解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

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第1章

133話 空気を読まない馬鹿貴族ども

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「無駄に死体ばかりが積み上がったなぁ」

五十人程度とはいえ死体は死体だ。見るべきものではないし存在していては病気の原因にもなる、しかも門の前にできたので迅速に片付ける必要がある。

「アラン!」

「はっ!」

僕が近場に穴を掘るからそこまで運べと、指示を出す。

ジーグルト伯爵家の兵士らが拠点から出てきて死体の片づけを行う。

『……』

彼らは黙々と作業を行う。死んだ肉体は無駄に重いのだ。しかも血を流すとなれば嫌悪感は相当なものだろう。しかし、これは命令であり治安維持と衛生のために必要な行為だ。

無駄な口を叩く暇があるならばなるべく早く運べということである。

僕は死体を埋めるための穴を掘るためにシャベルを取り出す。そして、ひたすらに人数分の穴を掘る。この世界では火葬より土葬が一般的だ。僕としては火葬の方が良いと思うのだが高貴な人物でもなければ出来ない仕来たりがあった。

ドサドサドサ

掘った穴に死体を投げ込む。しばらくして五十人分の死体が埋め終わる。

「貴族らは何と言ってくるのでしょうか?」

「いきなり五十人もの兵士らが消えてしまいましたからね」

隣の隣人が消えるだけでも騒動なのに五十人もの家臣が居なくなったとなれば大騒ぎだろう。

「どうせ奴らには証拠は掴めないんだから」

「そうですな」

地面の中に眠った死体には悪いが、消えてしまった方が良いと思えるような連中だったのは間違いない。この場所に来たということは誤魔化しようがないが移動先までは特定できないだろう。貴族がイチイチ地面の中まで探すわけがないからだ。

いなくなっても補充などいくらでも出来る存在なのである。

薄給でこき使われていなくなっても葬儀すらされない、そのような連中なのである。

んんっ?この世界はそんなに酷いのか?そりゃそうだ。以前からいた連中といい今回来た連中といい話し合いの余地もなく攻撃してきたんだぞ?自己防衛という言葉もあるけど貴族社会において負けるのは悪である。悪は抹殺するべきであるから罪に問われない。

それがたとえ昨日まで親しかった同胞であろうとも、だ。

世知辛い世の中であるのにはそうした馬鹿が空気も読まずにやってくるからだ。しかも、相手を自分らの都合の良い相手に間違わせてでも倒そうとするからである。二度言うが、間違ってでも人殺しをしようとするのである。誤認という言葉をつかい相手を悪にして自分らの正義を押し通す

しかも、事実関係を何一つとして調査せずに武器を抜いて攻撃してくる。これ以上愚かな連中はいないだろう、と思う。

そうして、空気も読まず間違った馬鹿が再び現れる、徒党を組んで。

「ジーグルト伯爵家の偽旗を掲げる賊軍に告げる!我らはナウビッシュ男爵家の御旗を立てる者であり跡取り様もここにおる。紋章官にも確認を取らせた。そなたらは貴族家を詐称する偽者である!即刻降伏しろ!!」

『……』

味方らに戦意……、というか。殺意が充満する。こういう問題児は本人だけで来てほしいと願うのだが。

奴らが言った発言をもう一度よ~~~く思い返してくれ。

貴族家の跡取り様がいるって言ってたよな?それは正規の軍勢だろ?しかも紋章官もいるんだよ?貴族家の公認の役職を持つ二人が偽者だと言ってるんだよ?戦場において紋章官らの働きがあればこそ敵味方の判断が出来るのだ。貴族家が立てる旗に同じものは一つも存在しない。それを間違えたら味方同士で殺しあうことになるからだ。

紋章官だけではなくその指揮官も確認を取る必要がある。その両者がこちらを偽者だと言いはっている。これがどんなにおかしな状況であるか想像してほしい。

背後にいるのは味方か?目前にいるのは敵か?横から来るのは誰だ?

戦いにおいてそれらの情報の確認は必須である。それを確認しなければならない相手同士が一瞬で交戦状態寸前まで行ってしまったのだ。

当然ながら、交渉するよりも前に戦いの火蓋が開かれる!

