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第1章

206話 埋められない溝

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互いに殺意を放ちながら始まった勇者との対談。言葉だけ見ればそれなりに見栄えがするだろうが現実は醜いだけだった。先んじて脅威となった化け物(元ベルファスト)の変貌した姿とその末路をここにいる関係者は知っている。

『この怪物は一体何なのですか?』

さすがに皆がこのような醜悪な存在は物語の中でしか聞いたことがないようだ。元人間で勇者のベルファストということ、欲望に溺れ道を誤ったこと、手を出してはならないものに手を出したこと、そのあたりのことをかいつまんで説明した。もちろん、その最大の原因は秘密にして。

『なんて酷い』

皆もそれだけしか言葉が出てこないようだった。

『勇者が関わっているってことは…』

諸国の王族貴族らが何か良からぬことをしているのか?その答えに辿り着くのは至極簡単だった。

『こんなことが許されるのですか!』

人道的に考えればそうなるが王都などに在住する王族貴族の連中は見たが『失敗する陰謀家策謀家』としか思えなかった。それぐらい常識から考えて中身が悪すぎて手に負えないのだ。僕は完全に距離を置いたがベルファストらは率先して関りを深めていた。

その大本が『勇者至上主義』であり正義は常に自分達にあり世界中の王族貴族らの忠実な戦力として正義を成すというものだ。だが、その中身は選民思想と貴族の都合のいい事実だけしか認めない精神だった。そんなのが冒険者ギルドやまともな世襲貴族家などに受け入れられるわけがない。

彼らと旅して目にしたのは欲深な者らだけであったが親身になってくれた者らもいた。

さて、この勇者らは愚かな夢を見ておりそれが肥大し続けているのだ、普通なのに普通に生きることを望まず栄光を求めている。他者を踏み台として飛び上がることを当たり前のようにおこなってた。そんな相手に僕は好感を持たないのは当然、早く現実というものを見て欲しい。

だけども、彼らにだけ渡されている『幻想の秘薬』の存在は絶対にこの世から抹殺しなくてならない。彼らもまた犠牲ともいえる存在だからだ。

そうして、対談は始まる。

『『―――』』

たがいに殺気を撒き散らしながら椅子に座り向かい合う。

こちらは先に説明した通り、そして勇者側はジークムントを筆頭にベルライトやカノンもいた、前の騒動で数人死んでしまったからか人数は少ない。

先に声を上げたのはジークムントだった。

「ユウキ!貴様は我が王国の勇者であろうが、それなのに職業貴族となり領地を授与されているとは何事か!国王の認可も受けず貴族となるのは違法である、即刻すべての権利をすべて国に納めるのだ!」

勇者はすぐさま大声でガミガミと騒ぎ立てる。

こいつらの言い分の根拠は僕がまだ『勇者』であるということなのだからその権利はすべて国に献上しろということ、何という傲慢であろうか。僕に対しては納めろちうが自分たちも同じだとは考えていない。あくまで受け取る側だという姿勢を前提としている。

ここに意見を違える溝がある、それは埋めようがなかった。

あくまで自分たちの都合のみを言い放つ勇者だがそれを認めるわけにはいかない。

「ふぅん、ユウキの得たものはすべて自分らの物、それがあんたらの主張なんやな」

「当然である!」

あくまでも強気な勇者たちだがスフィア夫人の次の言葉で表情を一変させることになる

「勇者とは王族貴族出身者で固められてるそうやな、ほな。ユウキはどこの貴族家の出身なんかおしえてや」

『えっ?』

「正当な認可を得てるんが勇者やろ。なら、ユウキの出自は確かな物なんやよね」

「そ、それは…」

ここで勇者らは口ごもってしまう。

「うちらも冒険者ギルドも出自を調べてるんやけどまったく情報を得てないんよ。正当な貴族家の出自だというんなら教えて欲しいわ」

『……』

「なんで黙るんや?」

勇者らはひたすら黙る。僕の出自を言えば立場がなくなることを知っているからだ。僕の出自が勇者らを支援している王国よりも強大であることを。その事実を口外すれば自分たちの立場が無くなってしまう、王国の力はさして強くないからだ。

僕がもう勇者らとの関係が無くなったと分かれば自分たちの身が危うくなる。だから黙るしかないのだ。

「ユウキが王国の管理する貴族家ならばあんたらの言い分も通る。しかし、そうでないなら越権行為や。そこんところ理解しとるんか?」

「ユウキは王国に賛同している!」

いまだに勇者らは僕が味方してくれると考えているがそれももう終わっていることだ。

「ユウキ男爵殿。あんたはどうや、いまだに勇者という立場にいると思ってるんか」

「そ、そうであろう!」

勇者らはしきりに賛同するように願っているが僕の答えは決まっていた。

「いえ、僕自身は勇者という称号も栄誉も欲しくありませんしそう呼ばれるのも遺憾です」

『?!』

それが決定打となった。

「ほな、勇者としてではなく冒険者として奉仕し高みを目指すのが本意なんやな」

スフィア夫人の質問に頷く。

「そういうことや。もはやユウキは勇者の一団には属さず冒険者ギルドの職業貴族として身を立てていく所存を固めてるんよ。ついでに、今はうちの寄子で宝石鉱山を所有してる有望な土地の男爵や。手放すわけにはいかへん」

「ユウキ!貴様、王国に楯突けば実家がどうなってもよ」

「良いよ。手を出せるというならやればいい。人質を取られてるわけでもないし」

父や母は僕が勇者の一団に味方することをこの上なく嫌っていたから明確な敵意を顕わにするだろう。たとえ王国が敵に回ったとしても失うものは何もないし恐れる必要も無い。

そうして、勇者らに絶縁状を叩きつけることになった。

「貴様!貴様貴様貴様、愚民の生まれのくせに――」

話し合いが終わった後もジークムントらがしきりに騒いでいたがすべて無視した。これ以上は付き合いきれない。彼らは彼らで隙にやればいいとだけ考える。

「ある程度話を聞いてたんやけど勇者とかいう連中はホンマのアホやな。うまく話を合わせるどころか自分たちの都合ばかり押し付けよって。王国とやらは一体何を考えてるんやろか」

スフィア夫人もあまりの中身の無さに辟易したようだ。

「ま、これで煩わしい連中とは縁切りや。それはそれとして」

肝心の宝石の原石を持ってきていることをそれとなく聞いてくる。早速箱に入れたものを出す。

「これは大半の品が等級高そうやな。ええでええで」

夫人だけでなく呼び集めた皆が色めきたっていた。

「近場に産出地が無く輸入に頼るばかりで値上がりしてたからこれで当分相場が落ち着くようやな」

それと同時に「もっと人手欲しいか?」そう聞いてきた、断る理由は無かった。
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