解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

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第1章

154話 商売の雛形 Ⅱ

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一軒目の経営改善を完了させた僕は次の店に向かう。

「ここか」

そこは麺料理、いわゆるラーメンらしき食べ物を売っている店だった。

「いらっしゃいませ」

店の中に入ると店員が接客を行う。フムフム、店の中身は良さそうだ。

「ご注文は」

僕のことをお客だと勘違いしているようだ。面倒なので早速本題に入る。

「リサギルド支部長から店の経営改善を依頼されました」

「えっ?」

「この店の経営状態が良くないということなので僕が考案した雛形を使い経営を改善いたします」

冒険者ギルドから発行された正式な依頼書を見せる。店員はすぐさま店長を呼んでくる。

「初めまして。私がこの店の店長です」

「どうも」

「お名前は」

ユウキと名乗る。

「単刀直入に言います。冒険者ギルドではこれ以上赤字を出し続ける店を黙認する現実は黙認できません。新規出店ならともかくある程度時間が経過した店は黒字を出し続ける努力を求めています。それが行われていない店は閉店を視野に入れる方針です」

残念ながら、ある程度時間が経過した店でありながら赤字状態の店を許容する資金は冒険者ギルドとしてもあまり出せない。このまま経営を続けてもお金が出ていくだけ、それならば大胆な手法を用いてでも黒字化する必要性がある。

冒険者ギルドの金庫番である会計部門でも、

「正直に申し上げます。現在赤字状態の店がかなり多いんですよ。その赤字を補填するお金は出来るだけ少ないほうが望ましいです」

明言した。

店を出しても赤字となりそれが回収できる見込みのない店が相当な数存在するそうだ。どうにかして黒字化したいが経営手腕に長けた人材が乏しいことと様々な条件があり上手くいかない。何度となく行ったがそれでもうまくいかない。

どんな条件状況商品でも黒字を出し続ける手法があるならば高値で買わせてもらうそうだ。

そのために僕が来たわけなのだから。

「不平不満大いにあるかと思いますが赤字を出し続けているあなた方の反論は何の意味もありません。経営を改善する機会がありながら何もしなかった罪は重い。それは人情ドラマではなくホラーなのです。自分の能力の無さを人情という意味の無い感情で誤魔化しているだけ」

「……」

「僕の提案を蹴ることもできますよ?そうしたらこの店はすぐさま閉店し従業員は全員解雇ですが」

脅しを加える。

「店が繁盛すれば労働が増える、それが嫌という人間は多い。でもそれが儲けの最短距離なのです」

今更この現実から逃げるのか?それで家族を養えるのか?理詰めで強引に切り込む。

「さて、どうしますか」

「……受け入れます」

店長は渋々ながらも承諾した。

多分この人は今の立場に安住したいのだろう。でも、現実は甘くない。商売というのは儲けを出し続ける宿命があるのだ。それを見ようとしないのならば消えてもらうしかない。

早速改善策を考える。

まずは、店で出している商品の確認をする。

「どうぞ」

店員がもってきたのはラーメンらしきものだ。こちらの世界では「ニューメ」と呼ばれている。

その味を確認するが典型的な塩味のスープと平凡な面だった。この味ではあまり客が来ないのは当然だった。それを確認した僕は冒険者ギルドに戻る。

「店の経営改善をするにあたり材料が欲しいのですが」

「どんなものがよろしいのでしょうか」

冒険者ギルドでモンスターなどの素材を胃購入販売している部門担当者に会い目的のモノがないか確認を取る。元々使い道が無いと思うからかなり余っていると思うが。

「様々なモンスターをここでも大量に解体してますよね。その脂身の部分だけを大量に欲しいのです」

「脂身……だけ、ですか?」

「はい」

「今現在ユウキ様の考案した食用油の製造のために微妙に値上がりしてますが、たしかに大量に余っております」

モンスターの脂身には大した価値はない。僕の考案した味と匂いに癖の無い食用油の製造に使うぐらいだろう。ほぼ捨て値であった。

とにかく、あの店の味の改善をするのは脂身が大量に必要なのだ。

それを購入し魔法のバッグに仕舞うと店に戻る。店の厨房に立ち早速改良を始める。

まずは、脂身を徹底的に細かく刻む。とにかく刻む。板の上が脂身で一杯になってもだ。店長を含む全員が不思議そうに眺めているが。

脂身を刻み終わるとそれを別の鍋に「これでもか!」投入して水を足して火を入れる。モンスターの脂身は独特の臭みがあるため一旦水で煮なければ食べられたものではないからだ。

水で煮ること十分ほどで脂身から臭みが抜けたので脂身だけをすべてとって水を捨てる。その脂身を元の塩スープにすべて入れてしまう

これでけでは味が足りないので塩気が強い魚醤油を別に用意して足す。さらに麺を茹でて入れる、これで完成だ。

「さ、どうぞ」

『こ、これは?』

完成したスープにはギトギトした脂身が大量に浮かびちょっと食するには難しいものになった。現実世界で言う背油ラーメンそのものだった。こちらの異世界では油が大量に浮かぶ料理は非常に下品であるという認識が根強い。

そんな下品な物を食べるというのは平民でもほとんど行わない。

「こんな油が大量に浮いた食べ物などは」

「ウダウダ言わずに食う!」

『は、はいっ!』

僕に脅されて嫌々ながら箸を取り麺を引き上げる。ドップリと油が付いていていかにも胃もたれしそうだ。

ズルズル

『う!美味いっ!!』

全員が驚いた。そしてすぐさま夢中になって箸をすすめスープまで全部飲み干す。

「どう?下品な食べ物も悪くないでしょう」

『こ、この美味さは、一体?』

全員が不思議そうな顔をする。自分らの常識ではこんな下品な食い物は受け付けないはずなのにいざ食べると箸が止まらない。

これで味の面の改善は終わりだ。

「ほら!早速仕込みをする。客を呼ぶ努力をする。今後は忙しくなるんだから」

『は、はいっ!』

全員が僕が行った作業を一心不乱に行う。

「報告は以上です」

「お疲れさまでした」

リサギルド支部長に二軒目の店の改善が終わったことを報告する。

「これであの店は大丈夫でしょう」

「料理の常識では下品とされている脂身を大量に投入した料理ですか、これはまた斬新ですね」

「モンスターの脂身には独特の臭みがありますがそれを取り除けば例えの無い甘さがあります」

「なるほど」

リサさんは僕の報告を聞いて終始笑顔だった。それもそのはずだ。あの料理は確かに下品だろう、しかし味は格別だ。たとえ下品だろうと美味ければ文句はないという客も大勢存在している。

あの店はすぐさま客足が絶えない店に変貌した。

「私も一度足を運びましたが、あの味は覚えると癖になりますね」

「そうでしょう」

「これで二件目は完了です」

早速三件目の依頼を受ける。ちょっとばかり難儀な依頼だそうなので気合を入れないとね。
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