解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

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第1章

158話 初級官史試験前Ⅰ リナの様子

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「ユウキ様。よくいらしてくれました」

僕は店を任しているリナの元に来ていた。営業している店の監督役でもあり職業貴族の子息子女らを雇用しているのでその働きぶりを評価する審査役でもあるからだ。

「お店の営業の方は非常に順調ですよ」

「そうなんだ」

お店にはひっきりなしに客が入り経営は軌道に乗ったと。

「冒険者ギルドの方から『支店を出さないか?』という催促がかなり来ておりますけど」

「ふむぅ」

「何名かは支店の経営を任せても問題ないと思うのですが」

「う~ん」

この辺りは悩みどころだ。確かに支店を出せばもっと売り上げを出せるだろう、しかし、信頼に足る人間かは判断しにくいところだ。

店を任せた途端欲が出て経営状態を誤魔化す危険性がある。人情に訴えて契約を反故にする人間も少なからず存在するのだ。この辺りの問題をどうするか。

「その問題については冒険者ギルドの契約資料を確認してから判断する」

「分かりました」

まずは冒険者ギルドの契約資料と内容を確認してからだろうな。その内容を確認し問題点が無いかチェックしてからこちらで修正をする必要性がある。

相手がどんなに頭を下げてきてもその契約内容を違えるようなら容赦なく追い出す。

「それはそうとユウキ様。もう初級官史の試験を受けられるのですね」

「それがどうかしたの」

リナはどこか羨ましそうな顔をしていた。

「ハッキリ言いますが初級官史試験は政治家への登竜門とされております。十代での合格者は殆どおらず二十代三十代になっての合格すら当たり前。受けたくても受けられない者らも多数おります。それなのにユウキ様は大半が落とされる一時審査を免除されておりますから」

とてもすごい主だと、悪意なく褒めてくれた。

「君も受けたいの?」

「ええ、是非とも。といっても私ではまだまだ勉強不足実績不足で試験にすら挑めません。私も二十代に入りましたから実績がモノを言います。知識礼儀ではかなり勉強しますけど無位無官では」

今後の立場を決めるには能力不足だと実感してるそうだ。加えて僕は冒険者ギルド行動小隊長第一位の資格も持っていること。有事になれば冒険者を束ねて行動でき命令も下せる。その主に対して自分らはまだまだお役に立てるような結果を出してないことが不満だそうだ。

「結果なら十分出してるじゃない」

僕の出したお店を問題を起こさず大きな利益を上げている。それでいいじゃないか。ところが、他の皆からすると不安なのだそうだ。

書倍の原型も資金もほぼすべて出してもらったので自分らは敷かれたレールの上を進んでいるだけであり今後家臣家を立てるのなら自分らでも何かできることを探さなければならない。そのように考えているみたいだ。今後僕がどのような功績を立てるのかは不明だがその側近になるためにはなにがしかの理屈が必要になるはず。

今はまだその命令に従うだけでいいが今後は自分らの意見主張を入れることも考えられる。そう考えて独自にコネを作り始めているそうだ。

「(そこまで命令したわけではないんだけどなぁ)」

皆には損をしない教育を施しているのは事実だった。冒険者ギルドの優秀な人物の元にお金を積んで勉強に行かせているのもその一つ。そうした中で自分らの役に立つ付き合い方を模索検討している段階に進んでいた。

貧乏人には貧乏人同士の付き合いしか出来ないし金持ちには金持ちにしか出来ない付き合い方がある。それを見越してお金を惜しまずそうした人物へ接触させてるのが良い方向に進んでいるようだ。

以前の資金が無いリナだったらそんなことは考えもしなかっただろう。生活費を捻出するのに忙しくそうした付き合いや勉学にお金を割くのを惜しんだはずだ。

大分意識改革が進んでいたようだ。

とはいえ、まだまだ勉強中であり自立させるには勉強と経験が必要だろう。こちらからその機会を与えてみようか。

「支店を任せたい人物がいると言ったね」

「ええ」

リナは「この人物を押したい」という顔になる。

「じゃあ、三店ほど一気にだそうか!」

「!? 本当でございますか!!」

もちろんだと答える。リナはとても喜んだ顔になった。

「この店の原型はそのまま保ちつつ現地の商品を数点入れようか。とりあえずペーパープランだけは考案しておいて」

「了解しました!早速店の基本案を練ります!」

営業を開始するのは初級官史試験が終わり書類が作成されてからと伝えておく。

さて、これでリナへのお話は終わりだ。他のみんなの様子を見に行こうか。




~リナ視点~

「(やはりユウキ様は機を見るに敏、そして、器量がとても大きい方だ)」

私は確信する。

支店を出したいという要望は冒険者ギルドからももう伝えられており部下として雇っている職業貴族の子息子女からも要望が強かったのだ。

だが、ジーグルト伯爵家に出向いていたのでその問題を先送りにされていた。ユウキ様はジーグルト家の一族の娘を嫁に連れて帰ってきて大きな信頼関係と莫大なり利権を手土産とした。

そのため、主君の株は飛躍的に向上しその家臣である私達にも主への「話し合いの機会を設けてほしい」そうお願いされるほどに。

正直すべての職業貴族が円満な経営を行っているわけではないのは事実、店を経営してる人物は数多いが赤字が続いてる店も少なくない。

主の能力を高く買い店の再建をと望まれていた。ユウキ様はその依頼を快諾しあっという間に三軒に店を大繁盛店に生まれ変わらせた。

さしたる予算を設定しなくても工夫知識努力次第で店は改善できる実例だ。

できれば、それらは私達に渡してほしいものだがもはやその段階は過ぎていた。これからユウキ様には引く手数多の人物に成られるだろう。当然人付き合いもそれに見合うものになる。一家臣として与えられるものには限界があるのだ。

だけど、それを恨んではならない。

今日来てくれたのも今後忙しくなり避ける時間と機会が限られることを配慮されたからだ。

三店もの支店を出してくれると。ユウキ様は有言実行の方なので約束を違えるということはないはず。これで部下のやる気は格段に上がる。

経営は忙しいが書類を急ぎ作成する必要がある。嬉しさ一杯になりながら紙を取り出して支店設立の基本案を考えることになるのだった。
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