解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

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第1章

144話 今後の方針

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「これで大分敵が見えてきたね」

この拠点を襲った山賊どもから情報を聞き出したことにより敵の姿形がおぼろげながら見えてきた。だが、その数が結構多い。領地を持たない準男爵や騎士爵が大半だが三十家以上もいる。これらが兵を動員するとこちらの総数を超えてしまうのだ。

こちらは遠征してきておりまだ確固たる地盤と住民の信頼を構築し終えてない。これらの敵に先手を取るための策を練らないとならないな。

「ウィニー」

「はっ」

「押収した書類の中身、計算し終えたかな」

もちろんです、と。ならばと、すぐさま命令を出す。

「まずは相手の資金源を断つ。いくら世襲貴族が反ジーグルト連合を組もうとも資金源を押さえれば言うことを聞かざるを得ないからね。まずは、経済的に困窮してもらおう」

「畏まりました。早速部下を動かします」

まずは手始めに資金力で争うことにした。これだけの数の世襲貴族とはいえ何がしかの金を手に入れる手段を持っているはず。賄賂だったり徴税だったり、色々あるが。まずは相手側の金を減らす作戦を始める。

戦というのはとにかく金がかかる。兵士だったり装備だったり食料だったり、相当な金がかかるのだ。指揮官として最優先に考えるのはそうした者らに配る賃金の確保だ。これを押さえているかどうかで明暗が分かれると言ってもいい。

資金が潤沢にあればどうとでも揃えることが出来るが予算が無いとそうはいかない。

どのぐらいの賃金でどのぐらいの装備でどのぐらいの食料を配給するのか。そこらへんが指揮を執る場合の最大の問題点だ。

何かが不自由すれば兵士らの士気は下がり戦闘意欲を失う。

健全な兵隊というのはそれだけで貴重なのだ。軍縮が進むこの世界ではそうした部隊を有しているのは殆ど存在しない。金に目が眩んだ馬鹿は腐るほどいるのだが基礎能力が低すぎてお話にならないほどに弱い。

正直言って冒険者ギルドの方が圧倒的に教育がなされていて練度も高い。なので、戦を商売にする冒険者も少なからず存在している。

基本的に冒険者ギルドは未開地の開拓とモンスターの脅威を取り除くことを第一目的としているが何らかの理由により貴族間の紛争戦争を代理したりもする。

広大な領地を治める大貴族の当主が代替わりすると因縁のある相手に紛争を仕掛けて権威を誇示する、そうした慣習というか目的が少なからずあるからだ。

外部の敵を排除する利益が目的ではなく内部の地番固めが目的という迷惑な行為だがこれはこれで一種のガス抜きという効果がある。相手側が困っている状況もありうるので決して悪くない選択肢でもある。

僕からすると身内の不満が抑えきれずにやむなく出ざるを得ないこともあったが。

話を戻そう。

「アラン」

「はっ」

「君なら、どう行動する?」

質問というか回答というか。アランらにも考え進言する機会を与えることにした。僕が全て問題を解決しては配下の成長が見込めない。アランの実力だと五十人ぐらいまでは指揮できるだろう、だが。僕からすると拠点を任せるのはもう少し実績を積んで欲しいところだ。

各拠点を任せた者らには今後とも統治を任せる旨を伝えている。他の二人は問題ないがアランはまだ新顔で功績が無い。外部から来た彼を「信用できない」という意見もあるだろう。

僕は問題ないがいずれここから離れる身であることを考えれば、アランに功を立ててほしいのだ。

資金と兵士数で勝る相手に追い詰める方法を模索検討させる。

「で、どう行動する?」

「私なら経済の要所を押さえます」

「それで反撃されたら」

「退きます」

「退いた後に追撃されたら?」

「陣地を構築します」

「う~ん。ちょっと模範解答を見すぎ」

「はぁ」

「先手で押さえないと潰される側なんだよ」

「そう言われましても」

「余裕がないのはどちらも同じ、それならわずかな余裕を無駄に使う機会は無い方が良い」

「そうなのですか?」

アランの回答は古来から伝わる既存戦術そのままの回答だった。歴史から見て客観的に学ぶ戦のやり方だった。こうした文献を元にして戦を学ぶのが貴族というわけだが、それはベターな答えの中に留まる。戦場では何が起こるのかは予測不可能だ。昨今戦が無いのは平和だと思うが軍事教育へと進む者らをないがしろにしているとも見受けられる言動も多々ある。

この拠点を統治し襲った輩などまさにそれだろう。そうした馬鹿連中が蔓延っている。国などにも軍人課程や職業軍人ともいうべき貴族も多いのだが、いかんせん堕落した馬鹿が一定数入るのだ。

基礎訓練すら付いていけないのに指揮官になれば体力訓練など無用と考える連中である。軍人ならば最低限健康な体と体力、兵士の規律は覚えるべきだと思うのだが。

コネでエリートは生まれない、学ぶべきことを学ばないのは無能である。それだけだ。

アランもある程度は学んでいたがいかんせん経験が無い。ここでキッチリ教えておく必要があった。

「戦は絵で描いたり本を書くこととは違う」

現実を直視しろと。

「しかし、相手はユウキ様の流言飛語で兵士を集められないではないですか」

「そんなものは時間稼ぎに過ぎない」

ここからが本番だと。

「資金はほぼ同等で兵士は相手が上、貴族の頭数も上。この状況で先手を取るには?」

「え、え~っと」

アランは必死に考える。

「回答できない?」

「も、もうしわけございません!」

必死に考えたようだが具体的な策は出せないようだ。この若さなら仕方がない部分もあるか、それを考えてしまう僕の方が恐ろしいかもしれないが。

「ただの一家臣としてなら今でもいいが重臣になりたかったら努力を怠らない事」

「ははっ!」

この戦が終わると彼の立場も決まってしまう。そこからどれぐらい上積みできるかどうか。ともかく、彼を連れてきたのは僕なのだから教えられるときに教えてあげられることは出来る限りしてあげることにした。

僕はもうすでに回答を持っているので問題はない。問題があるとすれば。

「冒険者ギルドとアルベルトになんて説明しようかなかぁ……」

小声で、愚痴を言う。

僕がやる方法では相手側に甚大な被害を与えることを念頭にしているためその後のことはその時になって処理すればいいと考えているが、そんな被害を受けた側もそれを助ける側も嫌だろう。

『貴族間の紛争で経済活動が出来ない程に負けました。お金貸して下さい』

単純明快なお答えだがこれを聞いた側は激怒するしかないだろう。そこまで負けるまで戦った方が馬鹿なのだから。

とはいえ、引くに引けない状況であるのだから。弁明は一応考えておくことにした。
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