解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

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第1章

184話 有頂天な馬鹿勇者 Ⅱ

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「久しぶりだな」「お久しぶり」

挨拶はごく普通に行った。

「お前が出世したことは実に誇り高い、勇者の誇りだ」

あくまでも「勇者」という面を強調してくるベルファストら、続いて出た言葉は、

「我が家臣としてうれしく思うぞ」

そんな意味不明な言葉だった。

いつ僕がお前たちの家臣になったというのだ?まぁ……家臣らしき扱いは受けていたと言えばいいか。都合よくだけどね。大半は丸投げの重労働だが、今はそんなことを話してもしょうがない。

「家臣のモノは主君のモノである、即座にこの土地の所有権を譲渡しろ」

さらに意味不明の言葉が続く。

な~~~んか、傲慢さと横暴が膨れ上がってるね。以前もそうした面が強く出ていたが欲望も交じり始めている。どこかで甘い言葉を囁かれたか?なんでこいつらを助長する世襲貴族らが多いのだろうか。前段階で家臣でもないのに現時点で家臣というのがあまりにこじつけが過ぎる。

「ねぇ、本気で言ってるの?」

「もちろんだとも」

我らがこの領地を発展させ民を導く、そんな誇大妄想な言葉が次々と出てくる。

「(何か圧迫でも受けたのかな。貴族となり栄達する未来しか見えていない。現実を直視し少し調べればここがいかに危険であるか分かるはずなのに)」

以前から傲慢が過ぎると思い失望していたがさらに悪くなっていた。これに対処できる薬はもう僕にはない。

解放され楔が外れた以上もう相手の顔色を伺う必要は無かったし現実を見せて追い払うしかないのだが、

「(こいつらがどこで野垂れ死にしても問題ないけど。問題はこいつら勇者だけに提供されている『幻想の秘薬』の製造を一刻も早く中止させないとならない。今はまだ禁断症状が確認できないようだから無事みたいだがアレは材料の入手が絶対と言えるほどに不可能だ。一刻も早く”兄弟”らを解放しないと)」

ファラとメルがここにいないということは無事に保護されたのだろう。彼女らはまだ秘薬を飲み始めて日が浅いので何とかなるはずだ。

だが、ここにいる三人はどうしようもない。

幻想の秘薬の度重なる服用によって能力は確かに肥大した、だがそれが切れるか限界を超えた時が問題だ。その時に彼らの身は人間ではなくなるだろう。

「(どうにかして手を切らせたいけど)」

僕が思い悩んでいると、

『貴様!家臣ならば頭を下げろ!!』

三人が武器を抜いた。

警護の者らが殺気立つ。

「……そう、あくまでも僕が家臣でお前たちが主君。渡さないなら力づく、という訳なんだね」

『そうだ!下賤な民の出であるくせに身分不相応な立場に座りおって!!』

ダメだ、こいつらに言葉で論破は不可能だと確信した。

「戦いがお望みならば受けましょう」

建物の中で暴れるわけにはいかないので外に出る。

「「………」」

僕とベルファストベルライトカノンは向かい合い武器を構える。

僕は身長を超える鋼の棒を構え、ベルファストは装飾が施された長剣、ベルライトは長杖、カノンは片手剣と太盾を構えた。

「貴様はパーティにいた時は役立たずだったくせに我らを追い越し追って」

「ゆるさないぞ!」

「倒させてもらいます!」

三者三葉やる気、いや殺気があるな。だが、僕の心にはこいつらに対する復讐など些細な問題だった。こいつらの背後には欲に溺れた連中がおり目も前のような都合のいい実験体を使い国の威信と誇りとやらに駆り立てている。

両者はいまだに世界の法則を捻じ曲げていた。それを考えて「自業自得」ともいえるがそんな言葉に惑わされた彼らの心の弱さがなんとも言えない。

もうすでに解放されたので彼らには現実から退場した方が良いのだとも考えるが、

「死ねぇ!!」

ベルファストが大上段から切りかかってきた。

何ともせっかちではあるが決闘で考え込んでいた僕が悪いと判断し体を横に逸らして回避する。そこを狙いベルライトが魔術を、カノンが突進してくるが空中に飛び上がり回避する。

「「「くっ!貴様、力を隠していたな!!」」」

「当然でしょう。悪に見せる力はないよ」

三人は連携を取って攻撃してくるが数々の実戦を潜り抜けてきた僕には素人同然の動きでしかない事が良く分かる、ベルファストの足を引っかけて転ばせカノンをベルライトの方に蹴り飛ばす。

「くぅっ!」

「お前達じゃ僕の元まで辿り着けない、いい加減に夢から覚めて」

「ま、まだ負けたわけじゃない!」

立ち上がり武器を構えるが実力の差は歴然である、何も起きなければ。

『(もっと…、もっと力を!力さえあれば、あれば!!)』

自分らを見下ろすユウキを見て殺意が膨れ上がると同時に立ち上がると、

「!?」

ユウキの驚いた顔が飛びこんできた。

ベルファスト無我夢中で長剣を振るうとユウキが武器で受け止めて後退する。

『は、ははっ!体が軽い、軽いぞ!これだ、これが勇者の力だ!!』

先ほどまで絶望していた三人は一転して高笑いを始める。そこから一転して三人は攻勢に徹した。長剣が格段に速く強くなり魔術も強く連発するようになり体も軽くなる。まるで生まれ変わったかのように。

ユウキはそれに対応しながら冷ややかに現実を見ていた。

「(体に取り込んだ幻想が力を発揮し始めたのか?今はまだ能力に思考も体も追いついてないけど冒険者の平均よりは格段に強くなっている。この分だと本当に『勇者』になるかもしれないな。けど、それが効果を発揮し始めたということは)」

この三人がもはや手遅れであることを悟る。

三人は確かに常人の壁を超えたがあくまでそれは肉体だけであり精神までは至っていない。にもかかわらず人の限界を超えているのだからこのままでは悪しき存在になってしまう可能性が高い。

この三人を今ここで倒しておかなければならないと決心し、倒しにかかることにした。
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