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第1章

141話 アルベルトの悩み

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ユウキが拠点で指揮を執っている頃。ジーグルト伯爵家と冒険者ギルドは大騒ぎとなっていた。

「これは本当のことなのですか?」

「はっ。ユウキ殿が軍を指揮し拠点を制圧した際の証拠を複写しそのままもってきました」

ジーグルト家の兵士の一人が伝令として書類を持ってきていた。その中身を確認するアルベルトと家臣ら、それにユーヴィルら冒険者ギルドの面々。

『何と酷い悪政、各拠点に兵を進めるよう進言したのはユウキ殿を筆頭とした方々ですがこのような書類が持ってこられるとは!これは明らかに協定違反です、すぐさま援軍を出すべきです!』

重臣らだけではなくユーヴィル殿らも事実を知らされ各拠点で行われていた世襲貴族の愚かさを指摘、これはまともな統治体制でないことを非難した。

それもそのはずだ、このような事実はどこからも報告されいなかった。

いくら世襲貴族が愚か者ばかりとはいえある程度は裁量権を有している、だが商人らから取る通行税も拠点に配置してる警備兵の人数も書類とは大きく異なっていたからだ。

これは明らかに人員が超過しておりそれを維持するために不当な税を掛けていたことは明らかだ。しかも、中身は貴族軍とは名ばかりのごろつきばかりでありまともな兵士ではない。

大至急周辺地域の再調査を行わなくてはならない緊急事態だった。

「ユーヴィル殿、どういたそうか」

私は家臣だけではなくユーヴィル殿らの意見も聞くことにした。

「まずはユーラベルク冒険者ギルド支部長リサ様に報告する必要があるでしょう。まず間違いなくこれは周辺地域の調査に人手を割くのは間違いないでしょうから冒険者ギルドから隊を結成し各地に派遣します。調査後統治体制が間違っている、と。判断されたのならば」

その拠点や町や村を統治している世襲貴族らに罰を与えなければならない。基準となるのは統治年数で、それが長いほど評価が重要になる。いつ頃から行われてたかなど収支報告の内容を再確認し厳格な審査をしなくてはならない。

まともに統治していたのならばお咎めは無しだがそうでない場合は相当な違反金を出させる必要があると。当代で支払えるのは難しく数代は借金で苦労することになるだろうと。

だが、それは自業自得である。見栄ばかり強く不当な金を取っていた世襲貴族の方に責任がある。

「幸いライク家に援軍として送った冒険者らがユウキの仕事の後始末を終えたとの報告が来ておりますので」

それをそのまま援軍として三拠点に分配配置すればいい。

この場合は冒険者ギルド側が給金や物資補給を担当することになるが仕方がないだろう、何しろユウキが連れていった兵士は最低人数であり敵対する者らが現れたので増員する必要があるのだ。

「やはり、そうなるのか」

「はい」

冒険者ギルドから来ている人材は迷いなく答える。このような事実はどこからも報告されていなかったからだ。世襲貴族らが上手くもみ消していたのだろうが証拠となる書類を全部抑えたので言い逃れは出来ない。

「分かりました。そちらの方はすぐさまリサ殿に報告して下さい。こちらも同じように対応したします」

『畏まりました』

そうして、ユウキから送ってこられた証拠の中身を厳しく審査することになる。

数時間後――

「ざっと見た限りでも酷い中身ですが項目を見直すとさらに酷いですな」

「通行税や各拠点の収入のかなりの部分が警備費用として計算されているぞ」

「それを差し引いても世襲貴族の懐に入る額が大きすぎる」

財務系の文官だけではなく冒険者ギルドの財務会計者も交えて中身の数字を計算した。そこから出されたのは明らかに不正な行為をして懐に入れている金だった。それも相当な数字で。

ある程度なら私費として計算もできるが金額の上限を遥かに超えている。おそらく賄賂や根回しに使われてるのだろう。周りが結託して証拠を握り潰していたのは間違いない。

こうなると、答えは一つだけだ。

ジーグルト伯爵家と冒険者ギルドはこの報告書の内容を審議するために同盟を結ぶことになった。

その後、私は当主の部屋に戻り深く悩むことになった。

「どうして、どうしてこうなってしまった……」

自問自答する。

以前から世襲貴族らが政を疎かにしているとの噂は聞いた。しかし、それはあくまで噂だと思っていた。

しかし、父上がユウキを連れてきてからというもの身内の人質事件に始まり貴族軍の侵攻、自身の暗殺事件、周囲一帯への兵士の派遣と。立て続けに大事が起きている。

平和に領地の中だけを見ている事は出来ない状態が続いている。これも貴族の宿命だと思うが。それもこれもすべてユウキが最前線に立ち指揮を執っていた。彼でなくては対処は出来なかっただろう。

貴族家の当主としてまだ若く経験がない自分が恨めしい。

コンコン

突然、ドアがノックされた。人払いを命じていたはずだが?

私は扉の近くまでいく。

「誰だ?」

「ユーヴィルです。お話したいことがあります」

彼女か、突然来たことに少し驚いたが部屋に入れることにした。

「どうかされたのか」

少し心の整理がつかないまま他愛のない話をしようとして、

「どうかしているのは貴方様の方でしょうう?」

声が突き刺さる。

「えっ?」

「今、大変に思い悩んでいると思いまして」

「……」

私は声が出てこなかった。

「こんな事実は知らなかった?知りたくなかった?悪評は聞いていたがここまでとは思わなかった、そうなのでしょう」

悩みがあるならば聞くと。彼女は申しているのだ。

「どうして、そう思うのかな?」

不安に思っていることは表面には出していなかったはずだが。

「ユウキ様から秘かに依頼をされました」

『アルベルトは僕が起こす行動で貴族としても人としても大変に思い悩む。周囲の世襲貴族らのことも、自分に信頼を寄せてくれる者らのことも、いくら貴族の宿命とはいえある程度顔見知りはいるはず。それらを敵か味方に区別して付き合いを続けるのは辛いだろう。彼は人前で悩みを見せるタイプじゃない。内密に相談を受けてくれる人物が必要だ』

重臣で相談できるような者らもそうはおらず当主として判断されることも大きい、だから、周りが誰ともなく助けてあげてほしいと。

ユウキからそのようない依頼を秘かにされたそうだ。ユーヴィルはアルベルトのことを平常に貴族として振舞えると思っていたそうなのでそのような依頼をされるのは杞憂であると考えていた。

『ともかく、アルベルトと秘かに話をしてみて。彼は大変に悩んでいるはずだから』

そうして、アルベルトが一人きりになるのを見計らって来たそうだ。

「ユウキはどこまで人の心を見ているのだろうな」

「そうでございますね」

こうまでしてまで他者に力を貸すのはなぜだろうか?いくら信頼が厚いとはいえ限度があると思う。だが、今はありがたく甘えることにしよう。

そうして、私は悩みを少しずつ解決することにしたのだった。
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