解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

文字の大きさ
上 下
134 / 154
第1章

188話 魔薬の災厄 

しおりを挟む
それは人の形をした”何か”だった。ボロボロの服装、人のような外見、だが体の一部が異常に隆起しており怪物のような外観となっている。

それは人でもモンスターでもない、「何か」、だった。

「あれは?まさか、べ」

『それ以上言うな!何も言うな!』

ベルライトとカノンが怯えながら名前を言おうとするが、ジークムントらが無理矢理止める。

「フンっ、鬼畜に落ちたか、ちょうどいい。我ら勇者が討伐するにふさわしい悪ではないか」

腰に差した剣を抜くジークムント。

「ユウキ、約束は守れよ!」

「倒せたら、ね」

「正義は我らにあり!皆、続け!」

『おうっ!』

二十人ほどの勇者らは鬨の声を上げて異形の存在に立ち向かう。

「ユウキ様…、あれは一体?ゾンビでもグールでもないようですが…」

ミーティアとシャルティエは想像すらしたことがない存在を相手に足がすくんでいた。あれはある意味それらよりも残酷で最悪だ。

ジークムントらがまずは先制の魔術を使おうとするが、

「がぎゃぁぁぁ!!」

異形の存在は猛スピードで近づいてきた!

余りの速さに魔術の詠唱が間に合わずとっさに前衛が壁となるが「ぶしゅうううぅ」突き出された腕は軽々と腹を突き破る!

「え?」

苦痛を感じる間もなく腹を突き破られた男はそのままに後ろの魔術師たちを薙ぎ払う。

「きゃああっ!」

詠唱が間に合わず咄嗟に逃げようとするがそれすらも化け物とっては目障りと言わんばかりに凶器と化した異形の腕を振り回す。

「ええいっ!この化け物め!」

ジークムントらは包囲陣形を取ろうとするが相手はそんなものなどお構いなしに攻撃の手を緩めない。そうして一人、また一人と倒されていく。もちろん、その時点で死んでいるだろう。

「クソっ!何なのだこれは、これは!我らは勇者だぞ、このような輩に屈するなど、と!」

あと残り五人となりもはや壊滅するのは時間の問題であったのだが、

「ユウキ!貴様、この土地にこのような災厄があることを知っていたのだな!」

突然、こちらに話を振ってきた。

「お前らが呼んだんだろ?なら、その不始末は自分らで解決して」

「ええいっ!このような土地など要らぬ!領主である貴様が対応しろ!我らは忙しいのだ!」

『そ、そんな!』

余りにも残酷な返事に周囲の感情は最悪となる。そうして、奴らはこちらを盾にするかのように動き出した。

「あのような化け物などに負けるわけにはいかないのだ!そう、我らは勇者なのだから!」

「貴様ら!今更になって逃げるだと?お前らの問題だろ、なら」

「あのようなのは見てもいないし聞いてもいない。そんなのと戦う意味はない!」

「それで勇者だと?国の威信を担うだと?ふざけるな!!」

あまりにもあまりな選択にもはや誰からも見放されてしまう。しまうが、あの化け物の標的がここにいる以上どうにかしないとここにいる全員が皆殺しとなる。

使いたくないが、使わざるをえない。

「”豪竜の重鎧”」

魔法のバッグから武装を取り出す。青い竜の装飾で飾られた重装甲の鎧だ。

「”雷殺の剣”」

青白い光を放つ剣も取り出す。

それを脅威と感じたのか、異形の化け物はこちらめがけて突進してきた。

「ベるらイと、かノん、じークむんト!よクも、ヨくモ、オレをおおオオ~!!」

その言葉に無念と怒りを感じたが慈悲をかける相手ではない。

剣を一閃して左腕を切り落とす。

「ユうき、よくも、ヨクモ、よクもわガユメを!!」

ベルファストの夢。勇者となり名声と力を得て大貴族となり一生不自由のない未来を描いた若者、過ぎたる夢に踊らされた哀れな子羊。しかし、それを正そうと思えばできなくは無かった、だが、周りが悪すぎた。そうなるように育て仕向け利用し、最後にこのような化け物としてしまった。

一撃二撃三撃、絶え間なく連続攻撃を浴びせる。血の色はやや青く異臭とも腐臭ともいえる最悪の匂い。それらを無視してひたすら攻撃を加える。

ザクッ!バスッ!ズシャッ!ベキイッ!

筋肉どころか骨すら両断しているにも関わらず化け物〈元ベルファスト〉は止まらない。青い血を流しながらも回復をしてしまう。

「がぁぁあぁああああぁあぁああぁあぁあ!!!???」

こちらも手を抜いていない。首を吹き飛ばす気で、腕を切り落とす気で、だが、いくら斬撃を打ち込もうとも瞬時に回復されてしまう。

「殺す!ころすコロスこロすぞ!ヨクモワガ夢をツブしたな!わが敵ニ死を!」

化け物は僕を相手にしては不利と判断し周りの味方に狙いを定めた

出来る限り味方を参加させずに戦闘を続けていたがさすがに限界だった。

『ヒィッ!』

まともに考えればこのような戦闘などありえない。一撃一撃が必殺でありながら耐え生き延びるソレはもはやモンスターですらない。人外、と。そう呼ぶしかなかった。

周りはただ怯え恐怖し動きを止めるしかできない。

『く、来るなっ!?』

シャルティエが指揮を執るが味方には恐怖の顔がはっきりと出ている。このままでは危険であると判断し最大火力をぶつけるしかない。

着弾する火種を取り出す、前に使ったときは効果範囲を狭めて威力も低めにしたが今回の相手に限っては能力を押さえることはできない。

穂先に赤い火種が灯る。それは徐々に赤みを増していき唸りを上げる。

「がぎゃぎゃゃああ!!!」

こちらの行動を危険を判断したのか、化け物は周りにかまわずこちらに向かってきた!幸い射線には誰もいない。化け物がこちらに手が届く前に先端から赤い光が飛び化け物に着弾する。

ゴヴァァァア!

僕を巻き込んで赤い火が一面を埋め尽くした。
しおりを挟む
感想 675

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。