目標を排除させる、ヘッドサークレットから情報が出されるがNEは大人たちで構成されているため必要に応じて援護させる。
「NAは前に出すぎだ!NBは右側から牽制しろ、NCは左側から回れ、ND!もっと周囲を見てから援護するべき仲間を判断しろ、仲間を殺したいのか」
最適な単位を出しているが訓練時間が足りないのでどうしても情報の誤認が出てしまうし理解不能な子供らも多い、もっと訓練時間を増やしたいが資金不足なので実戦の中でどうにかしなくてはいけないのだ。さらに能力が低い子供ばかりということも問題の増加をしている。恐怖をもてば判断力も鈍るし上手く体も動かない、子供ならばなおさらだ、本当だったらこんなことなどさせたくは無いが自分が出来る事は指揮を執ることだけだ、この子らが自力で食べていけるようにしなくては開放は出来ない。
自分の戦闘能力は最低であり戦力は奴隷らに全て掛かっている。
別に一度命令を出して放置しているわけではない。戦場は生き物、何らかの形で負傷者が出たり予測不可能な敵が現れることもあるからだ。実際に予想外の敵が現れたり戦術を理解できず右往左往する子供らもいるしもっと酷いと恐怖のあまり仲間に誤射したりもする。
すべて訓練不足と理解力の無さで起こっているのだが時間とお金が無いのだ、自分だってド素人にいきなり戦場で戦えなど命令したくないし平和に暮らせるのならばそちらを選ばせるがモンスターの脅威はもはや限界であり満足な生活が出来ず奴隷は増える一方だ。自分は慈善事業でしてるわけではないし金持ちでもない、駒として捨てる気は無いがこの子らがいなければ自分も食えない。衣食住は保障できるように仕事を選び稼いで信頼されるしかない。
傭兵という商売はハイリスクハイリターンなので上手くいけば旨みが多いが不幸だと簡単に依頼金の値切りや未払いが発生してしまう。もっと酷ければ捨て駒扱いにしかならない。
この世界ではどうだか分からないが苛酷な現実が存在している。
「(この子らにも親兄弟はいると思うが身売りするしかないことを考えれば食べていけることだけでも幸せなのかもしれないな)」
戦闘を続ける子供達、大人らを見ていると信じられないような顔をしている。戦闘をが終わりモンスターを解体するのと周囲警戒をする子供らに分ける。
「なぜあのような子供らがここまで強いのですか?」
エリスらが当然聞いてくる。
「多少装備とかあるけど最適な戦術を徹底させただけ、単独では不可能だが頭数を揃えれば自分には出来る、それは見ていて分かった筈だ」
「戦闘とは正面から堂々とするべきだ、一体に複数でかかったり側面や背後から攻撃など論外」
馬鹿の一つ覚えのようにうるさい、それで戦えば無駄な犠牲が出るだろう。
「それじゃあお前達が子供らを指揮して正面から堂々と戦えと言って。果たして、それでモンスターに対抗できるのならね?それとも、子供達を一生面倒見てくれるお金支払ってくれるなら今すぐ開放するよ」
大人らは何もいえない、言ってることではこちらが優位ならともかく不利ならば押し負けるからだ。
「こんな戦術など邪道だ」
「文句があるならお前たちだけで戦って勝手に負傷して勝手に死んで」
こいつらには戦術の重要性がまるで見えていない、馬鹿の一つ覚えの力押しだけだ。よくそれで騎士だと言えるな、いや、騎士だからこそ正々堂々と力で捻じ伏せるという考えなのか。
「お前らには奴隷から解放されるという選択を先に与えておきながら奴隷として留まるのだと言った、それを反故にするとでも?」
「・・・」
意味不明だとでも言いたそうだな。一度見逃したから同じようにしてもらえるとでも思っているのか?
