解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

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第1章

188話 魔薬の災厄 

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それは人の形をした”何か”だった。ボロボロの服装、人のような外見、だが体の一部が異常に隆起しており怪物のような外観となっている。

それは人でもモンスターでもない、「何か」、だった。

「あれは?まさか、べ」

『それ以上言うな!何も言うな!』

ベルライトとカノンが怯えながら名前を言おうとするが、ジークムントらが無理矢理止める。

「フンっ、鬼畜に落ちたか、ちょうどいい。我ら勇者が討伐するにふさわしい悪ではないか」

腰に差した剣を抜くジークムント。

「ユウキ、約束は守れよ!」

「倒せたら、ね」

「正義は我らにあり!皆、続け!」

『おうっ!』

二十人ほどの勇者らは鬨の声を上げて異形の存在に立ち向かう。

「ユウキ様…、あれは一体?ゾンビでもグールでもないようですが…」

ミーティアとシャルティエは想像すらしたことがない存在を相手に足がすくんでいた。あれはある意味それらよりも残酷で最悪だ。

ジークムントらがまずは先制の魔術を使おうとするが、

「がぎゃぁぁぁ!!」

異形の存在は猛スピードで近づいてきた!

余りの速さに魔術の詠唱が間に合わずとっさに前衛が壁となるが「ぶしゅうううぅ」突き出された腕は軽々と腹を突き破る!

「え?」

苦痛を感じる間もなく腹を突き破られた男はそのままに後ろの魔術師たちを薙ぎ払う。

「きゃああっ!」

詠唱が間に合わず咄嗟に逃げようとするがそれすらも化け物とっては目障りと言わんばかりに凶器と化した異形の腕を振り回す。

「ええいっ!この化け物め!」

ジークムントらは包囲陣形を取ろうとするが相手はそんなものなどお構いなしに攻撃の手を緩めない。そうして一人、また一人と倒されていく。もちろん、その時点で死んでいるだろう。

「クソっ!何なのだこれは、これは!我らは勇者だぞ、このような輩に屈するなど、と!」

あと残り五人となりもはや壊滅するのは時間の問題であったのだが、

「ユウキ!貴様、この土地にこのような災厄があることを知っていたのだな!」

突然、こちらに話を振ってきた。

「お前らが呼んだんだろ?なら、その不始末は自分らで解決して」

「ええいっ!このような土地など要らぬ!領主である貴様が対応しろ!我らは忙しいのだ!」

『そ、そんな!』

余りにも残酷な返事に周囲の感情は最悪となる。そうして、奴らはこちらを盾にするかのように動き出した。

「あのような化け物などに負けるわけにはいかないのだ!そう、我らは勇者なのだから!」

「貴様ら!今更になって逃げるだと?お前らの問題だろ、なら」

「あのようなのは見てもいないし聞いてもいない。そんなのと戦う意味はない!」

「それで勇者だと?国の威信を担うだと?ふざけるな!!」

あまりにもあまりな選択にもはや誰からも見放されてしまう。しまうが、あの化け物の標的がここにいる以上どうにかしないとここにいる全員が皆殺しとなる。

使いたくないが、使わざるをえない。

「”豪竜の重鎧”」

魔法のバッグから武装を取り出す。青い竜の装飾で飾られた重装甲の鎧だ。

「”雷殺の剣”」

青白い光を放つ剣も取り出す。

それを脅威と感じたのか、異形の化け物はこちらめがけて突進してきた。

「ベるらイと、かノん、じークむんト!よクも、ヨくモ、オレをおおオオ~!!」

その言葉に無念と怒りを感じたが慈悲をかける相手ではない。

剣を一閃して左腕を切り落とす。

「ユうき、よくも、ヨクモ、よクもわガユメを!!」

ベルファストの夢。勇者となり名声と力を得て大貴族となり一生不自由のない未来を描いた若者、過ぎたる夢に踊らされた哀れな子羊。しかし、それを正そうと思えばできなくは無かった、だが、周りが悪すぎた。そうなるように育て仕向け利用し、最後にこのような化け物としてしまった。

一撃二撃三撃、絶え間なく連続攻撃を浴びせる。血の色はやや青く異臭とも腐臭ともいえる最悪の匂い。それらを無視してひたすら攻撃を加える。

ザクッ!バスッ!ズシャッ!ベキイッ!

筋肉どころか骨すら両断しているにも関わらず化け物〈元ベルファスト〉は止まらない。青い血を流しながらも回復をしてしまう。

「がぁぁあぁああああぁあぁああぁあぁあ!!!???」

こちらも手を抜いていない。首を吹き飛ばす気で、腕を切り落とす気で、だが、いくら斬撃を打ち込もうとも瞬時に回復されてしまう。

「殺す!ころすコロスこロすぞ!ヨクモワガ夢をツブしたな!わが敵ニ死を!」

化け物は僕を相手にしては不利と判断し周りの味方に狙いを定めた

出来る限り味方を参加させずに戦闘を続けていたがさすがに限界だった。

『ヒィッ!』

まともに考えればこのような戦闘などありえない。一撃一撃が必殺でありながら耐え生き延びるソレはもはやモンスターですらない。人外、と。そう呼ぶしかなかった。

周りはただ怯え恐怖し動きを止めるしかできない。

『く、来るなっ!?』

シャルティエが指揮を執るが味方には恐怖の顔がはっきりと出ている。このままでは危険であると判断し最大火力をぶつけるしかない。

着弾する火種を取り出す、前に使ったときは効果範囲を狭めて威力も低めにしたが今回の相手に限っては能力を押さえることはできない。

穂先に赤い火種が灯る。それは徐々に赤みを増していき唸りを上げる。

「がぎゃぎゃゃああ!!!」

こちらの行動を危険を判断したのか、化け物は周りにかまわずこちらに向かってきた!幸い射線には誰もいない。化け物がこちらに手が届く前に先端から赤い光が飛び化け物に着弾する。

ゴヴァァァア!

僕を巻き込んで赤い火が一面を埋め尽くした。
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