「進め進め!相手は賊軍である!!蹴散らしてしまえ!!!」

指揮官が号令をかけて兵を進める。

相手は八十名前後。脅威というような数ではないがイヤに士気が高かった。弓兵が壁の上から矢を撃っても引こうとはしないのだ

壁の上の兵士らは事前に備えていた石などを投げて応戦する。

「―――、――――、―――(悲鳴と怒号と興奮と絶叫と聞きたくない音が木霊しています)!?!?」

ったく、クソ馬鹿共が!こっちは話し合いの用意していたのに武器を抜きやがって!!こうなったら引きようがない。敵を追い払わなくては孤立した拠点なので兵糧攻めをされると厄介だ。

迅速に追い払う必要がある。

石を投げてるだけではラチがあかない。

僕は魔法のバッグから太くて長い丸太を引っ張り出す。

「進め進め、すすめぇ……、え!?」

ぶっとい丸太を取り出した僕を見上げる敵の兵士、もう分かるよね?僕はそれを容赦なく下に投げ落とす!

ゴロン!ゴロン!ゴロン!

太くて長い丸太が壁の下に転がり落ちる、それに巻き込まれる兵士ら。酷いことに真下に兵士がいたのだがそいつは見るも無残な姿となってしまった。南無三、だがこれも戦の掟だ。

『ヒ…!ヒイッ!?』

数本の丸太を投げ落とすとさすがに兵士らに恐怖が伝線したようだ。だが、僕は容赦なく次々と丸太を投げ落とす。それに巻きこまれたり潰される兵士らが続出し、

「て、てったたいいい!撤退だ!!」

さすがにこの状況はまずいと判断し敵は撤退の指示を出す。

ここまでされて逃げ出せると思っているのか?後退する兵士らを追撃するように指示を出す。

『うおおおおおおお~~~!!!』

防衛戦で溜まった鬱憤を晴らすかのように伯爵家の兵士らが追撃を開始する。もはや兵士らには人質にするという考えは微塵も存在せず容赦しなかった。

2時間後

「頭を下げろ」

「クッ!貴様ら賊軍になどに屈するものか!!」

「頭を下げろ!」

「嫌だね!」

最後に生き残った貴族家の跡取りとやらはかなり強情だった。いくら命じても捕虜としての扱いを受けようとはしないのだ。素直に受ければ命だけは助かるのだが、愚か者はみんなこうなのである。指揮官として無能以上に責任を持とうとはしない。

そのため、また数多くの死体が出来てしまった。

そいつを逃げられないように見張っておけと指示を出す。

『……,クソッ。ただ調査をしに来ただけなのに!』

どうしてこうなったのだ?全員がイラ立ちを隠せなかった、それも当然だ。普通ならば伯爵家の旗が立てられている時点で十分確認を取り交渉するはずだ。にもかかわらず戦端が切られたので確認する事実が増えてしまったのだ。

アルベルトとのやり取りに制圧という言葉でゴリ押ししたがあくまでそれは敵対行為があった場合のみであり調査が本質だった。しかし、相手の方から攻撃を仕掛けてきたので制圧行為に移らざるを得なかったのだ。

この辺りの齟齬が僕とアルベルトの距離感を作る理由だろう。アルベルトは「敵とて温情をかけるべき」という主張があり僕は「敵は根こそぎ残党狩りをするべき」という主張を持っている。

残念ながら僕とアルベルトでは潜ってきた修羅場の数が違いすぎる。いくら戦を体験しようとも一回や二回で考えは変わるはずはない。ベルン様は敵の貴族を容赦なく処刑したがアルベルトにはまだ甘い部分がある。

こればっかりはどうしようもなかった。通常であれば家臣の助けを得て成長するものだが事態がそれよりも早く動いている。嫌でも現実を受け止めて判断してもらうしかない。

話は変わるが古に冒険者ギルドと貴族らが決めた協定の話になる。

古に冒険者ギルドと貴族との協定ではこのような事態は想定されていない、それは有事の事態であり平時の場合ではないからだ。

こちらが拠点を制圧したと言っても有事ではなく、あくまで拠点の内部資料を集めるという目的のためであり制圧行為とは予定されていない。

だが、相手は先んじてこちらを「敵」と認識しておりそれに備えていた。それに加えて押さえた書類のこともある。少し情報を整理する必要があったし誰が味方でだれが敵なのかを線引きしておく必要がある。

「この辺りで伯爵様に次ぐ爵位の方は?」

「はっ、ラークス子爵殿とアグナック子爵殿がおられます」

「両者に状況と事態を伝えておく必要がある」

すぐさま書類を送付しこちらに来てもらうように指示を出す。

万が一に備えて作戦を練っておく。これまでに来た奴らの背後に誰かがいれば手荒な手段も辞さない覚悟で攻めないとならない。
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