「それじゃあ次はお前らが指揮を執ってみろ」
立場を分からせるしか方法は無かった。次の戦闘で好きにやって見せてもらう。
「突撃~!」
この馬鹿達は装備のことなど考えずに全員正面から不意打ちもせず攻撃を始めた。突然そんな命令を出されて子供らは大混乱し右往左往する、大人らが最前線ではなく後方にいるためさらに問題が大きくなる。結局モンスターに負けてしまい6人ほど子供らが軽く負傷してしまい撤退した後、
「ヒイッ!助けてくれ!」
子供らから敵意を買ってしまった。全員が大人らに武器やクロスボウを向けている。こいつらは自分らの戦力分析すらせず無謀な攻撃を命令して自分らは危険を犯そうとはしなかったのでこの反応は当然の結果だ。エリスは負傷した子供の傷を治している。
「ハクロウ、こいつらを仲間だとは認められません」
カインが子供らを代表して言う。
「あ、あれはお前達が命令に従わなかったせいだ、本当なら勝利していたのだ」
このようなことになったのは子供らの命令無視のせいだと責任転嫁する。それを聞いて子供の一人がクロスボウを足元に発射して警告する。
「騎士である自分らに攻撃するとは身の程知らずが!」
「・・・今は同じ奴隷ではないですか。好き勝手できる自由などありません。ハクロウの的確な指揮に比べて幼稚な子供以下の戦術、もはや敵以外ありません」
全員が武器を構えて『出て行け!』で一致する。
「もう一回奴隷として売るしかないか」
もはや彼らにはここに居場所など存在しない。ここまで問題を起こしたのだから少しでもお金を回収しなければ。
「エリス様、助けてください!」
こいつらはどこまでも甘い、誰かが助けてくれるなんて勇者じゃあるまいし。
「・・・今までご苦労様でした、もう私に付いて来る必要はありませんよ」
エリスは彼らを解放することにした。
「そんな!」
「あなた達の借金は私が返済することにします。愚か者ですがここまでついてきたので最後の面倒を見ます、生きていればどうにかなるのが人生ですから」
寂しそうな表情で断言する。自分に開放するように頼みこむ。ここまで来てしまうとどうにもならないので無駄金になったが【奴隷化】を解除して放り出すしかない。最低限のお金を出しておいた、今後一切関わらないように念を押しておいたが彼らはいまだに未練を持っていて離れようとはせず子供らに武器で攻撃されながら逃げていった。翌日から子供らを指揮して依頼を達成して報酬を受け取る。
訓練を施し依頼をこなす、何度もそれを繰り返して所持金を増やす。まったく利益が出ずに開放したので所持金不足なのだ。
一月かけてなんとか所持金不足は解消したがもう大人らを買うことが出来なくなってしまった、子供らが先の問題で、
「大人など信用できません」
全員が断言したのだ。あのような人たちではなく子供らを買えと。
正直エリスは子供らをよく見ていて色々ケアをしているが大半があんな人たちばかりだとか。それじゃあ嫌悪するのも当然だ。戦力を増やすために奴隷市場に行くと開放した大人らが再び売られていた。
「何でこいつらはまた奴隷として売られているの?」
奴隷商人に聞くと街中で乱暴狼藉を繰り返し無銭飲食から強盗までしたそうだ。警備兵が捕縛して同情の余地が無いと判断して奴隷として売ることにしたそうだ。
彼らはこちらに気づき『助けて欲しい!』と大声を上げるがもはやどうしようもない。
鉱山経営者や豪農などにバラバラに売られていく。今後彼らには強制的な重労働が待っているだろう。
「彼らには残酷ですが現実を見てもらいましょう、もはや夢物語などないのですから」
エリスは少し残念そうな顔をしていた。
新たに10人の子供を買い装備を与えて訓練し依頼をこなす日々を続ける、人数が増えれば食費なども当然増えるのでそれらをギリギリで回しながら資金を蓄えなければいけない。山に入って鉱物を取り森に入って薬草などを取るなど金になるのなら大概の仕事はこなしそれらを自分が回復薬やインゴットにして商人に売りさばく、値段はミリオンやエリスに判断してもらい高値で売れる場所を探してもらう。
気が付くとこの世界で3ヶ月が経っていた。
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